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第89話 名選手名コーチにあらず


「うう…グスッ、ヒック………ロジャーちゃん…ネルさん……」
二回目の放送が終わった後、観音堂ではソフィアの嗚咽が続いていた。
「おい小娘、いつまで泣いているつもりだ」
いつまで経っても泣くのを止めないソフィアに苛立ったのか、レザードは冷たく言い放つ。
「泣き続けたところで自体は好転しない。そんな暇があったら、さっさとその魔法を覚えてもらいたいんだがな」
「レザード!」
「………」
容赦の無いレザードの言葉にレナスが怒鳴る。
一言で意味を察したのか、レザードは不満そうながらもそれ以上文句を言わずに黙った。
「ソフィア、少し休もう。大丈夫。貴方は私が守るわ」
そう言ってレナスはソフィアを連れて隣の部屋へと入っていった。
時折レナスの声とソフィアの嗚咽が聞こえる。何を話しているのかは分からないが、恐らくレナスがソフィアを励ましているのだろう。
やれやれといった感じでレザードは溜息を吐き、自身の作成したテキストを整理した。
ソフィアとかいうあの小娘、想像以上に物覚えが悪い。頭に行く筈の栄養が全部胸に行ってしまったのだろうか。
移送方陣を修得するしない以前に、テキストに書いてある内容をほとんど理解できないようなのだ。
元々修得できる可能性は低いだろうとは予想していたが、これではさらに可能性を低く見積もらなければならない。
まあだからといってレザードの教え方に全く非が無いという訳では無かった。
学生時代から稀代の天才と名高かったレザードにとっては、テキスト内容を把握するなど造作も無い事ではあるが
それ故教える時も「この程度は理解できるだろう」と自分の頭を基準に考えてしまっている。
対してソフィアは紋章術の使い手とはいえ、表面上はただの女子高生である。
レザードが簡単に理解できる内容も、ソフィアにとっては難しすぎた。
(全く、もう少し基礎的な事から教えるしかないか…)
ふとテキストから顔を上げると、レナスが隣の部屋から出てきた。ソフィアはいない。
「レザード、話がある。今後の事についてだ」
「…いいでしょう。丁度、私も話し合おうと思っていたところです」


「まず先程の放送の内容を確認しておきましょう。ルシファーの発表によると死亡者は13人。
ヴォックス、ノートン、メルティーナ、ロジャー・S・ハクスリー、ビウィグ、エイミ、シン、夢留、ネル・ゼルファー、
アリーシャ、ジェストーナ、セリーヌ・ジュレス、オペラ・ベクトラ、以上です。
禁止エリアは19時にH-07、21時にI-07、23時にD-04。間違いありませんね?」
「…ああ。しかし人数が減ったにも関わらず、午前中と同数の死者が出るとはな…」
「そうですね。正直な話、私もこれだけ死者が多いとは思いませんでした」
自分自身も二人殺したとはいえ、レザードもここまで死者が多いというのは予想外だった。
このままではそう遠くない内に参加者の数は半数を切ってしまうだろう。
自分とレナス以外はどうでもいいと考えているレザードだが、殺し合いのペースは落としておきたかった。
参加者が減り続ければ主催への対抗手段を考える時間が少なくなってしまうし、ルシファーと戦う事になった場合の戦力も減ってしまう。
現にソフィアと共にルシファーと戦ったという者の名前も数名呼ばれている。
それに、レザードにとってさらに意外だったのは魔術学園の同門メルティーナの死だった。
フレイやブラムス程の実力者では無いが、それでもそこらの冒険者よりはるかに強い。
何より敵対する人物には容赦はしないだろうし、危ない橋は渡らず、自身の安全を最優先するような性格だ。
こうした状況でのサイバイバリティはかなり高いと思われるのだが、そんな彼女も既に脱落している。
(一応戦力としては期待していたんだがな)
レナスのエインフェリアも残り半分以下である。戦力面では、やや不利になりつつあると認めざるを得ない。


