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第78話 続・美女と野獣と変態と


観音堂。ここに集まった四人の情報交換は、面子の割には驚くほどスムーズに行われていた。

「ぬぅ……」
禿げヅラを被った不死者、ブラムスは小さく唸る。
「これは驚きましたね」
眼鏡を掛けた変態、レザードは何やら楽しげに呟く。
この二人が興味を示した情報。それは、当然ソフィアが持つルシファーに関するの情報だった。

フォーディメンションと呼称された世界。その世界の住人――ルシファー達が創り出したエターナルスフィアと呼ばれる仮想現実世界。
エターナルスフィアが起こすであろう反乱。それを阻止するためにルシファー達が送り込んだエクスキューショナー。
創造主と戦うために、エターナルスフィアの人間が作り出した生物兵器とその力。
そして、ソフィア達とルシファーの戦いの結末。

「ただ『変態、変態』と騒ぐ煩いだけの娘ではなかったのだな。ここまで有意義な情報を持っているとは、予想外でしたよ。
 このような娘を連れてくるとは、流石はレナス・ヴァルキュリア。人をみる目は誰よりも優れていらっしゃる」
と言いながら、レザードは熱のこもった視線を送るが、レナスは「褒めても何も出んぞ」と冷たく言い放つだけであった。
レザードは、一息吐いた後、眼鏡を押し上げ話を続ける。
「さて、そろそろ私の持つ情報も話しておきたいのだが……よろしいですか?」
視線の先にいる三人は無言で頷く。
「結構……この島に来てから、私はエイミとルシファーの妹と名乗るブレアという女と行動してました」
「それは先程聞いたが、奴の妹というのは本当なのか?」
「ええ、私も半信半疑なのだが……ヴァルキュリアよ、貴方が連れてきた娘のおかげで確認が取れそうです」
そう言って目線をソフィアに向ける。
「娘、今から私の会ったブレアの特徴を話す。貴様の知るブレアと同じなのか確認してもらう」
体型、髪型、服装。それらを簡単に説明する。それらは、ソフィアの知る“彼女”のものと一致していた。
「! ブレアさんに間違いないです! あの、ブレアさんは今どこに?」
「さあ? そんなこと私が知るはずないだろ。話を続けさせてもらう。
 私達三人は、ここ観音堂までは何事もなくこれました。その後は、ヴァルキュリアよ、先程貴方に話した通りです。
 ブレアの手によりグール化したエイミを、この場にいた魔物諸共自衛のために始末。ブレアは騒の最中に逃げられてしまいました。
 その後、貴方方がこの場にやって来て今に至ると言う訳です」
「あの……、エイミって人をグールにしたのは本当にブレアさんだったんですか? 何かの間違いじゃ……」
レザードの話が終わったのを確認してから、ソフィアは遠慮がちに聞いた。
「ああ、そういえば言ってなかったな。あの女の目的は、このゲームに参加させられた者の抹殺。あの女本人が認めた事実だ」
薄笑いを浮かべながらレザードは答えた。
「本人が認めただと?」
「ええ。見るからに胡散臭い女だったので、かまをかけてみたのですが……思いの外あっさり認めてくれましたよ」
「貴様、その女が危険人物と知りながら、共に行動していたと言うのか!? そのせいでエイミは……」
レナスの言葉を受けても、レザードは表情を変えない。
「落ち着いて下さいヴァルキュリア。確かにエイミの件については私にも落ち度があります。その点については謝りましょう。
 だが、相手はルシファーの妹なのですよ。奴の情報を聞き出さずに殺すのは余りに惜しい。そう思いませんか?
 残念ながら、拷問に使えそうな道具は持ち合わせていなかったので、情報を聞き出すことは叶いませんでしたが」
「ッ……確に貴様の言う通りかもしれん。だが……」
「だが?」
「……いや、何でもない」
完全に納得した訳ではなかったが、ここは黙ることにした。
「どうしてブレアさんが。あの人は私達の味方だったんだよ」
ソフィアは信じられないといった表情で呟く。
「人間の考えなど容易く変わるものだ」
それまで黙って話を聞いているだけだったブラムスが、静かに言った。
「特にこのような異常な状況ではな」


