第121話 夢は終わらない(ただし悪夢)(前編)


「夜は姿が見えにくいから、気合を入れナイトいけないな……」
まだ暗い夜の闇を見つめながら、クレス・アルベインは一人呟く。
夜の見張りにはかつての冒険で慣れてはいたが、立派な建造物の外で単身見張りの任に就くのはほとんど初めてのことだった。
家を取り囲む立派な塀のせいで視界が若干狭いのだが、塀の外に出ても暗すぎてよく見えないだろうと考え扉のすぐ近くで見張りをしている。
『見えもしないのに下手に見晴らしのいい場所に出て、不意打ち喰らって死にました』では洒落にもならない。
自分が暗闇で遠くが見えないからといって、他の参加者までそうであるとは限らないのだから。
双眼鏡の類が支給されている可能性もあるのだし、楽観は出来まい。
相手にはこちらを遠距離から確認する方法があるという前提でいるべきだろう。
自分が死んだら眠っているマリア達も危険になってしまう以上、慎重にならざるを得なかった。

「ん…………?」
塀で囲まれたここならば、前方に集中していればいい。
奇襲で矢で射られたとしても、何とか叩き落せるはずだ。
殺し合いに乗った者が襲ってきても大丈夫。大丈夫なのだが――

「あの光は……」
よくよく考えると、殺し合いに乗っていない者が現れた時の対策を全く考えていなかった。
特に、こちらは向こうに気付いているのに向こうがこちらに気付いていない時のことを。
かつての冒険でもモンスターの襲撃に備えた見張りしか行ったことがないということもあり、そこまで頭が回らなかった。
敵対者が現れたときの対策を万全にすることに気を取られていたのだ。

さて、ここで問題です。
マリア達を危険に晒すわけにはいかない――これを前提条件として、次の問いに答えなさい。

(問) 露骨に怪しいランタンの光が見えます。どうしますか?
①仲間かもしれない、大声で呼び止めてみよう。
②マリア達を危険には晒せない、一人で光に近付こう。
③え? 光? 何それ僕には見えないッスけどwwwwww

①――これは無い。選ぶわけにはいかない。
救えなかった人達の分も、マリア達を守ると誓ったのだ。
マリア達が眠るこの家に、危険かどうか分からぬ相手を呼び寄せるわけにはいかない。
万が一相手がダオスのような危険人物だった場合、声を頼りにレーザーをぶっ放してきてもおかしくはないのだ。
そうなってしまっては一巻の終わり。
良くて自分一人が助かり、悪ければ皆纏めて消炭である。
当然、良くても悪くてもマリア達は塵に帰る。
それだけは避けねばならない。

では、②か――しかし、これを選ぶのも躊躇われた。
現在二人は眠っている。見張りの自分を信頼し切って、だ。
つまり無防備。超無防備。これ以上ないくらい無防備。
そんな二人を放置して、危険がないと言えるだろうか?
危険人物に見つかればまず間違いなく為すすべなく殺されるだろう。
見つかる可能性自体は低いだろうが……それでも少し不安は残る。
起こしてから行くという手もあるが、時間がかかれば光を見失ってしまうだろう。
それに、疲労が溜まっているであろうマリア達を叩き起こすのも気は引ける。

では、③を選ぶべきなのだろうか。
そりゃそうだ、やりすごせばノーリスクだ。
論理的に考えたらここは黙ってかくれんぼ、だ。

(でも、それでいいのか?)

何としてでもマリアを守りたい――その気持ちに嘘はない。
だが、その気持ちは『マリア以外の全ての人を見捨ることも厭わない』ということと必ずしもイコールの関係ではないはずだ。
もし『何としてでもマリアを守る=他の全ての者を見捨てる』なんて公式が成り立つなら、今頃自分はミランダを殺害していなければおかしいのだから。
そして島中の人間(それこそ、チェスターですら、だ)を殺し尽くし、最後の二人になったところで自害する。
それなら、手段を選ばずマリアを守ることができる。
しかし、クレスは決してその方法を選ばなかった。マリアだってそんな方法を認めはしないだろう。
よって、少なくとも自分とマリアの二人の中では、『何としてでもマリアを守る≠他の全ての者を見捨てる』なのだと言える。
つまり、ここで明かりをつけてる何者かを無視する(相手が殺し合いに乗り気じゃない者と仮定したうえで言い換えるなら、『見殺しにする』)ことだけが、『マリアを守る行為』というわけではないのだ。
マリアの安全を確保できれば、別に接触を図っても問題ないはずである。
後のことを考えると仲間がいるに越した事はないし、何よりあの光がチェスターという可能性もある。
むしろ、ここで明かりと接触し仲間を増やすことこそが、『マリアを守る』ということに繋がるのではないだろうか。

