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第116話 She Has The Sticky Fingers


G-5エリアの山道。辺りは暗闇で視界が殆ど利かない。
唯一の自然光源である月明かりは密集している樹々の葉に遮られてしまっている。
稀にその隙間から僅かに射し込む光は、暗闇に目を慣らしたい人間にとってはむしろ逆効果となり、
余計に暗闇を強調しているかのようだった。

レナとプリシスの2人はランタンを点けてこの山道を下っていた。
『夜道に揺れ動く照明は人を寄せ付ける効果が有る』というのは、
この島でのたった半日だけの仲間、アリューゼがプリシスに教えてくれた事だ。
いや別に2人には誰かを呼び寄せるつもりなどは全く無い。
この暗闇の山道を歩くには、灯りを点けなければ余計に危険であり時間を取られてしまう、というだけの事だった。
一応不意打ちには備えてレナが左耳に魔眼のピアスを装着していたが、今のところピアスは何の反応も示さなかった。

「この辺だよね?レナ」
「そうね…」

もうすぐ最初の目標地点である、G-5エリアの三本の道が合流する地点に到着する。
そこには、半日程前にレナとディアスが見つけた2つの死体があるはずだった。
2人が平瀬村に行く事に決まった後、レナはまず最初にこの場所の死体の事を伝えた。
出来る事ならあのような惨殺死体など何度も見たくは無い。見ないで済むならそれに越した事は無いのだが、
この島からの脱出に繋がるかもしれない“首輪の結晶体”を回収するには
平瀬村への通り道にある彼等の死体は非常に都合が良いのだ。泣き言など言っていられなかった。


「あ…あそこかな…」
しばらく早足で進んでいると、左右に別れる道が見えてきた。倒れている2つの人間らしき物体も視界に入ってくる。
死体はレナが昼間見つけた時のままの姿のようで、周辺の荒れ具合も変わっていない。
2人は立ち止まり、レナがプリシスに話しかけた。
「酷い状態だから、覚悟しておいた方が良いわよ。…こんな言い方もあの人達に失礼かもしれないけど。でも…」
「…ねえ、レナ?――」
レナは言葉を続けようとしたが、死体を眺めていたプリシスがそれを遮って質問をする。
その声は、気のせいか若干震えているように聞こえた。
「――ここで死体見つけたのって、お昼頃って言ったよね?」
「え?…そうよ。最初の放送が終わってから…そんなに経ってなかったと思う」
「…その時から、首が斬られてたの?」
聞かれて、レナはプリシスに死体の状態までは話していなかった事を思い出す。
さっきは、ただ2つの死体がここに有る事を伝えただけたった。
「…ええ…酷いわよね…こんな事をするなんて…」
レナは再び見る事になったこの惨状に気が滅入りそうになる。
と同時に、プリシスの事が気になった。彼等に同情して塞ぎ込んだりはしないだろうか。そう思いプリシスの方を振り向いた。
だが、レナの心配など杞憂であるかの様に、何故かプリシスは死体に向かって走り出したではないか。
「プリシス!?」
プリシスは女性の死体の元に駆け寄ると、屈み込んで死体を調べ始めた。
(…首輪を回収するだけじゃないの?)
首輪の回収の為に死体の首を自分達で切断しなくてもいい、という点でも彼等の死体は都合が良かった。
だが今、どうもプリシスは首輪を回収しようとはしていない。何をしているのか、レナには見当がつかなかった。
「どうしたの?プリシス」
声をかけるがプリシスは返事を返す事無く、もう1人の死体も調べ出し、更にランタンをかざして死体周辺を調べ始めた。
視線を地面に落としながらも時折レナの方向を向くプリシスの表情は、真剣そのものだ。
どうやらレナの声は届いていない様子である。
レナは、極力死体が目に入らないようにプリシスに近付き、もう1度声をかけようとした。


