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第113話 頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ (中編)


先程、バーニィシューズが壊れている事に気付いたボーマンは愕然とした。
(なっ!?壊れて…これじゃ…役場に…いや…アシュトンはまだかよ!?)
そして軽くパニックを起こす。クリフが何かしゃべっているが言葉が頭に入ってこない。
(アシュトン?…来るわけねぇ。役場…じゃねぇ、こいつが先だ)
クリフの顔付きが変わり、近づいてきた。
先程は不安感からだったが、今度は焦燥感から再び後退りする。
(だがどうする?バーニィシューズが…)
パニックは治まってきたものの、バーニィシューズが壊れたショック、そして、影響は大きい。
今までクリフと互角に立ち回れていたのはバーニィシューズが有った為だと言っても過言ではないのだ。
戦うにしろ、逃げるにしろ、バーニィシューズが無ければ不利は明白。
ではどうすればいいのか?しかし、対策を考える暇など与えてくれるはずもなく、クリフが距離を詰めて来た。
反射的にバックステップで距離を取ろうとする。が、すぐに食らいつかれる。
(くッ、足が重てぇ)
実際には足が動かない訳ではない。
バーニィシューズのスピードに慣れすぎていたボーマンには自分本来のフットワークが遅く感じられているだけの事。
つまりただの錯覚なのだ。しかし、錯覚とはいえ動きにくい事に変わりは無い。
「遅えよ!」
そう言ってクリフが攻撃を仕掛けてきた。
何とかバックステップで避けるが、やはり足が重く動きにくい。そして、全くクリフとの距離を離せない。
クリフが追いながらパンチの連打を繰り出してきた。
何とか下がりながら避けるが、ボーマンが下がるよりもクリフの踏み込みの方が速く、徐々に近づかれている。
顔面への攻撃に目が慣れてきたボーマンに、クリフの足払いが引っかかる。バランスを崩したところに追い討ちを掛けられた。
(くそっ避けきれねぇか!)
ついには、やむを得ずガードする事となった。
先程の接近戦で分かっていた事だがクリフのパワーはガードした腕を痺れさせるのだ。
それを計算ずくなのか、ガードの上からでもお構い無しに攻撃は続いた。
エンプレシアとミスリルガーターがぶつかり合い、重い衝撃がボーマンの腕に伝わる。
動きが重い今ではフットワークを使って衝撃を流す事も難しく、
クリフの常人離れしたパワーと、サイズの合わないエンプレシアがますます腕を痺れさせる。

(やべぇ…腕が…)
もう何発かガードしていたら腕が持たなかっただろう、という時、クリフのローキックが繰り出された。
反射的にジャンプして避ける。その瞬間、クリフがバランスを崩し、一瞬の隙が生まれていた。
クリフの隙に反応して、ローキックを避けたジャンプから跳び蹴りを放つ。
蹴りはクリフの顔面にクリーンヒットし、クリフが仰け反った。
(チャンス!)
「おぉぉぉっ!!」
両拳のラッシュを仕掛ける。だが腕の痺れが影響し、拳に100%の力を乗せる事が出来ていない。
(くそっ、この馬鹿力が…)
拳では駄目だと判断し、ドロップキックを決めてクリフを吹っ飛ばした。
ボーマンの足に、クリフの肋骨が折れたような感触が伝わってきた。
追撃するチャンスではあったが、先程『桜花連撃』を決めたシーンがフラッシュバックし、それを思い留まらせる。
クリフは桜花連撃をまともに食らっておきながらも、あれだけ高い跳躍から恐ろしい破壊力の急降下で反撃してきたタフネスだ。
腕に力が入らない今、それだけのタフネスを仕留めきれるとは思えない。
そう判断したボーマンは「距離を取る事」を選択した。距離を取ってまずは腕を回復させたい。そしてもう一つ…
ボーマンはクリフが蹴り倒した樹の場所まで走るとボーマン、倒れた樹、そしてクリフが一直線上になるよう位置取りをし
『旋風掌!』
倒れた樹に向かい旋風掌を撃ち込んだ。
旋風掌は樹に生えている木の葉を大量に巻き込み、軌道上にいるクリフに襲い掛かる。
「……!」
クリフが何か叫んでいたようだが、その声は竜巻に阻まれボーマンには届かなかった。
旋風掌がクリフを飲み込んだ事を確認すると、ボーマンはクリフとは反対方向に全力で逃走した。