(そうだ、僕がやらなきゃいけないんだ。マリアさ……マリアにこれ以上負担をかけないためにも)

仲間を増やすことは、自分の仕事だと思っている。
黒髪の剣士との戦いで助けてもらった恩を返すため、というわけではない。
今のところ、頭を使う仕事は全てマリアがたった一人でしているからだ。
先程の考察もそうだし、ボーマンやミランダのことを信頼できるか否かの件など、論理的に考えねばいけない場面は全て彼女が請け負っている。
かといって、自分はその役目を代わりに負ってやれるかと言うと……正直、無理じゃないだろうか。
だが、それ以外のことなら。自分にでも出来る仕事なら、代わりに引き受けることが出来る。

(もう、マリアさんのあんな姿は見たくない)

マリアは決して完璧超人などではない。
負担をかけすぎれば壊れてしまう、ただの女の子なのだ。
彼女一人に任せっぱなしにしてしまうと、いつ壊れてしまってもおかしくない。
ならば、マリアの代わりに出来ることを引き受けることこそマリアを守ることに繋がるはず。
誰かを信じ、仲間を増やすという仕事を引き受けることこそが、だ。
それなのに、一体どうして明かりの主をスルーすることができようか。いや、できない!(反語)

(なら、どうする? 僕に何が出来る!?)

しかし先程も考えたように、無策で近づいてマリアを危険な目に遭わせるわけにもいかないのだ。
ただの時空剣士に過ぎない自分に、一体何が出来るだろうか。
どうすれば、マリア達の危険を減らしつつ明かりの主に接触することができるだろうか。

(僕に出来ること……僕に出来ることは――――)

戦うこと。時空剣士として、クレス・アルベインとして。
剣を持って、皆の笑顔を守ること。
それが、僕に出来る唯一のこと。

(笑顔、か……)

のんびり思い出に浸る余裕はないのだが、それでもどうしても昔に思いを馳せてしまう。
皆で笑っていられた日。
アーチェとチェスターが騒いでて、それをクラースさんが見守っていて。
笑顔のミントと、対照的にクールな表情のすずちゃんがいて。
そんな日々。
そして、それから、両親やバークライト兄妹とトーティス村にいた日のこと。
あの頃も、笑顔に囲まれていたっけ。

(そうだ、これなら――!)






☆  ★  ☆  ★  ☆






「さて……誰か来てくれるかなぁ」
入村し鬼ごっこを終えるなり、プリシスはランタンを高々と掲げた。
次の行動までに変な間が開いたら、また嫌なことを考えちゃいそうだから。
だから、これみよがしに次の行動に移ってみせた。
「そうね……ランタンの明かりを見て、誰か来てくれたらいいんだけど」
が、エルネストを効率的に探し出すため取ったこの手段も、また別の形でプリシスの心に影を落としかけていた。

――アリューゼ。

プリシスがこの殺し合いの場で、最初に出会ったぶっきらぼうな男。
人を誘き寄せるためにランタンを使うというアイデアは、アリューゼが考えたものだった。
彼が掲げていた位置までランタンを持ち上げると、嫌でも彼を思い出してしまう。
それでも、やはり目立たせるにはそれなりの高さで掲げておかねばなるまい。
こうして目立った位置のランタンの明かりに呼び寄せられた参加者と接触する。
この作戦には本当に助けられた。
これのおかげでアルベルに出会い、その末にレナ達とも出会えたのだ。
アリューゼには感謝しても感謝し切れない。
たったの数時間だけだったが、それでも大切な仲間だった。

――アリューゼとは何だかんだでいいコンビだったと、プリシスは思っている。
でも、もうアリューゼとコンビは組めない。
二度と並んで歩くことはできない。
プリシスを守って死んだから。
だから、もう、二度と――

(大丈夫、涙は出ない……こんなところで立ち止まっていられない……)

鬼ごっこで少しばかり心の整理が出来たおかげで、落ち込みはしても涙は流さずに済んだ。
動揺ばかりしているわけにはいかない。
ランタンを掲げ、レナと共に村を行く。
再び会話が途切れたことに若干の気まずさを覚えながらも、立ち止まらないで歩いていく。
そうしていると、ソレは突然訪れた。

