第68話 ロキおにーさんのわくわくやがいじっけん


時刻はそろそろ12時。
舗装された道の真ん中で、ロキは自転車に跨ったまま立ち止まっている。
その手にメモと鉛筆を握り締め、『時間』になるのを待っていた。

ロキから数メートル離れた物陰に、一人の男が隠れていた。男の名はビウィグ。
ミラージュを探している途中、自転車のベルの音を聞いて、ここにやって来たのだ。
目立つ音を出して、居場所を教えている者。それは、“余程の馬鹿”か“自分の実力に絶対の自信を持つ強者”のどちらかだろう。
前者なら、直ぐに襲撃してやるつもりだったが、ビウィグはロキを後者と判断した。
だから、彼は隠れているのだ。高い確率で隙が出来るであろう、その『時間』がやって来るまで。

数分後、空が突然薄暗くなり、その『時間』はやって来た。放送の時間がやって来た。

『こんにちは諸君。このゲームが開始されてから六時間が経過した』
上空に映し出されたルシファーが喋り出す。
だが、ビウィグはそれに目もくれず、手にした斧を構えて、少しずつ相手に近寄る。
『諸君もおまちかねの定期放送を行いたいと思う。発表するのはここまでの死亡者の名前、そして禁止エリアだ。
 では、まずは死亡者を発表しよう』
斧を持つ手に思わず力が入る。
(焦るな、落ち着け、クールになるのだビウィグ!)
相手の様子を注意深く観察する。
『……ロセッティ、クレア・ラーズバード、フレイ、ノエ……』
「フレイ!?」
(今だ!)
相手が僅かに動揺を見せた。
この隙を見逃さず、ビウィグはロキに接近し、
「ばればれなんだよ、愚か者め」
足下から現れた黒い影に、上空へ打ち上げられた。
黒い影は、間髪入れずにビウィグに襲いかかる。攻撃が止んだ頃には、既にビウィグの意識は無かった。

『では、これで放送は終了する』

放送終了後、ロキはその内容を、取り分け死者の発表について考察する。
死者の発表と言っても、彼が興味を持ったのは、死者の名でも数でも無く『死亡確認の方法』である。
フレイが死んだという事実には確かに驚かされたが、この島には彼女と渡り合える者――即ちレナスやブラムスがいる。
人間共でも、徒党を組めば打ち倒すことも可能だろう。何せ、強すぎる力は制限されているはずなのだから。
つまり、彼がフレイの死を知った時の驚きは『ちょwフレイ死ぬの早すぎwww』位でしか無かった。
(何らかの方法でこの島の監視は行ってはいるだろうが、それだけでは生死の判別は不可能だ。例え監視者がオーディンだとしてもだ。
 ならば、監視とは別に我々の生死を判別する何かがあるはず……)
先程襲撃してきた、魔物のような顔の人間――ビウィグの首辺りに目を向ける。
「首輪か」
ロキはビウィグに向かって歩き出す。
(この地にいる全ての者が所持しており、手放すことも出来ない物た。まず間違い無いだろう。
 もしかしたら、監視や制限も、この首輪で行っている可能性も有るな)
地面に転がっていた斧を拾い上げる。
(何にせよ、こちらの状況が筒抜けというのは、面白くない)
首輪を手に入れるため、ビウィグに斧を振り下ろそうとして――有ることを思い出す。いや、思いついた。
思いついたら即実行。ロキはビウィグを担ぎ、そのまま自転車に跨った。



「う……」
目を覚ましたビウィグが初めに目にしたのは、抜けるような青空、白い雲。
初めに感じる感覚は、全身から発せられる痛み。
その段階になって、彼は黒い影に攻撃されたことを思い出す。
「くそっ!」
そして今。自分の状況を、ロープで拘束され身動きが取れないことを知った。