100メートル程は走っただろうか。
ようやくクリフから離れる事が出来たボーマンだが、それだけでは事態は何一つ好転しない。
(バーニィシューズが壊れるってのは…ちっ最悪だぜ。これじゃ役場には行けねぇ)
役場での支給品入手はもう望めない。
(…アシュトンの方はもう終わったか?)
アシュトンのところに戻れば戦利品を分けてもらえるだろうか?
合流した時はアイテムの交換を拒否されたが、新たに入手したアイテムならばアシュトンも分けないとは言えないだろう。
(…いや、そういや金髪が「仲間を待たせてる」だとかヌカしてやがったな)
だが、きっとボーマンを見失ったクリフは仲間の所へ戻ろうとする。
同じ目的地に向かうとなると、バーニィシューズが壊れた今ではクリフに追いつかれる可能性も充分に有る。
逆に、クリフが戻るところを尾行するという手も有るが、その場合でも気付かれればやはり戦闘になる。
決定打もバーニィシューズも無い状態では、再び戦闘になった場合はこちらの圧倒的不利はやはり明白だ。
(ここはやっぱ手持ちのカードで何とかするしかねぇな)
ボーマンは足を止めるとデイバッグからフェイトアーマーのカツラ部分と調合セットを取り出す。
(カツラも着けると徐々に体力が回復する、ねぇ。あまり時間は無いが…腕の痺れぐらい取れんだろ)
そう期待をしてカツラを装着する。
アシュトン達にフェイトアーマーの存在を知られたくなかったから装備していなかったが、今なら問題ない。
カツラを着けると、次は調合セットに視線を落とした。
(アルテミスリーフが約2/3か…殆ど気休めにしかならんが無いよりマシだな)
これで調合用の薬草は底をついてしまうが仕方ない。
普段だったらニーネが、非常時に備えてボーマンの白衣に薬草をいくつか入れておいてくれるのだが
その薬草はこの島には持ち込めなかったようだ。
「ニーネ…エリス…」
つい妻と娘の事を考えたが、いや、とボーマンは頭を振る。
感傷に浸るのは全てが終わってからで良い。今は作業に集中しなくては。

残り2/3しかないアルテミスリーフを更に半分にちぎり、調合作業を開始する。
元々量が少ないので普段よりも時間は掛からない。間もなくフェアリィグラスが完成した。
(次はと…今なら邪魔なチェスターはいねえ。ようやく破砕弾を作れるぜ)
そう、ボーマンが今まで破砕弾を作れなかった理由はチェスターにあった。
アシュトン、チェスターと合流してからここまで、破砕弾を作る時間的余裕ならいくらでも有ったのだが、
チェスターに破砕弾を作るところ、または使うところを見られては、
チェスターに「仲間が爆死したのはボーマンの丸薬のせいだ」と気付かれてしまうかもしれない。そんな危険は冒せなかった。
だが今ならば何も障害はない。ボーマンは早速破砕弾の製作に取り掛かる。
そして、この破砕弾を使用する予定の相手を思い浮かべた。
(今度は俺が奴を追いかける番ってか)
これで決定打が手に入る。そう、距離を取ったもう1つの理由は「決定打」を手に入れる事にあった。
後は仲間の元に戻るクリフを尾行し、アシュトン達と供に奴を殺すか、その前に直接破砕弾で殺すか…どちらでも良い。
どちらにせよクリフを殺し、奴のアイテムを奪い取ってやるのだ。
(バーニィシューズを壊した責任は取ってもらわねぇとな)


ボーマンを見失ったクリフは焦燥感に駆られていた。
(やべえ逃がした…ミラージュ…急がねぇと)
木の葉での目隠し、などという手を使われたとはいえ、むざむざボーマンを逃がしてしまった。
このまま役場に向かわれたならばミラージュが危ない。
焦ったクリフは痛むあばらを押さえ、とにかくボーマンを追おうと走り出した。が、すぐに首輪から警告音が鳴り始めた。