「おーーーーーーーーーーーーーーい!」

人の声。それも、友好的な声色の。
あまりに能天気すぎて逆に怪しいくらいの声で、プリシス達は話しかけられたのだ。
しかし、少し怪しいからといって退くくらいなら最初からランタンで人など集めない。
声のした方を振り向き、こちらが殺し合いに乗っていないことを言葉にして伝えようと口を開いた。

「……………………」

しかし、半開きにされた口から、すぐに言葉が発せられることはなかった。
声をかけてくれた男の恰好が想定外だった故に、ついつい言葉をなくしたのだ。

具体的に言うと、半裸。
いや、半裸というには肌色の面積が大きいから、8割裸とでも言うのだろうか。
布地と言えば、腰に括りつけた真っ赤なバンダナのみである。
申し訳程度にバンダナに付けられたポイズンチェックが、目にポイズンな股間の魔チン剣を一応は隠してくれているが……
一歩間違えずとも十二分に露出狂、とりあえず変態と呼んでも差支えはないだろう。
それも『変態世界に片足を突っ込んでいる』などという可愛らしレベルの変態ではなく、『変態世界にルパンダイブで突っ込んでいる』と言った方が良さそうなハイレベルな変態である。
「泥沼に足から突っ込んでれば窒息まで猶予があったが、顔面からとは……お前はもう、(社会的に)死んでいる」とでも言ってやりたいほどに。
実際には眼前の男の変態歴は初心者同然なのだが、爽やかすぎる笑顔と殺し合いという環境とのギャップが一層変態度を割り増しして見せていた。

「僕は殺し合いには乗っていない!」

いいからパトカーに乗って下さい。
そしてそのまま反省するまで閉じ込められていてください。

「格好はおかしいかもしれないが、僕を信じてほしい!」

狂っている自覚があったことに、プリシスは衝撃を受けた。
しかし、かといって目の前の狂人の評価が引っ繰り返ることなどない。
狂っているのを自覚していてなおも狂った行いを続ける者は、並の狂人より悪質である。
『ダメと分かってるのに、でも……やっちゃう……っ』という辺りは、地球で度々報道されてた麻薬とやらの効能に似ている。
支給された麻薬(良くない薬という話だ)でも吸って頭のネジがダース単位で吹き飛んでしまったのだろうか。
――大丈夫、シャブ中の講和キボンだよ。
何とも信用できない響きである。

しかし、眼前の変態が殺し合いに乗っているとは、プリシスには思えなかったのは事実である。
とてもじゃないが正気だとは思えないが、同様に殺人方面の狂気に染まっているようにも思えない。
というか、こんな格好で連続殺人を犯せる者など宇宙全体を見回しても極々少数ではないだろうか。

いや――もしかしたら、目の前の男はそもそもに変態方面の狂気にすら魅入られていないのかもしれない。
プリシスは、頭の中でそう思い始めている。
相手が殺し合いに乗っていないという前提で相手の格好を見れば、その格好に理由付けができるのだ。
例えば、本来身に着けていたものだと予測できるタイツをとランタンを物干しざおに括りつけて振り回しているのは自己アピールのためだと言えるし、
脇に抱えている布の塊からガランガランと音がしているのも自分の位置を視覚以外でもアピールするためだろう。
声だけでも十分には思えるが、自分を見つけてほしい身からすれば音を鳴らすに越したことはあるまい。
そう、もしかしたら敵意をないことを示すためにあんな格好をしているのかもしれないのだ。
どこかの世界の雪国では全裸になることで相手の信頼を勝ち得た者もいるという話だから。
だとしたら、変態ではない仲間を得ることができる絶好の機会と言えよう。
本物の変態は外見からは合理性などまるで感じられないものである。どこぞの不審者キングとか。

しかし、しかしだ。
相手が人工変態(変態ぶっているだけの偽造変態さんの意)という可能性が大いにあると理解していながら、それでもなお、プリシスは叫ばずにはいられなかった。
絹を裂くような悲鳴をレナが上げてしまうのと同時に、




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   .・. ・ ・. ・     へ \  _..-''''''~'i    l,゙,゙.... -ィ'ゞ'゙゙|´                 ゞ  ./    ノ   !
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――と。






☆  ★  ☆  ★  ☆






結論から言うと、クレスとレナ達との合流は予想以上にスムーズに進んだ。
両者共に殺し合いを止めたいと願う者なのだから当然と言えば当然なのだが、アルベルとの時がそうであったように、誤解から揉めることも少なくはない。
そんな状況の中、第一印象が最悪であろうクレスとレナ達がすんなり手を取り合えたのは僥倖と言える。

