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第113話 頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ (前編)


レザード・ヴァレスの目が開いた時、彼の目に最初に入ったのはレナス・ヴァルキュリアの死に顔だった。
この時レザードはまだ、まどろみの中に居た。レナスの死に顔は、彼に眠りに落ちる直前の映像を連想させた。
輪魂の呪を発動させ、ハーフエルフの肉体にレナスの魂を転生させる事に成功した後、その肉体が立ち上がろうとしていた映像だ。
魂の再構築が完了するまでの間は決して目覚める事が無いはずの肉体が立ち上がるという、有り得ない出来事。
これは夢、もしくは幻覚だったのだろうか、それとも――
「――っ」
レザードは瞬時に覚醒した。

「ヴァルキュリア――」

そして名前を呼び、振り向いた。その先には、誰もいない。
「――!?ヴァルキュリア?」
慌てて辺りを見回すが、レナス(ルーファスの肉体)の姿は見当たらない。先程の映像は夢や幻覚などではなかったのだ。
「…あれが幻覚では無い?馬鹿な、いくらヴァルキュリアであろうと魂の構築が成されない内に動ける訳が――」
そこまで考えた時、辺りを見回していたレザードは、レナスだけでなくドラゴンオーブまでもが無くなっている事に気が付いた。
そして眠りに落ちつつある時、立ち上がったレナスが自分の側に近づいて来たような、ごく僅かに感じた気配を思い出す。
「ドラゴンオーブの魔力…ドラゴンオーブならば魂を再構築中の肉体でも意識を取り戻させる事も可能…か。
 いや、それ以外には考えられん。そして意識を取り戻したヴァルキュリアは、おそらくソフィア達を助ける為に
 金龍との戦闘に戻って行った…」
レザードは時計を出して時刻を確認した。既に深夜0時を回っている。
レナスが金龍との戦闘に戻ったのだとしても、あれからかなりの時間が経過している今では、既に決着がついていると考えて良い。
おそらくレナスが金龍の所へ辿り着いた頃には、ソフィアとクリフは既に殺されていたはずだ。
そうなればレナスは金龍と1対1で戦う事が出来、負ける事はまず有り得ないだろう。
ただし、レナスが通常の状態であるならば。

レザードには案じている事が有った。
それは、ドラゴンオーブの魔力がどのような形でレナスに影響したか、だ。
ドラゴンオーブの魔力が魂の再構築を早め、完了させる方向で働きかけたのならば良い。
そうではなく、その魔力が魂の代わりとなり、魂の再構築が途中である内にレナスに意識を取り戻させた場合、
何らかのきっかけ――例えばドラゴンオーブを身体から離す、魔力が尽きる等――で
再びレナスが魂の再構築の状態、つまり昏睡状態に陥る危険がある。
もしそうなったら、そしてそれが戦闘の最中であったなら、レナスは確実に命を落とす事になるだろう。
「急がねば…」
レザードは地面に置いてある荷物をまとめ、移送方陣を試みた。
だが発動する様子はない。やはりドラゴンオーブが無ければ失伝魔法クラスの術や、
能力制限をかけられた術は使用出来ないようだ。
レザードはレナスの死体を名残惜しそうに見つめた。非常に惜しいが、移送方陣の使えない今、この肉体は捨てて行くしかない。
金龍がまだ生きている可能性は0ではない事を考えれば、この肉体を保存する、または屍霊術で操る事に魔力を使う事は出来ないのだ。
レザードはレナスから脱がせた鎧をデイバックにしまうと、
後ろ髪を引かれる思いを強く感じながら、金龍と戦っていた場所、D-5東部を目指して走り出した。
「全く…貴女はどこまでも私を困らせるのがお好きなようですね、ヴァルキュリアよ…」


