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第97話 不協和音 (2)


顔には出さないが、ギョロはめまぐるしく変わる状況に僅かながら混乱していた。
アシュトンがウルルンが叩き起こされた際に見せた表情は、以前のアシュトンのそれだった。
別にアシュトンに人殺しをやめられたら困るからというわけではない。
見ず知らずの人間が死のうが生きようがどうでもいいし、人を殺そうが殺さまいがアシュトンの自由だ。
ギョロにとって問題なのは、アシュトンが自分自身を殺すこと。ただそれだけだ。
アシュトンの命が自分の命と直結しているからではない。
ギョロに取っては短いが、とても濃い時をアシュトンと過ごし、アシュトンの事が好きになったから。
口には出さないが、アシュトンとウルルンとの生活があればギョロは満足だった。
だから別に、アシュトンが殺戮に走った時も「意外だな」と思いつつも特に止めようとは思わなかった。
長々と落ち込まれる方が見ていて辛いし、日頃我儘を言わせてもらっている分この島では極力アシュトンの意思を尊重するつもりだった。
だからもし「やっぱり改心する」と言われても、「そうか」とだけ頷くつもりだ。
――だが、「僕は何てことをしてしまったんだ」と塞ぎ込み自殺を考えるのだけは困る。
自分やアシュトンの命を落とすつもりは更々ない。
だから、アシュトンが“戻った”時には正直焦った。
『罪悪感を消すためにハイになって無茶な行動を取ったが、休みを挟み気持ちが落ち着くと急に罪悪感が蘇ってきて塞ぎ込む』
ありえない話ではない。

(…………大丈夫、なのか?)
アシュトンの瞳は、もう先程までの狂気に染まったそれではない。
楽しそうに上擦っていた声も、今やすっかり元通りだ。
「…………これからどうするんだ?万全じゃないようだが、まだ休むか?」
なのに何故だろう。アシュトンからは先程よりも狂気を感じる。
目に見えない、もっとおぞましい狂気を。
「そうだね……まだ大人数との戦闘は避けたい所だし、一旦移動しよう。ここじゃあ町へ行く人間に見付かるかもしれないしね」
「……具体的にはどこへ行くつもりだ?」
まだアシュトンは首輪を集める気なのだろうか?
いつもの口調が――平和な世界の台所でエプロンをつけながら「そうだね、今日はいい卵が入ったし、オムライスにしよう」と言う時と変わらぬ口調が、ギョロの頭を更に混乱させていく。
「禁止エリアの近くはどうかな?あんまり来る人もいなさそうだし……」
「……なるほど、確かに人の来る方向が限られるそこなら我らも人の接近を感知しやすいな」
ギョロは、相棒ゆえにアシュトンを理解しようとし続け、とうとう理解が出来なくなった。
だからギョロは迷っている。
これ以上ゆっくりと考え事をする時間を与えていいものかと。
これ以上頭を冷やさせると、アシュトンは己の行いを悔いて立ち止まってしまうのではないかと。
(立ち止まらせるわけにはいかない……この島で立ち止まる事とは、死に直結する!)
だからギョロは考える。
アシュトンがウルルンと話し合って決めた目的地まで行く間、ずっと頭を悩ませる。
(……どうすれば、アシュトンを先程までのバーサーカー状態に戻せる?)