「いや、ほんと、さすがにアレは酷かったと思うな」

苦笑を浮かべ、プリシスが苦言を呈する。
勿論、机を挟んで向かいに座ったクレスにだ。
今現在クレスは普通に服を着ている。
クレスがあのような凶行に走ったのには理由があり、クレスは別に変態さんでは無いのだから当然と言えば当然なのだが。
むしろ別に変態さんでもないのに延々珍妙な格好を続けているどこぞのヴァンパイアの方がおかしいのだと言えよう。

「いや、その……咄嗟に思いついたのがアレだけだったから……」
「まぁ、確かに『殺し合いに乗ってるんじゃないか』なんて微塵も疑いはしなかったけどさ、またちょっと違う危機感を覚えてたよ」
「ご、ごめん……」

やはりというか何というか、会話がぎこちなくなってしまう。
勿論、先程までの珍妙な格好のせいである。
しかし、クレスはあの格好をしたことを後悔はしていない。
クレスはいくつかの狙いがあったうえで、敢えてあの格好をすることを選択していたのだから。

その狙いの一つに、プリシスの言ったような『殺し合いに乗っている人間とは思えないような格好』をすることで敵意がないことを示す、というのも確かになかったわけではない。
だが、ただそれだけでこんな恰好をしたわけではなかった。
他にも諸々の理由から、短時間の考慮の末にあの格好がベストの選択だと判断したのだ。

「そ、それにしても……まさか仲間が二人もいるなんて……ビックリよ、ね、プリシス」
「うん……ほんとにね」

若干まだ頬が引き攣っているレナ。
彼女が思ったように『仲間がいるように見えない外見』であることの方が、クレスにとっては重要であった。
普通の神経をしていたら、仲間にあんな奇行はさせまい。殺し合いの場であろうとなかろうと、だ。
……もっとも、奇行を行っているのが神をも屠る無敵のスーパー不審者王だとしたら、恐ろしくて止めることなどできないだろうが。

とにかく、仲間がいると思わせないこと。これがまず一つ目の狙いだ。
見るからに『殺し合いになんて乗ってません!』というオーラを出していた場合、相手は『一人くらい仲間がいるはず』と考えるだろう。
殺し合いに乗っていない者が、未だに一人ということはさすがにあるまい――恐らく大半の者はそう考えるだろうから。
仲間と死別して現在一人という可能性は大いにあっても、慎重な者なら仲間がこちらにいることを考慮してくるだろう。
そうなると、ランタンの光を見て寄ってきた殺人鬼に姿を目撃されるとまずい。
「向こうはランタンの奴と合流するなり殺し合うなりするだろうから、今はあっちはパスしておくか。今の内に、折角だからこいつの現れた民家の方を調べるか」なんてことになる可能性は決して低くはない。
そうなれば当然マリア達は見つかってしまう。
姿を見られたせいでマリア達が奇襲されて殺されました、なんてことになりでもしたら目も当てられない。

二つ目の狙いは非常にシンプルで、『誰よりも目立つこと』だった。
言うまでもなく、周りの人間の注意を自分一人に向けることで、少しでもマリア達の安全を確保しようという意図がある。
あれだけ珍妙な格好で派手に騒げば、自分に注目せざるを得まい。
殺し合いに乗った第三者がランタンの明かりに惹かれて近付いてきていたとしても、恐ろしく無防備に見える自分を真っ先に襲うだろう。
つまり、ランタンの持ち主が襲われる危険性まで減らせるのだ。
多くの人を救いたいクレスにとっては一石二鳥なのである。

勿論自分が襲われる可能性がグンと上がるわけだが、不意打ちを回避するくらいなら何とかなるはずだと考え、脳天気な表情とは裏腹にきちんと気は張り詰めておいた。
初撃さえ何とか凌げれば、後は空間翔転移で逃げたっていい。
それならば、マリア達の待つ民家に追跡されずに戻ることができる。
なお、いきなりランタンの持ち主の側に転移することをしなかったのは、単純にTPの問題だった。
片道分なら余裕であるが、戦闘は不利と判断し撤退する際の帰りの分(それと、牽制で放つであろう技の分)まで残っているかと言われたら疑問が残る。
出血のせいかブランクのせいか、はたまた制限というやつか――とにかく、先の戦いでは今までよりも使用後に疲労感があった。
かつての冒険の時と同じ配分で連発できると思っていたら痛い目に逢うだろう。

