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第51話 HEAT -灼熱-


走る。走る。走る。
茂みを掻き分け、エルウェンは走る。煙が立ち昇る方へと一直線に。
争いが起こっているであろう場所へと。
エルウェンは刻々と目的地へと接近しつつあった。

もしもの戦闘に備え、パックを漁る。プロテクターを取り出し、腕に付ける。
後の残り二つを懐に収めた。
長年自分と共にしてきた恋人の形見の剣アヴクールがないのが、心細いが十分に戦える。
自分を過大評価する訳ではない。
でも、私はそこいらにいる人間とは比べようないぐらい強さを持っている。
エルウェンは己の矛盾に苦笑いする。しかし、自分にはそれだけの力があるのだ。誰かを護る強さが。
私は止めなければならない。
こんなくだらない戦いを行う輩を意味の無い戦いを強要するルシファーを。

争い。それは醜いものだ。長い間生きてきたが争いは何も生まなかった。
血を血で洗い、憎しみを憎しみで被せ、悲しみを作り出してきた。
いつも、それらで悲しい思いをしてきたのは弱者だけだった。

「もう、私は誰にも悲しい思いをさせたくない」






走るエルウェンに歪に曲がった木々が目に入る。
それらはすべて斜めに無理やり曲げられたように見える。なかには、根元から折れた木もある。
そろそろ目的地が近づいてきたなと気を引き締める。
この惨状を作った本人がいるかも入れない。

滑稽に歪曲した木々の中、エルウェンの視界に光が溢れる。
目的地が近い。足を早める。

森を抜けると可笑しいぐらいそこは何もなかった。
その可笑しな空間にただあるのは、地面に大きなクレーター。一人で佇む男。その傍らには首のない女性の石像。
不気味だ。ただ単に不気味であった。
目の前にいる男が嵐の前の静けさのように静かに奇妙にこちらに目を向ける。
「来客か……私は少々疲れている。お引取り願えないだろうか?」
「……そこにいる女性は貴方がやったのですか?」
「だと、したらどうする?」
男は奇妙に笑いかける。お互いに深い沈黙。男はただただ奇妙に返答を待っている。

この男の目を見ればわかる。こいつは目的のためならどんな犠牲でも厭わない人間の眼だ。
それは自分であっても、他人であっても。
今ここで自分が引いたならば、確実に悲しみを生むだろう。この男による悲劇によって。
それ前に、この男は逃がさないだろう。己の目的ゆえに私を殺しに掛かる。確実にだ。



「何も答えぬか……」
私は男の口を開くと同時に疾風のように駆ける。拳を構えながら。
「私に戦いを挑むのか。素直に引けば、助けてやったものを……」
その言葉は嘘だ。どちらにせよ、私を殺すつもりだ。
「では、死んでもらおうか! 我が使命の礎となるがいい!」
男が構える。魔法の詠唱を始ようとする。

「ぬ」
でも、私はそうはさせなかった。この男は確実に魔術師だ。
石像になった女性。地面のクレーター。このことから、男は魔法を主体としている。
だから、そういう輩には魔法を詠唱する前に叩き込めばいい。魔術師と戦うときの基本である。
私は男に詠唱させる隙を与えない。
拳は空を切るが、この攻撃は相手に着実に効いている。
相手は始めて会ったときから、服装から所々血が滲んでいた。
戦いが長引けば長引くほどこちらが有利なのだ。
そして時が来れば…

男の足を崩れる。私にチャンスが到来する。
「ここです」
拳を大きく振り上げ、頭を捉える。そして私の懇親の一撃を喰らわせようとした瞬間、
男がふっと口元を緩む。

私は殺気を感じ、殺気の感じるところをガードする。
刹那、プロテクター越しに四つの重い衝撃。あまりの衝撃に後ずさる。
そして、許してしまった。男の詠唱を。

「もらった! テトラスペル!」
四つの属性の魔法が襲い来る。私は咄嗟に避けようとする。
火と氷は何とか避けれたが、雷は避けきれず、一瞬身体の自由を奪い、
土の槍が太ももを貫く。私は地面に跪いた。
「なかなかのプロテクターだ。普通なら腕が折れても可笑しくない。それに加え、高い身体能力。
 本来なら私が敗北していただろう。しかし、貴様は私を見誤った。詠唱させないよう攻めてきたが、
 私は接近戦も得意なのだよ。そして、貴様の最大の敗因。それは貴様が私に恐怖していたからだ」
男は不適に語る。
「それ故、勝利を急ぎ過ぎた。何を焦っていたのだ。
 私との戦いを早く終わらせたかったのか。
 それもそのはず、貴様は恐怖を感じていた……このダオスに」

