第93話 目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない



二回目の放送が終わってから一時間程経過した頃には、プリシスとアリューゼは目的地である氷川村に到着していた。
道中、放送を聞く為に立ち止まることもあったが、それ以外には特に問題も起こらず順調に進んでいる。
強いて問題を挙げるとしたら、二人とも放送で知り合いの名が呼ばれたことにより、口数がちょっとだけ減ったくらいである。

「少しいいか?」
アリューゼは背負っていたデイパックを地面に下ろしながら呟いた。
ランタンを取り出して火を灯す。この手の道具の扱いには慣れているのか、作業は本当に少しで終了した。
「へ~、見かけによらず器用なんだ。でもさぁ、別に明かりは必要なくない?」
辺りは暗くなってはいるものの、別に彼らは明るい場所から急に暗い場所へ行った訳ではない。既にこの暗さに目が慣れている。
おまけに、今夜の月はとても明るかった。まさに月夜に提灯ならぬ月夜にランタンである。
「ああ、別に夜道を歩く分には必要ないな」
「? じゃあ何で?」
「そうだな……この村を良く観察してみな。普通の村の風景と比べると、何か違和感を感じないか?」
プリシスは言われた通り村を観察すると、確かに何かが違和感を感じた。ただ、その正体までは分からない。
「ヒント、今は夜。ただし暗くなってはいるが、時刻はまだ7時」
このヒントを聞いて、プリシスはやっと違和感の正体に気づいた。
「あっ! 明かりがついてる家が一つもないんだ!」
その答えに満足したのか、アリューゼは僅かながら笑みを零す。
「その通りだ。この島には住人のいない、住人のいない家に明かりなんてつく筈がない。逆に言えば……」
「明かりがある場所には誰かがいるってことね」
アリューゼは頷くと、左手で持っているランタンをプリシスに見せるように少し持ち上げた。
「そうだ。つまりこいつは夜道を歩く為の照明じゃねえ、他の奴らを誘き寄せる為の餌って訳だ」
「う~ん……でも、それって危なくないの? ゲームに乗った人たちも呼んじゃうじゃない」
「別に構いやしねえよ」
構わないという発言に対し、プリシスは何か言おうとしたが、
「むしろ、本命はアシュトンって奴だ」
アシュトンの名を出されて言葉が詰まる。
「お前、そいつに言いたいことがあるんだろ? 話すチャンスくらいはくれてやる」
「…………」
「ただ、聞く耳を持たなかった場合は容赦はしねえぞ。こっちも仲間を殺されてるんでねえ、そいつを殺す理由はあるんだよ」
プリシスは無言で頷いた。それを確認すると、アリューゼは右手を差し出して声をかける。
「分かったならさっさと動くぞ。取り敢えずお前もランタンを出せ。点けてやるから」
「いいよ、それくらい自分でやるから!」
そう言ってプリシスはランタンを弄り出した。ランタンの明かりは直ぐに点いた。点灯までの時間はアリューゼの時より遥かに早い。
「準備オッケー! さ、早く行こうアリューゼ」
アリューゼは無言で頷き、二人並んで歩きだした。