ウルルンは、ギョロと同じくアシュトンの異変に気付きながらもさほど問題視はしていなかった。
アシュトンは弱い。いい奴故に弱い。だから仮に冷静になったとしても、新たな“逃げ道”を考えつくだけでさほど問題にはならないと。
それよりも問題はプリシスだ。今プリシスに死なれるのは非常に困る。
勿論個人的な感情を言ってしまえばプリシスなど所詮は『仲間の仲間』にすぎないし、別に死んでしまっても「ああ、死んでしまったのか。黙祷」くらいの感情しか抱かないだろう。
だがアシュトンは違う。プリシスの死が崩壊に繋がるかもしれないのだ。
今までのような崩壊なら問題にはならないが、自ら命を絶つ方向に走られたらさすがに困る。
アシュトンも放送で呼ばれないかと心配していたようだが、実力が未知の大男のお供だけではいつ死んでもおかしくない。
(素敵なご褒美、か……)
先程の放送で告げられた『ご褒美』とやらがどんなものかは分からない。
それこそ角砂糖を三つ投げられて「よ~しよしよしよし。ご褒美をやろう!」と小馬鹿にされる可能性もある。
だが、もしルシファーが真面目に褒美とやらを寄越す気がある場合、その『褒美』とやらを狙う価値は十分にある。
何せ奴は殺人劇の役者に十賢者や奴らを倒した光の勇者御一行様を選んだのだ。
まさか褒美が金や地位ということはあるまい。役者は皆それらを十分に持っているのだから、そんなものは角砂糖三個と大差ないのだ。
一番高い可能性は役者が誰一人として持たない未知の技術を与えられる、ということだろう。
有能な部下を得るための殺し合いだった、というのなら殺し合わせた理由にもなるし、褒美に奴の持つ技術を与えられてもおかしくはない。
そもそも奴は「優勝者は生きて帰らせて元の生活をさせてやる」とは言っていなかったしな……奴の配下にされてもおかしくはない。
まぁ奴の軍門に降るのは癪ではあるが、知人が皆死んだエクスペルに留まる理由も特に無いし、それはそれでありだろう。
そして十賢者を蘇らせた事を見るに、死者蘇生術も奴は持っている(それもレナのように“瀕死の人間”でなく“完全なる塵芥と化した者”を蘇生する力だ)
つまり、奴が『褒美』として死者蘇生術を使わせてくれるのなら、プリシスに死んでもらって一向に構わないのだ。
それどころかアシュトンに“最後の一人”への執着心を強めてもらうためにさっさと死んでくれた方が有難い。
プリシスが死に、プリシスを蘇らせるためにアシュトンが勝ち残り、蘇らせたプリシスと二人仲良くルシファーの下で働く。
おそらくこれが現時点で考えられるベストエンドだ。
もっとも、この殺し合いの意味を否定していると取られても面倒なので、プリシス以外は蘇らせるわけにいかないのだが。
まぁその辺は大した問題じゃないだろう。今のアシュトンはプリシスのために仲間を切り捨てることを選択したからな。
あとはどのタイミングで「ルシファーは死者を蘇らせられる」と伝えるかだ……
出来れば次の放送で伝えてほしいが、先程と同じように放送の最後に言われ尚且つプリシスが死んでいた場合、取り乱してロクに聞かない恐れもある。
『動転した直後に差しのべられた救いの手に飛びつく』か、『気が動転して話も聞かずに“壊れてしまう”か』……
放送まで待つとギャンブルを強いられる事になる。
かと言ってプリシスが死ぬ可能性から敢えて目を反らしているように見えるアシュトンに死者蘇生の話をすべきかどうか……
「プリシスは死なないから関係ない!」などと怒鳴られるだけならともかく、その後拗ねられてチームワークに乱れが生じては困る。
互いに信頼し合い一丸となってこその“アシュトン・アンカース”なのだ。

そして自分達の前に立ちはだかる最大の壁。恐らくはギョロも分かっていることだろう。
“プリシスは、このゲームには乗っていない”
冷静になって考えれば誰にだって――それこそアシュトンにだって分かる。
あの時先に仕掛けたのはこちらなのだ。かつての知人が殺し合いの場で襲って来たらまずは無力化してから話を聞こうとするだろう。誰だってそーする。俺もそーする。
実際プリシスの攻撃に殺意はなかった。アシュトンは攻撃されたことにショックを受けてそこまで頭が回らなかったようだがな……
とにかく、今もっとも問題なのはプリシスをどうすべきかだ。
アシュトンが蘇生の可能性を信じる前に死なれても困るし、かと言って生き延びてアシュトンと会われても困る。
プリシスに会わないよう、プリシスの気配を察する度にそれとなくプリシスと会えないルートに誘導してきた。
三人の参加者を減らす機会を捨ててまで、プリシスからは引き離してきた。
だがそれももう限界に近づこうとしている。