そんな馬鹿なと、私は否定する。
私が恐怖を抱いていた…そんなはずは…
でも、この男ダオスにあったときから感じていた奇妙な感覚。
私は心の奥底で畏怖していたのかもしれない。ダオスの圧倒的なパワーの目の前で。

私は動けなかった。それは決して足の傷がどうとかではない。
全身を駆け巡る諦めという言葉に支配されていた。
勝てない。私には勝てない。ダオスに勝てない。
ダオスが自分のほうへと向かってくる。
彼はわかっているのだ。
まるで、蛇ににらまれた蛙のように私が抵抗をしなくなったことを。

「アルフレッド……」
私の最後に想うのはかつての恋人アルフレッド。私は彼の意思を継げたのだろうか。
私は彼の意思を多くの人に伝えるために戦士ギルド『テアトル・ヴァンクール』を立ち上げた。
彼の意思『大切なものを護る』ということ。テアトルの皆はその意志を十分に引き継いでくれたはずだ。
副長のジェラルドは強面で口が悪いが、部下の面倒見がよく義に厚い。
隊長のシーザーは仲間の死を自分のことのように感じ、仲間を思う気持ちは誰よりも強い。
女隊長のアリシアはアルフレッドの血を引き継いでいる。
そして、脅威的なスピードで隊長
になったジャック。彼はまだ気付いていないだろうけど。
いつか、気付いてくれるはずだ。剣は『大切なものを護る』ために振るうということ。
貴方の父もかつてそうしたように。
皆、かたちは違えど、アルフレッドの意志を学んでくれている。
私の役目はこれで終わりである。


本当に――――これで終わり

貴女はどうなの? 貴女は大切なものを護ったの? いや、護ろうとしたの?

護ろうとしなかった。放棄した。勝手に自分で諦めて、勝手に自分で絶望して放棄した。

貴女自身の役目は何なの? 貴女は誰なの? 貴女はかつての護られる存在『エル』なの?

違うわ貴女は―――――……


「最後に聞かせてもらおう。私を追い詰めた貴様の賞賛を称え。貴様の名前を…」
「私は」
私は…私は…
「エル……」
弱きを助け、強きを挫く。アルフレッドが亡くなってから弱き者を『護る』こと使命として生きてきた。
私の名は……

「――――『エルウェン』だ」
と、発すると同時に私は懐に手を伸ばし、あるものを掴み、ダオスの顔面を殴りつける。
ダオスも死人のようだった自分が突如生き返ったのは予想外だったのか。
その場に仰け反った。その瞬間、ダオスを中心に辺りが灼熱の炎の海になる。

私はダオスをあるもので殴った。
それは、焼夷手榴弾と呼ばれるもの。
彼を殴ったあと、すかさずピンを抜き、そのまま勢いで落としたのだ。
自分が思った以上の火力だった。それなら奴も……

「ダオスコレダー!!」
ダオスを中心に力場が生まれる。凄まじい衝撃が辺りを覆い尽くす。
爆風が灼熱を吹き飛ばす。私をも巻き込んで。
気付いたころには私は爆風に吹き飛ばされていた。
衝撃。背中に衝撃を受ける。たぶん木にぶつかったのであろう。
あまりの激痛に私の意識が遠のく。
私はここで死ぬのか……ダオスはまだ生きて…いるのに
「そん…な…」

+++

突然の爆音と後から伝ってくる突風が落ち葉を揺らし、クリフとルシオンを不快に遮る。
「一体この山で何が起こっているんだ! おい、急ぐぞ!」
クリフは途中で出会った仲間ルシオンを急かす。
いまこの爆発に自分の仲間が巻き込まれていないかと心配であった。
目的地に向かう道中、嫌な予感がモールス信号のように自分の体に点滅していた。
「はい、わかりました。急ぎましょう」
ここら一帯の折れ曲がった林の数々。それらは嫌にクリフに悪い予感を暗示させた。
なにもなかってくれと、心で祈る。