プリシスはこの2つの死体を見て、瞬時に昼間発見した夢瑠の事を連想していた。
現在地からほんの半エリア程の距離だけ南に離れた地点で、
そう、まるで、この男女の死体と同じ様な状態で殺されていた夢瑠の事を。
続けて連想される事はプリシスの最も考えたくない事だったが、
『きっと状況が似ているだけで、夢瑠の事とは関係が無いに決まっている』
プリシスは無理矢理にそう思い、それを証明する為に死体を調べ始めた。
(…そんなことないよね?)
放送後に発見された死体。その1、2時間後に夢瑠達に訪れた惨劇。半エリア程度の距離。
(…まさか…だよね…?)
切り裂かれている男女の身体。切り裂かれていた夢瑠の身体。身体に残る傷跡。
(…この人達も…首輪が無い…?)
切断された首。持ち去られている首輪。
だが、調べれば調べる程、考えれば考える程、両方の出来事は関連しているようにしか思えず、
プリシスの考えたくなかった或る1つの答えが導き出される。
すなわち、彼等2人を惨殺したのもアシュトンである、という答えだ。(首輪を持ち去る理由は不明だが)
プリシスもそんな答えは認めたくはなかったが、それ以外の推論をいくら都合良く組み立ててみても、
これだけの状況証拠の前では“アシュトン犯人説”以外の推論など何の説得力も持たなかった。
「…アシュトン…」
無意識に、呟いていた。
(この人達も…あたしのせいで…)
再び遭遇したアシュトンの狂気の足跡。
ネルと夢瑠の事。レオンの腕の事。アシュトンを恨みながら退場してしまったジャックとアーチェの事。そして今の彼等の事。
その足跡は否応なしにこれらの事を思い返させる。
そして思い返す度に、一度は抑え込んだプリシスの自責の念が、少しずつ膨らんで大きくなっていった。
(…あたしのせい…それじゃあ…)
だが今のプリシスには、
(あたしがアシュトンを止めなきゃ!)
泣きじゃくっていた先程までの様な自虐的な考えは無かった。
勿論、自分のせいでアシュトンを人殺しにしてしまった事や
アシュトンが死なせてしまった人達への悲しみと贖罪の気持ちは大きい。
しかしその気持ちよりも勝り、そして彼女の自責の念が働きかけたのは
“どうにかしてアシュトンを止めたい”という前向きな、希望に通じる想いだった。

(でも…止めるって言ってもどうしたらいいのかな…?
 いつもだったら…どうしてたっけ?アシュトンが落ち込んでたりしたら…
 あ、ひっぱたいて励ましてたんだ。いつもならそれで立ち直ってくれたんだけど
 今のアシュトンは『いつも』のアシュトンじゃないんだもんね…
 …ひっぱたいたくらいじゃダメだよね…人を…殺しちゃうくらい…だもん。
 こんな残酷に…何人も何人も。…あたしの為に…あたしのせいで…
 でも…あたしの為にやってるんなら…あたしにしか止められないんだよね!        「――ス」
 どうしたらいいのか…まだ分かんないけど…頑張らなきゃ!アシュトンの為にも…)    「――シス…―リシス」

そしてその想いは少しの間、プリシスを思案に暮れさせる事になっていた。
レナが呼び掛けている事にもなかなか気が付けない程に。


「…プリシス?……プリシス?」
「……ほぇ?」
何度目かの呼び掛けで、ようやくプリシスの意識はレナの呼び声を認識したようだ。
振り向いたプリシスの目は、まだ今一焦点が合っていなかった。
「…あ、ゴメンゴメン、なぁに?」
「…大丈夫?何か…あったの?」
「え?…あ、ううん!……首輪。そう、この人達の首輪がどこにも無いんだよ!」
プリシスは妙に慌てた様な態度で、微妙にチグハグな返答をした。
何かを誤魔化そうとしている?レナにはそう感じられた。
だが、プリシスの誤魔化そうとしている事も気になるが、『首輪が無い』という指摘も気になった。
「…首輪が?」
あまり直視したくなかったが、レナは死体を確認してみる。確かにどちらの死体にも首輪が無かった。
昼間はどうだったかと思い返すが、駄目だった。覚えていない。
惨殺されている事自体に気を取られ、首輪にまでは気が回っていなかったのだ。
そもそも昼間首輪が無い事に気付いていたら、この場所でわざわざ立ち止まろうとはしなかったが。
「何処かその辺りに落ちてるんじゃない?」
レナもランタンをかざして辺りを見回してみるが、少し見回した程度では周りに何が有るかまでは良く分からない。
辺りの探索をしてみようと考えたところで、
「…ん、無いと思う。多分首輪は犯人が持ってったんだよ」
プリシスがそう言い、立ち上がった。
「犯人…?こんな事をする犯人がどうして?」
自分達のように脱出を目指している者ならともかく、殺し合いに乗った者が首輪を持ち去っていく必要は無いはずだ。
「…そんなの…分かんないよ…」
プリシスは小さく、悲しそうに呟いていた。
だが小声だった為、レナは聞き取る事が出来なかった。
「え?」
「……ん!何でもないよ!さ、行こっ!」
プリシスは平瀬村の方向へ歩き出した。そのあまりにもあっさりとした様子にレナは疑問を抱く。
(…探さないの…?)
首輪は、脱出する為にはおそらく必要な物なのだ。
確かに今死体には首輪は無いのだから、彼等を殺害した犯人、もしくは他の誰かが持ち去ったと考えるのはまあ良い。
だが、それはあくまでも推測に過ぎないのだから、もう少し周辺を探してみても良いはずだろう。
なのにプリシスはあっさりと彼等の首輪を諦めてしまっている。
プリシスは“首輪は犯人が持ち去ってしまいここには無い”と『考えている』のではなく『確信している』ようだった。
「プリシス…――」
レナは思った。プリシスはここで何かに気付き、隠そうとしている。
そして、はっきりとは聞き取れなかったが、先程プリシスが考え込んでいた時に呟いていた言葉。
今思えば、名前を呟いていたような気がする。レナにある予感と不安が芽生えた。