それに、直接相手の近くに転移しなかったのにはもう一つ理由がある。
相手に不必要な驚きを与えたら反射的に攻撃されかねない、と思ったからだ。
その点今回の作戦なら、『うっかり恐怖のあまり攻撃してしまった』が通用する射程の外で相手を驚かせるため、殺し合いに乗っていない者同士で事故が起こる確率は減らせる。
仮に自分への恐怖から攻撃してきた場合、攻撃後に逃げようとするなり「来るな」と叫ぶなりするだろうから、相手がどういう意図で襲ってきたかを比較的判断しやすい。
剣の間合いから出ているというのも重要なポイントである。
相手が恐怖に駆られていた場合、剣ならばやたらめったに振るうだろうから受けきるので手一杯になりやすい。
しかし遠距離でこちらに気付かせれば、恐怖に駆られた相手が攻撃してきたとしても、比較的楽に対処することができるのだ。
弓矢ならば一発防げば次が来るまでに時間があるし、魔術は攻撃前に詠唱のための時間が出来る。
その時間で相手の表情からスタンスを読み取ることや説得を試みることが可能かもしれない。
何より連続した攻撃でない限り、隙をついて撤退なり攻撃なりに転じられる。
これらは三つ目の狙いと言っていいかもしれない。

それから四つ目の狙い、これはランタンの持ち主が顔見知りだった時用の対策だ。
勿論、チェスターやクラース相手に醜態を見せつけることが目的ではない。
菅原神社で襲ってきた男こそを対象とした作戦だ。
菅原神社はここから近い。殺し合いに乗った例の男と再会してもおかしくはないのだ。
こちらの名前を知らないと仮定した場合、おそらく自分が生きていることは相手にとって想定外のことだろう。
あれだけの傷を受けたら、普通は助からないのだから。
そんな相手が、死んだと思っていた相手が、どんなジャンルの変態を目指してるのかすら分からないほど珍妙な格好で再び目の前に現れたらどうなるか――
まず冷静な思考などできないのではないだろうか。
それこそ数秒間硬直してもおかしくはない。
向こうはランタンを手にしているのだから、相手がこちらを視認する頃にはこちらも相手を視認できる。
つまり、相手が硬直している間にこちらはランタンの主が殺し合いに乗ったよく知る顔だと判断することができるのだ。
相手が確実にゲームに乗っていることが分かれば、先手を打って攻撃することも素早く逃走することも可能なのである。

とはいえ、戦闘しようにも獲物はただの“玩具のバット”だ。正直言って勝ち目は薄い。
本当にランタンの主が例の男だった場合、おそらく逃走していただろう。男は黙って空間翔転移。
マリアを守るためにも、自殺に等しい危険な行動は取れないのだから。
ちなみにこのバットは『剣がないのならせめて棒状のものでも』と思って家探しした時に見つけたもので、幼児が遊びで使うプラスチック製のものだ。
バット自身の耐久力も大したことがないせいで、釘でも刺しておかない限り殺傷能力はほぼゼロである。
なお、セットでついていたボールは、脱いだ鎧の中に入れマントで全体を包むことで振動で音が鳴る小道具にした。
無論、存在感アピールの為の小細工である。

「今2人とも眠っているんだけど……起こしてきた方がいいかな」

何にせよ、おかげでマリア達を危険な目に遭わせずに二人の仲間を得ることが出来た。
トーティスの皆に感謝せねばなるまい。
皆が笑顔だった頃のトーティス村に思いを馳せた際、この作戦を思い付いたのだから。
具体的には、トーティスの宴会で大人が脱いだり珍妙な格好をしたりして笑いを取っているのを思い出し、この作戦に思い至ったのだ。
人生一体何がプラスに働くのか分からないものである。

「ああ、いや、大丈夫だよ。疲れてるだろうし、寝かせてあげて。
 ……それよりさ、エルネストって知らない? 金髪で、目が三つあるんだけど」

礼を述べながら浮かせかけた腰を落とす。
再び気まずい雰囲気が訪れるのではないかと若干不安だったのだが、どうやら相手が話を振ってくれることで微妙な空気は回避できたらしい。

