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第129話(前編) とあるリーダーの戦場


「決めたわ。いい、クレス。私達は――――――――」

続く台詞を吐き出すその前に、ほんの一瞬だけ私は躊躇した。手に入れた情報を吟味した結果、これが最良の選択と言えるのか。
今の様な今後を左右する重大な決断を下した事は多々あった。それも自分の命だけではなく、自分を慕って付いてきてくれる多くの仲間の命運をも左右する大きな決断を。
その都度クリフが言うのだ。「まぁ、なるようになるんじゃねえか?」と、
そんな無責任な…等と思っていると決まってミラージュが「あまり楽観視するのは良くありませんが、マリアが決めた事なら私達みんな後悔なんてしませんよ」と私に微笑んで後押しをしてくれた。
それに続いてリーベルやマリエッタ、他のクルー達が口を揃えて「全力を尽くしますよ。リーダーが望んだ結果を手に入れる為にね」と言ってくれた。
今の自分の傍にはそんな彼らがいない。それどころかミラージュは二度と自分を励ましてくれたりはしない。
それでも、目の前の少年は彼らと同じ様に自分を頼ってくれている。いくら大切な存在とはいえ、たった一人の人間の死に大きく心を乱してしまう様な不完全な存在の自分を。
だから、そんな彼に恥じる事の無い様に振る舞おうと思う。たとえ自分が不出来なリーダーだとしても、今まで通りにこれからも。

「次の放送を待ちましょう。今から鎌石村に行っても間に合わない。それに彼女達の言う合流地点に向かって移動を開始したとしても途中で放送があるわ。
 その時に彼女達の言っていた仲間が呼ばれたとしたら大きなタイムロスになる。それにやる事ならいっぱいあるわ…、次の放送で最善の一手を打つ為に今は準備を怠らないようにしましょう」

今にも飛び出して行きそうなプリシスやレナを止めるという大変な作業が加わるが、なんとか彼女達に言って聞かせるしかない。
この期に及んで後手に回った対応である事は自覚している。こうしている間に大切な人達の命が危険に晒されているかもしれないという事も。
もし仮に戦場に駆けつけると同時に目の前で仲間が殺されたとしたら、その時に私は後悔しないのか? 今動いていたら救えていたかもしれないと。
その仲間がクリフだったら? ミラージュに続いてクリフが…しかも私の目の前で、ここに留まっていたが為に殺されてしまったら…。
考え始めたら悪い事ばかり浮かんできてしまう。そんな私の苦悩を感じ取ったのかクレスが私を励ます様に微笑んだ。

「わかりました。マリアが決めた事ならきっとうまくいくよ! いや、僕がうまく行くようにしてみせる!」

屈託の無いその笑顔。そうする事が当然だと信じきっているその顔のなんとも頼もしい事か。
彼も考えているはずだ、ここに留まっている事でチェスターが死んでしまったらと。
それでも彼は私を信じてそう言ってくれている。いや、私だけじゃないクレスはチェスターの事も信じているんだ。
でないとうまくいくなんて言葉が出て来るはずがない。チェスターは決して志半ばで倒れるはずが無いと彼は心の底から信じている。
だから、私も信じよう。クリフやかつての仲間達がそう簡単にやられるはずなんて無い。
それにクレスがここまで信頼してくれているのに、自分で自分を信じられなくてどうする。

「えぇ、頼りにしてるわ。それと…その…」

弱気になった自分を励ましてくれたクレスに対して感謝の言葉を紡ごうとしたのだが言い淀んでしまう。
たった一言ありがとうと言おうとしただけなのに、面と向かって言うとなるとなんとなく気恥ずかしい。
続く言葉を言えずにいる私に対して当の本人は頭の上に?マークを浮かべている。
なんか変に間を空けてしまった所為で余計に言いづらい。こういう時に自分のプライドの高さが疎ましく思ってしまう。

「あ…ありがとう。おかげで…その、勇気が出たわ…。こっこれからもよろしくね…」

彼から目を逸らし最後の方なんて消え入りそうな大きさだったけど何とか最後まで言えた。ったく、なんなの? 私は中学生か?

「お互い様じゃないですか! 僕もマリアの事を頼りにしてますよ。これからもよろしくお願いします!」

こっちが苦労して言った言葉をこうもさらっと言われてしまうとは…。確認は出来ないけど今の私は真っ赤な顔をしてるんだろうなと思う。

「一先ず、彼女達にもここに留まる旨を説明しましょう。ちょっと難しいかもしれないけどね」

思い出したようにそう提案した。
取り敢えず話題を変えたかったのもあるが、あの二人に事情を説明した上で協力を請うのも必要な事だ。
言った通り話を聞いてもらう事は難しいとは思うけれど、私はあまり心配していなかった。
なぜなら、私には頼りになる仲間が傍にいてくれるから。それは根拠の無い思い込みなのかもしれないけれど…。