あの時取り逃がした三人と合流を果たしている可能性が高く、もうプリシスにはアシュトンが殺し合いに乗ったことが伝わっているはずだ。
複数人での生還を果たすため、説得なり殺害なりしようとこちらを狙って動くだろう。
説得されそうになったら、プリシスを殺さなくてはいけない。
『愛しい人のため』という名目をもって行われた殺戮を愛しい人に咎められては、アシュトンの心は壊れてしまうだろうからな……
とりあえずプリシスを殺してもアシュトンが発狂しないような言い訳を何か考えておかねばな……
見知らぬ場所で死んでくれるか、アシュトンに気付かれぬ内に消し炭に出来ればいいんだが……
(……まったく、世話が焼けるやつだ。我々が無事に帰るため、ここまで苦労しなくてはならないとはな)
やれやれと思いながらもウルルンは決して顔に出さない。
顔に出さず、アシュトンに気付かれないように事を終えることこそが友情である。
少なくともウルルンはそう考えた。
だからこそ、人間に好感を持ち始めた今でも冷静にプリシスの殺害計画を考えられるし、
「アシュトン! アシュトンじゃないか!」
こうしてギョロと二人でクロードに息吹で攻撃を仕掛けることだってできる。

火炎と吹雪。それを見て、慌ててクロードはスターガードで両者を防いだ。
ガード時に飛び出してきたものはアシュトンがヒラリと回避する。
全快でないとは言え、やはり動きにキレが戻ってきている。
最小限の動きで回避したことを見るに、冷静な思考を取り戻して手に入れたのはデメリットだけじゃないみたいだ。
「あぁ……なんだ、クロードか」
アシュトンが笑みを浮かべる。
そうだ、お前の恋敵だ。レオンの時のようにバッサリと斬り伏せてやれ。勿論今回は急所を外さないようにな――

「ごめんごめん、ちょっとピリピリしててさ。駄目だよ二人とも、クロードに攻撃しちゃあ」

なん……だと……? アシュトンが、ギョロと俺を制止しただと……?
いや、戦略的に見ればさほどおかしい事ではない。スターガードの構えを解かせるため仲間を装うのは有効な手段と言えるだろう。
だが、先程までのキリングマシーンと化したアシュトンにそこまでの知能は無かったはずだ。
罪悪感から逃れる事と相手を殺す事だけに全神経を集中させていた男が、急に戦略を練るようになった。
勿論、ありえない話ではない。休息を取って頭が冷静になったのだから、策略を練るくらいの余裕はあるだろう。
「まったく、気をつけてくれよ」
口ではそう言いながらも顔を綻ばせて駆け寄るクロードを、アシュトンは一太刀の元に斬り捨て――なかった。
これ以上ないであろうチャンスにも関わらず、だ。
これにはギョロも驚いたらしく、露骨に動揺の色を瞳に浮かべる。
こちらを信頼している様子なためプリシスにはまだ会っていないと思われるが、会話でおかしなことにならないといいのだが……
だがアシュトンの狙いが分からぬ以上、下手な手出しは危険である。
ギョロもそれは分かっているらしく、戸惑いながらもクロードへの攻撃を控える。
「ごめんごめん。それよりクロード、今まで……」
「ごめん、アシュトン。今は時間が惜しいんだ……あの煙が上がっている場所に、チサトさん達がいるかもしれない」
「……チサトさんが? もしかしてクロード、チサトさんと会ったの?」
「ああ……詳しくは行きながら説明する。ついてきてくれるか?」
焦りの色を浮かべながらも、真剣な表情でクロードが問う。
その言葉に、アシュトンは微笑み――邪悪なものでなく、かつての冒険中に見せていたような微笑みだ――を浮かべながら返事をした。
「勿論だよ。だって僕らは親友じゃないか」





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





『アーチェ殺害の犯人はクロード』なんて、心にもないことを言って悪かったとは思う。
だが仕方がないのだ。大切な人を亡くし冷静さを失った者に冷静さを取り戻させるのは難しい。
今はそんな時間も惜しいのだ。彼が犯人を倒したいというのなら、遅かれ早かれ倒さねばならない者を倒してもらうほうが手っ取り早いし効率的だ。
それに、どの道ある程度村を見て回ったら『村で人が来るのを待つ組』と『仲間集めと殺し合いに乗った者の討伐のため島中を移動する組』とに分散するつもりだったんだ。
彼には討伐組の役目を果たしてもらうとしよう。