プリシスがレナの呼び掛けに振り向いた。

(この人達を殺した犯人はアシュトンなの?)
レナはそう聞こうとした。プリシスがわざわざ誤魔化そうとする事などはそれ以外考えられなかった。
「――ううん…何でもない」
だが、聞くのは躊躇われた。
『彼等を惨殺した犯人はアシュトン』
その答えはレナ自身が聞きたくない事でもあったから。
「……うん!さ、急ご!レオン達より先に戻ろーね!」
まるでゲームでもやっているかのように言い、プリシスは前を向いて歩き出す。
レナも、胸の中に芽生えた暗い不安からは目を逸らす事にして、プリシスに続いて歩き始めた。


余談ではあるが、もし今2人がこの周辺で首輪の探索をしていれば、
もしかしたらディメンジョン・スリップを握ったロジャーの死体を見つけ出せたかもしれない。
だが、2人は探索せずにこの場から離れていく。当然、ロジャーには気付きようも無い。
誰かがロジャーを発見する時はいつになるのだろうか?いや、その時は来るのだろうか?
それはまだ、誰にも分からない。


死体の有った場所からしばらく道なりに進んだところで、レナは地図を出して進路上を確認した。
目的地である平瀬村に入るルートは現実的に考えて2つ有る。
1つはF-3を通るルート。
こちらは村から出る、または村へ入ろうとする参加者と出会う可能性が有り、比較的危険度の高いルートだ。
もう1つはH-3北西部からG-3の禁止エリアを掠めるように通過してG-2に抜けるルート。
こちらは一見したところは禁止エリアに阻まれているが、首輪の30秒の制限時間のお陰で通り抜ける事は可能だ。
そして、首輪の30秒の制限時間を知らない人物ならあまり近寄る場所ではないだろう。
つまり、他の参加者が通る可能性は低く、安全性は高いと思われる。
レナとプリシスの2人は事前に、
レオンの『エルネストは村に居る可能性が高い』という推理、
アルベルの『出来るだけ安全なルートで進む』という旨の提案から、
安全性の高いルートであるH-3ルートから平瀬村に向かう事を決めていた。