追って来る気配を感じボーマンが振り返ると、金髪がボーマンに向かって走ってくるのが見えた。
気のせいか彼の顔は先程よりも緊迫しているように見える。
(あの野郎――確かクリフとか呼ばれてたな――こっち来やがったか。
素直に術師の嬢ちゃんのところに戻ってりゃ良いものを…)
手を合わせた感じでは、クリフがダメージを負っている今ならば勝てない事はない。
とはいえ、正面からまともにやり合えばボーマンも五体満足では済みそうにないのも実証済みだ。
クリフがこの島で最後の生き残りだと言うのならまだしも、
参加者がまだ20人以上居る現在、自分が大きな負傷をする危険を冒すのは出来る限り避けたい。
ボーマンが一人でも確実に、そして安全に勝利を収めるにはやはり何かしらの決定打が必要だ。
その決定打を手に入れる為に、鎌石村役場に置かれたという支給品を目指して走り出したのだが、
走り始めてから1つ問題を思いついてしまった。
新たに支給品が配置された場所には、当然それ目当ての参加者が集まってくるだろう。
つまり、そこに向かえば必然的に他の参加者と接触する可能性が高くなるのだが、問題とは「接触する参加者のスタンス」である。
最初は「他の参加者と鉢合わせた場合はクリフを戦わせてボーマン自身は逃げれば良い」と考えたのだが、
その参加者が殺し合いに乗っていなかった場合、同じく乗ってない(と思われる)クリフと協力されてしまう可能性も有り、
「鉢合わせた参加者とクリフを戦わせて、自分は逃げる」という作戦は成り立たなくなる。
その場合、戦闘になればボーマンに勝ち目は無いだろう。
それでも逃げるだけなら可能かもしれないが、その場合にはボーマンがマーダーだと他の参加者に広められる可能性が高く、
なるべく利用出来る仲間を増やしたいボーマンにとっては相当不利な状況になってしまう。
そうならない為にも、役場に着く前に何か対策を考えておかなくてはならない。

(奴が引き返してくれてりゃあ、他の参加者に出会っても逃げれば良いだけなんだがな…
アシュトンなら奴が戻るまでには術師の嬢ちゃんを始末してるだろうし、チェスターも奴が相手なら動いてくれるだろ)
ボーマンのこの考えは希望的観測に近いのだが、ある程度正しい。
確かに先程の紋章術師との戦闘では2対1の有利な状況にも関わらず、予想外に苦戦をした。
だがそれは相手が詠唱も無しに呪紋を発動してくるという、
ボーマンもアシュトンも初めて戦うタイプの術師だったからと言うだけの事にすぎない。
弱点とまではいかないが、エクスプロードのような強力な呪紋は詠唱無しでは使用出来ない(らしい)事や、
その強力な呪紋の詠唱スピードもセリーヌ程には早くない、という、付け入る隙も見つけた。
連発出来るのがそれほど威力の高くない呪紋のみならば、呪紋の回転率にさえ慣れてしまえばどうにでもなるだろう。
ましてや、戦ってるのは炎と吹雪を吐けるギョロとウルルンまで憑いてるアシュトンである。
紋章術への対処はさほど難しくないはずだ。

(金髪は俺との決着をお望みのようだが…俺を見失っちまえば戻ってく可能性も有るか?)
ボーマンはクリフの位置を確認する為にもう一度振り返る。
先程よりも距離が離れているようだ。暗闇でハッキリしないが、クリフはどうやら立ち止まっているらしい。
(ん、諦めたのか?…何だか知らんが振り切るなら今だな!)
そう決断して1つ大きく呼吸をする。息を止めると、全力で駆け出した。


(くそったれ、あのオヤジなんつー足だ!さっきから速え速えとは思ってたけどよ、これ程かよ!)
鎌石村方面に逃げていくボーマンを追いかけ始めたクリフだったが、
一向に相手との距離が縮まる様子はなかった。それどころか徐々に離されていく一方である。
(どうにかして止まらせねえと。閃光手榴弾…は駄目か)
クリフは一瞬閃光手榴弾を使う事を考えた。
閃光手榴弾を相手の側で作動させれば、相手を5、6秒はショック状態にさせる事が出来、足止めにはなる。
だが、閃光手榴弾も通常の手榴弾同様、ピンを抜いてから作動するまでに数秒かかる。
数秒あればボーマンの足なら50、いや下手すると100メートル近くは進めるかもしれない。
そうなれば閃光手榴弾を確実にボーマンの側に落とすのは不可能に近く、この状況では使えないだろう。
そう考えている間にも、ますますボーマンとの距離は離れ、既に相手の姿は朧気にしか見えなくなっている。
(ちぃ、追いつけねえ)
まだ追いかけ始めたばかりだが、このまま走っても追いつけない事を悟ったクリフは走るのを止めて立ち止まった。
直接的な戦闘だったならば、例え実力が劣っていても駆け引き次第で差を埋める事も可能だろうが、
「足の速さ」のような単純な勝負となると、能力差が顕著に結果に反映される。
クェーサー戦の疲労も残るクリフには今、走って逃げるボーマンに追いつく手段は何一つ無い。
(だが、あのオヤジは絶対に逃がせねえ!)
ボーマンが向かう先には負傷しているミラージュが居るのだ。
追いつけないので逃げられてしまいました、などと子供の言い訳みたいな事は言えない。
何としてもここで止めなくては。
(俺は追いつけそうにねえんだったら…)
そう、「走って逃げる」ボーマンには。