――そんな打算的な思惑通りにいくほど、この殺し合いは甘くはなかった。
チェスター君に頼みはしたものの、正直宛てにはなりそうもない。
そのうえチェスター君を行かせてしまった私にクレス君は少なからず不満を抱いたと思う。
「マリアさん……僕は……間違っているのでしょうか……」
そして何よりの失策はクレス君の自信を喪失させた事。折角仲間の死を乗り越えられたというのにこれでは不味い。
生き残っている仲間を救うためにも、復讐ではなく脱出のための策作りを優先する。そのこと自体は正しい。むしろ最善の選択だ。
かと言って、このままチェスター君を放っておいて見殺しにするのが善であるわけでもない。
あちらを立てればこちらが立たず。難しい問題だ。
「いいえ、間違っていないわ。貴方も、そしてチェスター君も」
正義の反対はまた別の正義である。非常によく聞く言葉だ。それこそ野球ゲームですら聞けるフレーズだろう。
だが、頻繁によく耳にするという事はそれ相応の理由があるからだ。
つまり、この考えは正しい。少なくとも大衆が支持する程度の正しさは持っている。
「チェスター君と意見がぶつかるのはこれが初めて、なんてことはないはずよ。共に冒険をしていれば衝突することぐらいある。
 ただ今までと違うのは、どちらかが折れるまで話し合う時間がないことと、どちらかを後回しに出来るほどの時間もないということ。
 まったくこの殺し合いはよく出来てるわ……今までの冒険と違って圧倒的に時間がない。パーティー全員の要望を聞けなくすることで、最終的な目標が同じ者同士を分断させる狙いがあるのかもしれないわね」
この殺し合いのルールは非常によくできている。腹立たしいが、そう評価せざるを得ないだろう。
これが普通の旅ならば、優先順位で揉めることはあれど基本的に最後は全員の希望を叶えられる。
だがここではそうも行かないのだ。仮に複数のやりたい事があって、それらがまったく同じであっても、それらの優先順位が違う者とは決して共に行動出来ない。
だからこそクレス君には念を押していたのだ。仲間が死んでも、その優先順位を変えないように。私と別れ、敵討ちや仲間の埋葬に行ったりしないように。
「仲間の仇を討とうとする気持ちも、仲間の死を乗り越えて生きてる仲間を救おうとする気持ちも、正しい事に変わりはないわ。
 ただその二つの優先順位が、貴方とチェスター君とで違っちゃっただけ。それだけの話よ」

未だにクレス君は俯いている。これでいいのかと自問自答しているのか、無力感に打ちひしがれているのかは分からないけど。
それでも、彼には立ち上がってもらわなければいけない。私一人でどうにか出来るほど、ルシファーは甘くないのだから。
「……チェスター君を追いたい気持ちは分かるわ。だけど、私達の怪我じゃ何も出来ない。出来るとしたら足を引っ張ることぐらいよ」
「こんな怪我ぐらい、気になりません」
「……クレス君、落ち着いて。貴方も本当は分かっているはずよ。怪我人二人がサイキックガン一つでどうこう出来るわけがないって。
 分かっていて、“何かが出来るのに何もしなかった”と思い込むのはやめなさい。自分を責めるのは簡単だけど、それで行動を起こす事を止めるのはただの逃げよ」
クレス君は喋らない。きつい言葉で凹んでいる、ということなら可愛らしいの一言で済むのだが、そういうわけでもなさそうだ。
おそらく彼は、頭の隅に浮かんでしまった邪な考えを振り切れずにいる。感情の赴くままにそれを叫びたくなっている。
それでも彼の理性がそれを押し留めているのだろう。仲間の死に呆然とするだけだった先程までと比べると、それは成長とも取れた。

『救えるかも分からない見ず知らずの人間の命よりも、目の前にいる大切な人の命を守りたい』
その考えは、決して責められるものじゃない。人間なら誰もがそう思うだろう。
クレス君の仲間だから信頼はするつもりだったが、チェスター君にかつての仲間達ほど思い入れがあるかと聞かれれば勿論ノーだ。
彼はつい1時間前に出会ったばかりの会話もろくすっぽした事のない、言わば“知人の知人”なのだ。私は彼がどんな音楽が好みなのかも知らないのだ。
そんな彼とかつての仲間を対等に扱っては、かつての仲間に失礼というものだ。
だけどそれは決して口に出してはならない。その考えは、一歩間違えれば『他者を犠牲にしてでも生かしたい者を生かす』という思想に繋がる。
それになにより口に出されて良い気はしない。無用な不信感は与えないべきだ。
クレス君もそれが分かっているからこそ、口に出さずにいるのだろう。
『大切な親友を見殺しにして、見知らぬ者達と共に脱出することに意味なんてない。今すぐにでも彼を追う』と。
だから私もその考えを言葉に出して否定はしない。それがおそらく、その考えを押し殺す彼に対する礼儀というやつだろうから。

