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第62話 天才に涙はいらない



僕は天才だ。完膚なきまでに天才だ。
かつてクロードお兄ちゃん達と冒険を始めるまでは“ただ頭がいいだけのクソガキ”だった、それは認める。
だけど今の僕は――あの冒険を終えた後の僕は“心の弱さ”を克服し、冷静な判断力とどんな事態にも動じない鋼の心を手に入れた。
まさに真の天才。僕の瞳にはダイヤモンドのように固い決意をもつ「気高さ」が宿っていることだろう。

『――レイ、ノエル・チャンドラー、ロウ――』

だから、これぐらいで動じちゃいけない。
仲間がし――居なくなることは、最初の放送までに何も出来なかった段階で覚悟しておくべきことのひとつだった。
だから僕は動じない。動じるわけにはいかない。
今僕が死んだら、今首輪の秘密に気付いた僕が死んだら、誰一人助からなくなってしまう。
みんなを救うためにも、僕は泣いたらいけないんだ。
『死者は以上の13名、これで残りは49人だな』
速い。予想よりも遥かに速いペースだ。
このままのペースだと、単純計算であと一日も経たずに殺し合いが完遂されることになる。
それだけは絶対に避けねばならない。

『まず13時にC-5。続いて15時にG-3。そして17時にE-6だ』
黙々と地図に禁止エリアを書き込みながら考える。
単純計算で三十分に一人が死ぬことを考えると、一秒でも早く首輪外す必要が出て来る。
ルシファーを打倒し得るメンバーが集まろうと、首輪が外れなければ揃って首輪を爆破されるだけだ。
そして、そのためには一刻も早くプリシスと合流しなくてはならない。
“考える”僕と“解除する”プリシスの二人が揃わないと、おそらくこの首輪は解除できない。それほどの代物なのだ。
――――だから、僕とプリシスは何としてでも生き残らなくちゃならないんだ。
すごく辛くて苦しいけど、弱音を吐いちゃいけないんだ。
だって、生存者49人の命は僕とプリシスの肩にかかっているのだから。
迂濶なことは出来ない。危ない橋は渡れない。
今やこの命は僕一人のものではないのだから。



『ここまで来てぇ!』
だから――行きたいけど、胸が締め付けられるけど、僕は呼び掛けに応えるわけにはいかないんだ。

49の命――いや、今呼び掛けをしている娘を除けば自分とプリシスを含めて残り48個もの命を守るためには、走れば間に合うかもしれないであろう距離にあるひとつの命を見捨てなくてはならない。
(ごめんね、顔も知らないお姉ちゃん……お姉ちゃんの仲間の人は、僕が必ず救うから)




荷物をまとめ、古びた民家を後にする。この家にも大した収穫はなかった。
(……しんどい、な)
頭を垂れる。
“僕が”やらなきゃいけないことぐらいわかるし、やめるつもりもないけれど、やっぱり単調かつ終わりの見えない作業はつまらない。
――――みんなと冒険してたときは、どんな作業も面白く感じたのにな。
(お兄ちゃん……会いたいよ……)
会いたい。みんなに会いたい。会って、泣き叫んでしまいたい。
でも、やっぱりそんなことは出来ない。
盗聴の事実に気付いた“僕が”死んだら、みんなも死んじゃうんだ。

――そう、セリーヌの協力は『是非とも欲しい』が、『不可欠』というわけではない。
僕や他の紋章術師にでも、何とか出来る可能性はある。

だけど、僕と同じくらいの頭脳の持ち主などそうそういない。
……嫌味とか自惚れなんかじゃなく、冷静に考えた結果こういう結論が出たんだ。腹を立てたなら脱出後に殴ってくれてもかまわない。
とにかく今大事なのは謙遜することではなく脱出に役立つスキルが有るかどうかだ。
命はみんな平等だとは思うけど、脱出の要のスキルを持つ人の命には全員の命が乗っかっているようなものだ。

そう、だから、スキルを持つ脱出に『不可欠』な存在の“僕だけは”、何があっても死ねないんだ。
最悪、信頼できる人に今わかっている情報だけでも伝えないことには――

先程とは違う、比較的大きな民家へと不法侵入し、使えそうな物がないかと箪笥を引っ掻き回してみる。
やはりまともな収穫は得られない。
辛うじて“収穫”と呼べるのは、支給されたシャープペンと違い芯の折れる心配がないボールペンぐらいだろうか。
(もうヘマは出来ない。せめて信頼できる仲間に情報を渡すまでは、危険な事は出来ない)
ちゃぶ台の前に腰を下ろし、地図をくるりと裏返して先程得たボールペンを紙面へと走らせる。
盗聴されている以上迂闊に情報を喋ることは出来ない。
かと言って遭遇後に盗聴されていることを伝えてから筆談をするのは時間がかかる。
だから、最初にデカデカと『首輪で盗聴されている。適当に相槌を』と書き、その下に首輪に関する考察を記しておく。
これなら遭遇後すぐに読ませることが出来るし、最悪自分が死んでもそれまでに解析した事柄だけでも残すことが出来る。
そう考え、地図の裏には以下の事を記載した。





       首輪で盗聴されている。適当に相槌を

【1、首輪に盗聴器が仕込まれている】
何らかの方法でこちらの動きをチェックしている。ゲームから逃げようとする者の存在を確認する必要があるし、そもそも殺し合いの過程を観ないのではこんなに手間をかけて殺し合いなどさせないだろう。参加者を殺すだけが目的なら首輪を爆破すればいいだけの話なのだから。
監視の方法だが、恐らくカメラの類ではない。例えばマフラーを巻いてしまえばカメラなんかそれまでだ。妨害されやすいもので監視してるとは思えない。
その点盗聴器なら首輪を隠されたとしても、音が聞こえにくくなるだけで完全に音が遮られることはない。
よって、僕らは盗聴により監視されていると思ってまず間違いない。