クリフは腰を落とす。そして左腕に闘気を溜め始める。

(直線的に逃げてくってんなら…)
ボーマンの姿はもう見えない。だが方向は分かっている。

辺りの空気が闘気に呼応し、まるで呼吸しているかのような音を立てている。

(こいつに追いついてもらうぜ!)
立ち止まったのは追いつく為。

クリフの左腕が輝きだす。

『マックス・エクステンションッ!!』

ボーマンの走り去った方向に向かって巨大な光弾が撃ち出された。


ボーマンは全力で走り出してから、辺りの様子に違和感を感じていた。
何かおかしい。周りの草木が妙にざわめいているような、そんな気配だ。
背後から何かの音が聞こえる。音は徐々に大きくなり、それに伴い周囲が明るくなってくる。
「何だ?」
気になって振り返ると、巨大な光弾がボーマンの方に一直線にカッ飛んで来ていた。
「うぉぉ!?」
光弾がボーマンを飲み込もうとする直前、咄嗟に右側に飛び込んだ。地面を数回転した後、中腰の体勢で止まる。
光弾はボーマンが今居た場所を通過して行き、
前方に生えていた樹を『ベギベギベギ…』と派手で大きな音を立てながらへし折り、飛んでいった。
軌道がもう数メートル程ボーマン寄りだったら避けきれなかったかもしれない。
(危ねぇ!なんっつう事しやがる)
クリフを振り切るつもりで加速していた事が功を奏した。
無傷でかわせた事に一瞬安堵したが、ボーマンにそんな余裕は与えられなかった。

『禁止エリアに抵触しています―――』


北の方から『メキメキメキ…』と樹が折れているような倒れているような音が聞こえてきて、レザードは立ち止まった。
音のする方角を振り向くと、巨大な光が西方向へ飛んでいく様子が見える。
「あの光と音…巨大な魔力が樹を薙ぎ倒して進んでいるといったところか?」
レザードは辺りの樹に手をかざした。
「この辺りの樹木と同じ様な太さの樹木を薙ぎ倒して飛び続けているとしたら、なかなかの破壊力、持続力を持つ光だが…
 誰かが戦闘中という事か。まさかヴァルキュリアか?…行ってみる価値は有るな」
このエリアはC-5とD-4の2つの禁止エリアに隣接している。
そうそう違う参加者が集まり戦闘を行っている可能性も低いだろう。
それに、金龍と戦った場所よりも今の光の場所の方が距離が近い事もある。
レザードは少しの間考えを巡らすと、まずは今の光の場所へ向かう事にした。


クリフがマックス・エクステンションを放った目論見は3つある。
1つは当然命中を期待しての事だ。
いくらボーマンの足が速かろうと、飛び道具より速く走れはしない。
クェーサークラスの敵ならともかく、ただの人間がマックス・エクステンションに直撃すれば無事では済まないだろう。
クリフの本音では、戦闘が早く終わるに越した事は無いので出来れば命中していてほしいのだが、
大体の方向が分かっているとは言え、姿は見えない、距離も離れていた、何よりあれだけ素早く動く相手だ。
まともに命中する可能性は低いのは分かっている。これはあくまでも「あわよくば」の話だ。
本命は残りの2つ。
一つ目は、まずマックス・エクステンションを「避けさせる」事でボーマンの足を止める事。
二つ目は、マックス・エクステンション自体の照らす光でボーマンの位置を「確認」する事だ。

マックス・エクステンションを放った後、クリフは走って距離を詰めながら光弾の軌道を注意深く観察していた。
光弾は自ら発する光で辺りを照らしながら飛んでいく。
(あの野郎、まだ見えねえ。そろそろギリギリだが…)
クリフが一瞬作戦の失敗を考えたその時、マックス・エクステンションを避けるボーマンが見えた。
しかも転がり込むように避け、体勢を崩している。クリフが考えるベストの状況が生まれた。
(見えた!この距離だと際どいがやるしかねえ!)