暗い部屋の中で、アルベルはこれからの人生に関わる(かもしれない)問題を前に頭を抱えていた。
その問題の発生源は、同じ部屋にいる猫耳メイドだ。いや、正確には猫耳メイドがいることが問題なのではない。
猫耳メイド【レオン・D・S・ゲーステ】性別♂。アルベルはこのレオンの姿を見て、思わず「可愛い」と思ってしまった。
彼はこのことを、男として踏み込んではいけない領域のように感じていたのだ。
(落ち着け。俺はこんな餓鬼を見て「可愛い」なんて考える奴だったのか? 断じて否ッ!)
……別に、可愛いものを可愛いと思ってはいけないなんてことはないのだけど。
「アルベル」
「うおっ!?」
そんなくだらないことを考えているとき、突然後ろから名前を呼ばれた。振り返った先にいたのは、先ほど寝たはずのディアスであった。
「お前、寝たんじゃなかったのか」
「どうも寝付けなくてな。そんなことより、お前に貸して置く物がある」
ディアスは右の拳を差し出す。その拳をゆっくりと開くと、中には小さなピアスが一つだけあった。
「あん……ピアス?」
「着けてみれば分かる。左耳にな」
アルベルは言われた通りにピアスを身に着ける。すると不思議なことに、視野が広がり感覚が研ぎ澄まされたではないか。
「な、何だ!?」
「魔眼のピアス。見張りには持って来いだろう?」
確かに便利な道具だとアルベルは思った。だが、直ぐに疑問が浮かぶ。
「おい、こんな便利なもんがあるならさっさと出せよ」
ディアスはアルベルに一枚の紙切れを見せる。魔眼のピアスの説明書だ。
「先程も言ったが、寝付けなくてな。荷物整理をしていてたまたまこれを見つけた。……このピアスは俺の物ではない。後で必ず返してくれ」
「成程、お前の物じゃないってんなら仕方ない。分かったからお前はおとなしく寝て……ん?」
会話の途中にも関わらずにアルベルは、魔眼のピアスにより研ぎ澄まされていた感覚のお陰であることに気づき、急いで窓際へ移動する。
窓から外の様子を窺うと、夜の暗がりの中に浮かぶ二つの明かりを見つけた。
「どうした?」
「見てみな、どうやら間抜けがいるようだぜ」
その明かりをディアスも確認するが、彼は怪訝な表情を受けべる。
「……罠じゃないのか?」
「んなもんどっちだって構わねえ。誰かいるってんならやることは一つだろ。丁度剣の試し切りもして置きたかったところだ」
アルベルはピアスを外すと、ディアスに投げ渡した。
「おい、待てアルベル!」
「ここはお前に任せた。話の分かる相手だったらここに連れてくる、そうじゃないなら殺す。これで構わないよな?」
アルベルは返答も聞かなで、玄関を潜り明かりの方へ駈け出した。
ディアスは慌てて後を追いかけてアルベルを引き留める。彼の怪我した左肩に掴みかかって。
「~~~~ッ!!! てめぇ、何しやがる!」
「悪い、わざとじゃないんだ」
絶対わざとだろ! と言おうとしたが、ディアスの話がそれを遮る。
「相手が誰であれ、ゲームに乗っている者なら思う存分暴れて構わない。それが例えアシュトンだとしてもだ。だが、もしプリシスだったときは少し待って欲しい」
「? 何でだ?」
「お前は、プリシスのことはアシュトンから聞いたのだろう? しかし、俺もお前もプリシス本人には会ってはいない。つまり……」
「つまりあれか、そいつはゲームに乗ってない可能性もあるから様子を見てから攻撃しろってことか?」
「ああ、その通りだ。付け加えるなら、出来るだけ彼女を仲間に引き入れたいという理由もある。彼女の持つ技術は有用だ」
アルベルは少し考えてみた。確かに不確定な情報で動くのは愚の骨頂だ。実際、見た目だけでゲームに乗った者扱いされた彼には特に良く理解できる。
「ちっ、しゃーねえな。だが、そいつが本当にゲームに乗っていた場合は容赦しないからな」
そして、アルベルは駈け出して行った。