クリフに視界が広がる。
森を抜けると荒地に半分以上が黒こげた人間が佇んでいた。
クリフは男の瞳に釘付けになった。クリフはこの男は危険だと直感的に思った。
絶対的な強者を感じさせる胸糞悪い眼だった。
ルシファーと始めてあった時と同じ感覚。
気分が悪い。

「今日は来客が多いな。これで貴様らを含めて四人目だ。
 少々時間を取らすが、食事が終われば、相手をしてやろう」
男は黒焦げになったパックからあるものを取り出して、それを食しだした。
すると、みるみるうちに男のただれた肌が綺麗に修復されていく。
「さすが、ミラクルグミだ。あの女がつけた火傷が回復していく」
「女だと……?」
クリフは言われずにはいなかった。予感がするのだ。決して朗報とは思われない何かが。
「そうだ、私の後ろにいるではないか。尤も、私の攻撃を直に受けたから、もう死体だがな」
男は後方へと目配せする。クリフは驚愕する。嫌予感は的中だった。
「テメェーーーー!! ぶっ潰す!!」
そこには、木の幹の下で女性がうつ伏せに倒れていた。
顔は確認できない。が、クリフだけが理解した。
でも、それは、勘違いだった。

金髪のロングヘアーに、両手に付けたミスリルガーター。
ミラージュの特徴ともいえる長い髪。自分と彼女愛用のガーター。
それだけで、ミラージュと判断するには材料が少ない。
が、さまざまな不安と焦燥が混在していたクリフには十分であった。ミラージュと判断するには。

クリフは激昂に身を任せた。目の前の男にはわからないのだ。
自分とミラージュが供に歩んできたことを。何も知らないのだ。
それをただ己の我欲で彼女の命を摘み取った。それが許せなかった。
クリフの身体が怒気をあげる。
「クリフさん! 引いてください! 怒りに身を任せて、倒せるような相手ではありません」
ルシオンが自分を制しようとする。
だが、聞こえなかった。いや、聞こうとしなかった。
一発でもいい、目の前の男をぶちのめしかった。
気を高め、爆発的なスピードを上昇させる。
相手の間合いを一気に詰め、かつ、ダメージを与える技。

「バーストタックル!!」

超スピードで男に体当たり。が、
「馬鹿の一つ覚えのように、突っ走るとは愚か者め。貴様には耐えられるかな?」
ダオスの構えた両手からの光線がクリフを捉える。
「ダオスレーザー!!」
バーストタックル中は方向を修正できないクリフを狙う。
避けるのは不可。激突は必至であった。
クリフのパワーとダオスのパワーが反発しあう。
それに合わさって、カウンターのような衝撃がクリフの体に超絶な重圧を与える。
身体は耐え切れなかった。
クリフは人形のように遠い彼方へと、放り出された。
一般人がみれば、まるでサーカスの出し物の一つである人間ロケットのようにと思うだろう。
ギャグ漫画のようにバビューンとクリフは飛ばされた――……‥‥・・・


「次は貴様の番だ。先ほどの単細胞と違い、
 多少はやるようだが。このダオスの前に平伏すがよい」
私は男と戦う理由はなかった。が、相手は私を殺したいようだ。
銀龍である私はむざむざと殺られる訳はない。
それに人間が龍に歯向かう、その減らず口を叩き割りたくなった。
後悔するがいい。トゥトアスの監視者である私に戦いを挑むことを。

「私には戦う理由がないのですが。そこまで仰るなら相手になってあげましょう」
奴は私に舐めた口を訊くが、解るのだ。
奴の潜在能力は私と同等の力を持っている。
制限によって人間の容姿をしている私は接近戦しか、奴を致命傷に負わせられない。
それは、私は何もない状態から手から刃渡り2メートルの大剣を具現化することが出来る。

―――私には策がある
それを実行するには、拳が届くの間合いに入る必要がある。
初めに奴を体術で攻める。体術で攻めることによって、私の拳に意識を固定させる。
そして、私が殴打をわざと外す。外した瞬間、奴は油断をする。
そこを狙うのだ。剣の具現化を発現させ、斬る。
それだけだ。普段の奴なら避けられるかもしれない。
が、私の能力に対応できないだろう。疲労の影が見える奴にはな。