『バーストタックル!!』

『バーストタックル』=闘気を爆発させ、炎の闘気と爆風のような突進力で敵に体当たりをくらわす技だ。
その最高速度は瞬間的にはマックス・エクステンションよりも速い。
そう、クリフは正確には追いつける手段は持っていた。バーストタックルなら追いつくだけなら可能だったろう。
しかし正確に当てられなければ一時的に追いつけたところで、再び逃げられてしまう。
この暗闇で、しかも走っている相手にクリーンヒットさせるのは難しく、自信は無かった。
だからボーマンの動きを止める必要が有ったのだ。自身の最大奥義を利用してまで。

クリフは赤い闘気を身にまとい、砲弾のような勢いでボーマンに突っ込んでいく。
ボーマンがクリフの方を振り向いた。その顔が異常なまでに引きつる。
『――に抵――――まで―――』
禁止エリアに進入し、首輪から警告音が発せられる。
しかし目の前のボーマンに集中しているクリフの耳に、その警告音は入らなかった。

「ッラァァァァァァッ!」(もらった!ぶっ飛びやがれ!)


『―――首輪爆破まで後30秒』

(禁止…いや、それより野郎は!?)
禁止エリアの警告に僅かに狼狽えたが、30秒以内に出れば何も問題は無い事は確認済みだ。。
それよりもここでクリフへの対処を間違え、禁止エリアの奥へと吹っ飛ばされでもしたら本当に命を落とす事になる。
そう考えるとボーマンはクリフの方を振り向いた。
「ッラァァァァァァッ!」
そこには赤い闘気を纏い、ミカエルのような勢いでボーマンに突っ込んで来るクリフが見えた。
(スピ…!?やべっ!)
瞬間、ボーマンは自分の後方に跳躍を始める。
同時に両手で白衣をたくし上げると身体を水平に倒し、突っ込んできたクリフの左顔面を狙いドロップキックを放つ。
炸裂音が辺りに響いた。

ボーマンのドロップキックはクリフの左肩に命中した。インパクトの瞬間にクリフが身体を捻ったせいで狙いが逸れたのだ。
なんとかクリフを蹴り飛ばしたがバーストタックルの威力は相殺しきれず、錐揉み状態で吹っ飛ばされた。
体勢を立て直す事も出来ずに近くの樹に背中から思い切り激突し、一瞬ボーマンの意識がブラックアウトする。
衝撃で樹から大量の木の葉が辺りに舞い落ち、木の葉と共にボーマンの身体もずり落ちていった。
(…はっ…スピキュールじゃねぇのかよ…紛らわしい技を使いやがって)
若干似たような技ではあるが、無論スピキュールではない。だがさっきのボーマンにはそう見えた。
一瞬本気で死を覚悟したボーマンだったが、
かつての冒険で培ったトラウマ…いや、経験がボーマンの身体を突き動かした。
白衣をたくし上げ、身体を水平にしたのはガソリンまみれの上半身を炎から護る為、
後方への跳躍からの跳び蹴りは反動で禁止エリアから脱出する為。
どちらも考えて行った事ではない。刺激された生存本能が行ったのだ。
ただ、その代償は高くつく事になるのだが…


ボーマンが顔を引きつらせたのを、クリフは「避けきれないと判断して焦っている表情」だと解釈した。
クリフ自身も「確実に命中するタイミング」だと思った。
タックルを当てる為に身体を捻ったその瞬間、ボーマンが跳躍する。
(跳んだ!?)
ガードしてくるくらいは予想していた。そしてバーストタックルならガードごとぶっ飛ばせる自信があった。
だが、まさか動かれるとは思っていなかった。
(知るか!)
ボーマンの跳躍の高度は低い。ならば充分当てられるはずだった。
が、クリフのバーストタックルにボーマンのドロップキックがカウンターで炸裂した。
バランスを崩したクリフはバーストタックルの勢いのまま、十数メートル程うつ伏せに滑り、倒れこむ。
(あそこで跳び蹴りだと?どんな反射神経してやがるんだこのオヤジは)
カウンターを合わされたとはいえ、攻撃された場所は肩。大したダメージは無い。
それよりも今、うつ伏せに倒れているクリフはボーマンの位置を見失っている。
また逃げられたら今度こそ本当に追いつく手段は無いだろう。その事に気付くとクリフは慌てて立ち上がった。
「何処だ?」
ボーマンの位置を確認しようとした時、何かが激突したような音が聞こえた。
音がした方向を振り向くと樹からズルズルと落ちてくるボーマンが見えた。どうやらタックルで吹っ飛ばされて樹に激突した様子だ。
「おし、逃がすかよ!」
追撃に走ろうとした時、クリフの首輪から音声が流れてきた。