「心配しなくても大丈夫ですよ! それに、マリアの言う事にあやマリアんて(誤りなんて)無いですって」
(もしかしたら本当に思い込みなのかもしれない…)

朗らかに笑う彼を見るとそう思わざるを得なくなってしまった。

「ちょっといいかしら?」

取り敢えずクレスの戯言はスルーして、今にも飛び出して行きそうな様子のプリシスと深刻な顔で俯いているレナに話しかける。
なにやら口論をしていた様子だが、原因はさっきの私の軽率な発言の所為だろう。
ここでの交渉の成否が今後を大きく左右すると思うと、自分の両肩に重たい重圧がかかってくる様な錯覚をしてしまう。
無理もない。私やクレスだけでなく彼女達、いや、島内の脱出を願う者達全ての命運がかかっていると言っても過言ではないのだ。

「なに?」

そう言って後ろに結ったポニーテールを揺らしながらプリシスがこっちに振り返った。その声色には若干刺々しいものを感じる。
彼女達にとっては自分達の仲間を悪く言う相手なのだから私に対する態度としてもそれは納得できる。

「貴方達はこれからどうするつもりなのかしら?」
「私は…」
「当然っ! 今すぐにでも北の方に行くわ!!」

私の問いにレナは俯いたまま言い淀み、プリシスは迷う事無く即答した。
とりあえずレナの方は説得は不要そうだ。彼女の中でもかつての仲間達に対する対応が決まってないのだろう。
状況を整理して今後の方針を決めようと迷っている訳ではなく、クロードやボーマンにどう接すればいいのかわからず考える事を放棄している様に見えるのが不安ではあるけれど
目下の所プリシスの方を説得できればここに留まってもらえそうだ。

「アルベル達との合流はどうするつもり?」
「北の方にいっぱい人がいるんだから、あの二人が直ぐ戻ってこれるわけが無い!
 ゲームに乗った奴だってきっとたくさんいるはず、だからこっちから合流しにいった方が早いよ!
 それにアシュトンやクロードが…止めないと私達がっ!!」

そう、私もそれは考えた。彼女達の話では南の方にはほとんど人がいないという。半日以上その一帯で過ごしていたのだからその情報は間違いないだろう。
そして、平瀬村周辺も同様の事が言える。私達は息を潜めていたが、それでも他の参加者を見落とさない様にしていたし、大規模な戦闘の音を聞いていない。
前回の放送で言われた人数がこの一帯で死んでいたとしたら、どれかしらは私達の耳に入るはずだ。
ならば、残りの参加者は拠点とも成り得る鎌石村を中心として、この島の北部に集中していると考えられる。
当然その中には危険な思考を持った者や優勝を狙っている者も含まれている。
そんな危険な状況下に仲間がいるとしたら…私だってイの一番に駆けつけたい。だがそれは、自分達の身を危険に晒す事と同義なのだ。
別に我が身かわいさで避けようとしているのではない。
前回の放送で知らされた生存者は22人。その内首輪解除の手掛かりを掴んだ参加者はどれ程いるだろうか?
6時間置きに10人以上も死んでいく中でそこまで辿り着いているのは彼女達だけではないか? 他はゲームに乗っていたり、私達みたいに生き残る事がやっとだった様な者ばかりなはず。
だからこそ、彼女達はもう死ぬ事すら許されないのだ。生還を望む者達にとっての最後の希望が彼女達。そんな彼女達の無謀な行いは絶対に阻止しなければ…。

「一つ、聞かせてもらってもいい?」
「なにを?」

人差し指を立てた手を向ける私に対して、プリシスが挑むような視線を向けている。

「貴方達、今の自分の価値というものを認識しているのかしら?」
「どういう事よ?」
「単刀直入に言うわ。貴方達は首輪解除の可能性を秘めた残り僅かな人物。
 それも重要な手掛かりを掴んでいるとなれば、どれだけの価値が今の貴方達にあるのか判らない訳じゃないでしょ?
 貴方達が死んだら、今いる生存者は全て、最後の一人になるまで殺し合わなければならなくなるのよ」
「そんな事…」
「あるのよ。私もこんな事は言いたくないけれど、事実として受け入れなさい。貴方達の命は誰よりも重いの。
 最早勝手に死ぬ事すら許されない程にね」

プリシスの瞳を見つめながら、一言一言に重みを持たせ彼女に言い聞かせる。
今は感情的になっているのだろうけれど、本来なら聡明な子なはず。言って聞かせる事で伝わらない道理なんて無い。

「だから、私達を行かせる訳にはいかないって事?」
「正確に言うと違うわ。無闇に危険に晒させる訳にはいかないって事よ。
 しっかりと準備をして、情報を整理してから行動するの。次の放送を待ってね。
 それに私やクレスにだってここに多くの仲間がいるわ。彼らと無事生還する為にも貴方達に手を貸す事に戸惑いは無いわ」
「手を貸す? 私は絶対にアシュトンの説得を諦めないよ。あいつがいっぱい人を殺してても。その中に貴方達の仲間が含まれていたとしてもね。
 それでも協力すると言えるの?」
「ええ」