「それに、アーチェを追って来なかった事から察するに、クロードはすでに移動を始めているはずよ。こちらには現れなかったし、おそらく次の獲物を求めてアーチェとは違う進路を選んだんでしょうね。
 あれからそこそこ時間も経っているし、よほど運が悪くない限りすぐには遭遇はしないはずよ」
「……今思えば、どうしてそのクロードって人が追って来ないのか、ちゃんと考えるべきでしたね……」
クレスが自嘲めいた笑みを浮かべる。どうやら彼は責任感が強すぎるらしい。
「アーチェが死んだか確認にも来なかったほどだもの、よほど自信のある技だったんだと思うわ。彼女がここに辿り着いた時には、おそらく既に手遅れだった」
そうは言ったものの、大がかりな準備もなしにそんな事が本当に出来るのか怪しいものだ。クロードが犯人じゃない可能性も大いにある。
だからこそ次にボーマンに会っても無条件で信頼したりはしないし、むしろ疑ってかかるべきだと思っている。
もっとも、今のクレス君にはこれ以上負担をかけるわけにいかないので当分ボーマン犯人説は胸の内にしまっておくが。
とは言え、クロードを警戒しておくに越したことはない。彼が殺し合いに乗っていることは確実なのだ。最悪の事態を想定しておいて損はない。
仮に本当にアーチェがクロードによって殺害されていた場合、それはクロードから逃亡することは不可能ということ指し示す。如何に不利な状況になろうと、先程の戦いのように逃走することは出来ない。
いずれクロードは倒さねばならないが、その時までには万全の準備をしておきたいものだ。
出来れば、接近せずに倒せるような策も欲しい。
「……そう、ですね。すみません、くだらないことを言って」
「気にしないで。それより、この村で使えそうなものがないか探しましょう。私達にも出来ることが、きっとあるはずよ」
「……はい!」
やはりクレス君は強い。もう少しウジウジされるかと思ったけど、彼は素直に従ってくれる。
おそらく彼の胸には強い決意が秘められているのだろう。決して挫けないという、強い決意が。
(……その決意が砕けないよう、気をつけなくちゃね)
強い決意程、“決意を破らねば決意を貫き通せぬ場面”に弱い。今回のように大勢を救うために仲間を見殺しにする可能性が高い行動を、彼は次も選べるのだろうか?
仲間のために決意した意思を貫くため、彼は仲間を犠牲にするような非情な選択を出来るのだろうか?
答えはまだ、わからない。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





「アシュトン! アシュトンじゃないか!」
それは全くの偶然だった。ホテルを目指し走り始め、間もなく見慣れた横顔を発見したのだ。
だがしかし、ここは過酷な殺し合いの場。不意に声をかけたのがいけなかったのか、ドラゴンブレスで迎撃される。
が、これはなんとかスターガードで防ぐことができた。ジャックの遺品を持ってきたのは正解だったようだ。
その際にエネミーサーチが警告を発してきたが気にしない。
ただの警戒レベルでも反応してしまうということはアーチェの件で学習済みだ。
ここでアシュトンに剣を向けて今までと同じ失敗を犯す程馬鹿じゃない。
「あぁ……なんだ、クロードか」
ほら、こうして剣を向けず敵意がない事をきちんと示せば、ちゃんと相手にも伝わるんだ。
アシュトンはギョロとウルルンを制止し、バツが悪そうに眉を下げた。。
「ごめんごめん、ちょっとピリピリしててさ。駄目だよ二人とも、クロードに攻撃しちゃあ」
「まったく、気をつけてくれよ」
返す言葉に怒りの念は含めない。ただただ軽い、冗談を飛ばす口調で言う。
みんなで旅していた頃の事を思い出し、自然と顔が綻んだ。
「ごめんごめん。それよりクロード、今まで……」
「ごめん、アシュトン。今は時間が惜しいんだ……あの煙が上がっている場所に、チサトさん達がいるかもしれない」
そう、誤解を与えずアシュトンと合流できた今、一刻も早くチサトさんの所に戻らなくては。
アシュトンがいればチサトさん達の誤解も簡単に解けるだろう。
「……チサトさんが? もしかしてクロード、チサトさんと会ったの?」
「ああ……詳しくは行きながら説明する。ついてきてくれるか?」
不安が全く無かったと言えば嘘になる。ここはこんな島だ。ろくすっぽ説明もされずついてこいと言われたら拒絶したっておかしくない。
それでもアシュトンは微笑んでくれた。話を聞く前から、頷いてくれた。
「勿論だよ。だって僕らは親友じゃないか」
「ありがとう。さ、行こう!」
ああ、そうだな。普段はどこかヘタレてるのに、こういう時は本当に頼もしく思えるから困る。
……ありがとうアシュトン。急いでたから適当に喋ってるように聞こえたかもしれないけど、本当に感謝しているよ。
さすがは僕の親友だ。