『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後20秒』

「んだとぉ!?」
つい声を上げ、首輪に手を当てる。
実はバーストタックルで突進している最中に1度目の警告音は鳴っていたのだが、
ボーマンをぶっ飛ばす事に集中していたクリフの耳には警告音など入って来なかったのだ。
そして、クリフは目覚めてから今の今まで、禁止エリアの事などすっかり忘れていた。しかしそれも無理も無い事ではある。
クリフの起き抜けには既に戦闘状態だったし、ミラージュの事を思い出してからのクリフの思考は
「ミラージュを護る為にボーマンを倒す」事で埋め尽くされていた。
冷静に考えれば、そして「首輪爆破までの猶予時間」の存在を知らないのであれば、
C-5とD-4を禁止エリアで塞がれているこのエリアから役場方面に逃走されたからといって
通り抜ける事など出来るとは考えられないのだ。取り乱す理由など何も無い。
だが、クリフは動揺した。ミラージュの為に動揺した。それだけミラージュはクリフにとって掛替えの無い人物だった。
(ちぃ、このエリアはC-5か?…だよな?合ってるよな?だったら…)
クリフは自分の走ってきた方向と今いるエリアを頭の中で確認すると、
(こいつの方向に行く分には問題ねえ!)
ボーマンに向かって突っ込んでいった。
少し間が空いてしまったが、ボーマンはまだ激突した樹の下に居た。何故か白衣を脱いでいるところだ。
クリフは助走のついた跳躍から跳び蹴りを放った。
その時、クリフはボーマンのある異変に気付いた。
ボーマンは跳び蹴りを避けるつもりのようだが、何故かボーマンの動きが鈍っているのだ。
(遅え?これなら!)
クリフは蹴りつけた。
『ドゴォ』と衝撃音を立て、クリフの跳び蹴りはボーマンの背後の樹に命中した。間一髪で回避されたのだ。
(チィ、外したか。だが、今の鈍さ…どうやらバーストタックルで足を痛めたみたいだな)


ボーマンは着地すると、まず自身の身体を動かしてダメージを確認した。
(背中は痛むが…筋肉の断裂は無いな。足は…折れてはない、動かせるな。良し、問題ない。動ける)
派手に吹っ飛ばされはしたが、幸いボーマンに骨折等の大きなダメージは無い。
クリフの方を見ると、首輪に手を当てて何やら喚いていた。どうやら禁止エリアに入った事に驚いているようだ。
やぶれかぶれのドロップキックのダメージは少ないらしい。
一瞬、禁止エリアを利用してクリフを殺せないかと考えたが、結局それには直接戦闘する必要がありそうだと気付き、却下する。
今はあのような手で追いつかれはしたが、状況は走り出す前に戻っただけなのだ。
つまり、また役場に向かえば良いだけの事。クリフの手の内がいくつか分かった今は、先程より有利に逃げられる。
(バカでかい気弾は避けるしかねえが、スピキュールもどきには対策を思いついたぜ。次は完璧に逃げ切れる!)
スピキュールもどき(バーストタックル)はスピキュールではないにしろ、炎を纏っているのには変わりは無い。
次に繰り出してきたら、ガソリンが染み込んでる白衣を投げつけてやれば良い。そうすれば逆に炎に包まれ自滅するだろう。
ボーマンはそう考えると白衣を脱ぎ、いつでも投げられる様に丸めてデイバッグの中に突っ込んだ。