外では日も沈みだしていたが、ソフィアへの質問はまだ続く。
「では娘。貴様の知り合いに、首輪に使われているような技術を持つ者はいますか?」
自分の首につけられた首輪を摩りながら、レザードは尋ねる。
「外せるかは解らないけど……」
「まて!」
答えようとしたソフィアをレナスの声が遮る。
止めた理由は、勿論『盗聴・盗撮』の可能性を考えたからだ。
奴らに有用な情報をくれてやる訳にはいかない。それに、下手したら首輪が爆発するなんてこともあるはずだ。
そのことを説明するが、
「その心配はいりません」
レザードがそれを否定する。
「いいですか、この娘の仲間は嘗てルシファーを倒した者達ですよ。奴が最も警戒しているのは彼等と言っていいでしょう。
 そんな者達の情報を、奴が把握してない訳が無いだろう。
 そもそも、この首輪は奴の切り札だ。このゲームに呼ばれた者の中に、現在首輪を外せる技術を持つ者はいないだろう」
「外せる者はいないだと? ならば、先程の問掛けは何の意味があると言うのだ?」
ブラムスの疑問に、待ってましたと言わんばかりの表情で答える。
「ええ、現在はいませんよ。ですが、これから先、首輪を外せる者が出てくる可能性はあります。
 例えば、高度な技術を持つ者から私が技術を学べば……。
 だから聞いたのだ“首輪に使われているような技術を持つ者はいますか?”とな」
レナスは思わず頭を抱える。
「だから、そういうことは口に出すなと……」
「ヴァルキュリアよ、心配は無用です。この程度、聞かれても痛くも痒くもありませんし、首輪が爆発することもないでしょう
 仮に首輪が爆発することがあるとすれば、それは……首輪を外す直前ですかね?
 ルシファーはゲームに参加せず、外から眺めて楽しんでいる観客です。観客なら、面白い場面を見たいはずだ。
 数多の殺戮者を避け、やっと手にした首輪の解除と言う名の希望。歓喜の瞬間に鳴り響く爆発音、広がる絶望。
 クックッ……どうです、面白い場面だと思いませんか? これを見るためなのだ、この程度で首輪が爆破されるなど有り得ない!
 …………おや、皆さんどうかしましたか?」
場に微妙な沈黙が流れる。
ソフィアもレナスもブラムスですら、レザードの熱弁に軽く退いていた。


そんなわけで、
ソフィアから高度な機械技術を持つ者の情報を聞き出した後、一行は鎌石村へ向かうこととなった。
機械技術持ちや知り合いを探すなら、多少危険でも人が集まりやすい場所へ行くべきとの判断だ。
これの発案者はレナスである。元々四人とも本来は鎌石村へ向かっていたので、初めは反対意見は出なかった。
だが、早速移動を開始しよう……といった所で、レザードから待ったが掛る。
「ちょっとした提案があるのですが……よろしいですか?」
三人は顔を見合わせ、取り合えず話を聞いてみることにする。
「実は、今のうちにやっておきたいことがありましてね、もう少しこの場所にいようかと考えています。
 そこでブラムス、貴方にお願いがあるのですが……貴方には私達に先行して、鎌石村へ行ってもらいたいのです」
三人の顔に疑問の色が浮かぶ。
「あのー……どういうことですか?」
「どうもこうも原因は貴様にあるのだぞ娘。正直言って貴様は戦力外だ。
 だが、脱出のためには貴様のコネクションが必要になるかもしれん。だから貴様は死なれては困る。
 ……この島には侮れない輩が多数いるようだ。中にはあのフレイを倒した者までいるようです。
 仮にそのような輩と戦闘になった場合、貴様へのフォローがおろそかになりかねない。そうなれば非常に危険だ。
 そこで、非常に不本意だが、この私が貴様に身を守るための魔法を修得させてやろうと言うのだ。有難く思え」
「…………」
ソフィアはちょっと泣きそうな顔をしながら黙りこんだ。
戦力外と言われたのがショックだったのか、それとも変態から魔法を教わるというのが嫌なのか、理由は解らない。
「それで、どんな魔法なのだ?」
「詳細は敢えて伏せておきます。ただ、上手くいけばこのゲームで生き残る上で大きな助けとなる。そう言っておきましょう」
レナスは納得がいかないといった表情だったが、結局この魔法についてそれ以上追求することは無かった。
「……何故我を先行させるのだ?」
「先程言った通り、私はこの娘に授業をしなければなりません。
 その間の護衛として、貴方とヴァルキュリアの二人は最上級と言わざるえないでしょう。
 ですが、四人全員でここに止まり続けるのも些か問題です。
 そこで貴方に先行してもらい、私達の授業時間を利用して情報収集をしてもらいたい。いかがですか?」
少しの間考えた後、ブラムスはこれを承諾。レナスとソフィアからも特に反対意見は出なかった。