残されたディアスは、家の中に戻り、荷物の前で腰を下ろす。
(当初の予定とは違ったが、あの男を引き入れて置いて正解だったな)
元々アルベルは自分たちの用心棒として雇ったのだ。他の参加者を見つけてわざわざ接触に向かうなど想定の範囲外だ。
だが、ディアスはそれでも構わないと考えていた。
他の参加者と出来るだけ情報交換をして置きたい。その役目をアルベルがやってくれるなら、その間にレナたちを危険に晒すこともない。
仮に相手がゲームに乗った者だとしても、自分たちから離れた位置で戦ってくれるなら、こちらに被害が及ぶ可能性は低いだろう。
相手のスタンスが分からない内から、自分たちの寝床を話すほどアルベルも馬鹿ではない……と思いたい。
(問題は、俺がどこまでやれるのか……か)
荷物から三本の刃を取り出し、腰に差す。
そうなのだ、一人でレナとレオンの二人を守り切るのが難しいだろう。その為にアルベルを雇ったのだ。
だけど、アルベルを引き留めず敢えて行かせた。なら、自分が弱音を吐くわけにはいかない。二人は何があっても守り切らなければならない。
ディアスは一度大きな溜息を吐くと、魔眼のピアスを身に着けてからソファーに腰を下ろす。
そのとき、ピアスの力で鋭くなった感覚の中で、何か違和感を感じた。
「…………?」
より集中して違和感の正体を探ってみる。答えは直ぐに分かった。周囲に人の気配が三つあったのだ。今この部屋にいるのは、自分を除いて二人。
ではもう一人は誰だ。アルベルが戻って来たのか? と考えたが、この三つ目の気配からは、次第に敵意のようなものが感じられるようになってきた。
そしてこの気配を見つけてから数秒後、これもピアスの力なのか、ディアスの頭にハッキリと警報が鳴り響く。『敵襲』とけたたましく。
次の瞬間、彼の頭上――この家の天井が砕け、巨大な白い光弾が飛び込んで来た。


「ねえアリューゼ。今気づいたんだけどさぁ」
「ん……どうした?」
氷川村で“夜釣り”を始めてから数十分が経過した頃、プリシスが突然声をあげた。ちなみに夜釣りの成果は未だない。
「わざと目立つならさ、てきと~な家に明かりを点けて、そこで誰かが来るのを待ってた方が楽じゃないの?」
それを聞いたアリューゼは、呆れたような表情を浮かべる。
「確かに楽だけどよ、家に明かりが点いてるってのは流石に怪しすぎるだろ。それじゃあ誰も近寄ってこないぞ」
「何でよ?」
「そりゃあ罠に見えるからに決まってんだろ。こうやって明かりを持ちながら歩くのと違ってな、本当に人がいるのか分からないんだ。多少の面倒は我慢しろ」
返答を聞いたプリシスは、頷きながら溜息を吐いた。
「う~ん、人を誘き寄せるってのも大変なんだね」
疑問が解決したところで、二人は再び歩き出す。人を探す為に。そして、その目的はあっさり達成されることとなる。
「それで、お前らは人を誘き寄せて何しようってんだ?」
知らない男の声。アリューゼは、直ぐに声のした方にランタンを向ける。その際、プリシスを自分の後ろに下がらせることも忘れない。
ランタンの明かりに照らされたその男は、やたら露出の多い服を着ていた。そして、絵にかいたような悪人面であった。