奴との距離は約50メートル。私は何とかして奴に接近する。
さすれば、龍をも越える魔力を持っている奴を屠ることが出来るだろう。
だから、私は捨て身で奴に近づく。奴を殺せる間合いに。デッドゾーンへ。

ルシオンは攻撃の間合いに入るために地面を踏みしめる。
体が跳ね飛ぶようなステップを踏み、相手に詰め寄る。
ダオスも相手を近づかせぬよう、己の魔法を向かわせる。
炎、氷、雷、土の四重奏。
回避、回避、回避、回避の連立。
ルシオンにとって、疲弊したダオスの攻撃は鈍く感じられる。
機を逃すわけにはいかないとルシオンはさらに突き進む。
ダオスも負けじと魔力を振り掲げる。
だが、回避。

無駄な抵抗に過ぎない。ルシオンは勝利を確信する。
あまりにも、あっけない。奴はもう駄目だ。疲労しきっている。技に切れがない。
私は奴を過大評価し過ぎたのだろうかと、思考がよぎる。
すでにもう、ルシオンはデッドゾーンに入ったのだから。

ルシオンは当初の作戦を止めることにした。
そんな回りくどいことをしなくとも、殺れる。
拳のフェイントなどせずとも、そのままでいい。射程に入れば、すぐに斬りつける。
「では、さらばだ…人間」
ルシオンは腕を振り上げる。手に漆黒の大剣が現れる。
自分を虚仮にした愚か者に下ろす。避けられはしない。


―――が、出来ず。振り下ろすことはできなかった。

私は強制的に後方に戻された。這いづくばった。
私は体が拒否するように血を吐き出す。地面が赤く染まる。
奴の魔力の篭った四重の打撃が腹部へと流し込まれたのだ。
確実に自分の器官が深いダメージを受けているのが自明であった。
見切られていた。奴は私の魔力の流れを見切っていたのだ。
「何故だ?」
奴は首を傾け、質問を返す。
「何故だと? 愚問だ。貴様のほうがよく解っているのではないか?」
そうだ、私は解っていたのだ。認めたくなかったのだ。
自分のたった一つの怠惰が油断が敗因だということ。龍と妖精たちに蔓延しているもの。
私が嫌った感情、習慣である。怠惰によっての敗北だと認識したくなかった。

絶望的であった。私は勝てない。私はあまりにも傷ついている。
奴から受けた傷が私と奴との差を大きく開いた。不利を通り越して死に繋がるしかなかった。
ここから戦闘を続けても無駄な足掻きに過ぎない。
最後には、私の死体しか残らないのだ。それほど、奴が与えた傷は深いのだ。


怒りが込上げてくる。久しぶりの感覚だった。ただ、与えられた使命をもくもくとこなす自分から、失なった感情。

負ける? 殺される? 人間如きに? 保護してきた矮小な存在に?
銀龍たる私が…銀龍にさえ…戻れば…奴を…葬れるのに…
力が…あれば

――――共鳴

不思議な何かと。
すぐに出所がわかる。パックからである。
私はそれに触れる。

『ドラゴンオーブ』

力がみなぎる。力が溢れる。

私の力が……開放される。

そこには、天空を深々と仰ぐ銀色に輝く龍がいた。真の力を解放した龍がいた。
「我が名はフォティーノ! ニンゲンよ。我が力をしかと眼に焼き付けよ。
 そして、絶望と後悔の中で消え去るがよい!」
龍の逆鱗に触れてきたものはいかなる者も最上級の死が訪れる。
今ここに銀龍フォティーノが君臨す。



銀龍は漆黒の剣を天の掲げる。剣先から雷鳴が轟き、ダオスを襲う。
ダオスは完全に銀龍の手のひらで踊らされていた。
銀龍の攻撃を必死で逃れようとする姿がまるでワルツを踊っているようだった。

銀龍はダオスのワルツは延々と拝むのも悪くはなかったが、時間がなかった。
ルシオンだったときの傷があったのもある。
が、それよりも、ドラゴンオーブ。こちらのほうだ。
このアイテムは少々曲者だ。真の力を解放させるようだが、開放できて5分程度。
しかも、自分は今、疲労と怪我が相成って、2,3分しか本来の力を解放できないだろう。
その上、可笑しな話だが、本来の力を解放しても、制限が掛けられている。