「ねえ、平瀬村に到着する前に少し休憩しない?村に着いたら…何があるか分からないし」
レナが確認していたのは、進路上で休憩を取り易そうな場所だった。
今、レナはプリシスの事を心配していた。
その理由は、先程の死体を調べていた時と、その場所から今ここに来るまでの間の、
沈痛そうに眉根を寄せて思案に沈んでいたプリシスの様子にある。
いつものプリシスだったら何かを悩んでいる時や悲しんでいる時でも、
先程の様な、露骨に思案に沈んでいる姿などは周りに見せようとせず、表向きは明るく振舞おうとするのだ。
だが、今のプリシスにはそんな様子があまり見られない。
それはつまり、感情を取り繕う余裕も無いくらいに肉体的、精神的な疲労が大きい、という事だろう。
他の参加者が集まっていると思われる平瀬村に到着してしまえば、
どんなタイミングで、どんな参加者と出会い、どんな事が起こるかは全く予測出来ないのだ。
最悪を考えれば、氷川村のガブリエル戦のような事が起こる可能性だって有る。
出来る事なら、そんな危険な場所に今の状態のプリシスをこのまま向かわせるより、
村よりも安全であるはずの進路上で少しでも休ませて疲労を回復させてやりたい。
レナはそのように考えていた。
「大丈夫大丈夫!休むのはレオン達と合流してからにしよ!」
「…でも…」
「それに、今は時間がもったいないじゃん?はやくエルネストを見つけなきゃ!」
「……そう…ね」
だがプリシスを休ませたい気持ちと同時に、『時間が無く、急がなくてはならない』という気持ちもレナの中に存在していた。
状況は刻々と変化する。いつ仲間達が危険と遭遇してもおかしくないのだから、
今はプリシスの言うように、休んでいる暇を惜しんでも仲間達を探す事を優先するべきなのは間違っていない。
いや、むしろ正しいと言えるだろう。
その気持ちも持っていたレナは、今のプリシスの言葉に自分の提案を通せる意見を持ち合わせておらず、
『プリシスを休ませたい気持ち』と『急がなくてはならない気持ち』
自分の中に在るこの2つの相反する気持ちに、無力感にも似たもどかしさをただ感じる事しか出来なかった。
そして、自分が先程のプリシスの様に沈痛そうな表情を浮かべている事には気付いていなかった。


一方のプリシスは、レナが休憩を提案した真意に、何となくではあるが気付いていた。
プリシスは目の端でレナを捉える。その表情は明らかに暗い。そして微妙に空気が重く感じられる。
(やっぱり…心配させちゃったかな?)
おそらくレナは、先程から度々上の空になっていた自分を心配してくれてあの様な事を言い出したのだろう。
心配してくれるのは純粋に嬉しい事ではあるのだが、
『自分を心配して』と言うのは『自分のせいで心配させてしまった』と言う事でもあるのだから素直に喜んでもいられない。
プリシスはアシュトンの事を考えるのは後回しにして、重くなってしまっている今の空気を何とかしようと考えた。
別に誰かが決めた訳では無いのだが、前の冒険でもパーティの雰囲気を盛り上げるのは彼女の役目だったのだ。
そのムードメーカーが自身のせいで雰囲気を暗くしてしまっては元も子もない。
(そだ!アレがあったっけ)
プリシスは自分の持ち物を思い出した。『アレ』の思い出話ならレナを元気づけられるかもしれない。
「あ、そだ。レナ、良いもの見せてあげる!」
「…良い物?」
ちょっといきなりすぎたかな?と思いながらもプリシスは自分のデイパックをまさぐり、
「じゃ~ん!」
1つの道具を取り出した。
「あ…それ」
「そ、『盗賊てぶくろ』だよ!懐かしいでしょ?」

『盗賊てぶくろ』
他人の持つアイテムを一定確率で盗む事が出来る手袋だ。
成功すればどんなに厳重に守っているアイテムでも気付かれずに盗み取れるが、
失敗すると、何処からともなく聞こえてくる『ブブー』というベタな効果音のせいで必ずばれる。


