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第126話(前編) 王子様はホウキに乗ってやってくる?


(どうする…どうすれば…!?)

逡巡するアシュトンに打ち出された弾丸のような勢いでアルベルが迫る。
咄嗟に剣を盾にして正面からそのアルベルを受け止めるアシュトン。
1歩、2歩と受け切れなかった勢いで後退するが、どうにか踏ん張り4歩目を踏み出す前に受けきる事が出来た。
交差させた互いの獲物越しに射抜くような眼光をぶつける。

「よぉ、俺の事は覚えているよな? 氷川村の近くでてめえをぶちのめした男だ」

言われるまでもない。よく覚えている。氷川村近くでレオンを斬った時その場に居合わせた男だ。その時は数本の角材だけでいいように翻弄されてしまった。

「確かあん時はあのガキを…っと!」

これ以上先を言わせるわけにはいかない。上背は向こうの方が上だが体重差と武器の重量差を利用して押し飛ばした。
即座に追撃。
紋章力を込めた切っ先で十字をきる。刀身から洩れた紋章力が蒼く透き通った燐光を放ちながら鋭く尖った氷柱を生み出した。

「『ノーザンクロス』」

矢と言うよりは槍の様なサイズの氷柱をアルベルに殺到させる。
しかし、氷の槍はアルベルに突き刺さる遥か手前で砕け散ってしまった。
アルベルと僕の間に怨霊の様なものが呻き声を上げながら薄い壁を作っている。おそらくあれでこちらの攻撃を阻んだのだろう。
距離を開け、睨み合うような格好となり僅かな時間だが考えを纏める時間が出来た。

(ギョロとウルルンの仇は獲りたい…。だけど、この悪人面とレオンを放っておいたらクロードに僕がゲームに乗っている事を知られてしまう…)

そんな中クロードが背中合わせに並んできた。チェスター達の攻撃から僕の背中を守る様に。
戦闘中も仲間の事を常に気にかけていたクロードが、いつもの様に僕をフォローしてくれた事に少し嬉しくなってしまう。

(僕は君の事を利用しようとしているのに、それでも君は変わらず僕の事を仲間だと思ってくれているんだね…)

だが、その仲間を思いやる優しさは今この場では邪魔でしかなかった。その優しさは仲間だったみんな全てに発揮される。レオンの語る真実に耳を傾ける事なく彼を殺す事なんてまずあり得ない。



「どうなってるんだアシュトン? この状況は…」

背中越しにクロードが僕に呟く。ちょうど挟み撃ちを受けている様な立ち位置に戸惑っているみたいだ。
ここで天啓にも似た閃きが舞い降りた。それはクロードの持つ優しさをも利用した悪魔のささやきでもあった。

(クロードならチェスターやソフィアを無力化しようと考えるはず…。生かしておいてくれるなら後でいくらでもあいつらを始末することも出来る! ならば…)
「クロード…。チェスター達を抑えてくれるかな? 僕はレオン達を」

僕の台詞を聞いてあわててクロードが口を開く。

「待ってくれ。アシュトン! レオンに剣を振るつもりなのか?」

クロードならそんな風に言ってくると思ってた。だから直ぐに用意してあった答えを返す。

「よく考えてクロード。あの悪そうな顔をした男。どう考えてもゲームに乗っていると思わないかい?」
「人を見た目で判断するのはあれだけど、確かに開口一番「全員ぶっとばす」なんていう奴だし…」
「だからね、僕はレオンがあいつを利用して優勝を狙ってるんじゃないかと思うんだ」
「そんな事って…」

咄嗟に考えたから無茶苦茶に聞こえるかもしれないけど、このままクロードを誘導するしかない。

「あり得なくも無い話でしょ? レオンは頭がいいから自分が正面きって戦うのは無理だと承知してると思う。
 そんな彼が生き残る為にはあいつみたいな、人を斬れれば何でも良さそうな奴はうってつけの協力者だ。
 だからまずはあいつを無力化する。その後で僕がレオンを説得するよ」
「そんな危険な役を任せるわけには…」
「いや、仮に僕がチェスター達を相手したら殺しちゃうと思う。どうしてもギョロとウルルンを僕から奪ったあいつらを許せないんだ。
 でも、クロードならそんな事はしないでしょ? みんなでここから生還するには色んな人と手を取り合っていかないとならないし…
 協力し合わなきゃいけないのはわかっているんだけど、まだ気持ちの整理がついてないんだ。だから、あっちの二人の相手を頼むよ」

当然ながらあの二人は僕がこの手で殺す。でも、こう言ってやればクロードなら…。

「判った。死ぬなよ、アシュトン! 直ぐあの二人を無力化して援護に戻るから!」

少しの間をおいてクロードはそう答えると、チェスター達の方に向かって飛び出していった。

(計画通り!)