「質問に答えな。何をするつもりなんだ?」
悪人面の男――アルベルは、睨みを利かせながら再度二人に問う。彼の右手は、腰に差している剣の柄に添えられており、直ぐにでも抜刀出来る状態だ。
「何って――アリューゼ?」
「プリシス、お前は下がってろ」
質問に答えようとしたプリシスを、アリューゼは右腕で制した。アルベルは確かに悪人面に見えたが、質問の内容はゲームに乗った者のするものではない。
だが、警戒に越したことはない。それがアリューゼの判断であり、その判断は決して間違いではない。いや、正解と言えるだろう。
しかし、もしここでプリシスが彼の質問に答えていれば、もしアリューゼが彼女の名前を出さなければ、ここから先の出来事は、大きく変わっていたかもしれない。
「プリシス……だと?」
アルベルはその名前を知っていた。彼と対峙した、龍を背負った男の言っていた名前。ディアスが言っていた名前。ゲームに乗った可能性がある者の名前。
先ほどこの二人が話していた「人を誘き寄せる」という言葉により強めていた警戒の度合が、この名前を聞いた途端一気に跳ね上がった。
「成程、龍を付けた阿呆の言ってたことは、強ち間違いではないようだな!」
叫びと共に腰の剣を抜き放つと、そのまま彼独特の構えを執る。
「龍……もしかしてアシュトンのこと!」
「下がってろと言ったはずだッ!」
アリューゼはプリシスに怒鳴りつけた後、鉄パイプを取り出し、臨戦態勢に入った。この男の目的は分からないが、相手剣を抜いた以上当然の行動だ。
「アシュトン? ああ、そんな名前だったな。だが、そんなことはどうでもいい。一応、お前は直ぐに殺すなと言われてるが……どうするべきかなぁ?」
アシュトンを知っている。プリシスは直ぐには殺すなと言われた。彼の言葉から分かったことはこの二つ。
ジャック・ラッセルの証言から、アシュトンの目的が「プリシスの望みを叶える為」ということは分かっている。
このことから、アシュトンがこの男に「プリシスは殺すな」と言われただろうということは、容易に想像できた。
こんなことをアシュトンから言われるような男なのだ、この男もアシュトン同様ゲームに乗っている可能性が極めて高いだろう。何より悪人面だし。
「……殺る気があるのかないのか聞いてるんだよ」
アリューゼは、アルベルを睨みつけたまま構えを解かない。それをアルベルは「殺る気がある」という意思表示と受け取った。
男二人は、睨み合ったまま動こうとしない。二人とも数多くの修羅場を潜って来た兵だ。下手に動ける訳がない。
しかし、少女を一人蚊帳の外にしたまま行われている睨み合いは、本人たちには予想外の出来事で、
アルベルの後方、割と近い場所から発生した光と轟音によってで終わりを迎えた。
「――――ッ!!」
先ほどまで自分のいた場所から、未だ彼の仲間がいるはずの場所から聞こえてきた音に、アルベルは一瞬気を取られてしまった。
その一瞬の隙をついて、アリューゼはアルベルに猛進する。
「くッ!」
不意をつかれた形となったアルベルだが、相手に向けて慌てずに剣を振う。
だが、その動きを読んでいたアリューゼは、その巨体に似合わぬ軽やかな動きでアルベルの背後に移動する。
彼の世界では『ダーク』と呼ばれる戦闘技術だ。
アルベルは慌てて後ろに振り返るが、既に目の前には、回転を加えられた強烈な裏拳が迫っていた。
「グァッ!」
短い呻きと共に、アルベルの体は右方向へ吹っ飛ばされる。アリューゼは、それを見送る何てことはせずに、追撃を加える為再度突進する。
進路上に赤い靄が掛かっていることに気づかないで。
「ッ! な……んだとぉ!?」
靄に触れた途端、アリューゼに肉体的でなく精神的な負荷が幾度となく襲いかかる。
(ふん……意外と上手くいくもんだな)
アルベルは、吹き飛ばされながら魔掌壁を放っていた。
それも、普段この技に使用する左手ではなく剣を握ったままの右手でだ。これには、上手く使用出来たことに本人も少し驚いているくらいだ。
兎に角追撃は妨害出来た。口の中に溜まった血を吐き捨てながら立ち上がる。吐き出された血には白い固形物、即ち歯も混ざっていた。
(それにしても、一体何があった? あいつらが襲撃されたってのか?)
彼は魔掌壁によって出来た僅かな時間で考える。あの時の轟音は、まず間違いなく自分がいた民家の方から聞こえてきたものだ。
とすると、考えられる中で一番可能性が高いのは、あの民家が何者かに襲撃されるということだ。
(この阿呆共を放って置く訳にはいかないが……用心棒を頼まれている以上、あいつらを助けに行くべきだろうな)
結局彼は、ディアスたちを助けに行くことを選択する。
最悪の場合、この二人に向こうの襲撃者を加えた数を自分一人で相手にすることになるのだが、それこそ望むところだった。
そうと決めたら早速動かなければ。魔掌壁もそろそろ効果がなくなる頃だろう。
アルベルは民家の方へ向かおうとするが、突然飛来して来た光弾が、彼の足下にある土を抉り取った。
「動かないで!」
「……あん?」
完全に蚊帳の外だった少女からの攻撃に驚き、そちらに顔を向けると……先ほどとは別の意味で驚かされた。
少女が自分に向って銃を構えていた。別に銃を向けていたことに驚いたのではない。その銃に見覚えがあったのだ。
(あれは、確かネルが使っていた……)
彼はこの銃を突き付けられたことがあった。つまり目の前で見たことがあるのだ、間違える筈がない。
では、何故その銃をこの少女が持っているのか? その答えは考えるまでもなかった。いや、この銃のお陰で答えに辿り着いたと言える。
アシュトンはこの少女がゲームに乗ったと言っていた。ネルの名前は先の放送で呼ばれている。そして、この少女はネルの獲物を持っているのだ。
そこから導き出される答えは一つ――
「ハハ……成程、お前たちが殺ったのか」
「動かないでって言ったでしょ!?」
プリシスがまた警告を口にするが、アルベルはまるで聞いちゃいない。
魔掌壁から解放されたアリューゼが、プリシスに駆け寄っている姿も目に入ってはいるが、完全に無視だ。
ディアスたちを助けに行こうとしていたことも、今この瞬間は忘れてしまっていた。本人に自覚はないだろうが、今、彼の脳内を満たしているものそれは、
「見逃してやらなくて正解だった……死ねッ! クソ虫ッ!!」
仲間を殺した者への怒り。ただそれだけであった。