私は彼女の問いに即答した。傍らではクレスも同意している。
さっき二人で確認した。仲間の仇でもその人物を許す事が出来るのかと。
クレスは許す事で大事な人を失う人が減るのなら許す事が自分の使命なんだと答えた。
迷いながらも、それでもしっかりと彼はそう答えた。私もそんな彼の意見に同意している。
例えその人物がミラージュを手にかけていたとしても、他の者達の未来を手にする為に必要な事なのだとしたら受け入れると決めていた。

「わかったよ。無闇に行動して痛い目見てるし、準備が必要だってのもわかるしさ。
 それにね、私が死んだら最後の一人になるまで殺し合わなければならなくなるってディアスにも言われたんだ。
 あの時よりも多くの手掛かりを手にした今なら、その言葉の意味も十分理解できるよ。
 それでも、まだまだ判らない事の方が多いんだ。だから、お願いしてもいい? 貴方達の力を私達に貸して。レナもいいよね?」
「うん」

彼女達の説得に成功した事に安堵しほっと胸を撫で下ろす。事態は徐々に好転して行っていると言える。
懸念事項といえば、私達や彼女らの仲間が次の放送で呼ばれてしまう事だが、そればかりはみんなを信じて呼ばれる事が無い様にと祈るしかない。

「当然よ。私からもお願いするわ。それと私の事はマリアって呼んで。命を預けるんだもの遠慮は無用よ」
「んじゃ、私の事もプリシスって呼び捨てにしていいよ」
「レナって呼んで下さい」
「僕の事も、クレスって呼んでくれっす! さっき自己紹介したけど…」

くれっす!と元気よく言った後私達の表情が固まったのを察してか、最後の方は蚊の泣くような小さな声になっていた。嗚呼、もうっ! この馬鹿はどうやったら治るのかしら?

コホン!
止まった時を動かすべく咳払いを一つ。
視線が私に集まった事を確認してから、口では私の視点からこの島で起こった出来事を報告しつつ、本命は首輪に対しての筆談を開始した。
先ずはクレスから聞いた内容を私なりに吟味した考察だ。

『クレスからの又聞きでの判断になるけど、首輪の構造は紋章工学を応用した様な作りだと推測されるわ。
 プリシス達の推測通り解除には優れた機械工学に対する知識と、高度な紋章力を操る技量が必須となるはず。
 解除の作業には私もいくらか力を貸す事も出来ると思けど、出来れば現物を見させて貰いたいわね』

指でOKと合図を出したプリシスが手荷物から解体した首輪の残骸と共に、いろいろ書き込まれた図面を引っ張り出してきた。

『この図面はさ。私とレオンで色々弄ってる時にわかった事や不明な事を書き留めてあるんだ。この赤字の部分が不明な所ね』
『レオンも同じ物を?』
『持ってるよ』

差し出された図面に目を通していく。機械技術の知識が必要な箇所、電気的な信号をやり取りする箇所とそれらが行き着く先にある装置の役割については十分な考察が済んでいた。
対して紋章力の流れや、その質といったものについての解析はほぼ手付かずだった。
プリシスが言うには、動力かつ制御ユニットの役割を持っているであろう結晶体については、機能が停止してしまった後に解析を始めた為、何も判らなかったそうだ。
だが、判らないなりにどういった部分がわかれば首輪の解除に繋がるのかといった所は事細かに書き込んであった。肝心の結晶体の現物は鷹野神社の怪しげな台座に埋まってるらしい。
そうなると私が見ても何も助言が出来ることがなかった。機械知識についての助言をしようとしたがこの図面は既にそれを必要としていない。

『ごめんなさい。私が口を出せる事は無さそうだわ。機械の部分はこれ以上手を加える必要は無いし、紋章学の部分は現物が無いとね』
『そっか、でもさ紋章学について詳しいならちょっと教えて欲しい所があるんだけど、なんか年下のレオンには聞きにくくて』

彼女の質問に対してはなんとか回答する事が出来た。だが一つ腑に落ちない点がある。プリシスの質問の中には一般知識として浸透しているはずの内容も含まれていたのだ。
これほどの機械技術を持っているのであれば、当然銀河連邦に加入している惑星の住人のはず。ならば、この程度の紋章学は知っていて当然なのだ。

『ところで二人の出身惑星は?』
『エクスペル』

二人とも同じ内容の紙を出してきた。エクスペルといえば400年位前に銀河連邦に加入している惑星かつ、エナジーストーンが採れる数少ない惑星として銀河連邦内部での影響力も高い。
当然紋章学についても銀河連邦の定める基準の知識は義務教育の課程で受けているはずだ。
そこで私はぴんと来た。
エクスペルのノイマンといえば、およそ400年前にマナクリーナーを発明した事で有名なあのノイマン博士がいる。おそらくだが彼女は同一人物ではないか。
きっと彼女達の言うレオンという人物も、私の知る歴史上の人物レオン博士と同一人物であろう。400年前の歴史上の偉人が目の前に、それも私よりも若い姿で存在している。
つまりルシファーは時間軸の異なる面々をここに招集したという事になる。あいつはどんな意図でこんな真似を…。