そこにクリフが跳びかかってくる。
(ほぉ、普通に突っ込んでくるのかよ。もう手が無いなら役場に向かわせてもらうぜ?)
ボーマンはクリフの攻撃をサイドステップで避けたら、そのまま再び走り出そうと考えた。
しかしその時、ボーマンに異変が生じる。
(!?…何だ!?)
何故かボーマンの足が重いのだ。
(遅ぇ!?)
クリフの跳び蹴りが迫ってくる。
が、間一髪で回避が間に合った。『ドゴォ』と衝撃音を立て、クリフの跳び蹴りはボーマンの背後の樹に命中した。
樹は2度目の衝撃により、ミシミシと音を立てて倒れる。倒れた振動で辺りの空気が軽く揺れた。
(何だ!?今の感覚は!?)
ボーマンには理解出来なかった。
先程までならば余裕で避けていたであろうタイミングでサイドステップをしたのだ。
それなのに足がついてこない。回避出来たのはギリギリだった。一体何故?
とりあえずクリフとの距離を離そうとバックステップを試みる。が、
(やっぱり遅ぇ!何だっつーんだ!?)
自分の身体がスローに感じる。
身体にダメージはほとんど無い。それは間違いないのだ。それなのに何故か動きが遅い。
クリフが指を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。
クリフの威圧感と自分に起こっている異常への不安感がボーマンを思わず後退りさせた。
「オッサン、どうやら足を痛めたみたいだな。悪いが待たせてる奴がいるんでね、そろそろケリつけようじゃねぇか」
(足を痛めた…?)
「あん?俺はまだ27なんだよ。オッサンとか言ってんじゃねぇよ」
(痛みなんかねぇぞ)
ボーマンはそう思いつつも気になって足元を見る。そして愕然とした。


(げ、こいつ27かよ。ミラージュとタメじゃねえか)
瞬間的にクリフは、ミラージュを「オバサン」と呼んで
インフィニティアーツ→キャノンブレイズのリンクコンボでお仕置きされている自分を連想してしまった。
(チッ、この野郎。余計な事考えさせるのが上手いじゃねえかよ。姑息な野郎だ、ますます許せねえ)
これについてはボーマンに何一つ非は無いのだが、クリフはボーマンを「姑息な野郎」と認定した。
「…ま、どうでもいい。決めさせてもらうぜ!」
暗いのでハッキリしないが、クリフにはボーマンの足はボロボロになっているように見えた。
やはりバーストタックルを蹴り返した事で痛めたのだろう。
実際に動きは相当鈍くなっていたのだ。ようやくクリフに勝機らしい勝機が見えてきた。
とは言うもののクリフ自身も疲労困憊、満身創痍の状態だ。
大技ならば後1、2回撃つのが限度。それは何としても決めなくてはならない。
そして、確実に決める為にはもう少しボーマンを痛めつけ、更に動きを鈍らせる必要がある。

ボーマンが再び後退りをする。それが合図であるかのようにクリフは動いた。
ワンステップで距離を詰め、左ジャブで牽制する。ボーマンはそれをバックステップで避けるが、
「遅えよ!」
クリフは容易くそれに追いついた。これならば自分の射程外に逃がす事は無い。
それを改めて確認したクリフはボーマンの顔面に左ジャブ、右ストレート、左ストレートの3連打を1呼吸で放った。
ボーマンは後ろに下がりながらそれらを避けるが、やはり動きが鈍い。
クリフは距離を離される事なく食らいつき、追いながら更に顔面を狙い連打を繰り出す。
クリフの連打はことごとく空を切る。だが、徐々に拳とボーマンの距離は縮まってきている。
ボーマンはクリフの拳を避けるのに手一杯で、反撃する余裕は無いようだ。
しっ、と掛け声と共に、おもむろに水面蹴りを仕掛けた。クリフの足がボーマンの足に引っかかる。
転倒はしなかったものの、ボーマンはバランスを崩してグラついた。
立ち上がる勢いで胸元に掌打を繰り出す。ボーマンは避けきれず両手でガードし、ついに足が止まった。
「オラオラオラァ!」
こうなればこちらのものと言わんばかりに、クリフはガードの上からでも構わず攻撃を仕掛けていく。
ボーマンはガード一辺倒。先程まで攻撃を避けていた得意のフットワークはやはりもう使えないようだ。
クリフの攻撃は両手でガードはされているが、元よりヒットを期待してはいない。ガードをこじ開けるつもりも無い。
更にボーマンの右側に走りこみ右裏拳、左ストレートのコンビネーションを放つ。ボーマンはこれも両手でガードした。
(ここだ!)
クリフは渾身の右ローキックを放った。まともに当たれば人間の脚など簡単にへし折れる威力だ。
両手を右上半身のガードに使い、両足を負傷しているボーマンにこの蹴りを防ぐ手立てはない。
そう思った。思ったのだが。
命中する、と思った瞬間、ボーマンは跳躍をしていた。全力を込めていた蹴りは避けられ、バランスを崩してしまった。
(んなバカな!?ろくに動けもしねえ足だろうが!?)
足を痛めている様子など微塵も感じられない跳躍だった。
一瞬の動揺、そして隙。ボーマンは見逃してはくれない。そのまま顔面に跳び蹴りを食らわされた。
「ぐはっ!」