『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』

「っと」(30秒?)
再び禁止エリアに入ってしまった。
竜巻の中にしばらく居たせいで方向感覚が麻痺していたようだ。
後退して禁止エリアを出ると、デイバッグから地図とコンパスを取り出して方向を確かめる。
どうやら完全に方向を間違えてたらしい。
今、このC―5が禁止エリアでは無かったならば、クリフは真っ直ぐC―6に向かっていくところだった。
(さっきは確か20秒だったが…めんどくせえもん作りやがって、ルシファーの野郎!
…まあいい、何秒だか知らねえが要は警告なったらエリア出りゃ良いんだろ。むしろ現在地の確認になるじゃねえか)
地図を見て、辺りに目印になる様なものは無さそうだ、と判断したクリフは
禁止エリアに入った時の警告をナビ代わりに利用すれば良いと考えた。
いちいちコンパスを見ながら走るよりはよっぽど速く移動出来るだろう。
クリフは地図とコンパスをしまうと、忌々しそうに目の前の禁止エリアを一瞥して移動しようとした。その時、
(…何だ?ありゃあ?)
禁止エリア内に落ちている何かがクリフの目に留まった。
何かの塊の様な物が落ちている。あの辺りはさっきボーマンにバーストタックルを仕掛けた場所だ。
自身は何か落とした覚えはない。とすればボーマンのだろうか?あるいは別の誰かの物か?
急ぎたい気持ちは有ったが、それが気になったクリフは首輪の警告は無視して塊を拾いに行った。
(…こいつは…どこかで…)
確かにどこかで見た覚えがある。
D-5に戻ってそれを確認すると、ピンク色の毛皮のような物だった。
(これは…そうだ、バーニィに似て…バーニィ!?)
ふと、ボーマンのボロボロの足を連想して、
「バーニィシューズか!?…そういうことかよ!」
1つの答えに辿り着く。
クリフの知っている物とは形状が異なるが、確かにソレはバーニィシューズの破片だった。
(野郎の動きが鈍ったのはバーニィシューズが壊れただけだったってか。…くそったれが!そういや良い蹴りしてたじゃねえか!)
つまりボーマンの足にはダメージなんて無いのだ。
冷静に観察していればボーマンにダメージを負ったような素振が無い事に気付いただろう。
だが、目先の「勝機」に目が眩み、判断力が鈍っていたのかもしれない。
その判断ミスのせいでクリフは無駄なダメージを負い、ボーマンを取り逃がす事になってしまった。
「情け…ねえ……だが」
自らの判断ミスを悔やむと、バーニィシューズの欠片を握りつぶし禁止エリア内に放り投げた。
(バーニィシューズはぶっ壊したんだ。それなら奴が役場に着く前に追い…いや、まてよ…野郎はそもそも何が狙いだ?)
そして、謎が1つ解けた事に刺激され、ようやくクリフは現状を冷静に考え始める。
デイバッグからペットボトルを取り出した。うがいをし、水を吐き出す。
吐き出した水には大量の砂と血が混じっていた。
(あの状況で役場に行く?なわけねえだろ。行ってどうする?)
ほぼ互角の戦闘状態からの突然の逃亡。
慌てたクリフはミラージュの身を案じて追いかけた訳だが、そもそものボーマンの目的は何なのか?
役場方面に逃走したからと言って役場に行くとは限らない。むしろ、行く理由など無いはずだ。
(なら…ミラージュがあの野郎に襲われる心配なんかまず無い…か?)
確かに普通に考えればミラージュがボーマンに襲われる可能性は少ない、いや、皆無に等しいだろう。
実際にはボーマンは役場に向かっていたのだが、第3回放送を聞いていないクリフに、ボーマンが役場を目指す理由は考え付かない。
(考えられるとしたら…奴の有利な場所に俺を誘い込む…これか?
いや、あれは誘ってるような走り方じゃねぇ。明らかに振り切る走り方だった…ちっ、分からねえ)
考えてもボーマンの狙いなど分かりそうもない。クリフは頭を掻きむしると一つ舌打ちをし、余計な事を考えるのを止めた。
(…まあ、野郎の目的なんざどうでもいい。今はミラージュを護りに行く。野郎を見つけたらぶちのめす。それだけだ)
ボーマンが役場に行く可能性などは無いはずだが、他の参加者ならば、いつ、どんな理由で役場に行くか分からない。
ならば、自分のやる事はやはりミラージュを護りに行く事。そう結論付けた。
そして「最悪ボーマンを逃がしてもミラージュに危険は無い」という結論はクリフの心を幾分か楽にさせ、余裕を持たせた。
クリフは時計を取り出して時刻を確認する。とっくに深夜0時を回っていた。
(…放送聞き逃しちまってたか…今はもうD-4も禁止エリアになっちまってるな。
放送内容は、後でミラージュに聞くとするか。…ふっ、さっきとは反対だな)
クリフはもう1度うがいをする。口の中の砂は気にならない程度には落とせた。ペットボトルをしまい、辺りを見渡す。
(野郎が戻ってこないとは限らねぇ。一応不意打ちは警戒しとかないとな)
クリフは辺りを警戒しながら、役場を目指して慎重に移動を始めた。