【2、首輪を外すためには機械知識と紋章術のふたつの知識が必要】
能力の制限は首輪にかかっている(明らかに別の場所であった最初の空間でも能力は制限されていたため、島全体にかかっているのではない)
機械だけでは能力の制限が可能とは思えないため、少なくとも能力制限に関しては紋章術が絡んでいる。





ひとまず、その二点だけを記しておいた。
他にも首輪についての考えはいくつかあるが、いずれも推測の域を出ていない。
この段階で推測を記すのは些か危険だ。

(……定期的に唱えているか、はたまた能力補助系の紋章術の詠唱が聞こえてから唱えてるのか……)
現在は、『得体の知れない“制限”の正体は、基礎的な能力低下系紋章術を複数使用しているだけのものではないか?』という仮説について考察をしている。
我ながら強引な考えだとは思うが、複雑そうに見えるものほど「んな馬鹿な」と思うほどに単純な仕掛けだったりする。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、だ。

実際、盗聴器が付いていることによって詠唱を聞くことが出来るため、ディスペルをかけられてもさほど問題は生じない。使われたらまたかけ直せばいいだけの話だ。
(……いや待て、でもそれだと時間がかかりすぎちゃうし、首輪の方にかけてあるって可能性も……)

“装備の効果はディスペルでは無効化できない”という特性を活かし、強制的に装備させた首輪にあらかじめ特殊な能力を持たせているという可能性もある。
エクスペルにも、明らかに素材の耐久度以外の効果が付加された防具があったし、ありえない話ではない。
――最も、その場合“外すことが出来ない”といった呪いじみた効果がどうにもならないわけだが(少なくとも、鍛冶方面にでも精通してない限り解除の仕方はわからないんじゃないだろうか)

「……………………」
拳を固く握り締め、やり場のない苛立ちを少しでも発散しようとする(無論、こんなものじゃ発散など出来るわけないのだが)
まただ。また今回も同じ結論に行き着いてしまった。
未知の術。未知の機械。未知。未知。未知。
物事を考察する力ならあるのに、ある程度の推論なら出来るのに、必ず“未知”の二文字が立ち塞がってしまう。
物事に幅広く精通した“僕”にしか、多くの要素が入り混じったこの首輪は解析出来ないのに。
極めた物が無いせいで、あと一歩が届かないでいる。


(…………やっぱり、早めにプリシスを見付けないと……機械に関してはプリシスの手助けが必要不可欠だ)

苛立ちを露にしたまま、少年は民家を後にする。
頭にあるのは新たな考察。
『能力の制限という謎の紋章術の効果』と『首輪を外させないための、外そうとすると爆発するという装置』――この両方をこの首輪が内包しているのではなく、
『能力の制限』という“機械にはまず不可能な事象を賄う紋章術”は『体』に直接かけられており、他のことをこの首輪自身が賄っているという仮説。
可能性は低くない。むしろ先程の仮定よりは遥かに可能性があるぐらいだ。
万が一首輪を外した者が現れても、制限さえ生きていれば始末が遥かに楽になる。
第一、ただ反乱を防止するだけなら首輪ひとつで十分なのだ。それなのにわざわざ制限をかけた以上、まとめて解除されるような仕掛け方をするはずがない。
つまり――首輪を外すのにはそこまで詳しい紋章術の知識は要らず、能力の制限を解除には機械の知識が全く要らなくなる可能性だ。
これが正解だとしたら、脱出のチャンスが一気に増えることになる。
なにせ能力の制限を解除するのは、首輪を外したあとに生存者全員と一丸となってやればいいのだから。
それこそプリシスさえいればさっさと終わらせられる作業かもしれない。
(よし……よし……このパターンなら、今のところ矛盾は出ないぞ……)
少年は必死に頭を動かす。
怒りも、悲しみも、周りへの警戒をも頭から排除して。
それしか出来ないと思い込んで、少年はひたすらに頭を働かせる。




そう、確かに少年は成長していた。
涙を見せることもなく、時に非情な判断を下せるほどに。
それでも少年は幼すぎる。人の死を受け入れ、簡単に割り切るには。

少年の心は、表面的にはわからないが、確かに蝕まれ始めていた。
このゲームのもたらす孤独と死の臭いに。
何も進展しない状況による焦燥に。
自分がやらねばならぬという大きすぎる責任感に。

果たして少年は、冷静さを失うことなく、希望の光になれるのだろうか――



【I-6/真昼】

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:「失敗は許されない」「もうヘマは絶対にしない」というプレッシャーからくる軽度の精神的疲労 考察をしながら歩いているため注意力散漫]
[装備:幻衣ミラージュ・ローブ@VP]
[道具:セイクリッドティア@SO2・どーじん@SO2 荷物一式 裏に考察の書かれた地図 ボールペン]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:村を散策し、首輪、解析に必要な道具の入手]
[思考2:信頼できる仲間(プリシス最優先、次いでセリーヌ優先。その他冒険仲間がこれに含まれる)との合流]
[思考3:2を満たすまではよほど信頼できそうな人物でない限りやりすごす]
[思考4:ルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、信頼出来そうなら協力を頼む]
[現在位置:氷川村]
[備考:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]

【残り45人】




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