「いや、残念だけど……」
「そっか……やっぱそう簡単にはいかないなぁ」

ははっと笑いながら、目の前に座ったプリシスが頭を掻く。
どうやら、エルネストなる人物を探してランタンによる人集めをしていたらしい。

「仲間、かい?」
「ええ……」
「それもあるけど、エルネストを探してるのにはまたちょっと特別な理由があるんだよね」

クレスを信用に足る人物か考えていたのか、しばし間をおいてからプリシスが切り出した。
口頭ではなく、デイパックから取り出した紙を使って。
「実は、私達、脱出のためのヒントを得たんだ」から始まったその話は、クレスの想像を遥かに超えたものだった。
エルネストが如何に頼れる人物かを口頭で語りながらプリシスが紙に書いた首輪の詳細。
首輪の中身。爆薬。紅い宝玉。盗聴器の存在以外、全て初めて聞いた情報だった。
そして口頭で伝えられた、謎の台座と不思議な古代文字の存在。そしてそれを解読できるかもしれないというエルネストのこと。
正直話は半分ほどしか理解することができなかったが、それでも目の前の二人の少女が自分達より遥かに首輪の解除に近い位置にいるということは理解できた。
ちなみに一応フォローしておくと、理解できない理由の大半は他世界の知識の不足と己の目で見てないが故の実感の無さからくるものであり、クレスが格別残念なおつむを所有しているわけではない。

『すごい……でも、よかったのかい? 台座のこと、口で言っちゃって』」
『だいじょぶだいじょぶ、前にも堂々口にしたけど何にもされなかったから。
 まぁ、堂々置いてあった台座だし、ルシファーは問題ないと思ってるんじゃないかな。
 解読できるはずがないって考えてるのか、解読されて首輪外されても困らないって思ってるのか、そもそも首輪を外すヒントじゃないのか知らないけど。
 何にせよ、自信があるのかあんまり焦ってなさそうなのは確かだね』

自信――確かに、ルシファーにはそれなりの自信はあるだろう。
一度マリア達にやられているとはいえ、仮にも世界の創造主だ。
おそらく自信のあるシステムを創造してからこの殺し合いを開いたのだろう。
この悪趣味な企画の目的が“参加者同士の殺し合い”ならば、制裁行為は極力行わず自慢のシステムに胡坐をかいて無駄な足掻きを眺めているのが一番だ。
ルシファーも、そうしているのではないだろうか。
クレスはそんなことを考え、それからプリシス達がルシファーがどういう人物かよくわかっていない可能性に思い至った。

「……その、僕からも……話しておかないといけないことがあります」

プリシス達からは、本当に貴重な情報を貰った。
ルシファー打倒の策を進めながらも首輪解除はまるで進んでいなかったクレス達にとって、プリシス達の情報は有り難くないわけなどなかった。
ならば、相応の礼はしなくてはならないだろう。
マリア達の正体が関連する辺りには触れないでおくが、一応ルシファーについては説明しておこう。
そう考え、クレスは筆記具と紙を取り出した。
そして、マリアが自分にしたように、『驚くかもしれないが、絶対声には出さないで』と書いた紙を二人に見せる。
二人が頷いた後、クレスは再び筆記具を走らせた。

『ルシファーのことです。かつてルシファーと戦った僕の仲間からの情報です』

口では適当に手持ちアイテムの貧弱さについて訴えながら、紙の上にはルシファーの秘密を書き込んでいく。
ルシファーが創造主だということ。ルシファーがES世界そのものとなったこと。そして願望を実現する能力を得たこと。
それらを簡潔に紙に書き、二人へと伝えた。
だが――――

「………………」
「………………」

二人は難しい顔をしている。
敵の強大さに頭を抱えているのではない。
クレスの話をすんなり信用する気になれず、頭を悩ませているのだ。
クレスが嘘を吐くような人間には見えないが、それでもこの話はいくらなんでも荒唐無稽にも程がある。
その出鱈目なスケールのせいで、レナは今一つ実感が湧かないでいる。

しかし、プリシスがクレスの情報を素直に受け取らないでいるのには、レナとはまたちょっと違った理由があった。
それは、単純な説明不足。
確かにクレスはマリアの言っていたことを理解したし、そのうえでマリアと話し合った。
しかし、『解説を聞いて理解し、結論部分を他人に教えることが出来る』のと『完全に理解し、如何にしてその結論に至ったのかという過程までもを完璧に解説することが出来る』のとでは、天と地ほどの開きがある。
聞いた話を理解し要点を説明することはできても、細部までしっかりと覚えているわけではないクレスには、その説明に説得力を持たせられない。
その結果、プリシスにとって『その可能性もあるけど、何か突飛でイマイチ納得しがたい説』程度の印象になってしまったのだ。
マリアが起きていて彼女自身が説明していればまた違った結果になっていたのだろうが……

「信じてもらえない、かな……?」
「いや、信じてないわけじゃぁないんだけどさ……うーん……とりあえず、後でアルベルにも意見を聞いてみようかな」
「アルベル? ……って、マリアさんと一緒にルシファーを倒したっていう?」