「マリア?」

思考が完全に脱線してしまっていた。必要なのは集められた人間が何故別々の時代から呼ばれたのかではない。
この首にくくりつけられている忌々しい首輪を解除する事だ。

『ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたの。一先ずやれる事といえば、紋章力を扱える私とレナが結晶体についての不明点を覚えておく事ね』
『私はどうすればいい?』
『図面も機械知識をある程度かじってる人から見れば完全に把握できる位に書き込んであるし、首輪に関する作業はなさそうね。
 出来れば、これを拳銃の形に調整して欲しいんだけれど。後弄れれば打ち出す弾の出力の調整も』

紙片と共に荷物より『サイキックガン』と出力に関する細かい仕様を書いた紙を机の上に置いた。弾丸型のエネルギーは射出されるのだが、形はスタンガンその物。
咄嗟の動作ではやはり扱いにくい。それに現在の形状では『プルートホーン』や『エイミングデバイス』の様な攻撃が行えない。

『ふーん、マリアは銃器を扱えるんだね? これなら手持ちの工具だけでなんとかなりそう。預かってる間これを使ってて。あっ、でもちゃんと返してね。
 それオペラさんの…死んじゃった仲間の使ってたやつなんだよね。確かお手製って言ってたから間違いないと思う』

プリシスは荷物から全長が160センチはあろう特大のライフル銃を取り出した。持った感触では拳銃よりも重たい代わりに長い砲身やその重さのおかげで長距離狙撃に向いていそうだ。
大型故に出力も普段使っているフェイズガンよりも高いだろう。
本来扱っているタイプの武装ではないけれど、これなら今まで出来なかった攻撃も問題なく使えるはず。ありがたく借り受けておく。
それぞれやる事は決まった。早速作業に取り掛かろうとしたその時、クレスが紙に何かを書いて一同に見せてきた。

『首輪の事で、ぼ首輪(僕には)手伝える事とかありませんか?』

なんなんだろうかこの男は…。黙っていたと思ったらこれである。悪気が無いのは流石にわかって来たが、時と場所を選んで欲しいのも確かだ。

『とりあえず黙ってて!』

プリシスがクレスの差し出した紙に直接書き込んだ。全面的に同意なのだが、シュンとしているクレスを見るといたたまれない気持ちになってきた。

『ミランダを起こしてきてくれるかしら? 彼女も治癒の紋章術の様なものが使えるからこれを見てもらいましょう』

そんな彼をフォローするように紙片を手渡すと、早速彼はミランダの眠る和室の方へと向かった。彼の背中が落ち込んで見えるのはきっと気のせいではないだろう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(うーん何がいけなかったんだろうか?)

クレスは和室に向かう道すがら自分の駄洒落が全て不発に終わってしまった事に対して思い悩んでいた。
実際煮詰まってしまう様な状況下において、彼の様に場を和ますという名目で駄洒落やなにか面白い発言をする事はあながち間違っていない。
笑いは思考を柔軟にし、視野が大きく広がる。そうする事で人の持つ創造性が刺激される。
大きな苦難に立ち向かう時にその余裕があるのと無いのとでは結果が変わってくることだろう。
だから彼は見方を変えれば大物なのかもしれない。ただ、残念な事に彼にユーモアのセンスは絶望的に無かったのであった。

「ミランダー! 起きてるかーい!? 開けるよー!?」

閉ざされたふすまを軽くノックして来室を知らせる。流石のクレスも女の子が寝ている部屋に無言で立ち入ったりしないのだった。
何回か繰り返すが中からの反応が無い。仕方が無いのでそっとそのふすまを開けて中の様子を伺う。
部屋の中では未だにミランダはすやすやと布団に包まり眠っていた。

(若干埃っぽいような…。まぁ、無人の民家だからそんなものかもな)

今この部屋に充満している物の正体を知る由もないクレスはそう思ってしまった。
だから、何も考えずその部屋に踏み込んでしまう。手をパタパタと団扇にするがそんな物まったく効果が無かった。

(あれ? なんかフラフラする様な…。そういや僕まだ寝てないんだった…。もうこのままミランダと一緒に寝ちゃおうかなぁ…ってなにを考えてるんだ僕は?)

まだ吸い込んだ『パニックパウダー』の量は微量だった為正気の方が勝っているが、いつ何かの拍子に大量に吸い込んで混乱状態に陥ってもおかしくない。
そう例えば、
「ミランダー! 起きてくださーい!」
この様に掛け布団の端の方を叩いてみたり…。

「ミランダー! おきてってばー!」
この様に布団毎ミランダを揺すってみたり…。
挙句は

「みらんだー! おきろー!」
掛け布団をガバッと捲ってみたり…。
そんな彼の不用意な行動によって布団の中に篭っていた『パニックパウダー』が全て舞い上がってしまった。
そしてそれと同時にミランダも飛び起きた。寝ている最中いきなり掛け布団を引っぺがされてしまったのだから無理もない。誰だってそうする。俺もそうする。

(なっ、なにごとでしょうか?)