クロードに見えない様に僕はほくそ笑んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「一体なんだってんだよあいつ…」

漸くクロードを仕留める事が出来たと思ったのに。突如として乱入してきた見るからに凶暴な顔つきの悪人面がクロードを守りやがった。
最初はクロード側の援軍かと思ったがそれも違うらしい。今はアシュトンに向かって攻撃を仕掛けている。

(いや、あんなやつの事なんてどうでもいい。また邪魔してくるって言うんならまとめてぶっ倒してやる!)

つがえた矢をクロードに向けて構えを取る。クロードは武器を構えながらアシュトンの方に向かってじりじりと後ずさっていく。
絶えず殺気を放つ俺の服の裾が引っ張られる。隣に立つソフィアが俺の服の裾を掴んでいた。

「ソフィアか…、君は下がっていてくれ。コレは俺の個人的な戦いだ。そんな事に君を巻き込むわけにはいかない。あいつは…クロードは俺が倒す!」
「私も手伝います。あの人が他の参加者を殺して回ってるのなら私はあの人を止めます。もうそんな事誰にもさせません!」

真摯な瞳で俺を見つめながらソフィアが援軍を申し出てきた。

「それに…私はもう足手まといじゃない! 誰かの役に…貴方の役に立てるっ。ルーファスさんとの約束は守れなかったけど…、
 それでも成長した私の姿を、強くなった私の姿を見せないと安心してルーファスさんが眠っていられないもの」

ソフィアの表情は真剣だ。一歩も引き下がる気は無いんだろう。彼女を危険に晒す訳にはいかないけど、矢の本数も心許ない今の俺ではクロードを倒す事は難しい。
それに、もし俺がクロードに殺されてしまったら次はきっとソフィアの番だ。それだけはやらせるわけにはいかない。だったら勝率が高い方を選ぶしかないか。

「判ったよソフィア。俺が前に出てやつを惹きつけるから援護を頼む」

そんな俺の台詞に首を振って答えるソフィア。

「いいえ、私が前に出ます。実を言うとほとんど精神力を使い切っていて強力な紋章術を使う事が出来ないんです。
 だから、補助効果のある紋章術を自分に使ってなんとか持たせます。その隙を付いてチェスターさんは攻撃を」
「そんな危険な事させられるわけ…」
「危険なのは十分承知してます。でも、私チェスターさんの事信じてますから。きっと何とかしてくれるって、絶対私を守ってくれるって信じてるから!」

そう言ってソフィアはこちらに迫るクロードと対峙するように武器を強く握り締め駆け出して行った。
もうこうなったらやるしかない。
ソフィアの活路を切り開くべくクロードの出鼻を挫く様に矢を2連射する。

(絶対にクロードを倒してみせる。それに、こんな俺の事を信じてくれたんだ。絶対にソフィアを守ってみせる!)

新たな矢を構える。残りの矢はつがえてる分を含めて後7本。この7本で蹴りをつけてやる。

(お前との因縁はここで断ち切る!)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(女の子の方が前に出てきた?)

得意の接近戦を仕掛けようと間合いを詰めるべく駆ける僕の前にチェスターといた女の子が杖を握り締めて立ちはだかる。

(いくら接近戦の分が悪いからって、こんな女の子を囮にしてまで有利な位置を取って戦うつもりなのかよ!?)