「……チサトさんの他に仲間はいるのかい?」
移動しながら、アシュトンが聞いてくる。まぁ当然の質問だろう。仲間は多いに越したことはないのだから。
「いや、それが……分からないんだ」
誤解を解くためにも、どの道アシュトンには真実を伝えねばならないだろう。
アシュトンにまでいらぬ誤解を受けぬよう言葉を選び、正直に告白を始める。
「実はチサトさんには誤解を受けちゃってね……僕がこの島で人を殺して回ってるって」
「何でまたそんな誤解を?」
「いやさ、化け物からチサトさんを助けようとして攻撃したんだけど、それが原因みたいなんだ」
思わず苦笑いが漏れる。
確かに短絡的だったかもしれないが、仲間を守るための行動がまさかここまで話を拗れさせる事になるとは。
「あ、そうそう、これは仲間の話に繋がるんだけど、その時青い髪の青年にも襲われたんだ」
「青い髪の青年?」
「ああ。何でか知らないけど僕が女の子を殺したって言って、チサトさんと一緒になって襲ってきたんだ。
 一応正義感は強いみたいだったし、チサトさんと一緒にいるとは思う。誤情報を流したいだけの悪者って可能性もないわけじゃあないけど、ちょっと考えにくいかな?
 あと、倒したはずの化け物も普通に起き上がって僕を攻撃してきたから、共通の敵を持った者同士ってことで一緒にいる可能性も……」
「はは、クロードも敵が多いんだね」
おかしそうに笑みを浮かべるアシュトン。苦笑いならともかく普通に笑みを浮かべられたことに違和感を感じるが、どうおかしいのか上手く表現できそうにないので口に出さないでおいた。
まったく、笑い事じゃないんだけどな……
「……ん? クロード“も”?」
そこで気づいた。クロードも、という表現に。
もしかしてアシュトンも僕と同じように誰かから誤解を受けたのだろうか?
アシュトンなら大いにあり得る。というか誤解を受けない方が難しいだろう。

「ああ、うん。ピンクの髪の女の子を逃がしちゃってね」
「……まさか、アーチェか!?」
驚いたな。まさか同じ人物に誤解されているなんて。
逃がしちゃって、という事は僕と同じように誤解を解こうと追い回したのだろう。
彼女があれだけ怯えていたのは、凶暴そうなドラゴンを背負った青年に追いかけまわされてたからなのかもしれない。
「……クロードの知り合いなの?」
一瞬、アシュトンの目が凍てつくような冷たさになった。いや、なった気がしただけかもしれないが。
それでも、やっぱり何かおかしい気がした。もっとも僕もこの島に来てからどうも空回りばかりしているから、この島独自の雰囲気が人を変えてるのかもしれないけど。
だからアシュトンの異変は特に気にしないことにした。きっとチサトさんの目に映った僕も今までの僕とは違うのだろうし、それが原因でまた仲間と仲違いなんて御免である。
「あー、うん、知り合いっていうか何って言うか……僕の事も誤解してる娘なんだ。
 ジャックっていうアーチェの仲間が誤解を解いてくれるはずだったんだけど……」
ジャック・ラッセル。この島にきてまともに会話できた最初の人物。
彼が死んだのは僕の失策のせいだと言えるだろう。あの時僕が付いて行ってれば、今頃は……
「そう……死んだんだ、彼……」
どうやらアシュトンもジャックの事を知っているらしい。どの程度の知人なのかは分からないが。
「ねえ、クロード」
「ん?」
もう二度とジャックの時のようにはならない。
そう誓った矢先だった。アシュトンから、思いがけない言葉が聞けたのは。
「ごめん。僕達ここで別れよう」





 ☆  ★  ☆  ★  ☆








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