プリシスの口から出た『アルベル』という単語に、思わずクレスは身を乗り出して聞き返してしまう。
マリアから聞いていた、マリアの仲間の名前。
まさか、プリシス達に別行動中の仲間がいたとは。
マリアに伝えたら喜ぶだろう。

「あはは、いやー、クレスが『マリア』って名前を出した時に教えるべきかなーって思ったんだけど、話の腰折っちゃ悪いかなあと」
「もう一人の仲間のレオンと一緒に、エルネストさんを探すべく今は北に向かってます。
 けど、次かその次の放送で待ち合わせる約束なので、きっとすぐに会えますよ」
「いやー、それにしてもよかったよ。純粋無垢なレオンを変態界のイセリア・クィーンと出会わなくて済んだんだから。
 あ、クレスは男だしキングだね。ミセタガリヤ・キング、ってとこかな」

残念ながら、北側にはクレスなんかとは違うホームラン級の変態さんがオールスターで集結しようとしています。
それも、善人そのものなクレスと違い、もっとドス黒いものを持った変態さん達が。

「ははは、酷いなぁ」

一頻り笑ったところで、クレスはようやくもう一つの本題へと入る。
本当は出会ってすぐに聞かねばならなかった、なのに無意識の内に尋ねることを避けていた本題。

「それで……その、アルベルさんとレオン君って子以外に、仲間は……」

知人の、もっと言うならばこの殺し合いで出会った参加者の情報。
避けては通れない、大事な大事な情報交換。
それでも無意識にとは言え避けてきたのは、アーチェの話は避けられないから。
“ここには居ない仲間”としてチェスターを紹介する時も、殺し合いに乗った者の情報を教える時にも。
必要なので勿論話さねばならないと思っているが、それでも目の前で爆死した仲間の話をすることに乗り気にはなれなかった。
珍妙な格好をしたり明るくダジャレをのたまったりする余裕が出来た今でさえ、アーチェの最期を思い出すだけで胸が締め付けられる。

「……残念ながら、ね」

そして、知人に関する情報交換を避けたがっていたのはプリシス達も同じだった。
仲間について聞かれることは、アリューゼやディアスといった先に逝った仲間を思い出してしまうことを除けばさして苦にはならないのだが――
問題は、殺し合いに乗った参加者の話。
それをするのが、堪らなく辛かった。
あれだけのことをしでかしているのだ、アシュトンの話は避けて通れない。
自分達が話さねばならないことは勿論、向こうから聞かされる可能性も大いにある。
何せ、この周辺で出会った参加者の大半がアシュトンと剣を交えていた者だったのだから。

「そっちはどうなの? マリアって人とミランダって人の他に、誰かいないの? できれば考古学に詳しい、なぁんて知り合いがいれば助かるんだけど」

だから、自然な流れでクレスへと回答者のバトンを回す。
アシュトンのことをどう言えばいいか考えるための時間稼ぎでもあった。
もしクレス達がアシュトンにとんでもない目に遭わされていたらどう言おうか。
ここにきて尚もアシュトンを説得したいプリシスは、極力揉めずにそのことを伝える方法を模索したかったのだ。

「今別行動中で合流できる可能性が高いのはチェスターっていう、青い髪の弓使いくらいかな……
 あと、ミランダにはルシオと洵って仲間がいるらしいけど、今どこにいるかも分からないし、向こうもこっちの居場所までは知らないみたいなんだ。
 それに、色々とごたついたから僕も二人の外見までは聞いてないよ」
「ほえ~、思った以上にいっぱいいるんだ……」
「あと、僕を助けてくれた人もいたって話なんだけど……
 気絶してたから直接会ったわけじゃないし、ごめん、ちょっと名前はド忘れしちゃった……
 でも、大丈夫。さっきの放送じゃまだ生きてたよ」
「もう、しっかりしてよね」

普段以上に頭を動かして珍妙な格好をしたり、一気に増えた仲間の情報に興奮したりしたせいか、クレスは恩人の名前を度忘れしてしまった。
『名前を言われたら思い出せそう』な程度のド忘れであったが、他に伝えたいこともあったので『思い出せたら言えばいいか』とさっさと次に移ってしまう。
プリシスもまた仲間となってくれそうな人物が倍増したことに興奮したのか、はたまたアシュトンの事をどう言おうか考えながら聞いていたからか。
とにかくプリシスは、クレスの言っている恩人が自分の知人の誰かであるかを確認することを怠ってしまった。
もしここで恩人がボーマンであると分かっていたら、この先のやりとりは大きく変わっていただろう。