僅か数秒前までの綺麗に整えられた部屋は、今は瓦礫に覆われて見る影もない。天井には穴が空いており、そこから月明かりが漏れている。
そんな状態の部屋で、ディアスは少年に声をかけながら必死に揺さぶっていた。
「レオン、おいレオン、起きろレオン!」
「ん……あ……」
うめき声が聞こえた。どうやら意識戻ったようだ。
「レオン、俺のことが分かるか?」
「え……ディアス……お兄ちゃん?」
どうやら、寝起きの割には意識もはっきりしているようだ。ディアスは安心して大きく息を吐く。
「ああ、そうだ……立てるかレオン?」
「うん、大丈……あれ?」
左腕を使って立ち上がろうとしたが、上手くいかずに倒れてしまう。ディアスはそれを見て慌てて支える。
「そういえばお兄ちゃんどうして……そうだ、確かルシファーって奴に殺し合えって……」
「残念だがその殺し合いはまだ続いている。詳しく状況を教えてやりたいところだが、今は時間がない」
ディアスは一枚の地図をレオンに手渡す。そこには、丸印が一つとバツ印が六つ記入されていた。
「いいかレオン。今俺たちはこの丸印の場所、つまり氷川村にいる。そして、バツ印は禁止エリアの位置だ。ここまではいいな?」
レオンが頷くのを待ってから、ディアスは話を再開する。
「その内、H-07は既に禁止エリアとなっている。そして、今から約二時間後にI-07が禁止エリアとなる。
 今からお前には、レナを連れてI-07を通過し、I-08へ行ってもらいたい」
「ええ!! ちょっとどういうこと? って言うかレナお姉ちゃんいたの?」
どうやらレオンは、今になって自分の隣にレナが寝かされていることに気づいたらしい。まあこの暗がりではしょうがない。
「だから時間がないと言ったのだ。詳しいことは、レナが起きた後彼女から聞いてくれ」
「レナお姉ちゃんは起こさないの?」
「ああ、今は起こす訳にはいかない。それと、俺もお前たちとは一緒に行けない」
レオンは抗議の声を上げようとするが、ディアスはその行動をさせない。護身刀“竜穿”を引き抜くと、それをレオンの眉間に突き付ける。
「いいから言うことを聞け! 正直に言おう、お前たちは足手纏いだ。俺にはそんな奴を連れ歩く余裕はない」
抗議をしたくても、剣を向けられては出来る筈がない。レオンは、ただ黙ってディアスを見つめることしか出来なかった。
その僅かな沈黙の中、彼はディアスの頭から血が滴り落ちていることに気づく。
「あ……ディアスお兄ちゃん、血が……」
ディアスは、空いた手で血を拭ってから、静かに語り出した。
「言った筈だ、殺し合いはまだ続いていると……今、この周辺にはゲームに乗った奴がいる。
 お前たちには万が一のときにそなえて、そいつが移動できない場所……禁止エリアの向こう側へ移動して欲しい」
「なっ……馬鹿にしないでよ、僕だって戦え「では、だれがレナを守るのだ」……あ」
反射的に隣にいるレナを見る。彼女は未だに目を覚ます気配がない。
「もし俺が敗れたとき、お前はレナを守りながらそいつと戦えるのか?」
「…………」
「それに、お前は俺と違って戦いだけした能がない者ではないのだぞ。お前は戦いのことではなく、その頭脳でこの状況を打開する方法を考えろ。
 俺のような人間は、お前たちのような人間の邪魔となる者を出来る限り排除する。そうするべきではないか?」
それを聞いてレオンはハッとした。そうなのだ、自分の役割は首輪を外してこの殺し合いを終わらせることなのだ。断じて自ら戦いを挑むことではない。
「分かったよ、言う通りにすればいいんでしょ」
ディアスは肯定の言葉を聞くと、二人の出発準備に取り掛かる。レオンにレナを背負わせ、さらに落ちないようにシーツを使って固定する。
デイパックは、嵩張らないよう一つにまとめてから持たせた。取り敢えずこれで準備は終了。
比較的損傷の少なかった窓を開け、そこから外へ出る。
「言われるまでもないとは思うが、制限時間は約二時間だ。辛いとは思うが、頑張ってくれ」
「うん……お兄ちゃんも死なないでね」
「心配するな。さあ、もう行くんだ」
ディアスに促され走り出すレオン。その姿を最後まで見送ることもぜずに、ディアスもまた走り出した。目的は、勿論自分たちを襲撃したものを倒す為。
彼は襲撃された瞬間、自分に支給された三つ目の道具『セフティジュエル』を使用していた。
この道具の効果が説明道理なら、敵は動けずにいる筈だ。レオンを逃がす時間を作れたのもこの道具のお蔭である。
そして、予想道理家の近くで固まっている人物を見つけるが、ディアスはそれを見た瞬間大きな舌打ちをしていた。