急激に覚醒させられた意識の中で状況把握を素早く行うミランダ。

(私は何をしていたのでしょう? …そうだ。この部屋で眠っていました。
 目の前にいるのは誰でしょう? …クレスさんです。上手く私が潜入できたパーティーにいるかたです。彼はあろうことか神のあたえたもうたこの試練の最中マりあさんとふらちなおこないを…)

そこで彼女は一つの回答を導き出した。『パニックパウダー』をいい感じに吸い込んでうまく働かない思考回路で。

(おっ襲われるっ!! マリアさんだけに飽き足らず私にまでそのどくがにかけようと!?)

正常な思考状態の彼女ならこの様な誤解はしなかったはずである。だが残念な事に彼女は混乱状態になるのに十分な量の『パニックパウダー』を吸い込んでいた。
そして、その混乱状態のミランダの胸中で沸々と湧き上がる感情があった。
それは目の前の不届き者に対する怒り。

(神の御前で再び不埒な行いに及ぼうとするなんて…。ゆるせません! 例え神がお許しになっても、私ミランダ・ニームが許しません! この場で成敗いたします)

のそのそと無人になった布団に潜り込もうとするクレスの顎に、地を這うような位置から振り上げられる修道女アッパーが炸裂。
宙を舞って顔面から墜落したクレスは、和室の畳に盛大な接吻をする事となった。
尚も彼女の猛攻は止まらない。畳の上に崩れ落ちたクレスの胸倉を掴んで目線の位置まで持ち上げると彼に対して説教を開始する。
錯乱状態に陥ったクレスの思考回路では何故殴られたのかも、何故説教されているのかもわからない。
そんな彼に出来る事は涙目になりながら「許してくれっす」と、うわ言の様に呟くしかなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「何か和室の方が騒がしいですね?」

私と共に首輪の図面に目を通していたレナが顔を上げた。
確かに騒がしい。まったく起こしに行くだけだというのに何をしているのか?

「うっかり着替え中の部屋を開けちゃったんじゃない?」

プリシスは作業する手を止めずに無関心にそう告げた。
有り得ない話でもない。所構わず駄洒落を言い放つ彼には部屋を開ける前にノックをするとかそういった配慮が出来るとは思えない。

「はぁ~…。私が場を収めてくるわ。二人は続けてて」

ため息と共に立ち上がる私に「わかりました」と礼儀正しいレナの返事と「あいよー」とどこまでも無関心なプリシスの返事が送られた。

(まったくいざという時は頼りになるのに…平時はこんなのばかりじゃないの…)

聞けばプリシス達の前に有り得ない格好で飛び出したのだという。(彼女達の口からはクレスの名誉を守る為かどんな格好だったかまでは語られなかった)
これは説教が必要だと思いながら和室の前まで辿り着き何気なく足を踏みいれようとした。

(何? この部屋煙たい…)

ほんのちょっとだけ吸い込んでしまったが、室内の異常を感知し踏み出した足を元の位置に戻す。
部屋の中ではクレスの胸倉を掴んで怒り狂った様に何かをまくし立てているミランダと、
目の幅涙を流しながら「許してくれっす 許してくれっす」と連呼するクレスしかいなかった。

(一体何が…。あぁ、でもまずあの馬鹿面を一発殴った方がいいかしら? そうしたらかなり爽快な気分になれる気がするわ…って私は何を考えて…?
 なんか頭の中がボーっとして考えが上手く纏まらない。この煙を吸い込んでからよね…)

ここで漸く気付いた。この部屋に充満している粉末が怪しい事に。
でもどうする? 部屋の換気をしようにも奥にある窓ガラスしかない。そこに辿り着くまでに下手したら私も二人みたいになってしまう。
ああなってしまったら大変だ。さっきクレスを殴ってやろうかと思っていたからきっと彼をボコボコにしてしまう。
そして彼は晴れ上がった顔で言うのだ「許してくれっす」と。
なんかその場面を想像したら面白くなってきてしまった。っていけないわ。一刻も早く換気しないと。プリシス達にも影響が及ぶかもしれない。
こんな中敵襲があっても大変だ。

(少々手荒になるけど窓を割るしかないようね…)

だが手元に投げつけて窓を破れそうなものが一切無い。
一旦二人の所に戻って…駄目だ。服に付いてしまった粉末をあの二人が吸ってしまうかも。

(丁度いいわ。予行演習よ…)