でも、十分であった。1分もいらない。
銀龍は黒き翼を羽ばたかせ、空を仰ぐ。周囲に砂塵が覆う。

―――そして、ダオスめがけ急降下。
奴の首を刎ねる。その一撃で終わらせる。
ルシオンの漆黒の剣がダオスの首へと軌道があるが如く振り下ろす。

―――怒りの鉄槌





『私の勝利だ!!』

その刹那、閃光が銀龍の眼光へ焼き付ける。
銀龍に疑問が沸き起こる。
ダオスの首を刎ねたいのに刎ねられない。体の筋肉が強張る。
なぜ、奴が目の前にいるのに、精神と体が食い違うのだ。
何故だ。何故だ。何故だ。

ダオスの苦肉の策だった。
至急品の閃光手榴弾を一か八かで地に叩きつけたのだ。
幸いにも、辺りは砂埃で視界が悪かったのだ。
そのおかげで、銀龍に気付かれる事なく。ことを運ぶ事が出来た。
しかも、銀龍は何が起こったのだとハテナマークを出し、目を押さえ、無防備でいる。

ダオスはこの好機を逃すはずはなかった。
「死ぬがいい」
ダオスは手に魔力を集束させ、放出させる。
間合いゼロ。
絶対死。
「ダオスレーザー」
銀龍は避けられるはずもなく。光線ごと吹き飛ばされる。



―――私はもうだめだ…
思考が強制的にその考えを作る。
奴の光線が私の体を貫こうと後方へと押し続ける。
私は負けたのだ。今まで守ってきた人間に。
人間は業に生き、業で死ぬ。私はそんな生き様する人間に憧れていたのかもしれない。
だからこそ、諦めきれない。私は生きたい。人間のように抗いて見せよう。
私は最後の力を振り絞り、口元を一点に集中させ作り出す。

灼熱の炎。全てを焼き尽くす業火。

しかし、無意味な行為だった。
奴のレーザーを受けてから、ほんの一瞬だが、距離が遠く離れてしまった。
確実に回避される。無論承知であった。
私の心の中は当たろうが避けられようがどうでもよかった。

最後の足掻きであった。抗いであった。
銀龍としての最後の意地である。
そして、私は最後の力を籠め、奴めがけ吐き出す。
私の意識が失っていくのが感じられる。



―皮肉なものだった。

私が愛し、守り抜いてきた人間に殺され、最後は人間の姿で死ぬのだから。
今思えば、本来の姿にいるよりも人間の姿でいるほうが長かった。
本当に皮肉なものだ。
死が迫ってきているのに、不思議と笑みがこぼれる。
「さらばだ、私が愛し、守りぬいてきた人間たちよ……」
そして、ルシオンは静かに眼を閉じた……。


「龍ごときの畜生がまだ抗うか!?」
ダオスめがけ業火が向かってくる。しかし、簡単に避けられる。
距離が遠い。まるで、避けてくださいと言わんとばかり。
ダオスは黒い長髪の男が龍に変化したとき、内心焦っていた。
しかし、もう臆することはなかった。龍は死んだのだ。我が手で。
笑いが込上げてくる。あまりにもあっけない最後。
あれほど、自分を追い詰めた龍の最後が明白に避けられる業火。
馬鹿馬鹿しい最後。犬死。
焦ることはなかった。横に7,8歩移動するだけでいいのだから。
そして、ダオスは行動に移そうとした。

――ガシッ

ダオスの足に感触。何者かが自分の足を掴みかかったのだ。
それは、自分を黄泉へと連れて行く亡者が降りかかったように思えた。
そこには、あの女がいた。

++

―ねえ、起きて! ねえ、起きて!

―貴女はまだ眠ってはならないわ

―貴女には役目があるのでしょう?