そんな行動に出た彼に対して怒りを覚えた。例え暴走して殺さなくていい人を殺したり、僕の事をずっと疑っていたりしてるとしても、それは彼の中にある正義感がそうさせるのだと思っていた。
だからきっと話し合えば分かり合えると思っていた。それがどうだ? 
いくら僕を倒すためとは言えこんなか弱い女の子を囮に使うのか? 本当は誰かを殺したいだけの危険人物なんじゃないかとさえ思えてくる。
次第にチェスターへの不信感を募らせていく僕にチェスターが放った矢が迫る。僕の進路を阻む様に放たれる一射。やはり彼はあの位置から援護をし続けるつもりみたいだ。
その一撃をサイドステップでかわす。
着地際の僅かな硬直中に更にもう一射迫る。

(無理に回避を続けていても余計に体力を消耗してしまうだけだ)

そう判断して2射目の攻撃は『エターナルスフィア』で叩き落とした。
前衛を勤めようとしている女の子を無視してチェスターに接近しようと大地を蹴る。
だが、そんな僕の目の前に彼女が現れた。瞬時に詰められるような距離ではないと思っていたのだが違った様だ。
女の子の背中から天使を連想させるような輝きを放つ白銀の翼が宿っている。
見覚えがある。レナが使うものと若干違いがあるけどあれは最上級の補助効果を誇る紋章術『エンゼルフェザー』だ。
自分自身の身体能力をブーストさせて僕に食らい付いてくるつもりみたいだ。
振り下ろされる杖を刀身で受け止める。予想以上の衝撃に軽く腕が痺れてしまう。
そのまま僕を押し込もうとしてくるが、彼女の細腕では『エンゼルフェザー』の効果が乗っていたとしても僕との腕力差は覆るものではない。
逆に押し返して彼女を突き飛ばす。

(あんまり女の子に手荒な真似はしたくないけど…黙ってやられるわけにはいかない!)

『エターナルスフィア』を虚空に走らせ星のつぶてを射出する。コレにひるんだ隙にチェスターに接近するつもりだった。
だが、放たれた星の散弾は彼女の翼から舞い落ちる羽にぶつかって打ち消されてしまった。最上級の補助呪紋の謳い文句は伊達ではないらしい。
体勢を整えた女の子が再度迫ってきた。しかし、彼女は大した脅威ではなかった。身体能力を大幅に上昇させていたとしてもこの女の子の体捌きはズブの素人のものだからだ。
これでも僕は銀河連邦軍の少尉だ。士官としての教育の他にも戦闘訓練だって受けている。この程度の動きならエクスペルに転移する前の僕にだってあしらう事が出来たはずだ。
完全に見切った攻撃を紙一重でかわして背後に回りこむ。

(ごめんね…少し眠ってて)

昏倒させるべく延髄目掛けて手刀を叩き込もうとした。
そこにチェスターからの矢が迫る。回避は出来ない。避けてしまったら彼女に矢が当たってしまうかもしれない微妙な軌道だったからだ。
打ち込もうとした手刀でその矢を払いのける。

(あいつ…見境も無く!)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(危なかった…)

ソフィアの背後に回りこみ腕を振り上げていたクロードをなんとか妨害できた。放っておいたら首を刎ねられていたかも知れない。
彼女が射線上にいたから細心の注意を払って、ソフィアには当らない様にクロードの顔面目掛け矢を射かけた。
後6本。牽制射すらまともに出来そうもない。
それにソフィアの動きはクロードに完全に見切られてしまっているみたいだった。
このままではソフィアがやられてしまうのも時間の問題だ。
だから、

(次の一撃で必ず仕留めてやる!)

直ちに移動を開始する。今の位置ではクロードを狙う射線の中にソフィアがいる。
がむしゃらに杖を打ち込んでるソフィアを横目に射撃ポジションに付く為に全力で疾走する。
ポジションに付いたら僅かでも早く攻撃に移れる様に矢筒から抜き取った矢には闘気を送り込み始める。
彼女の攻撃を軽々といなし続けるクロード。ちょこまかと動き回るあの野郎のせいで折角たどり着いた攻撃位置から確保できる射線上にソフィアが入り込んでしまった。

(あの野郎っ、ソフィアを上手く誘導して俺からの攻撃の盾にしてやがるってのか!?)

