第77話 待ち合わせ


二人の男が地面に座り込み昼食を摂っていた。
一人はすらっとした長身に緑色の長髪、切れ長な瞳が印象的な青年。
もう一人はまばゆい金髪を短く刈り込んだ大男だ。
「で、これからどうするわけ?」
一足先に食べ終えた緑髪の青年ルーファスは、大男の方クリフに尋ねた。
「どうするって嬢ちゃん達はどこに行くか聞いてなかったのか?」
支給されたブロック状のレーションを食べる手を止めクリフは答えた。
「あぁ、あの二人なら鎌石村に行くって言ってたな。凶悪な魔物がいるから止しとけって言っといたんだがな」
午前中に遭遇した魔物の顔を思い出す。
言葉を話す事ができたから高位の魔物であることは間違いない。
「なら、俺たちもそこに行くぞ」
最後の一口を飲み下したクリフはそう告げた。
「正気か?今やばい魔物がいるっつったばかりじゃねぇか」
ある程度そんな返事がくると予測はしていたが、あの魔物とまた遭遇すると思うとあまり気乗りがしない。
「だからだよ。俺の読みだと嬢ちゃんの能力はルシファーを倒すのに不可欠だ」
頭上に?マークを浮かべるルーファス。
「あのソフィアがか?正直ルシファーって野郎を倒す切り札になる力は無さそうだけどな」
と少し前に別れた童顔少女の顔を思い出す。
「まぁ、これも勘の域をでないんだがな。ルシファーは今どこから俺達を監視してると思う?少なくともこの島にはいないだろう。
以前戦った時同様に別の次元世界から監視してるに違いねぇ。
そこで、嬢ちゃんの力『コネクション』の出番だ。あの力は別次元への入り口をこじ開けることができる。
ルシファーの声で放送があったから、少なくとも奴の居場所とこの島は完全に隔離されてねぇ。
この島のどこかに接点となる場所があるはずだ。そこに連れていければ野郎の居場所に行けるわけよ。
だがまだ問題があって、別次元にいるルシファー側からすれば俺たちは紙に書いた絵のようなもの。
そこで、まだ二人程力が必要な人間がいる。俺と一緒に一回ルシファーを倒した、マリアとフェイトだ。
マリアの力『アルティネイション』で俺達を別次元に存在できるように、
フェイトの力『ディストラクション』で俺達の世界の物理法則を別次元世界の中で通用するようにそれぞれ改編させる。
この三つが合わさればルシファーの所に殴り込みに行けるって寸法よ。
それに加えるなら、マリアとフェイトはそんじゃそこらのヤツに遅れをとるほど弱くはねぇ。
となると戦闘能力に不安の残るソフィアの嬢ちゃんの保護が最優先って訳よ」
確証は無いが、ルシファーの性格を考えるにFD空間の様な所からあれこれ干渉しているのは間違っていないはずだ。
仮に同じ次元世界から監視していたとしても放送用の電波を逆探知すれば、ルシファーの居場所は簡単に判明できる。
通信機とソレを改造できるような工具、然るべき知識を持つ人間が揃えば容易に可能だ。
ここから判明した場所への移動手段に心当たりがないが、まぁ何とかなるだろう。
「いまいちわかんねぇけど、その三人が揃えばこの島から出られるんだな?」
「まぁ、そういうこった。但し、能力を制限しているこの首輪を外さないとな。
ルシファーもバカじゃねぇ。あの三人の力は首輪のせいで発揮出来ねぇはずだ」
自分の首を指差し告げた。
「お前以外と考えてるんだな。勢いに任せて行動するタイプに見えたんだが」
肩をすくめ立ち上がると、ルーファスは体を鎌石村の方向に向けた。
「けっ、言ってろ。とにかくさっさと鎌石村に行くぞ」
クリフも立ち上がり、北へ向かい歩き始めた。


謎の少女との戦いで負ったマヒが軽くなったミラージュは立ち上がると辺りを見回した。
(とにかく、隠れないといけませんね)
一応身動きはとれるが、戦えるコンディションでないのは明確だ。
先程戦った少女がどこに向かったかはよくわからないが、まだ近くにいることは間違いない。
(狭い建物だと鉢合わせたらやり過ごすのは困難。ならば…)
記憶に焼き付けた地図を思い出す。
(近場に民家以外の建物…。郵便局に、役場がありましたね。少なくとも民家よりは広いでしょう)
どっちにするか思い悩むミラージュ。
(さっきの少女もアレだけ動いたのだから近場で休んでいる可能性の方が高いですね。ならば役場の方に隠れましょう)
太陽の位置と脳内地図を頼りに役場のほうに歩き出した。無論周囲への警戒は怠らずに。