―だから起きて、貴女には最後の役目が残っているの

私に語りかけてくる。一体誰だろう。うつ伏せになった私は顔を上げ、声の出所を見る。
そこには……私がいた。
まだ、エルと名乗っていた時の幼い自分。
私は幼い私と目が合う。幼い私はにっこり微笑み、最後に一言心に語りかけた。

―これ以上悲しみの連鎖を止めて

意識が引き戻される。あれは夢だったのだろうか。
幻や夢の類とは思えなかった。やけに現実的だった。
「ここは?」
一瞬、自分の状況がわからなかった。が、あたりの惨状を見渡すと一発で理解する。


そうだ、私はダオスに…。
私はあと一歩のところまでダオスを追い詰めた。しかし、奴の反撃で私は…。

「龍ごときの畜生がまだ抗うか!?」
突然、ダオスの声が聞こえた。
私は声の方へ振り向く。10メートル先に、迫り来る炎の前に高笑いするダオスがいた。
私が眠っている間に何が起こったのかわからないが、一つだけわかることがある。

ボロボロになった体を奮い立たせ、私は蛇のように這いずりながらダオスに近づく。
奴の攻撃でありとあらゆる骨が砕かれている私にとって、10メートル先の奴に近づくこと至難なことであった。
私は一歩一歩語と進むたび、全身を気絶しそうな激痛が走る。
たったの10メートル進むことがこんなに遠く感じられるの初めてであった。
私は血反吐を吐きそうになりながらもダオスに到達する。
最後に一つだけわかることそれは…

―――ダオスに引導を渡すこと



私はダオスの足にすがり付く。そのときの奴の驚きようは見ものだった。
「貴様! まだ生きておったのか。この死にぞこないめ」
「私は戦士ギルド『テアトル・ヴァンクール』の大隊長エルウェン!!
 今ここであなたに引導を渡します」
「亡者が調子に乗りおって」
ダオスは離せ離せと私の顔を蹴り上げる。
私は顔を蹴られようが絶対に離しはしなかった。痛みに耐える。
私の顔は何度も蹴られ、多分見るに耐えないぐらい膨れ上がっているだろう。
他人が見れば、無様な姿であるが、私には体裁など、もうどうでもよかった。
ダオスによる殺戮を止めるには、もう私しかいないのだから。
惨劇は今ここで絶つ。

灼熱の炎はもうすぐそこまで迫ってきている。私は腕の力を強める。
だが、突然意識が朦朧としてきた。私は失ってはいけないと自分を励ます。
後もう少しでダオスを倒せる。
だから耐えて、お願い。
「アルフレッド、私に力を…」
私の口から飛び出すはかつての恋人の名前。自然に出たのだ。
彼の名前を聞くと私は痛みが不思議と引いてくる感じがした。
ダオスの猛攻は私にとって苦じゃなくなった。だから耐えることができた。
炎はもう目の先だった。
灼熱がダオスを包み込もうとする。
私は勝利したのだ。
「貴方の元に向かいます」
アルフレッド……私…勝ちました…


+++

神塚山の頂上に満身創痍の男がいた。
彼は疲労困憊であった。体の節々が疲労で悲鳴を上げていた。
男はあたりを見渡した。
石になって粉々になった女の破片。龍に変化した男の屍。黒こげの女の屍。

「私は死ぬわけにはいかぬ……私には使命がある」
ダオスが息を切らし、静かに吼える。彼には休息が必要であった。
ダオスはエルウェンに羽交い絞めされたとき、
最終手段にタイムストップを唱え、事なきを得た。
しかし、もともとあった疲労に加え、一日に二回も大魔法タイムストップ使用した代償は大きかった。
魔力は底を尽き、少しでも、気を緩めれば、その場に永遠の眠りへと誘う。
「あの女…エルウェンさえ、いなければ、私は…」
ダオスは自分を無様な状態にした女を呪うように忌々しく吐き捨てる。

一刻も早く、ここを去らねばならなかった。
ここで休息をとれば、騒ぎを聞きつけた奴、殺されるがしれなかった。
だから、安全な場所へと移動せざるを得なかった。
ダオス疲労でふらつく足を奮い立たせ、一歩を踏み出した。全身に激痛が走るが耐えねばならなかった。
逃げねばならなかった。

逃げねば―逃げねば―逃げねば―
逃げねば―逃げねば―逃げねば―



―――――逃がしはしねぇよ

ダオスの後方から呪詛のような言葉が聞こえた。
空耳であって欲しいと後ろを振り向く。
そこには、自分が殺したはずの男がいた。龍になった男に一緒にいた傍らいた単細胞。
何故、生きている。
「貴様…! 何故、生きている?」
「さあね…」
クリフはダオスレーザーを貰った時、パックに仕舞ってあった無欠の護符が発動し、無傷でいられたのだ。
「テメェに教える義理はねえよ!!」