ふすまに張ってある紙を一部引っぺがし小さく丸める。
普通ならこんなものをぶつけても窓ガラスなんて割れない。
そう”普通ならば”だ。
掌に乗せた紙くずに意識を集中させる。
『アルティネイション』を使ってこの紙くずの物質情報を改変し、窓ガラスを破壊できるようにする。

(くっ、変化はあるみたいだけど。いつもよりうまくいかない…)

恐らくは能力制限か何かなのだろう。加えて少し気を緩めるだけで元の物質に戻っていってしまう。
首筋の後ろ辺りがチリチリするような感覚を訴えてきた。これは能力を使いすぎた時に襲ってくる症状だ。

(『アルティネイション』の力も抑えられている上にシビアな時間制限まで付いているのね…)

こんな単純な構造な紙くずでさえ苦労しているのだ。仕組みが大体わかったところであんな複雑な構造の首輪には使えたもんじゃない。
それだけ判っただけでも収穫といえる。
四苦八苦しながらもどうにか紙くずの改変を終えた。だが気を抜けば直ぐにも元に戻ってしまう。
私は意を決し大きくその紙くずを振りかぶった。

ガッシャーーーン!!

小気味のいい音と共に窓ガラスに穴が穿たれる。それと共に少しずつ部屋を満たしていた粉末が外へと流れ出ていった。

(後は治癒の紋章術が使えると言っていたレナに体内の毒素を浄化する様な紋章術を使ってもらえば一段落ね…)
「なんですかっ!? 今の音? 何があったんです?」
(丁度いい…呼びに行く手間が省けたわ)
「もう少し時間を置いてからあの二人に浄化の効果がある紋章術をお願い。事情はその後彼らから聞きましょう」

後になって思い返してみれば、大きな物音を立てたのは失敗だったかもしれない。
けれど、この時正常な判断力を奪われていた私はその失敗に気付く事が出来なかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ロキとの戦闘に勝利を収めた俺達は、気絶したブレアと共に休憩に使った民家へと戻ってきていた。
小一時間ほど休憩をしてた時だった。

ガッシャーーーン!!

割と近い位置からこの音が聞こえてきのは。

「洵今の音は?」
「わからんが近い位置に他の参加者がいるようだな…。続く物音が聞こえてこないという事は戦闘中ではないようだが…」

そう言うと洵は自分の荷物と剣に手を伸ばした。

「行くつもりか?」
「当然だ」
「ブレアはどうする?」
「簀巻きにしてここに置いておくか、連れて行くしかあるまい」

流石にブレアを身動きの取れない状態にしてこの家に置いて行く訳にもいかない。
もしここに別のゲームに乗った参加者が現れたら抵抗する事無く殺されてしまう。
仕方なく俺はブレアを背負って洵の後についていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

僕はミランダと並んで居間で正座させられていた。
目の前には怖い顔をしたマリアがいる。
性質の悪い薬の効果だった事は既に聞かされている。ミランダが隠し持っていたものらしい。
ミランダ曰く武器も持っていない自分を守る為に護身用として僕らにも内緒で隠していたそうだ。
それが寝返りをうった拍子にぶちまけられてしまったのではないかという事になっている。
そう、端的に言うとあれは不慮の事故なはず。なのに僕はマリアから説教を受けていた。
やれ、配慮が足りないだの。弛んでいるだの。と色々と言われている。
そしてこの薬の性質が悪いのが、この手の薬のお約束として効果が及んでる最中の記憶は無くなっている筈なのに、不幸な事にばっちりと覚えているのだ。
それに止せばいいのに僕はうっかりマリアに言ってしまった。眠くなったからミランダの布団に潜り込もうとしてしまった事とか…。
もう完全にマリアはお叱りモードだ。なんかみんなからの視線も冷たい。
ミランダもさり気なく僕から距離をとって座っているし…

「あんマリア…(あんまりだ…)」

その後マリアの怒りゲージが振り切ってしまったのは言うまでもない。

「なんかもう色々疲れた…」

漸くマリアからのお説教タイムが終了したものの居心地の悪さを感じて見張りに出る事を提案した。
実際首輪に関しては僕が出来る事はなさそうだし、他にやれそうな事も無い。
出掛けにレナが

「クレスは剣を使うんだよね? 危ないかもしれないからこれを使って…」

と言って一振りの短刀を差し出してくれた。何処と無く表情は強張っていたものの彼女の優しさが身に染みる。
見張りとしての方針はさっきとは異なり塀の外に出て周囲に気を配る事にする。
空も白んできているから不意打ちの心配は少ない。それに、いち早く近づいてくる相手を察知しておけば対応の幅も広がるというものだ。
扉を閉めて、家の門から路地に出て何気なく右に視線を移した。
そこに男が一人いた。そいつも直ぐ傍の角を曲がった直後でこちらの存在に今まさに気付いたところだった。
だが、そんな事より問題はこの男に見覚えがある事だ。昼間僕とマリアを襲った男。そう、こいつは確実にゲームに乗っている。
すぐさま短剣を構え距離を開ける。