彼女は役場に向かう間に見かけた民家でルーズリーフの束とボールペンを見つけた。
(ただ隠れているだけでは、現状を打開出来ませんね。少しでも手を打っておかないと…)
彼女は目についた民家のドアにクォークで使う暗号文で、自分は行動するには厳しい状況にあって役場に潜伏しているというメモ書きを挟んだ。
共通語で書こうとも思ったが、それだとゲームに乗っている人間もおびき寄せてしまう。
暗号では、わかる人間はマリアとクリフに限られてしまうが、みすみすそういった輩に居場所を晒すわけにはいかなかった。
だが自分の字であることはフェイト達にも伝わるはず。そうすれば村の中を捜してくれる可能性が高い。
皆の安否は不明だが、そう簡単にやられるはずはない。
(やれるだけの事はやりました。後はみんなを信じて待つしかありませんね)
目的地に着くと奥の一室に身を潜めた。西の空は茜色に染まり始めていた。


太陽が沈み始めてきた。
ミラージュとの交戦の後、近くの民家で仮眠をとっていたすずは目を覚ました。
もうすぐ放送開始の時間だ。今のうちに付近の参加者を補足しておけば、放送時の隙を突いて殺す事も容易いだろう。
朝、そして昼での戦いの疲れは完全ではないがとれている。
これからは闇に生きる者達の時間だ。幼い頃から叩き込まれた殺人技術にとって闇はむしろ味方となる。
当初の予定通り行動に出る事にする。夜陰に乗じて参加者を始末する為に。
(先ずはこの辺りに人がいないかどうか調べよう。見つけ次第隙あらば…)
休んでいた民家のドアを開け、外に出ようとした時カサリと一枚の紙切れが地面に落ちた。
(ここに入った時はこんなもの無かった、となれば休んでいる間に…)
紙片には何か書かれている。それを拾い上げ内容に目を通す。
(なんて書いてあるかは読めないけど、普通に考えれば誰かが仲間に宛てて書いた物。
内容は…、定時放送があるから自分の安否を知らせるものじゃない。
となれば落ち合う場所を記した物。間違いない。近くに誰かいる。場所は…)
更に思考を巡らす。既にその目付きはクレス達に合う以前の冷徹な光を帯びていた。
(何か目印になる施設のはず、この近くには…役場に郵便局、少し離れて学校に観音堂)
地図を広げ場所を絞る。
(近場から探そう。大丈夫、私はやれる。そう決めたんだ)
一番近い郵便局を目指しすずは駆け出した。


「おいアレを見ろ!」
神塚山の麓からようやく鎌石村に着いた、クリフとルーファス。
大体C-4とC-5の境目辺り、まだ民家などは見えないが代わりに意外なものを見つけた。
「ひでぇ…」
そこには真っ赤なコートを羽織った首無しの男の遺体があった。
近くにはこの男の物と思われる頭部とデイパックが放置されている。
「こいつはビウィグじゃねえか」
遺体に手を合わせているルーファスの横でクリフが声を上げた。
「知り合いか?」
「ああ、死んだやつを悪く言うのもあれなんだが、ろくなヤツじゃなかったな。
俺の仲間の親父を拉致るわ、俺らを罠に嵌めるわでお友達って間柄じゃねぇ」
よく観察するとその遺体には首輪がない、犯人が持っていったのだろうか。
「鋭利な刃物で一撃って感じだな。これはお前が言ってた魔物の仕業だと思うか?」
「たぶん違うな。鋭い爪を持っていたと思うが、ソレで引き裂いたのならもっと違った痕が残る」
「そうか…なら尚の事さっさと嬢ちゃんたちを探さないとな。こんな殺し方をするようなやつだ、殺る気満々のヤツに違いないだろうからな」