別の射撃位置を探そうと視線を周囲にめぐらす。
ところがクロードに押し返されたソフィアが尻餅をついていた。
さっきまでは踏み止まれていたが、彼女が言う補助魔法の時間が切れてしまったのだろう。
現に彼女の背中から生えていた白銀の翼は消え失せている。
もう他の位置を探すなんて出来なかった。
かなり分の悪い賭けになるが、ここで勝負に出なければソフィアが殺されてしまう。
闘気を送り込んでいた矢をつがえる。徐々に巨大化していく矢の先をクロードへと向ける。
俺が選んだ技は『大牙』だ。『屠龍』ではソフィアまで巻き込んでしまう危険がある。
それでも威力は十分お墨付きだ。
ソフィアを見下ろすクロードは攻撃準備が済んでいる俺に気付いていない。

(今しかねぇ)
「くたばれ! クソ野郎!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

あわやこの女の子を僕ごと串刺しにしかけた矢を放ったチェスターが別に場所に移動しているのを横目で捕らえながら、僕は振り下ろされる杖をかわしていた。

(くそっ、なんでそっちに行くんだ)

さっきまでの位置からこの子が射抜かれないようにと立ち位置を変えたら、それに合わせるようにチェスターも移動していた。
再度チェスターが僕を狙う射線上に彼女が入り込んでしまう。

(それとも、この子がいると僕が避けないって事に気付いてあの位置に? なんて汚い真似を!)

僕の背後でチェスターが立ち止まった気配がする。正面からこの女の子が攻撃を仕掛けてくるから当然チェスターの攻撃をかわそうものならこの子に矢が当ってしまう。
立ち位置を変えようと打ち込まれる攻撃を『エターナルスフィア』で受け止め向かって左に流して剣を払い上げた。

「きゃぁっ!」

さっきまでは押し返しても踏み止まっていた彼女だったがどうやら『エンゼルフェザー』の効力が切れてしまったらしい。

「ご、ごめん…っ!?」

尻餅をついたまま握った杖で身を守ろうと体を強張らせている女の子に歩み寄ろうとしたその時、それは僕の視界に飛び込んできた。
嗚呼、麗しの純白。
あえて何がとは言わない。
思わぬアクシデントに一瞬動きを完全に止めてしまう。

(いかん、いかん。集中しろクロード。僕の予測が正しければ直ぐにでも…)

振り返るとチェスターはさっき撃ってきた巨大な矢を再度撃とうとしていた。
予測どおりだ。さっき僕とアシュトンがもつれ合うように倒れていた時放たれたこの攻撃。あの時彼はこの攻撃を出来得る限り最速で放ったに違いなかった。
いくら倒れて動きが止まっていても、いつ体勢を整えられてしまってもおかしくないあの状況で余計な溜めの時間を取るとは思えない。
つまり、彼が放つ最後の攻撃からあの時かけていた溜めの時間を超えた場合いつでも彼は必殺の一撃を打てる状態になっているはずだ。
だから常に警戒していた。そろそろ来るものだと身構えていたからこそ反応できた。
この女の子は射線から外れている。そしてチェスターもこんな大技の後に直ぐ別の攻撃に移れるわけがない。

(今だっ!)

チェスターが矢羽を離すと同時に『兜割』で天高く跳躍する。
放たれた巨大な矢はさっきまで僕がいた場所を通り過ぎて射線上にある木々をなぎ倒しながら遥か彼方へと飛び去っていった。

「はあああぁぁぁっ!」

剣を振り上げチェスターに向かって急降下。それに対するチェスターの対応は早かった。
外れたのを見るや否や次の矢を装填し終えていた。予想していたものよりも遥かに早い。素直に彼の早撃ちスキルの高さに舌を巻く。
容赦なく僕に撃たれる矢を剣を振って切り払った。着地までにもう一度剣を振り上げて弓を壊す準備はできそうにない。
チェスターの眼前に着地。即座に『エターナルスフィア』を横薙ぎにして僕の額に狙いを定めていた矢を弓ごと反らす。
拳が届く距離まで踏み込む。対するチェスターは構えていた矢を逆手に握りなおして振り下ろしてきた。
その一撃を体を捩ってかわし、彼の鳩尾に強烈なボディーブローを浴びせた。
そのまま拳を振り抜いて殴り飛ばす。

(よし! 後はあの子をどうにかして直ぐにアシュトンの下に…)
「チェスターさんに手出しはさせない!!」

振り返るとあの女の子が巨大な紋章を大気中に浮かべた杖を構えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「追跡すべきは――」

しばしの黙考の後にブラムスさんが口を開こうとした瞬間。
メキメキッバキッと南西の方角から何やら異音がこちらに近づいてきた。
ブラムスさんもこの異常事態に気付いたらしい。喋ろうとした口を閉じ辺りを見回している。
そして、それは野太い風斬り音と共に飛来した。
丸太の様なサイズの矢が、木々をなぎ倒しながらブラムスさんに迫った。
顔面直撃コース。