近づいてくる足音を聞き、まだ破砕弾を作り終えていないボーマンは少し焦った。
(あいつ、こっち来んのか!?仲間待たせてんじゃねぇのかよ?
…どうあっても俺を倒すってのか。チッ、まだ途中だってのに…しょうがねぇな)
足音はボーマンより東南側を、ほぼ西に向かって移動しているようだ。
つまり真っ直ぐボーマンに向かってきている訳では無いのだが、のんびりと作業している訳にもいかなくなった。
ボーマンは急ピッチで締めの作業に入る。
通常よりもサイズが小さくなってしまい殺傷能力に不安が残るが、この際贅沢は言ってられない。
(後は丸めてっと…何とか出来たな。…服も脱いどきたかったが…)
ガソリンまみれの服を着ていると破砕弾の飛び火に対してやや不安が残るし、
同じ理由から、自分の技の1つで炎の闘気を使用する「朱雀双爪撃」が撃てない。
それ故、出来れば脱いでおきたかったが、足音の持ち主、つまりクリフの姿が見え始めた。どうやらそんな暇は無いようだ。
ボーマンは広げた荷物を音を立ててデイバッグに突っ込んだ。足音が止まる。ボーマンの気配に気付いたようだ。
いや、ボーマンはわざと気付かせた。こちらに注意を向けてもらう為に。

「てめえ、居やがんのか?出てきやがれ!」

クリフの怒号が聞こえる。ボーマンの姿まではまだ確認出来てないようだ。
(ああ、出て行ってやろうじゃねぇか!)
ボーマンはフェアリィグラスを飲み干した。


ボーマンからの不意打ちを警戒して、念の為に禁止エリアからやや離れて移動していたクリフだったが
ガサガサと何かの音がしたのを聞き取り、立ち止まって警戒心を音のした方向に向けた。何か居る。
(…まさか猫や犬とかいうオチじゃねえだろうな?)
そう言えばクリフはこの島で野生生物の姿を一度も見ていない。哺乳類や爬虫類ならまだしも、鳥や昆虫すら見ていない。
おそらくは、この島がエターナルスフィア内に「この殺し合いの為だけに作られたフィールド」だから
余計な物は存在しないという事なのだろう。(クリフが見てない、または気付いてないだけかもしれないが)
だとしたら、やはりこの気配は人のものだ。
「てめえ、居やがんのか?出てきやがれ!」
声をかけるが返事は無い。
だが、返事の代わりだろうか、再び同じ方向から何かの音が聞こえた。いや、音だけではない。暗闇に動く影が2つ程見えた。
(……2人?)
クリフに若干の迷いが生じる。ボーマンなら1人のはずだが、今見えたのは2つの影だ。
見間違いか、ボーマンに龍の男とは別の仲間が居たのか、それとも全く別の参加者か、
考えを巡らせていると、影の1つが飛び出してきた。それはやはりボーマン。ただ、何故か髪が青くなっている。
「なんだぁ?急いでたと思ったらイメチェンしてたのかよ。青髪の野郎は腹黒いって相場は決まってるんだぜ?」
クリフは悪態をつくが、ボーマンは何も答えないで真っ直ぐクリフに向かってくる。
(シカトしやがって。…いや、こいつ…?)
クリフは違和感を覚えた。ついさっきまでは逃げ回っていたボーマンがただ向かってくる、と言うのはどう考えても不自然だ。
何か狙いが有る、それは分かる。だがその狙いは何なのか?今見えた影、または青くなった髪に関係あるのだろうか?
クリフは影が見えた場所に視線を移したが、そこにはもう何も見えない。
(何だか分からんが…)
ボーマンは全く速度を落とすこと無く突っ込んでくる。もう考えている余裕は無い。
ボーマンが走り込むそのままの勢いで右腕を振り下ろしてきた。狙いは分からないが、
(…チッ、しゃあねぇ、な!)
仕方ない。ボーマンの攻撃を左手で受け流し、右拳でガラ空きの顔面を殴り抜ける。
完璧に入った、と思った瞬間、パン、と軽い手応えをクリフの拳に残してボーマンは消滅した。
「あん!?」
その時クリフの背後から1つの影が迫る。今のボーマンに気を取られていたクリフは気配に気付くのが一瞬遅れた。
(後ろか!)
ボーマンがクリフの脇腹目掛けてスピードの乗ったサイドキックを放っていた。
クリフは振り向かずに身体を捻って回避しようとするが、ワンテンポ遅い。
キックがクリフの脇腹を掠め、折れたあばらから更に激痛が走った。
クリフは痛みを堪え、身体を捻った勢いで回し蹴りを放ったが、空を切る。ボーマンは暗闇に走り去っていた。
(…そういう作戦かよ…)
仕組みは分からないがボーマンは分身を作り出す事が出来るようだ。
暗闇に乗じて本体と分身で攻撃を仕掛けてくる。しかも、気配を感じてもそれが本物か分身かは分からない。
(暗闇と分身、2つの隠れ蓑に紛れてのヒットアンドアウェイか。なかなか厄介…っと、また来やがった!)
再びボーマン、いやボーマン達が姿を現し向かってくる。今度は1人が前、少し遅れて2人が続いている。
(今度は3人かよ!…1つ確かめてみるか)
クリフはデイバッグからまだ水の残っているペットボトルを取り出すと、先頭のボーマン目掛けて思い切り投げつけた。
ペットボトルは回転しながらボーマンの顔面目掛けて飛んでいくが、そのボーマンは全く避けようとせず、そのまま命中した。
ペットボトルは弾かれて地面に落ち、ボーマンは何のリアクションも無く突進してくる。
(…つまりこの分身は幻や残像って訳じゃねえ…闘気が形作ってるってとこか?)
先頭のボーマンがパンチを放つ。クリフはそれを全力を込めてガードした。腕に衝撃が走る。だが、
(…本物の攻撃よりは軽いな)
拍子抜け、とまでは行かないが分身の攻撃力は高くないようだ。
今の分身は走り去りながら消滅していく。分身発生から消滅までは7~10秒といったところか。
しかし落ち着いて分析している暇は無い。入れ替わるように後ろの2体が迫り来る。
(だったらこう言うのはどうだ?)
クリフは地面を蹴り、ボーマン達に向かって振り抜いた。抉り取られた土が細かく拡散してボーマン達に降り掛かる。
至極単純な目潰しだ。しかし、どちらもノーリアクションのまま、突進は止まらなかった。
「全部偽者かよ!」
(なら奴は…)
クリフはボーマン達からは目を離さずに、辺りの気配を探った。
そしてある方向に微かな気配を感じ取る。
(…そういう事か!)
2体のボーマンが浴びせ蹴りを放ってきた。が、分身と分かっていれば問題は無い。攻撃力が高くないのは確認済みだ。
クリフはそれぞれを片手1本ずつで受け流した。やはり軽い。
(…てめぇが姑息な野郎だってのは…)
クリフはすかさず自分の上空を確認、そして蹴りを突き上げる。そこにはもう1人のボーマンが飛びかかってきていた。
「分かってんだよぉ!」
2人の視線と殺気がぶつかり合った。
ボーマンの拳とクリフの蹴りが衝撃音を作り出す。どちらの攻撃も完全に相殺された。