(メルティーナ…エイミ…夢瑠…守れなくてすまない。これではヴァルキリーの名が泣くな…)
自分の為に戦ってくれたエインフェリア達がまた消えた事に、レナスは深い悲しみを抱いた。
エイミは目の前にいるこの男、レザードによって殺されたそうだが、レザードの言う事が真実なら彼を責める事は出来ない。
…いや、真実なのだ。実際に自分は精神集中によって、断片的にだがその現場を目撃している。
(ルシオ…大丈夫だろうか…?)
放送でルシオの名前は呼ばれていない。4割以上の参加者が死亡したこの半日間を、彼もまた乗り越えられたようだ。
その事だけはレナスにとって朗報だったと言える。
しかし安心は出来ない。自分にもルシオにも、いつ危険がやって来るかは分からないのだ。

「さて、これからの行動予定なんですが…これは少々変更せざるを得ません」
レザードの言葉にレナスも頷く。
「ああ…。D-04が禁止エリアに指定されている。これでは鎌石村へ行くのに、かなりの遠回りをしなければならない」
そう。今回の禁止エリアには、鎌石村へ行くのに通る予定だったD-04が指定されてしまったのだ。
既にC-05も禁止エリアとなっている為、鎌石村へ行くには禁止エリアを大きく回り込まなければならない。
「そうですね。既に出発しているブラムスはともかく、我々は今すぐ出発しても、23時までにD-04を突破するのは難しいでしょう」
少なくとも、「第三放送までに鎌石村へ行く」という目的は断念するしかない。
連絡手段がないためブラムスにはその事を伝えられないのが不安だが、彼は別段心配するような性格でもないだろう。
「ではどうする?鎌石村は諦めるのか?」
地図を見ると、現時点では鎌石村に行くよりも平瀬村に行く方が距離的には近い。
参加者が集まるという点では、どちらの村でも大差は無いと思われる。目的地を変更するというのも一つの手だった。
だがレザードは変更するつもりは無い。
「いえ、このまま鎌石村を目指しましょう。既にブラムスが向かっていますし、それを考えれば鎌石村の方が安全ですからね」
ここで目的地を変えてしまっては、ブラムスを先に行かせた意味が無い。
何より貴重な戦力であるブラムスとこのまま別れるのはあまりに勿体なかった。

「では予定を少し遅らせて、『明日の朝までに鎌石村へ到着する』これでいいでしょう」
結局明日の朝、つまり12時間後の第四放送までに鎌石村へ行くという事で方針は決まった。
(12時間後か…)
26人もの死者が出たこの半日間。果たしてもう半日、自分達が生きられるだろうか?
(…いかんいかん、弱気になるな)
頭に浮かんだ弱い考えをレナスは否定する。戦乙女である自分が弱気では、エインフェリア達だってついて来ない。
消えたエインフェリア達の無念を晴らすためにも絶対にルシファーを倒してみせる。そう決意を新たにした。
すると、レザードが唐突に立ち上がる。
「どこに行く?」
「いえ、ちょっと散歩にでもと思いまして。ご一緒しますか?」
こんなのと散歩とは冗談では無い。ほざけ、と一言だけ返しておいた。
レザードは眼鏡を上げる動作をして肩を竦め、続ける。
「ではヴァルキュリア、もう一本剣をお持ちでしたよね?」
「ああ。それがどうした?」
「護身用に少し貸していただけないでしょうか?戻ったら速やかに返却致しますので」
「しかしお前は剣など使えないだろう」
「別に戦う訳ではありませんよ。ただ、『こちらは剣を持っている』という脅しには使えるでしょう?」
「……」
レナスはしばし考える。この剣はできればルシオに、そうで無くても信頼できる人間への賄賂として使おうと思っていた物だ。
レザードに預けるのは少々不安や不満がある。
だが少しの間だけだし、万が一レザードが剣で襲って来ても返り討ちにすれば良いと考えて貸す事にした。
「すぐに返せよ」
「勿論。ありがとうございます」
レザードはその剣を手に、観音堂から出ていった。