「なになに『これと赤いリボンと黒い服で、あなたも立派な魔女オタク』……オタク? オタクって何だ?」
近くから男の声が聞こえてきた。その方向へ、ゆっくりと顔を向ける。
「! 貴様は……」
「ン……おお、やっと起きたか。このまま『時間』になっても目を覚まさないんじゃないかと心配したぞ」
その男――ロキは、いくつかの支給品をいそいそとしまってから、ビウィグに話し掛ける。
「アンタの支給品にロープがあって助かったよ。探す手間が省けた」
そう言って彼は立ち上がる。その手にはロープ。それは、ビウィグに巻き付けてあるそれと繋がっていた。
「お礼と言っては何だが、状況を説明してやる。良く聞いておけ。
 まず、俺が立ってい場所はC-04。俺がアンタを返り討ちにしてやったのと、同じエリアだ」
あの攻撃は、やはりこの男のものだった。それを知って、小さな舌打ちをする。
それを無視してロキは続ける。
「次に、今アンタが寝そべっている場所、そこはC-05。つまり、ここはC-04とC-05の境界ってことだ。ここまでは理解できたな」
「だから何だと言うのだ!」
「怒鳴らなくても教えてやるよ。先の放送。アンタは聞いてないだろうが、死亡者の発表以外にもう一つ発表されたものがある。
 何だか分かるか?」
直ぐに理解出来た。身動きが取れないように縛られている理由を、C-05まで運ばれている理由を。つまり――
「禁止エリア……」
「ご名答。アンタがいるエリアは、十三時に、記念すべき最初の禁止エリアになるんだよ」
顔から血の気が引く。ビウィグの元々青白い顔が、更に青くなる。
そんな彼にお構い無しに話は続く。
「どうしてこんな回りくどい事をするのか聞きたいか? 聞きたいよな? ま、ちょっとした実験なんだ。
 禁止エリアに入るとどうなるのか、確かめたくてね」
「そんな事を確かめて、役に立つとでも……」
「思わないね。けど、何事も積み重ねが大事って言うだろ。これも、この首輪を外すための大事なステップだ」
ビウィグは、この時点で初めて、彼の目的が首輪の解除だと知った。そして、内心でほくそ笑んだ。
相手の服装は何処か古臭い感じがする。未開惑星の人間が着ているような服だ。
どう見ても、機械に強そうな人種とは思えなかった。
自分の持つバンデーンの機械技術が、交渉に使える。
「おい、一つ取引をしないか?」
「……何だ」
「貴様が私の命を助けてくれるのなら、貴様に技術を提供しよう。首輪を外すためのな!」
ロキは考え込むような仕草をする。
「アンタの技術ってのは、そんなに凄いのか?」
「貴様の持つそれの数世代先と言っておこう」
(奴は、機械技術を持つ協力者なら、一人でも多く欲しがるはずだ! いける!)
だが……
「はっはっは……、神である俺以上の技術とは、中々大胆なはったりだ。ま、仮に本当だとしても、もう遅いけどな」
ロキはある物を見せつける。それを見たビウィグの表情は凍りついた。
それは時計――
「後5秒」
「なんだと……」
「4…3…2…1……0だ」
そして首輪は爆発――


『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』

しなかった。
爆発音の代わりに聞こえてきたのは、小さな警告。
「なんだ、直ぐに爆破する訳ではないのか。つまらないなぁ」
爆発しなかった感想を、本当につまらなそうに述べる。
そんなロキとは打って変わって、ビウィグは切羽詰まっていた。
「ほ、本当なんだ、私の技術は貴様より……た、頼む、助けてくれ!」
このままだと、彼の命は後数秒。形振り構っていられない。

『首輪爆破まで後10秒』そう警告されたと同時に、ビウィグが動いた――いや、ロキが動いたのだ。
その細身からは信じられない力で、ビウィグの体を一気に手操り寄せる。
そして、ビウィグがロキの足下へ着いた時、警告は止まった。

「感謝しろよ。禁止エリアで爆死だなんて、惨めな死に方をせずにすんだのだからな」
相手を見下ろしながら話し掛ける。その手には、もうロープは握られていなかった。
今その手に有るのは、ストライクアクス。
ビウィグはそれに気づかない。そもそも、彼には何も見えていなかった。
「た、たすか――――」
彼の頭は、命が助かったことによる、安堵の感情で一杯だった。
その感情に支配され、何も見えていなかった。ロキの手にする斧も、それを振り上げる姿も、振り下ろす姿も、
自分が死んだことさえ気づけなかった。


先程までビウィグの首につけられていた首輪が、禁止エリアに放り込まれる。
警告は無かった。
首輪を回収するために、禁止エリアに足を踏み入れる。
今度はしっかり警告される。
(やはり、生死の判別と爆破機能はリンクしているようだな)
ここまでで判明したことは、僅かに二つ。
  • 禁止エリアに入ると、警告さる。爆破までの時間は30秒。
  • 持ち主が死亡している場合、禁止エリアで爆発することは無い。
(死亡していれば首輪は爆発しない? なら、石化や仮死状態なら……)
暫く考え込んだ後、荷物をまとめ、停めてある自転車に向かって歩きだす。
(ここで考えた所で答えは出ない。思いついた事は、兎に角実行してみればいい。
 それらは、全て首輪を外すための大事なステップだ)
デイパックを一つ背負い、もう一つデイパックを自転車の籠に入れ、ロキは自転車を走らせる。

チリンチリン

周囲にベルが鳴り響く、道行くロキは走り去る。

【C-04/真昼】
【ロキ】[MP残量:95%]
[状態:正常・自転車マスターLv3]
[装備:ママチャリ@現実世界]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、ストライクアクス@TOP、グーングニル3@TOP、空き瓶@RS、
    デッキブラシ@TOP、スタンガン、ザイル@現実世界、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:自転車で街道を走って島を一周する。途中であった人間達にはいい加減な情報を与える]
[思考4:首輪を外す方法を考える]
[思考5:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[現在位置:C-04の街道]
[備考]:
※人と接触するために定期的に自転車のベルを鳴らしています。
 隣のエリアまでは響きませんが、彼が近くを通る時、誰もが彼に気づくでしょう。

【ビウィグ@SO3 死亡】

【残り41人】

※デイパックが2つC-04とC-05の境界付近に放置されています。
 中身は名簿や地図などの共通の支給品以外入っていません。





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最終更新:2008年09月16日 21:34