「本当、懐かしいわね。…持ってきてたの?」
「違うよ。これね、あたしの支給品の中に入ってたんだよ」
「へぇ、こんな物まで有るのね。…ふふ、クロードがよくそれ持って街中走り回ってたわよね」
レナはクロードの姿を思い出した。まだこの島でクロードとは再会出来ていない。
クロードは無事なのだろうか。放送では呼ばれてはいないが、誰かに襲われて怪我をしてないだろうか。
そのような事を考え、ほんの少し、不安で胸がチクリと痛んだ。
「な~に言ってんの。レナもじゃん」
プリシスがニンマリといった感じの笑顔で言う。
「そ、そんなことないわよ」
あまり突っ込まれたくない話に、思わず赤面して叫んでしまった。
「みんな言ってたよ!『関わり合いになりたくないカップルだな』って!」
「…もう…みんなって、ボーマンさんとエルネストさんでしょ?そんなこと言うの」
赤い顔がますます赤くなる。だが、その赤い顔からは自然と笑みが浮かんだ。レナは少し楽しい気分になってきていた。
「アハハ、当ったり~♪よく分かったじゃん!
 ね?ね?そういえばさ、リンガのクロードとエルネスト覚えてる?」
空気が明るくなってきたと感じたプリシスは、話を広げようとする。1つ面白かった話を思い出したのだ。
「あれよね?クロードがエルネストさんの持ってたバトルスーツを狙って、リンガ中つけ回してたのでしょ?」
レナもその話は良く覚えている。
その時のエルネストは自分をつけ回しているクロードに気付いており、
居心地悪そうにリンガの町中をうろうろと移動していたらしい。
「そーそー。そんで何か変な本に影響されてたオペラがさ、
 『エルは渡さないわよ!クロード!』な~んて変な誤解しててボーマン先生が大笑いしてさ…」
そこまで喋ってから、プリシスはしまった、と思った。
オペラの名前を出した時からレナの表情が段々曇り出したのだ。
「あっ……えと…ゴメン」
「…ううん、平気よ」
再び暗い雰囲気に戻ってしまった。
だがプリシスは悪気があって言ったのではない。
この場を少しでも明るくしようとして言ってくれた事なのだ。それはレナにもよく分かっている。
「…ボーマンさんって言ったらクロスよね」
プリシスの『お姉さん』としては、プリシスだけに気を遣わせる訳にはいかない。今度はレナが話を始めた。
「…クロス?」
「ほら、クロスで首輪にオリハルコンつけた犬が居たじゃない?」
それはプリシスも覚えていた。確か、茶色の雑種犬だ。
「あ、あの犬?可愛かったよね~♪そだ、思い出した!
 ボーマン先生さ、『犬っころの分際でオリハルコンとは生意気だ!』とか言って盗ろうとしてたっけ!」
「そうそう!結局失敗しちゃって。たまたまそばに居たアシュトンと一緒にその犬に追いかけられて、
 ボーマンさん『アシュトン!お前犠牲になれ…」
プリシスの顔を見て、レナはハッ、と口に手を当てた。
プリシスの笑顔は先程のレナ同様、徐々に悲しげな、力の無い笑みに変わっていく。
今は『アシュトン』は禁句に近い言葉だった。
「あ…ごめんね…」
「……ううん!い~んだよ。楽しかった事を話してるだけじゃん!」
「…そうよね…」
「…そうだよ…」

楽しかった思い出話。
そう、かつての冒険は辛い事も有ったが、思い返してみれば楽しかった思い出ばかりが蘇る。
いや、辛かった事だって、今になってみれば笑いながら話せているのだ。
きっと10年、20年と経っても、何十年も経ってみんながヨボヨボの老人になっても、
あの冒険は楽しい思い出として心に刻み込まれていたはずなのだ。
…こんな事に巻き込まれさえしなければ。

今の気持ちを素直に表すかの様に沈黙が2人を包み、笑みは無くなった。
並んで歩いていた2人だったが、プリシスの歩みがやや遅れ始めた。

2人はかつての冒険を思い出して、理解した。
あの冒険の思い出は今、痛みと悲しみに包まれているのだ。
決して傷の有った思い出ではない。つい2日前までは、ただ楽しかった思い出だった。
その思い出を、何故今は思い出すとこんなにも心が痛むのだろうか。
理由は分かっている。
この無意味な殺し合いが、仲間達を傷つけているからだ。仲間達との思い出や絆までをも傷つけているからだ。
では、何故楽しかった思い出を、こんなにも悲しく思い返さなくてはならないのだろうか。
何故レナが、プリシスが、他の皆がこんな思いをしなくてはならないのだろうか。
その答えは、2人には出せなかった。
(…え?)(…え?)
代わりに、2人は気付いてしまった。
(もしかして…ずっと…?)(もしかして…ずっと…?)
あの冒険を、今までのように楽しく笑って思い出せる日は、もう二度と来ないのだという事を。
どうしたってレナを人質に取ったオペラの事を思い出してしまうのだから。
何の躊躇いも無くレオンの腕を切断したアシュトンの事を思い出してしまうのだから。
こんな事で命を散らせてしまった仲間達の事を思い出してしまうのだから…

その事に気付いた2人は、心が抉り取られたかのような、激しい喪失感を感じた。
その喪失感は瞬く間に胸全体に広がり、大きな痛みへと変化する。
今までに経験した事の無い形の喪失感と、全く想定していなかった痛みに不意を衝かれた2人は
思わず泣き出したくなった。声を上げて泣いてしまいたい。