「見つかんねぇなぁ」
周囲の警戒をしながら村を周ってみたが目的の人物は見つからず、ルーファスは不満を漏らした。
「まぁ、そう簡単には行かねえだろ。お前が出くわしたっつう魔物と会わないだけでもよしとしようや。おら、もう一軒行くぞ。このエリアはいいから次はC-3だ」
「へい、へい」
村に着いたのは大体3時か4時頃。
村に踏み入れたと同時に見つけた遺体を放っておくのは忍びなかったので穴を掘って埋めてやった(供養する代わりに近くにあった荷物は貰っていった)。
体感だとこの村に着いてから1,2時間は経っているだろうか。もうすぐ2回目の放送が始まる時間だ。
ソフィアとヴァルキリーから別れて6時間以上経っている。もしかしたらもう別の場所に向かってるのでは?
そう進言しようとしたところでクリフは一軒の民家のドアに挟まっている紙を見つけた。
「これは…」
後ろから覗き込むルーファス。
「なんて書いてあるんだ?」
文字は自分の世界の物ではないのでなんて書いてあるかはさっぱりだ。
「俺の仲間が書いたもんだ…」
クリフの声色がさっきまでとは異なり深刻な様子だ。
「ソフィアが書いたのか?」
「いや、嬢ちゃんじゃねぇ。だがこうしちゃいられねぇ!」
言い終えるや否やクリフは西に向かって走りだした。
「ちょ、おいっ!待てよ!どこに行くんだよ!?」
「役場だ!仲間が、ミラージュがやべえ!」
ずっと共に戦ってきたパートナーの事を想い、更にスピードを上げながらクリフは答えた。


【C-4/夕方(まもなく第2回放送)】
【ミラージュ・コースト】[MP残量:80%]
[状態:疲労大、全身に傷痕(特に前の上半身に集中、深い傷もあり)、左頬に切り傷、衣服ボロボロ]
[装備:無し]
[道具:ボールペン、ルーズリーフ数枚]
[行動方針:このゲームから脱出してルシファーを倒す]
[思考1:体力の回復]
[思考2:役場内にてメモを見た仲間を待つ]
[思考3:第一放送についての情報を集める]
[思考4:煙の発生場所(G-3平瀬村分校跡)に行く]
[現在位置:C-3鎌石村役場内]
[備考:第一放送は聞いていません。(C-05が禁止エリアという事は把握)]

【藤林すず】[MP残量:20%]
[状態:疲労中程度]
[装備:アントラー・ソード@VP]
[道具:サーペントトゥース@SO2、ブラッディーアーマー@SO2、ノエルの支給品×0~2(本人確認)、荷物一式×3]
[行動方針:生き残る]
[思考1:メモ書きを書いた人物の捜索及び隙あらば殺害]
[思考2:自分が死んだ場合はクレス、チェスター、アーチェ、クラースの誰かに優勝して欲しい。そのため四人の殺害には消極的]
[現在位置:C-04中心部 民家の一室]
[備考:ミラージュ(名前は知らない)は死んだと思っています]

【クリフ・フィッター】[MP残量:80%]
[状態:手の甲に歯によるケガ(もうカサブタになっているので戦闘に支障なし)]
[装備:ミスリルガーター@SO3・閃光手榴弾@現実・サイレンスカード×2@SO2]
[道具:ドラゴンオーブ・エターナルソード・メルーファ@SO2・バニッシュボム×5@SO3・フレイの首輪・荷物一式×4]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:役場でミラージュと合流]
[思考2:鎌石村でソフィアたちの捜索]
[思考3:脱出の手段を見つける]
[思考4:仲間を集める(マリア、ソフィア優先)]
[思考5:首輪は調べられたら調べる]
[現在位置:C-4北東部西に伸びる道]

【ルーファス】[MP残量:80%]
[状態:右肩が痛み、血を流しすぎたから痺れてる感じ
(多少は和らいだので、傷の再発を考えなければ1発程度なら弓の使用可)]
[装備:連弓ダブルクロス@VP2・矢×34本]
[道具:荷物一式×2]
[行動方針:戦いにのるかのらないかはっきり決めたい。]
[思考1:アリーシャを探しだし、守り抜く]
[思考2:今はクリフと一緒にいる]
[思考3:鎌石村でソフィアたちの捜索]
[思考4:午前中あった魔物(シン)を警戒]
[現在位置:C-4北東部西に伸びる道]

【残り36人】



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最終更新:2008年09月16日 21:36