(まずい…この家から出てくるのを見られた…。マリアがいる事はこいつも知ってるだろうし、なんとかして中にいるみんなに危険を知らせないと)

相手も臨戦態勢に移っていた。取り出した剣を両手で構えこちらの様子を伺っているが何やら小言で呟いている。

「お前はっ! 昼間のっ!!」

不自然になり過ぎない様に注意しながらも大きな声を出す。これでどうにか中のみんなが異変に気付いてくれればいいのだけれど。

「やはり生きていたか。致命傷を与えたと思っていたが、逃げられたのだから当然と言えば当然か…」

相手から放たれる殺気が話し合いの余地など無い事を告げている。こうなったらやるしかない。
こちらの獲物は短刀一本だけたがそう悲観する様なものでもない。この路地の道幅はそんなに広くない。
横薙ぎにあの男が持つ様な刀剣を振るうには無理がある。傍にある塀に引っかかってしまうからだ。
故に相手の剣閃は限られてくる。
そこに僕の勝機がある。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

俺の前を行っていた洵が動きを止めた。丁度曲がり角を曲がった所である。
止まれとこちらに合図をよこしながら静かに武器を構えた。

『敵だルシオ。昼間俺と戦った相手だ…。中々の使い手でもある。お前は回り込め。挟撃するぞ』

コミュニケーターから洵の抑えた声が聞こえてくる。
俺は気絶したブレアを塀に持たれかけさせてから回り込むべく移動を開始した。

『やつには青い髪をした同行者の女がいる。警戒を怠るなよ。それと…前に戦った時に持っていなかった武器を持っている。他にも仲間が出来たのかも知れん』
『わかった。30秒くれ。急いで回り込む』

腰に佩いた剣の柄に手をかけ疾走する。

(同行者がいるとすればやはりこの家か…)

目線の高さぐらいの塀に囲まれている二階建ての家屋。
気を付けなければならないのは二階からの弓闘士等による遠距離攻撃だろう。
十分射線も確保でき。高い位置からの射撃故に身を隠すのも容易ではない。
一方的に滅多打ちにあうのが予想される。周囲を見回しなんとか身を隠せそうな位置を確認しておく。
後は援護射撃が来るタイミングを見誤らなければなんとかなるだろう。

『待たせた。こっちは準備完了だ』

曲がり角の塀に身を隠し洵に通信を送る。

『了解した。俺の二太刀目に併せろ』

言うや否や持ち前の俊足で対峙している金髪の剣士に洵が飛び掛った。
右手に握った剣を上段から振り下ろす。
対する相手も洵が言う様に中々の手錬らしい。
下手に体重の乗った一撃を手にした短刀で受けるのではなく、僅かなバックステップで洵の間合いから抜け出していた。
間髪いれず洵が追撃。
左手に持った剣で突きを繰りだした。

(今だっ!)

それと同時に俺も身を隠していた所から躍り出る。
完全に不意を付く事ができた。こちらに気付いた様だけれどもう遅い。
洵の攻撃を捌いて俺の対応をする事は不可能だ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

クレスが出て行って直ぐの事だった。外からクレスの声が聞こえてきた。
緊迫したその様子から敵襲だと判断した私は居間にいる面々を見渡した。
それぞれ一様に事態を察したのか、私を見つめ判断を待っている。
机の上には機械部品やら図面やらが広がっていて速やかに撤退に移れる状態ではない。
命あってのなんとやら、放棄して撤退を優先する事も考えたが、武器の乏しい私達がそうするにはあまりにもリスクがありすぎる。
それに首輪の部品やそれらを置いていく事も得策ではない。次の入手がいつになるかもわからないし、誰か別の参加者に見せれば新たなヒントを得れる可能性も残っている。

「一先ず私とクレスで時間を稼いでくるわ。プリシスは机の上を片付けて撤収準備を。レナとミランダは私と一緒に二階へ」

私の指示に一同は頷いてくれた。直ちにレナ達を伴って二階へ向かいベランダから状況を把握する。

(取り敢えずここからライフルの援護射撃をしつつ、準備が整い次第レナの広範囲攻撃の紋章術でかく乱。
 その後撤退が一番現実的かしら? 非戦闘員のミランダは一階のプリシスとの連絡係辺りが適任ね)

それぞれの役割をすばやく割り振る。なんだかんだ言っても個々の技能を把握しての采配には慣れている自分がいる。
だが、若干の作戦変更が必要なようだ。銃口を向けようとしたクレスの対峙している相手。あいつは昼間私達を襲撃した侍風の男だ。
あいつは足が速い。それに引き換えこちらは非戦闘員を含む5人の大所帯。とてもじゃないが逃げ切れないだろう。
そしてその男の傍に2つの人影。一つは私達のいる家の塀を回りこむ様に移動している。おそらく彼はクレスを挟み撃ちにしようと動いているのだろう。
もう一つの人影。力なく壁によりかかるその女性の姿は

(ブレア! 何故? 彼らに捕まっているのかしら? ルシファーの妹だと知った彼らに交渉の材料にでもされようとしているのだろうか?)