ボーマンは落下の勢いを利用して地面を転がり、そのまま前方に跳躍して距離を離し、闇に溶け込んだ。
クリフを視認するが、今の反撃での体勢の悪さが影響して追いかけてこれなかったようだ。
(っつぅ!野郎…もう死方陣に対応して来やがるか…やってくれるぜ)
死方陣は、最大3体の分身を闘気により作り出し攻撃する技だ。
攻撃力も持続力も高くはないのだが、分身は作り出した時のボーマンと寸分違わず同じ姿をしていて幻惑効果が極めて高い。
その死方陣がこうも早く対応された事は今までの経験上、記憶に無かった。
いずれ対応されるとしても、もっと先だと考えていたのだがまさか2回目とは。
(…ま、それはそれで構わねぇけどな!『死方陣!』)
だがボーマンは、三度死方陣を繰り出した。この技は1度対応されただけで死ぬ技ではない。
むしろその対応を糧にして新たな駆け引きを生み出せる。
ボーマンは、クリフとの戦いはもうまともに接近戦はしない事に決めていた。
あまり認めたくは無いが、接近戦はクリフの方が有利だ。
バーニィシューズが無くてもスピードならボーマンに分があるが、クリフ程の実力者ならばすぐに対応してくるだろう。
接近戦ではいずれ敗北するのは明白である。
だったらわざわざ相手の土俵に立つ事は無い。ボーマンには接近戦以外でも戦う手段があるのだから。
クリフを倒すには撹乱してのヒットアンドアウェイで弱点(今の場合は折れた肋骨)を狙うのがベストだろう。
その為には死方陣は最適な技だった。

ボーマンは今度は4体になり、正面から前列に2体、後列に2体でクリフに突進する。
(対応出来るもんならしてみやがれ!)