屋根の一部が崩れ落ちた民家、その前に男が一人立っていた。その男は、半壊した民家を、自分の手で起こした破壊の跡を見上げて渋い表情をしている。
(サザンクロスでさえ……この程度の破壊しか出来ないか)
この男――ガブリエルは、潜伏先が禁止エリアとなった為、新たな潜伏先を探すべくこの村へやって来ていたのだ。
村に到着後直ぐに、ガブリエルは二つの小さな明かりを見つけた。それが何だかは知らないが、積極的に係る気はなかった。
今の彼の状態は酷いものであり、おまけに魔力も残り少なかったからだ。だが、その明かりの正体くらいは確認しよう考え、暗視機能付き望遠鏡を取り出す。
そして、明かりの方を見ようとしたところ、明かりを見る前にそれとは別の二人組を見つけてしまったのだ。その内、片方は彼もよく知っている相手である。
暫く見ていると、知らない方の男は何処かへ走り去り、知っている方の男は近くの民家に入って行った。勿論彼らはガブリエルに気づいていない。
ガブリエルはこれを好機と考えた。相手の潜伏先が分かっているなら、その家を外から破壊してしまえばいい。
運がよければそれだけで相手を殺せるかもしれない。仮に相手に手傷を負わすことすら失敗しても、瓦礫となった家からは直ぐに出て来れないだろう。
つまり、撤退に必要な時間は十分に取れると考えていたのだが、
(今の状況も……上手く行かないものだ)
ガブリエルは、今になって見上げるのを止めて体の向きを変えた。彼は、攻撃後から今にいたるまで一歩も動いていなかったのだ。っていうか動けなかった。
理由は分からないが、サザンクロスを放った直後から、まるで金縛りにあったように動けなくなってしまったのだ。
そして今、漸く動けるようになったにも関わらず、彼の表情は相変わらず厳しいものだった。
目の前には、自分が先ほど攻撃をした男――ディアスが、その殺気を隠そうともせずに立っていたのだ。
「ガブリエル……貴様だったのか」
「……愚かな。どんな手を使ったかは知らないが、逃げておけばよかったものを」
ディアスは、腰に差した咎人の剣の柄を握るとそれを勢いよく引き抜いた。