思わぬ人物を思わぬ状況で発見した事で若干思考が横道にそれてしまった。
こうしている間にも、もう一人の男がクレスの背後に回り込みつつあった。

(今重要な事は彼らの撃退ね。もたもたしていたらクレスが危ない)

一先ずブレアの事は頭の中から閉め出し、迫る脅威への対処法を画策する。
俊足の侍男と更に武器を持った彼の協力者と思しき人物。最早撤退は不可能だろう。
彼らを戦闘不能にするしか私達に道はない。
だが、こちらはそれを実現出来る程の戦力を有しているのか?
剣士のクレスには短いながらも刃物が渡されている。それに対峙している男を負傷を負った状態にもかかわらず後一歩の所まで追い詰めていた。
あの侍男はクレスに抑えてもらっても大丈夫なはずだ。楽観視できる相手ではないが、さりとて彼が勝てない相手でもない。
問題はもう一人の剣士。初めて見るからどんな戦い方をするかもわからないし、当然戦闘能力も未知数だ。
一つ言えるのは私が援護射撃を行うという作戦は破棄せざるを得ない事。流石のクレスも挟み撃ちをされた状態かつ1対2で前衛を勤めきるのは難しい。

(私も前に出て茶髪の方を抑えるしかないけれど、あの狭い路地が問題よね)

手持ちの武器は現在ライフルしかない。素手で出て行くのも論外だが、こんな長物を持ってても動きが制限されてしまうだろう。
基本は相手の攻撃を受け止める盾代わりにして、隙あらば狙い撃つのが理想だが可能だろうか?
やはり拳銃が欲しい。使い慣れた武器があれば大体の相手に対処できる自身がある。

状況の吟味は終わった。現在の私達の戦力でこの窮地を乗り越えるにはこれしかない。
後はそれらを実行できるかどうかだが、こればっかりはみんなを信頼して任せるしかない。

「作戦変更よ。ミランダ。プリシスに私の武器の調整をいそがせて。
 その後は非戦闘員の貴方はプリシスと共に一階で待機。但し負傷者が出たら治療に回って貰うからそのつもりで。
 レナ。貴方は遊撃担当よ。襲撃者は私とクレス以外に誰かがいる事までは把握していないはず。
 基本方針はここで戦況を見つつ、私かクレスがピンチになった時の援護をお願い。
 細かい内容は貴方に任せるけど、そこまで気負う必要は無いわ。紋章術の援護ならどんなものであれ前で戦っているものにとっては助かるから。
 私はクレスと一緒に前に出て戦う。
 いい? 相手はかなりの強敵よ。でも、みんながそれぞれのやるべき事を全うすれば必ず勝てるわ。
 私が指揮を取る以上、不要な犠牲なんて絶対に出させない!」

最後の言葉は目の前の二人よりも自分自身に言い聞かせる様に言った。
二人は揃って頷き返してくれたが、若干ミランダの様子がおかしい。
外の様子を見た後からなのだが、荒事とかに慣れていないからだろうか?
けれど細かい詮索をする時間も無いし、パニックを起こしている様には見えないから気にしない事にする。
ミランダが下に行くのを見届けてから、すぐさまベランダに出て射撃体勢に移った。
今まさにクレスの背後から茶髪の剣士が攻撃を仕掛けようとしている。
スコープを覗き照準。直ちに引き金を引き発砲。
銃身の先から七色の輝きを放つ球体状のエネルギーが亜光速で撃ち出された。

だが、狙いは完璧だったのに避けられてしまった。亜光速の攻撃を見てから回避なんて人間業ではない。こちらの攻撃が読まれていたのだろう。
しかしとんでもない威力だ。地面に大穴を穿ってしまっている。
未知の怪物にはこの威力が必要だが、対人兵器としては大出力過ぎる。
エネルギー消費量も大きく、一発撃っただけでエネルギー残量が3/4まで減っている。
ますます使い所を選ばなくてはいけなくなってしまった。牽制射なんて出来たものではない。
一撃必殺こそが最重要な狙撃兵器としては随分と漢気の溢れる調整である。

(やはり盾に使うのがメインになりそうね)

ライフル銃を抱えベランダから飛び降りる。二階だから大した高さではない。
クレスの背後に着地し、背中合わせに並び立つ。

「危なかったです。ありがとうございました」
「まだ安心するのは早いわ。撤退は困難だからこいつらを迎え撃つわよ。私は茶髪の方を相手にするから貴方は昼間の男をお願い」
「わかりました」






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第121話 クレス 第129話(中編)
第121話 レナ 第129話(中編)
第121話 プリシス 第129話(中編)
第121話 マリア 第129話(中編)
第124話 ミランダ 第129話(中編)
第122話 第129話(中編)
第122話 ルシオ 第129話(中編)
第122話 IMITATIVEブレア 第129話(中編)
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