(4体…どうやら分身は3体までか?もっと出せるならさっきやってんだろうしな)
3度目の分身が迫り来る。辺りの気配を探るが、他に気配は感じられない。おそらく今回は本体もこの中に居る。
ならば、とクリフは再び地面を抉り、土を飛ばした。本体が居るならこれで特定出来るはずだ。
だが、それに反応するかのように前列の分身2体が高く跳躍し、後列の分身2体は顔をガードして突っ込んできた。
(そんな事も出来んのかよ!…全く良い技だ。神宮流にも取り入れたいぜ!)
これにはクリフも意表を突かれたが、すぐに体勢を整え、構え直した。
(だが…今のに対応したって事はやはりこの中に本体が居るって事だな)
そう判断すると、クリフはボーマン達を迎え撃つ事を選択した。
この分身技は避けるだけならば比較的容易かもしれない。だが、本体がこの中に居ると言う推測が正しいのなら、
そしてもし空中に跳んだ2体のどちらかが本体ならば、これはボーマンに反撃するチャンスでもあるのだ。
先にクリフまで到達したのは地上に居る2体。跳躍した2体が降りて来るまでにはまだ余裕がある。まずは地上の2体を対処する。
(とりあえず殴り飛ばす訳にはいかねえか)
本体が跳躍した側に居た場合、突進してきた分身に攻撃してしまっては、わざわざ自身の隙を晒けだす事になる。
逆に地上に居る場合、完全な二択となる訳だが、正解を引き当てたところで間違いなく回避なりガードなりしてくるだろう。
つまり本体がどちらに居るとしても、クリーンヒットは望めない。
そう考え、クリフは地上の2体の攻撃はまずガードを固めて凌ぐ事にする。
クリフは少し身体をずらし、2体の攻撃を大体同じ角度から来るように位置を調節した。
ボーマン達が同時に襲い掛かってくる。
片方が左ストレート、もう片方はステップインからのサイドキックを放ってきたが、
クリフは両手を少し動かす事で、両方の攻撃を完璧にガードしきった。
ガードしたミスリルガーターから衝撃音が2度発生した。先程と同じく、軽い衝撃音だ。
(軽い…上か!)
跳躍していた2体は既に攻撃態勢に入っている。
(上から来るなら何体居ようと問題ねえ!)
だがクリフには反撃に転じれる対空技がある。クリフは自分の顔の前で両手を交差させ、ボーマン達の真ん中に狙いを定めた。

「痺れちまいな!『マイト・ディスチャージ!』」

クリフの頭上に巨大な球体の闘気の塊が発現し、爆発した。


地上の分身がガードされた後、ボーマンはクリフが両手を交差させたのを見て、そのまま防御に徹するのかと考えた。
(だったら遠慮無く…って、何かやべぇ!)
だがクリフから伝わってくる闘気はとても防御の為とは思えない。確実に何かしてくる。ボーマンは咄嗟に身体を小さくした。
「痺れちまいな!『マイト・ディスチャージ!』」
クリフの頭上に巨大な球体の闘気の塊が発現し、爆発する。跳躍していた2体のボーマンはとても避ける事が出来ない。
成す術無く爆発に飲み込まれた。そして―――2体共消滅した。
(対空技か!脅かしやがって!)
次の瞬間、クリフの胸部から骨の粉砕される鈍い音が数回鳴り響いた。
「うぐぁっ!?……て…め…」
クリフの身体が「く」の字に折れ曲がる。更に骨の折れた激痛は流石に堪えきれなかったようだ。
「へっ、蹴りが軽いからって分身とは限らねぇだろ?痺れるのはてめぇの方だったな!」
(顔面が良い位置に来てるじゃねえか!)
言い終わると同時にボーマンは更に強打を叩き込み、クリフを殴り飛ばした。

ボーマンは「後列の2体の内の一方」に居た。わざと分身程度に力を落とした攻撃をガードさせる事で
自信を分身だとクリフに誤解させ、クリフが「跳躍している2体」に気を取られている隙を攻撃したのだ。
マイト・ディスチャージを撃たれた時はどのような技を撃ち出されるか分からなかったので、
地上に居る自分も巻き込まれる事を警戒して回避行動を取ったが、結果的にはそれは無用な心配であった。

(確実に肋骨の数本を粉砕したが…)
吹っ飛んだクリフの様子を伺う。立ち上がろうとしているが、口からは血を吐き出し、身体は痙攣を起こしているようだ。
見るからにダメージは大きい。
「頃合だな」
後はガソリンまみれの白衣をクリフに被せ、破砕弾をぶち当てれば終わりだ。
おそらくは破砕弾だけでも充分殺せるとは思っているが、念には念を入れておくに越した事はない。
ボーマンはデイバッグから丸めた白衣を取り出し、洗濯物を干す時のようにパンッ、と広げ、
「最後だ!『死方陣!』」
そして死方陣を発動した。ボーマン達がクリフを中心とした正方形を作る。相手を逃がさない為の陣形ならばこれがベストだ。
クリフはどうにか立ち上がっていたが、ボーマン達を睨みつけると、体力の限界のせいかフラついて屈みこんだ。
口元が動いていたが声は聞こえなかった。いや、そもそも声も出せていないのかもしれない。
(恨むんじゃねぇぞ…ってのは無理な相談か。…まあいい、止めだ!)
ボーマンは一気に正方形の陣形を縮小させる。
最初の分身が襲いかかるのと同時に、ボーマンは白衣をクリフの頭上から被せた。