「あっあぶない!」

とっさに叫ぶ僕を横目にブラムスさんは信じられない事に猛スピードで迫る巨大な矢を歯で受け止めていた。
流石ブラムスさん。僕らには出来ない事を平然とやってのける!
そこに痺れる、憧れ…、うん。憧れはしないな。
いくらなんでもハゲヅラに魔法少女コスチュームを纏うこの男に憧れる様な事は無いだろう。

「だっ大丈夫ですか」

一先ず無事そうだったが、心配だったので彼に尋ねてみた。
ブラムスさんが地面にそれを吐き出すと見る見る小さくなっていき、とうとう通常の矢のサイズまで小さくなってしまった。

「これは一体…?」
「うむ、周囲には人の気配は感じられんし、我を狙ったものではなく恐らくは流れ矢だろう」
「って事は戦っている人が?」
「近くではないようだがな」

そう言ってブラムスさんは矢が飛んできた方角を見つめた。
僕も鬱葱と茂る背の高い木々の先に目を凝らしてみるが何も見えなかった。どうやら戦っている場所はここからかなり離れているらしい。

「今の様な巨大な矢を放つ大技が飛び交っているのだ、その戦いも終盤の様だな…」
「そうですねっ、とにかく急いであっちに行きましょう。もしかしたらソフィア達が戦っているのかもしれない」
「そうしたいのは山々なのだが…」

そう言って地面に転がっている木々を指差した。鬱葱とそれこそ壁の様に生えている木々。その僅か合い間にはなぎ倒された木が転がっていてとんでもない悪路を形成している。

「こんな道では急行しようにも時間がかかってしまうだろう」
「そんな…。じゃあホウキに乗って…。駄目だあんな高い木を飛び越えて飛ぶことなんて出来ないぞ…」

陸路が駄目なら空からと思ったけど、このホウキが出せる高度の限界を超える様な木々が乱立している林の中では大した時間短縮になりそうにない。
次第に焦りが募っていく。もしかしたら、この先でソフィアが戦っているかもしれない。
いや、それどころじゃない。戦いが終盤に差し掛かっているという事は、今まさにロキやミカエルの様な凶悪な参加者に殺されようとしているかもしれない。
なまじ場所がわかっているのに光景が見えないから最悪の結末を連想してしまう。

(やっぱり、ブラムスさんに担いでもらって走り抜けるよりはホウキの方が速そうだ)

そう結論付けてホウキに跨ったその時。

「フェイトよ、これは賭けなのだが…」

そう言って押し黙っていたブラムスさんが口を開いた。
ハゲヅラが怪しく月光を照らし返していた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「あのー…、これは一体?」

不安顔のフェイトがブラムスに向かってに尋ねた。

(まぁ、無理もなかろう。いつ大事な者が殺されてしまうかわからない状況だからな)

そんな不安顔のフェイトをブラムスはソフィアが心配だからだと結論付けたが、実はそうではなかった。
ブラムスの言う賭けに身を任せたフェイトは何故かホウキに跨ったままブラムスに肩で担がれていた。
今からどんな儀式が執り行われるかと想像するだけでフェイトの不安が増大していく。

「もう一度確認しますね? これは一体?」
「うむ、では順を追って説明しよう。決着が迫る戦場にいち早く駆けつけたい。だがその道は我が走り抜ける事もそのホウキで飛び越えていく事も困難。
 故に我はお主をこのまま戦場に向かって射出しようと思う」
「ちょ…おまっ」

とんでもない事をサラリと言ってのけたブラムスに唖然とするフェイト。

「案ずるな。大体の位置は分かっている。それにそのホウキでブレーキをかければ戦場を通り過ぎてしまう事もなかろう」
(そういうことじゃねー!)