「おぉぉぉっ!!」

ボーマンが吼える。仰け反るクリフに拳のラッシュが入れられた。
鳩尾、胸部、顔面に両拳が突き刺さる。アッパーで更に仰け反ったところに勢いのついたドロップキックが炸裂し、
クリフは吹っ飛ばされた。なんとか足を地面に擦りつけてブレーキをかけるが、踏ん張る身体に激痛が走る。
クェーサー戦で折れたあばらを再び痛めたようだ。
(……関係ねえ!)
そんな痛みはどうでもいい。今はボーマンだ。追撃に備えて立ち上がり構えをとる。が、それは無意味。
クリフが構えた方向にボーマンの姿は無い。代わりに別の角度から竜巻が飛んできていた。
「断罪者か!?てめえは」
ツッコミを入れる体力があるのは良いが、ガードも避ける事も出来そうに無いタイミングだ。成す術もなく巻き込まれてしまう。
なんとか巻き上げられる事は堪えられるが風圧で身動きが取れない。
しかも大量の砂埃と木の葉を巻き込んでいるこの竜巻の中では視界が全く効かなかった。
(くそっ目が開けられねえ…野郎どこまで姑息なんだ!)
技自体に直接的な攻撃力は無いが、風圧を堪える事であばらが痛み、体力を消耗させられる。
ボーマンのラッシュで切れた口に砂が入り込み、地味に痛む。だが、今は耐えるしかない。
数十秒程そうして居ただろうか。竜巻が僅かに弱まってきたのが感じられる。
これなら動けると判断したクリフは屈み込むと地面を蹴り、転がるように竜巻を脱出した。
(野郎は!?)
ボーマンを探して辺りを見渡す。しかし姿が見えない。気配も感じられない。
「…逃げやがった…」


ボーマンは苛立っていた。現在彼は、とある作業中である。
(まだ腕が痺れてやがる!あんのゴリラ野郎が!)
クリフの攻撃をガードした腕が痺れているせいで作業がしにくい。その事が彼を苛立たせていた。
いや、これは些細な事に過ぎない。苛立つ最大の原因は他にある。
バーストタックルをドロップキックで防いだ後からボーマンの動きは鈍くなっていた。
クリフは「タックルで足を痛めた為」だと考えたがそれは違う。
鈍さの原因、そして現在ボーマンが苛立っている最大の原因は「バーニィシューズが壊れてしまった事」にあった。
元々バーニィシューズは戦闘用に作られたものではない。
走る時の衝撃程度は吸収出来ても、攻撃の衝撃に強い造りにはなってないのだ。
クリフのバーストタックルとボーマンのドロップキックの衝撃を受け止めて耐えられる訳がなかった。
しかし、ガソリンまみれのボーマンがバーストタックルの炎を防ぐ事が出来たのは、
ガソリンが全くかかっていなかったバーニィシューズでバーストタックルを受け止めたからである事も事実。
バーニィシューズを犠牲にしなければ今頃は焼け死んでいただろう。
そして意図した事ではないが「足を痛めた」とクリフに誤解させ、大きなダメージも負う事無く戦闘を乗り切れた事も考慮すれば、
使い捨てのアイテムと割り切るなら相当な効力を発揮したと言える。
だが、バーニィシューズが無くなった今「支給品を手に入れる為に役場に向かう」という作戦は変更せざるを得ない。
到底一番乗りは不可能だろうし、他の参加者と出会ったら逃げ切れる保証も無い。
ならばどうするか。答えは既に決まっていた。
(バーニィシューズを壊した責任は取ってもらわねぇとな)




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第110話 クリフ 第113話(中編)
第110話 ボーマン 第113話(中編)
第103話 レザード 第113話(中編)
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