「それじゃあブラムスさん、フェイト達に会えたらこれを渡して下さいね」
ブラムスに渡されたメモには、ソフィアから仲間達へのメッセージが書かれていた。
わざわざこんなものを用意した理由は、勿論ブラムスの風貌・雰囲気の問題だ。
「レナス、お前はエインフェリア達への伝言は無いのか?」
「彼等は、お前の実力を、お前がそれほど危険な存在でないことを知っている。心配いらないだろう」
エインフェリア達は、レナスのためにブラムスが協力してくれたことを知っている。
警戒はするだろうが、直ぐに仕掛けてくるようなことは無いだろう。それが彼女の判断だった。
「私達の方も、三回目の放送までには村へ向かうつもりなので、貴方もそのつもりでいてください」
「そうか……では、また後で会おう」
そう言い残し、ブラムスは観音堂を後にした。



赤く染まった空の下、ブラムスは村を目指して歩く。
まだまだ本調子とは言い難いが、日が沈みだしたことにより、真っ昼間と比べれば頗る調子がいい。
これなら相手がフレイやレナスクラスの実力者で無い限り、そうそう遅れはとらないだろう。
多少は警戒を緩めても大丈夫と判断する。
取り合えず、歩きながら情報交換をどう行うかを考え始めた。
(相手がただの人間であるなら、我に恐怖を抱き、警戒する……予想はしていたが、あれほどとはな)
ソフィアが自分の姿を見たときの、取り乱した様子を思い出す。
スムーズに情報交換が出来そうな相手は、レナスのエインフェリア達くらいだろうか?
今になって「レナス達と共に行動すべきだった」と後悔する。
(余りやりたくはないが、物で釣る、というのも考えて置くべきか……?)
懐から何かを取り出す。
それは、見るからに高価そうなダイヤの指輪だった。

【C-06/夕方】
【不死王ブラムス】[MP残量:100%]
[状態:正常、本人は大真面目に支給品を着用]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸@現実世界+SO2、!ダイヤモンド@TOP、ソフィアのメモ、荷物一式×2]
[行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[現在地:C-06南西]

※ソフィアのメモには、ソフィアが仲間達に宛てたメッセージが書かれています。


観音堂の一室。そこには男が一人。女性二人はここにはいない。彼女達は、何か使える物が無いか建物の中を探し回っている最中だ。
レザードは机に向かい、小難しい術式や用語を書き連ねる。
机の端には、文字が大量に書き込まれた紙が重ねられており、結構な厚さとなっている。
今彼書いているのは、とある魔法の簡単な説明。簡単と言っても、並の術士では到底理解出来ない内容だ。
その魔法の名は――移送方陣。