「イチ」

クリフが何かを呟いたのが聞こえた。
言葉の意味を考える間もなく、まだ手から離してない白衣が風圧に持ち上げられ、屈み込んでいたクリフの姿が消えた。
(何!?)
被せようとしていた白衣のせいではっきりとは見えなかったが、クリフは跳躍したようだった。分身の攻撃も当たっていない。
ボーマンは反射的に上空を見上げた。やはりクリフが高く跳躍している。
(さっきの急降下か?悪あが――)
ボーマンの目が、クリフの方向から落下してくる黒い何かを捉えた。
捉えたその瞬間、ボーマンは爆音と閃光に包まれ、全ての感覚が吹っ飛んだ。


(全くよ…気付いてみりゃあこんな簡単な事だったとはな)
ボーマンが分身したのを確認して、クリフはピンを抜いて屈みこんだ。
「4」
ボーマンの分身は確かに見ただけでは判別不能だ。
クリフも最初は見分ける事しか考えていなかったが、そもそもそれが誤りだった。
重要な事は「どのボーマンが本物か」ではなく「ボーマンは何処に向かうか」だったのだ。
「3」
分身は発現してから10秒程度で消える事は先程確認してある。そして、当然ボーマン達が向かう場所はクリフの所だ。
つまり、ボーマンは分身したら「10秒以内に」「クリフのところへ」必ず向かってくる。
その事に気付けば対処は全く難しくはない。
「2」
ボーマン達が4体同時にクリフに向かって突進してきた。何故か白衣を広げているが、どうでも良い。
(走って逃げる奴には使えねえがな、走って来る奴には立派に使っていけるんだぜ)
「1」
タイミングはこれ以上無いくらいに良い。
クリフは全力を込めて跳躍し、持っていた缶を手から放した。クリフの居た場所に4人のボーマンが集まってきている。
1人、白衣を広げていたボーマンがクリフを見上げたが、星空を見上げて跳躍していたクリフの視界には入らない。
(なかなか良い月だ。クラウストロのには劣るが悪くねえ。俺の審美眼に認められるってのは自信持っていいぜ、お月さんよ)
だが、ボーマンが上を見上げるのはクリフの予想通り。見なくても分かっていた。
クリフの下方で閃光が発し、爆音が辺りを包んだ。クリフの投げた閃光手榴弾が作動したのだ。
(やれやれ、やかましい合図だぜ。…だが、ジャンプに釣られて俺を見上げたてめえは、まともに喰らっちまっただろ?)
閃光手榴弾の爆発に巻き込まれた者は視覚、聴覚を奪われ、爆音によるショックで身体が数秒間硬直する。
基本的に殺傷能力は無いが、遥か昔の閃光手榴弾であれば、爆心地の側に居る者が軽度の火傷を負う程度には攻撃力が有った。
そして、クリフの使った閃光手榴弾はどう考えても20世紀の骨董品とも言える代物だった。
無論、投げたクリフ本人は両手で耳を塞いでいたが、それでも爆音は手を突き抜けて、聴覚を軽く麻痺させた。
だがそれでも大した問題は無い。後は一撃を叩き込んでケリをつけるだけなのだから。
光が治まった事を確認するとクリフは地上を見下ろした。
直視していないとは言え、閃光に包まれたクリフの目は明順応を起こしている。
月明かり程度の光源では、数メートル下の暗闇の中は全く見えないはずだが、見下ろす先には4人のボーマンの姿が朧気に見えた。
その内の1人が立ち尽くしたまま何故か燃えている。その炎により姿が浮かび上がっているようだ。

『エリアル・レイド!!』

クリフはエリアル・レイドを放った。狙いは燃えているボーマンより若干離れた位置。
まるで獲物を狙う猛禽類のような勢いで急降下し、一瞬で地面に到達する。
地面に到達した瞬間、衝撃音と共にクリフの足元から破壊エネルギーの衝撃波が発生し、ボーマン達に襲い掛かった。
ボーマン達が一体ずつ掻き消されていく。最後に残ったのは立ち尽くしたまま燃えているボーマンだ。
ショック状態が覚めていないボーマンは身を護る事も避ける事も出来ない。
そもそも攻撃されている事にも自分が燃えている事にも気付いていないだろう。
衝撃波に巻き込まれ、ボーマンは炎に焼かれながら数メートル上空に吹っ飛ばされた。
物理法則に従って頭から落下を始め、受け身を取る事すらも許されず
『ゴシャアッ!』と奇妙な音を立てて地面に激突し、そして崩れ落ちた。