「それから、まだ会えていないしどこに居るかも分からないけど、クラースさんなら謎の文字も読めるかもしれない。
 昔一緒に冒険していたけど、殺し合いに乗るような人じゃないし、探す価値はあると思う」
「クラース?」

予期せぬ収穫にプリシスの思考は一端中断させられる。
まさか本当に考古学に精通した知り合いがいるとは。

「考古学に精通してるのかまでは分からないけど、精霊とも契約したクラースさんなら読めてもおかしくないと思う」

精霊云々はよく分からなかったが、とにかく古文書解読に役立ちそうな人間の情報を得られたことは喜ばしい。
首輪の解除に大きく近付いたたと言えよう。

「凄い……やったわね、プリシス!」
「うん……! チェスターって人やルシオって人達、それからクレスを助けてくれたって人……
 全員無事でいるとしたら、クレス達と合わせて一気に7人も信頼できる人間に出会えたってことだもんね!
 これでレオン達も含めたら11人の大所帯だよ! 22人の内の半分が私達の仲間なんだもん、もうゴールは目の前だよ!」

そう、脱出はもはや絵空事などではない。
手を伸ばせば届く位置にまで来ているのだ。
あの頃の皆が昔のように笑いあえる日は、もう叶わない夢となった。
だが、それでもまだ、最低最悪を回避することならできる。
まだ自分は、レナは、他にも何人かの仲間は生きている。生きてまだこの島に居る。
殺し合いに乗った者が少なく見積もっても半分以上いるということは、即ちそれだけ殺し合いに乗っている者が少ないということだ。
もし、殺し合いに乗った者が後はアシュトンだけという状況になったら――そうなれば、アシュトンだけに集中して説得に専念することができる。
あの頃のように全てが元には戻らなくとも、それでもアシュトンも一緒に帰れるかもしれない。
生きてさえ、生きてさえいれば、まだ希望は0ではないのだ。
アシュトンとも、一緒に生きて脱出したい。


「あ、そういえばチェスターって人とは合流できるみたいなことを言ってたけど、今どこに居るか分かってるの?」

プリシスは夢見ていた。
クレス達と一緒に大集団を結成し、ルシファー相手に戦うのを。
アシュトンの説得にも成功し、生き残ったかつての仲間が全員手を取り合えるのを。
クレス達との出会いによって軌道に乗り、とんとん拍子に事が運ぶ――――そんな素敵で、都合のいい夢を。

「ああ、いや……僕達はあいつがどこに居るか分からないんだ……ただ、あいつは僕達がここに居ることを知ってるから。
 事を終えたら、きっと帰ってくる」

夢を見ていたプリシスは、現実を見ることを怠った。
注意深くクレスの表情を窺うことを怠った。
先程レナと鬼ごっこをしたときのように気を配ることができていれば、余計なことを聞かなくても済んだのに。

「ふぅん……何しに行ってるの?」

もっとよく考えて喋っていれば、夢から覚めずに済んだのに。

「……仇を、倒しに行ったんだ。僕とあいつの目の前で殺された、アーチェの――仲間の仇を討ちに。
 あいつは、一番アーチェと仲が良かったから……」

懐かしい名に、浮足立っていたプリシスの思考は一気に現実へと引き戻された。
アーチェとは、アシュトンの行いによって狂ってしまった少女の名だ。
あの場から逃走した彼女の名は、先程の放送で呼ばれている。
狂いかけていたアーチェは、クレス達に会って落ち着くことが出来たのだろうか。
そして、ジャックは――後から追いかけたものの結局命を落とした彼は、アーチェに追いつき仲直りすることができたのだろうか。
最も親しかったというチェスターと会えたアーチェは、そして力強い瞳で前を向いていたジャックは、幸せな最期を遂げられたのだろうか。
ほんの僅かな時間でも仲間であった者として気にならないわけがなかったが、それでもクレスの表情を見ると尋ねることなど出来なかった。
そして、間もなくプリシスはそんなことを考える余裕すら打ち砕かれる。



「その仇の名は――――クロード。クロード・C・ケニー」



夢から覚めるのはいつだって突然で。
希望に満ちた未来予想図は、意図も容易く崩れ落ちる。






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第108話 クレス 第121話(後編)
第116話 レナ 第121話(後編)
第116話 プリシス 第121話(後編)
第108話 マリア 第121話(後編)
第108話 ミランダ 第121話(後編)

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最終更新:2009年11月02日 04:57