フェイトの心の叫びが聞こえる訳でもないブラムスは更に続ける。

「お主は我に先行してなんとかその場を持たせるのだ。我も可能な限り急ぐが10分程度はかかってしまうかもしれない。
 危険な任務ではあるが、この殺人遊戯から抜け出すにはフェイトやソフィアの存在は不可欠なのだ。どちらを失っても脱出は出来なくなる。
 だからこそこれは賭けだ。我の力が及ばぬ所で今後の命運を左右させる事は不本意ではあるが、両方失わずに済む方法はこれしかない」

相変わらずどこかぶっ飛んだ思考をお持ちの不審者王はフェイトの返答を待たずにホウキを握る右腕に力を込めた。
バズンッ!
隆起した上腕二頭筋が右肩口の布を破裂させた。彼の豊満な、もとい屈強な肉体を今まで包み込んでいたXLサイズを越える魔法少女コスチュームでも流石にこれは耐えられなかった様だ。
まるで槍投げの選手の様に一歩、二歩と助走を開始する。
そして、十分な勢いを付けた後に。

「ふんっどりゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

およそ、その身に纏う愛らしい魔法少女コスに似つかわしくない野太い(それこそ魔法少女に退治される様な役どころのオークとかその辺の化け物に近い)声と共にフェイトをブン投げた。

「くぁwせdrftgyふじこlp」

声にもならない絶叫を上げフェイトは今まで感じた事のないGをその身に受けながら射出されて星となった。

「死ぬなよ…フェイト」

ブン投げたフェイトに向かってそう呟いたブラムスは同じ方角に向けて走り出した。
ブラムスは失念していた。生身の人間があんな風に空を飛んだ場合それだけで死んでしまいかねないという事を。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

尻餅をついたままの身構える私に剣を持った金髪の青年が迫る。

「くたばれ! クソ野郎!!」

チェスターさんの叫び声。

(なんとか時間を稼げた…)

そう安堵したのも束の間、金髪の青年は空高く跳躍してチェスターさんの攻撃をかわしていた。
そのまま飛び掛るような格好で彼に迫っていった。

(助けなきゃっ!)

詠唱している暇なんてない。即座に『アイスニードル』を発動させる。
けれども、

(撃てない!?)

突如として襲ってくる目眩。これは紋章術に使う精神力が枯渇している時に襲ってくる症状だ。
金龍クェーサーと戦ってからずっと紋章術を使いっぱなしだった。
『フェアリィリング』のおかげでここまで持たせてこれたけど、こんな肝心な時に打ち止めなんて。
強くなったつもりだった、成長したつもりだった。
でも、それは幻想だった。

(私は無力なままだ…)

誰かに守られる事でしか生き抜いていけない無力な私のまま。
そんな私を守る為にまた一人ルーファスさんみたいに殺されようとしていた。
尚も懸命に矢を向けて戦い続けるチェスターさんの姿がどうしてもルーファスさんとダブってしまう。
全滅という言葉が脳裏をよぎる。このまま私も彼も殺されてしまう。そんな諦めにも似た感情が湧き出てくる。

――――諦めるなっ!

誰かに叱咤された気がした。そう、この声は彼の…。
彼から譲り受けた指輪で作ったネックレスを見つめる。
最早癖の様になっていた。辛い時、挫けそうな時にそのネックレスを握り締める。
そうする事でほんの少しだけど勇気が沸いてくる気がした。
最初はほんの小さな光だった。それでも次第にその光は暖かな温もりを放ちながら心の中に広がった闇を打ち払うかのように大きくなっていく。
諦めない…、諦められないっ! だって、

(約束したんだもの!)

心に巣くった弱気が全て吹き飛んでいた。代わりに絶対に負けるもんかという意志が心を満たしている。
無力なままでもいい、強くなれていたと思っていた事が例え幻想だったしても…。

(今度こそ私は、その幻想を現実に変える!!)

心に宿した勇気が精神力の限界を超えた力を引き出していく。
体内を駆け巡る魔力の奔流が形となって現出する。
チェスターさんを殴り飛ばした相手に向けて杖を向ける。
本来ならば陣を地面に描いて放つ紋章術だけれども、それではチェスターさんを巻き込んでしまう。
だから杖の先端に紋章を描いた。

「チェスターさんに手出しはさせない!!」

彼に迫る金髪の青年に向けて躊躇なく術を行使する。

「『レイ』」

描いた陣から無数の光線が標的に向かって伸びて行く。不意を完全に付いた一撃だった。
回避も出来ず直撃させたと思ったその時、青年の体の周囲に薄い光の幕のようなものが現れた。
光線がその幕に触れた瞬間、あろう事か私に向かって反射されてきた。