(…どうだ?)
しばらく様子を伺うが、ボーマンが立ち上がる気配は無い。クリフは荒い呼吸をしながら、地面に片膝をついて座り込んだ。
(…はぁ…はぁ…やっぱ動けねえ……野郎、くたばったんだろうな?)
肉体的にも精神的にも限界だったクリフは、エリアル・レイドを撃てばしばらく動けなくなるとは予想していた。
ボーマンに直にエリアル・レイドを当てなかったのも、動けなくなった自分に貰い火するのを警戒しての事だ。
だがクリーンヒットしたとはいえ、衝撃波だけでは蹴り部分よりも攻撃力は落ちる。
おまけに、もし石畳やコンクリートの地面に落下したのならボーマンは即死だったであろうが、ここの地面は土である。
仕留め切れたかどうか今一自信が無かった。
もう1度ボーマンの様子を伺うが、動く気配は無い。死んでいるのか気を失っているだけなのかは分からないが、
「まだショック状態なだけ」と言う事は無いだろう。
何にせよ炎を消さない限りはボーマンは助かりようもない。そして、クリフに炎を消す気は全く無い。
クリフは勝利を確信し、とりあえず安堵する。

「へっ、手こずらせやがって…しかし俺も良い様だぜ。こんなんじゃミラージュのとこ行っても、足手まといにしかならねえ…」
とにかくボーマンは倒した。
後は役場に向かいミラージュを助けに行くだけなのだが、今の戦闘でクェーサー戦の傷がことごとく開いてしまっている。
クェーサー戦の時の疲労よりはマシではあるが、精神力も使い果たし、歩くのがやっとの状態だ。
どうしたものかと考えた時、ボーマンが持っているデイバッグがクリフの目に留まった。
(…こいつ回復アイテムは持ってねえのか?デイバッグは…まだ燃えてねえな)
クリフはボーマンの持ち物に対して淡い期待を抱き、デイバッグを回収しようと彼に近づいた。
炎に焼かれていて死んだ振りも無いだろうが、念の為にボーマンへの警戒は怠らない。
だが、やはりボーマンはピクリとも動かない。燃えている為に呼吸を確かめる事も出来ないので、
生きているかどうかまでは確認出来ないが、動く事は不可能だろう。
それならば、これ以上火力が強くなる前にデイバッグを回収しようと、クリフはボーマンのデイバッグに手を伸ばした。


凄まじい閃光と爆音、そして続けて鳴り響いた衝撃音に導かれて、レザードはその場所に到着した。
2人の人間が居る。1人は倒れていて燃えている。誰かは分からない。
もう1人は顔はよく見えないが、体格や格好からクリフだと判別出来た。
クリフはまだレザードの存在に気付いていない。
(クリフ?生きていたか。…ヴァルキュリアが戻るまでの間とはいえ、あの金龍から生き残るとはなかなかやる。
…と、言いたいところだが、彼が生きているという事はおそらくソフィアも生きているか…)
レザードは倒されている男を見る。
(どうやらクリフは金龍とは別の参加者に襲われたようだが…
クリフがヴァルキュリア達と別行動を取る理由は無いはず。にも拘らず今クリフが1人で戦っていたという事は、
敵は複数でやってきてヴァルキュリアとクリフが分散して戦う事となった、といったところか。
すると、ヴァルキュリアは現在も戦闘中である可能性が有るな…)
ソフィアが生きているであろう事。レナスが今も戦闘中であろう事。
この2つの推測から、レザードの胸中にある不安が広がる。
その不安は1つの目的を発生させ、レザードは瞬時に推測に基づいた計画を立てた。
(まずは確認の為、クリフに話を聞いておく必要がある。
最悪の展開を考えれば、倒されている男はとりあえず生きている方が好ましいが…)
クリフが男に近づいていく。止めを刺す気だろうか?今はそれを止めさせなくてはならない。
レザードは呪文を発動する準備を行う。かつてフレンスブルグでメルティーナを殺害した呪文だ。
レザードはクリフが燃えている男に手を伸ばしかけたところで声を掛けた。





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第113話(前編) クリフ 第113話(後編)
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第113話(前編) レザード 第113話(後編)
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