レザード・ヴァレスは考える。
ルール説明の時、爆死した男が放った攻撃。あれは例え制限下であっても、大魔法クラスの威力があったはずだ。
だが、その攻撃はルシファーに届きすらしなかった。
奴はルール説明と同時に、自らの強さをアピールしたと言える。
それは、レザードですら「正攻法で勝つのは難しいだろう」と思わせたほどだ。
ところが、ソフィア達は正攻法でルシファーに勝利したそうだ。彼女の話では、当時の奴は思った程強くはなかったらしい。
しかも、彼女達が奴を倒したのは割と最近の話とのこと。
つまり、ルシファーはソフィア達と戦った時より強くなっている。それも短い期間で。
どのような手を使ったのだろう?
その解答としての仮説。
【能力“制限”は、本当は能力“変更”なのでらないか?】
ルシファーは“制限”と言う言葉を使っていた。
だから『力が制限により低下している』、『力が制限により使用出来ない』と考えていた。
だが、“制限”を“変更”に変えてみるとどうだろう。
『力が本来のものより弱いものに変更された』、『力が使用出来ないよう変更された』と考えていただろう。
この場合、“制限”と大きく異なる部分は『力が本来のものより強いものに変更した』とも考えられることだ。
ルシファーはこれを利用して、自らの力をより強い力に“変更”したのではないだろうか?
この仮説が正しい場合、更にこんなことが考えられる。
【ルシファーはこの世界のどこかにいる?】
ソフィアの話から、この世界がFD界とうのはまず有り得ないだろう。恐らくルシファーが創った仮想現実世界の一つだ。
奴は仮想現実世界では神に等しい存在で有るが、FD界の神では無い。
自ら創った仮想現実世界でなら、“能力変更”なんて真似が出来ても不思議ではない。だが、FD界ではどうだろう?
もし不可能ならば、ルシファーは自らを強化するために、この世界のどこかにいると考えられる。
ゲームに参加する訳でもないのに、わざわざ自らを強化する理由は……
最後の一人となった者や、首輪を外して反逆を起こした者達を確実に始末するためだろうか?

ルシファーがこの世界にいるのなら、移送方陣のような移動手段でも奴の下へたどり着ける。
元の世界へ帰る手段は、ルシファーを絞め上げて聞き出せばいい。
これなら、使用条件の厳しいコネクションに頼る必要は無い。
問題は、現在レザードは移送方陣を使用出来ないことだ。そこで、彼はソフィアに移送方陣を修得させることにした。
本来移送方陣を使えない者にそれを修得させた場合、問題無く使用出来るのでは? と考えたからだ。
この考えは、“制限または変更”が一人一人個別に設定されていることが前提条件となる。
先の仮説を含め、この考えは間違っている可能性がある。それに、ソフィアが移送方陣を修得出来る可能性は極めて低いだろう。
だが、何事もやってみなければ解らない。特にこのような状況では、手段を選んでいられない。


レザードは立ち上がり、軽く背伸びをする。どうやら、移送方陣のテキストを書き終えたようだ。
その時、丁度良いタイミングで部屋に人が入ってくる。レナス達だ。
「ん……、何かめぼしい物はありましたか?」
「……いや」
「食べ物はいくつか有りましたけど、他には特に有りませんでした」
「そうですか。まぁ予想はしてましたがね」
机に重ねてあったテキストを手に取り、ソフィアに近づく。
「では、早速始めてもらう」
テキストを手渡し、ニッコリと微笑む。
「まずは、ここに書いてあることを全て頭に叩き込んで下さい」



【C-06/夕方】
【ソフィア・エスティード】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:クラップロッド@SO2、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3]
[道具:レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:フェイトに会いたい]
[思考2:レザードの指示に従い魔法(移送方陣)を修得する]
[思考3:三回目の放送までには鎌石村に向かう]
[思考4:自分の知り合いを探す]
[思考5:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[現在地:観音堂]

【レナス・ヴァルキュリア】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:魔剣グラム@VP]
[道具:ダブった魔剣グラム@RS、合成素材×2(ダーククリスタル、スプラッシュスター)@SO3、荷物一式]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:ルシオの保護]
[思考2:ソフィア、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考3:三回目の放送までには鎌石村に向かう]
[思考4:協力してくれる人物を探す]
[思考5:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[現在地:観音堂]

【レザード・ヴァレス】[MP残量:95%]
[状態:正常]
[装備:天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:神槍パラダイム@RS、アップルグミ×2@TOP、エルブンボウ@TOP、レナス人形・フルカラー@VP2、荷物一式×2]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その一端として、非常に不本意だが、ソフィアに移送方陣を修得させてやる]
[思考3:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考4:三回目の放送までには鎌石村に向かう]
[思考5:ブレアを警戒。ブレアともしまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[備考:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[現在地:観音堂]

※レザードのメモには移送方陣についての詳細が書かれていますが、これを読めば移送方陣が修得出来るという訳ではありません。

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