「えっ!?」

予想外の出来事に体を硬直させてしまい避けようとする事すらできなかった。
反転した熱線が私の体をズタズタにしていく。その衝撃に耐え切れず吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
ひっくり返る視界の中、金髪の青年は何かを呟いて剣を握ったまま私に向かって歩み寄ってくる。

「くっ…迎え…撃たなくちゃ…」

枯渇した精神力と体を襲った衝撃で次第に意識が薄れていく。それでもなんとか抗おうと震える杖を彼に向ける。
この絶体絶命の状態の中でも私はまだ諦めていなかった。
助けに来てくれる人は誰もいない。
それでも、いや、だからこそ諦めるわけにはいかなかった。

(チェスターさんを護れるのは私だけなんだから…)

だが、一歩また一歩と武器を持って私に迫る敵が非情な現実を突きつけてくる。
諦めない…諦めたくないっ! でも謝らずにはいられなかった。

(ごめんね…ルーファスさん。私もう十分にがんばったよね?
 ごめんね…チェスターさん。もう貴方を護ってあげられそうにないよ…)

涙がとめどなく溢れて来る。最後の最後まで何も出来なかった自分が情けなくて、どうしようもなくて、悲しくて。

(フェイト、もう一度会いたかったな…)

いつも私の傍にいた幼馴染。好きとはちょっと違うと思うけど私にとって大切な人。お別れを言えない事が僅かな未練。
夜空を見上げる。きっと同じ空の下にいるだろう彼に向かって最期の言葉を紡ごうとした。

その時。

私は信じられないものを見た。
その彼がホウキに乗ってやってきた。
最初は今際の際に見た幻覚だと思った。

「ソフィアから離れろぉぉぉっ!!」

その幻覚が叫び声をあげながら乗ってきたホウキを乗り捨てて舞い降りてきた。
聞き間違えるはずのないその声を幻聴だと自分に言い聞かせる。
だって、こんな都合良く彼が駆けつけてくれる事なんて有り得ない。
これが小説やドラマだったら絶体絶命のヒロインの前にヒーローが駆けつけてくれるだろう。
だけど、今私が直面しているのはフィクションではなく殺し合いを強要されているフィクション染みた現実。

ガキィンッ!

幻聴が聞こえていた耳に幻では決して放つことの出来ない金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
同時にこちらに迫ってきた金髪の青年が弾き飛ばされる。
その後姿に自然と涙がこぼれてくる。

「大丈夫かっ!? ソフィア!」

見間違えるはずがない。だっていつもこの背中は私の事を護ってくれていたのだから。

「フェイトなの?」
「あぁ」
「ほんとに、ほんとにフェイトなの?」
「そうだよ」

振り返ったフェイトが心配そうな顔で覗き込んでくる。

嬉しかった。
もう一度会えた事が嬉しかった。
無事でいてくれた事が嬉しかった。
そしてなにより、
本当の王子様みたいに私のピンチに駆けつけてくれた事が嬉しかった。
嬉し涙で前が見えない。一生懸命両手で涙をぬぐってフェイトの顔を見つめる。

「ごめん、待たせちゃったみたいだね」

謝る必要なんてどこにもないのに…。こうして来てくれるだけで胸がいっぱいだっていうのに。
嗚咽が邪魔をして声もまともに出せない。
だから私は頭を横に振った。これ以上嬉しい事はないよって、謝らなくて良いよって伝える為に。

「後は僕に任せて。少し休んでるんだ。あんなやつ僕がやっつけてやる!」

なんとか嗚咽を堪えて言葉を口にする。

「フェイトに…いっぱい話したい事があるのっ。この島に来て起きた事…、だからっ、だからねっ!」

緊張の糸が切れて今にも意識を失いそうだった私は精一杯のエールを送った。

「絶対に勝ってね…」
「あぁ!」

優しく頷き返してくれるフェイトの顔を見つめながら私は眠りについた。
彼の勝利を信じて。






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第123話 アルベル 第126話(後編)
第123話 レオン 第126話(後編)
第123話 アシュトン 第126話(後編)
第123話 クロード 第126話(後編)
第123話 チェスター 第126話(後編)
第123話 ソフィア 第126話(後編)
第120話 フェイト 第126話(後編)
第120話 ブラムス 第126話(後編)


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