観音堂を出たレザードは、まずエイミとシンの死体が埋葬されている場所に向かった。
ソフィアに魔法を教えている最中にレナスが埋葬しておいたらしい。埋葬といっても、死体の上から土を被せただけの簡素なものだが。
その為土をどけるだけで死体が出てくるので、レザード一人でも作業は難なく進んだ。
二つの死体を掘り起こし、その内シンの首を剣で切断して首輪を外す。
シンに再び土を被せた後、次はエイミの死体を引き吊って西へと少し歩く。
「…この辺りだな」
目的の場所まで来るとレザードは足を止めた。
そこはC-5とC-4の境界付近。あと数歩西へ進めば、禁止エリアの区域内に入る。
シンから外した首輪をC-5へと投げ入れる。―――反応は無い。
その事を確認すると槍を使ってその首輪を回収する。
次に、エイミの体を上半身のみC-5へと入れる。エイミの首に付けられた首輪からも特に反応は無い。
腕以外の体全体を区域内に入れるがやはり異常は無かった。
(ふむ…死体に付けられた、もしくは外した首輪の爆破機能は発動しない、と…)
さて、後は生きたまま禁止エリアに入るとどうなるか、という事を確かめたいのだが…。
こればかりは自分で行うのはあまりに危険だ。
禁止エリアに入った瞬間首輪が爆破、という事は恐らく無いとは思うが。
本当ならソフィア辺りを禁止エリアに入れて検証したいのだが、そんな事をレナスが許すとは思えない。
「まあ、後で適当な連中を捕まえて試せばいいでしょう」
そう呟くと、レザードは禁止エリアに入らないようにエイミの腕を引っ張って死体を回収する
そのまま彼女が埋葬してあった場所まで戻り、再び土を被せて埋葬しようとする。
レザード本人にすれば埋葬なぞ面倒なだけだが、後でレナスに見つかった場合何を言われるか分からない。
だが、埋葬し直す前に。
「…サンプルが多いに越した事は無いな」
レザードはシンと同じく、エイミの首を切って彼女の首輪を回収した。


「遅くなりましたね。ありがとうございました」
観音堂に戻り、レザードは魔剣グラムをレナスに返却した。
無論、エイミ達の首輪を切った事がばれないように念入りに血を拭いた後。
レナスは疑い深げに剣とレザードを交互に見つめるが、やがてそれをデイパックにしまった。
彼女の隣では、ソフィアがレザードのテキストを一生懸命読んでいる。
(ふん。一応意欲はあるようだな…)
もう少しソフィアへの指導を続けるか、とレザードは考えた。
鎌石村への出発はそれからでも遅くはないだろう。




【C-06/夜】
【レザード・ヴァレス】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:神槍パラダイム@RS、アップルグミ×2@TOP、エルブンボウ@TOP、レナス人形・フルカラー@VP2、荷物一式×2]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その一端として、非常に不本意だが、ソフィアに移送方陣を修得させてやる]
[思考3:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:ブレアを警戒。ブレアともしまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[備考:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[現在地:観音堂]


【ソフィア・エスティード】[MP残量:100%]
[状態:仲間の死亡によるショックで、精神的にやや疲労]
[装備:クラップロッド@SO2、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3]
[道具:レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:フェイトに会いたい]
[思考2:レザードの指示に従い魔法(移送方陣)を修得する]
[思考3:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考4:自分の知り合いを探す]
[思考5:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[現在地:観音堂]


【レナス・ヴァルキュリア】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:魔剣グラム@VP]
[道具:ダブった魔剣グラム@RS、合成素材×2(ダーククリスタル、スプラッシュスター)@SO3、荷物一式]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:ルシオの保護]
[思考2:ソフィア、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考3:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考4:協力してくれる人物を探す]
[思考5:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[現在地:観音堂]

※レザードのメモには移送方陣についての詳細が書かれていますが、これを読めば移送方陣が修得出来るという訳ではありません。

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