(駄目よ!私が泣いたらきっとプリシスも泣き出すもの。
 堪えなきゃ!私はプリシスの『お姉さん』なんだから!)
レナは、無意識にまばたきを繰り返していた。涙を堪える為だ。
自分がしっかりしなくてはプリシスを護る事は出来ないのだから、泣く訳にはいかない。

(だめだめ!…あたしが泣いたらレナも泣いちゃうよ。
 …我慢しなくちゃ……あたしは…ムード…メーカー…だもん…!)
プリシスは盗賊てぶくろを手に装着すると、後ろからレナに近寄り、スッ、と手を動かしてレナを追い抜いた。
「へへ~」
プリシスは後ろ向きのまま手に持った短剣を掲げ、レナに見せる。
「え…?何それ?…ってちょっと!?プリシス!?」
レナは自分の腰に手を当てる。無い。腰に挿していた短剣が無くなっている。
するとやはりプリシスが持っている短剣は…
「成功~♪」
プリシスはレナの方を振り向く事なく、そのまま走り出した。
「『成功~♪』じゃないわよ!ちょっと、待ちなさい、プリシス!」

(ゴメンね、レナ…今は…待てないんだ…)
プリシスは泣いていた。
プリシスの泣くまいとする想いとは裏腹に、彼女の喉は強張り、胸は熱くなり始め、涙が溢れ出てくる。どうしても止められない。
せめてムードメーカーとして、泣き顔をレナに見せる訳には行かなかった。見られたくなかった。
だから逃げる。涙が止まるまで、逃げなくてはいけない。レナにこれ以上心配させない為に。この場を暗くさせない為に。
それがムードメーカーとしての役目なのだから。

(ごめんなさいプリシス…『お姉さん』なのにあなたを慰める事が出来なくて…)
レナはプリシスが泣いているのに気付いていた。
プリシスは気付かれてないと思っているようだが、彼女の声は涙声で上擦っていた。
それにレナも涙を堪える事が出来ているだけで、プリシスと同じ気持ちなのだ。
いくら誤魔化そうとしても分かってしまう。
そして、同じ気持ちである分、この暗く憂鬱な気分を晴らす方法が無い事にも気付いていた。
どうすればこの気分が晴れるのかレナには分からない。
つまり、同じ様に落ち込むプリシスを慰める方法も分からなかった。
(だから、この鬼ごっこには付き合ってあげるね。あなたの気が済むまで…)
「プリシス!待ちなさいってばー!」
レナも走り出した。プリシスを追いかけるのだ。
この悲しい鬼ごっこが終わるまでは、せめて、何も気付かない振りをして。
自分に出来る事はそれくらいしか思いつかないのだから。

レナの目に再び涙がにじむ。レナはそれをこぼさないように空を見上げた。
樹々の隙間からは輝いてる星々が見え、涙を通して見る星の光は、様々な方向に長く伸びて広がっている。
レナにはそれがまるで、自分の代わりに星が涙を流しているように見えていた。



【H-04/黎明】
【レナ・ランフォード】[MP残量:45%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、精神的疲労大]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:プリシスと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]
[思考6:クロードに会いたい]

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(更に大きく)]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2 盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:レナと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[備考1:プリシスの支給品は盗賊てぶくろでした]
[備考2:適当なところでレナに護身刀“竜穿”を返しています]

[現在位置:H-04北東部~北部の道]

【残り21人+α?】


【盗賊てぶくろについて】
  • 盗賊てぶくろを装備すれば、他人が持つアイテムを盗む事が出来ます。
  • 盗みを行えるのは、使用者の手が対象者に触れられる距離に居る場合とします。
  • 盗む事が出来るアイテムは、装備欄か道具欄に表示されている物をランダムで1つとします。
  • デイパック自体や、食料、コンパス等の基本支給品は盗めるアイテムの対象外とします。
  • 盗んだアイテムに説明書が残っているならそれも同時に盗みます。
  • 道具の効力で盗むので、どんなに厳重に守られているアイテムでも成功すれば気付かれる事無く盗めます。
  • 失敗時には必ず盗みを行った事がばれます。失敗時の効果音が聞こえてくるかどうかはどちらでも。
  • 使用者は1人の対象者に1度盗みを試みたら、次の放送までは同じ対象者から盗む事が出来ません。
  • 成否の確率、成功時に盗めるアイテムは適当に決めて下さい。




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