【I-06/夜】
【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:怒り、左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、口内出血、左の奥歯が一本欠けている]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、荷物一式]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法? 知るか!]
[思考1:まずはこの二人(プリシスとアリューゼ)を殺す]
[思考2:傷を治してもらうまでディアス達の用心棒をする]
[思考3:後方で何が起こっているのか気になる]
[思考4:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:不安、アシュトンがゲームに乗った事に対するショック]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔25/100〕@SO2]
[道具:ドルメラ工具セット@SO3、????←本人&アリューゼ確認済み、首輪、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:目の前の男(アルベル)に対処する]
[思考2:氷川村で情報収集]
[思考3:仲間、ヴァルキリーを探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:どこかで首輪を調べる]
[現在位置:I-06 町中]

【アリューゼ】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:鉄パイプ@SO3]
[道具:????←本人&プリシス確認済み、荷物一式]
[行動方針:ゲームの破壊。ルシファーは必ず殺す]
[思考1:目の前の敵(アルベル)を殺す]
[思考2:プリシスを守る]
[思考3:氷川村で情報収集]
[思考4:ジェラードとロウファの仇を討つ。二人を殺した者を知りたい]
[思考5:必要とあらば殺人は厭わない]
[思考6:ヴァルキリーに接触]
[現在位置:I-06 町中]

【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:25%]
[状態1:右の二の腕を貫通する大きな傷(右腕使用不可能)、右肩口に浅い切り傷、太腿に軽い切り傷、右太腿に切り傷]
[状態2:左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲]
[装備:肢閃刀@SO3、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界]
[道具:セントハルバード@SO3、ボーガン+矢×28@RS、暗視機能付き望遠鏡@現実世界、????×0~2、荷物一式×4]
[行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消しさる]
[思考1:ディアスに対処。ただし無理はしない]
[思考2:参加者が減るまで適当な家に潜伏する。潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する]
[思考3:体の傷を癒す]
[現在位置:I-06 町中]

【ディアス・フラック】[MP残量:100%]
[状態:頭部流血]
[装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:クォッドスキャナー@SO3、どーじん@SO2、どーじん♀@SO2、ミトラの聖水@VP、荷物一式(照明用ランタンの油は2人分、水は未開封3本)]
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末]
[思考1:ガブリエルはここで確実に仕留める]
[思考2:アルベルと合流。約束を破ったことを謝る]
[思考3:アシュトンとプリシスを警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※ディアスの3つ目の支給品はセフティジュエル@SO3でした。
※荷物一式×3はディアス達のいた民家(半壊)に放置されています。

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕に違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3]
[道具:幻衣ミラージュ・ローブ、どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドラーバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、
    荷物一式×2]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:ディアスに言われた通り移動する]
[思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する]
[思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考4:レナお姉ちゃん重い……]
[備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]
[備考2:白衣、上着は血塗れの為破棄。自分がメイド服を着ていることに気づいていません]
[備考3:第二回放送は聞き逃しましたが、禁止エリアについては知っています]
[現在位置:I-06 町中]

【レナ・ランフォード】[MP残量:10%]
[状態:精神力枯渇が原因で気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:仲間と一緒に生きて脱出]
[思考1:?]
[現在位置:I-06 町中]

【残り32人】




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第87話 アルベル 第99話
第87話 レオン 第102話
第87話 ディアス 第99話
第87話 レナ 第102話
第74話 ガブリエル 第99話
第81話 プリシス 第99話
第81話 アリューゼ 第99話

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最終更新:2008年10月08日 11:26