クリフは足を地面に蹴りこんでダオスの懐に踏みんだ。
ダオスはかえるの鳴き声のような喘ぎ声を出す。
それもそのはず、クリフの全体重を乗せた重いボディブローが炸裂。
その一撃はダオスを2,3メートルほど吹き飛ばす重い一撃。
ダオスの肢体が後方へと吹き飛ぼうとするが。

「おっと、まだ終わっちゃいないぜ。
 きっちりと借りを返すには…まだ足りねえから……なあ!」
クリフはダオスの足のつま先を踏み、この場に留まらせた。
クリフに燻る灼熱の怒りが収まらないから。

「おりゃあぁあぁああーーーー!!」
怒号を皮切りにダオスに怒りの猛打。
「テメェ! ふざけやがって!
 よくも、ミラージュを!
 よくも、ルシオンを!」
クソ野郎が
―クソ野郎が
――クソ野郎が
クリフは拳を振り抜き、ダオスを地面に叩きつける。
上空へと飛び上がり、拳を振り上げる。

―――そして急降下。神宮流の中でも屈指の破壊力を持つ技『エリアルレイド』
拳にありったけの怒りをこめる。
ルシオンが成し得なかった首刎ねの無念が重なる。
そして振り下ろす。


―――怒りの鉄槌

グシャッ……

クリフを中心に砂塵を舞い、地面を揺らす。
鮮血が波紋のように飛び散った。


「痛ってぇー、ちょっとやりすぎたか? これだと相手のツラが拝めねえなあ」
今の一撃でダオスの顔は陥没。クリフの手にダオスの歯が食い込むほどの一撃であった。
そこには、顔だけでは判別不能の死体が横たわっていた。
「ミラージュ…ルシオン…仇を取ってやったぜ…」

クリフは黒こげになったミラージュもといエルウェンの側に近づく。
判別不可能なくらい焼け焦げた体を見ると、ダオスに対して怒りがまた再燃するが、それを収める。
そして、両手に付けていたミスリルガーターを外す。
「ミラージュ…ちょっとの間、貸してもらうぞ」
クリフはミラージュの遺志を受け継ぐように手に装着する。
次にルシオンの側へ。
「遅れちまってすまなかった…もっと早くに到着していれば…助けられたのかもしれないのに…」
クリフは付し見がちに謝った。けれども、今言うことはそんなことではない。
「短い間だったけど、お前といられて楽しかった」
ふっと笑みをこぼす。ルシオンの死に顔が死んでいるとは思えないぐらい安らかであったから。

クリフはガシッと手のひらと拳をぶつけ、決意する。

――ミラージュ、ルシオン。俺はここを絶対に抜け出し、ルシファーをぶっ潰す。
   それが、お前らに出来る餞別だ。

悪いなと謝りながら、クリフはルシオンの支給品を貰い受ける。
ドラゴンオーブとメルーファとバニッシュボムの三つ。
最後に戦利品としてダオスのパックを漁る。
中には、閃光手榴弾とサイレンスカードの二つ。
そして、首輪があった。
「どうして首輪が……?」


【F-5/昼 放送直前】

【クリフ・フィッター】[MP残量:80%]
[状態:憤りと悲しみ 手の甲に歯によるケガ 疲労微]
[装備:ミスリルガーター@SO3・閃光手榴弾@現実・サイレンスカード×2@SO2]
[道具:ドラゴンオーブ・エターナルソード・メルーファ@SO2・バニッシュボム×5@SO3・フレイの首輪・荷物一式×4]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:ミラージュ……]
[思考2:なぜ首輪が?]
[思考3:仲間を探す(マリア優先)]
[現在位置:F-5 神塚山山頂]

備考
  • クリフはミラージュが死んだと勘違いしています。
  • エルウェンの懐には、一つランダムアイテムが残っています。
  • フレイとフォースソードはダオスコレダーに巻き込まれ、粉々になりました。
  • サイレンスカードは対象者を沈黙させる。効果は一時間。
 発動させるには対象者を目視できる状態でしかできない(名前は叫ばなくともよい)。

【ルシオン・ヒューイット@RS 死亡】
【エルウェン@RS 死亡】
【ダオス@TOP 死亡】

【残り49人】




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第31話 エルウェン
第21話 ダオス
第36話 クリフ 第72話
第36話 ルシオン
第21話 フレイ
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