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第140話 転


ガーガガガガ、ガガガ、ガガガーガガッガーガガ。
意識の海にノイズが走る。
瞳孔が急激に開き、体全体が小刻みにふるえていく。
頭を引き裂きそうなほど、けたたましく鳴る爆音。
音の正体は何かわからない、分かることもできない。
手に持っていたペンがポトリと落ち、ゆっくりと力が抜けていく。
抗おうにも抗えず、力の入らない体はただ崩れ落ちていくだけ。
視界に広がっていく、白濁の世界。
響き続けるノイズの中、何が起こったのか分からないまま。
偽物は、意識を手放した。



これは殺し合いに立つもの達が知り得ない水面下の話である。



「なんと言うことだ……」
思わず額に手を当て、考え込んでしまう。
社長への報告を後回しにし、今回のプロジェクト全体を見直していたベリアル。
あのとき報告しなかったのは、正解だったのかもしれない。
事態が思っていたより重大だったからだ。
何者かによる外部アクセスにより、ドラゴンオーブの制限は緩くされていた。
これだけなら、何ら問題はない。
プログラムを修正し、より強力な制限へと元に戻せばよいのだから。
だが、改変されていたのはそれだけではなかったのだ。
支給品データの各項目をもう一度みると、それぞれに割り振られていた制限の度合いを示す数値がすべて「可変」になっていたのだ。
支給品のデータを送り出した段階のチェックでは固定となっていたものが、値を自由に書き換えられるように属性が変更されている。
おそらく、時限式の動作を仕込まれていたのだろう。
アクセスが数日前、たった一回だったのもこれで頷ける。
一回のアクセスで、支給品データ全体にアクセスし、値を可変できるように仕込んでおく。
そして、気が他方に向くようにドラゴンオーブの値のみ変更しておいたというところか。
「フッ、とんだ笑い話だな」
不完全な妨害手口に、思わず笑いがこぼれてしまう。
いや、むしろ手間が省けたと感謝するべきか。
値が書き換えられるようになっているのならば、それを利用して書き換えてやればいい。
最終決定権はこちらにあるのだから。
ベリアルは笑みを浮かべながら、手慣れた手つきでドラゴンオーブの"制限率"と表示された項目を本来の数値へと書き換えていく。
ルシファーの手を煩わせる間でもない、簡単な作業で済むお話であった。
報告することも簡易に纏まって一石二鳥だ。
早急に報告を済ませ、次の仕事へと取りかかろうとしていたその時だった。
「……は?」
出てきた画面を疑った。
支給品のデータを示す"制限率"の項目が、すべて0へと変わっていっているのだ。
その操作を取り消そうと動こうとしたときにはすでに遅く、支給品の制限がすべて無き物にされていった。
"カーニバル"はそれだけでは終わらない。
「THANK YOU FOOLMAN」という一文と共に、画面を埋め尽くすようにハムスターが駆け回る。
何とか対処しようと動くものの、操作系統がすべて反応しない。
あれこれ手を試しているうちに、画面がハムスターで埋め尽くされていく。
「クソッ! 小賢しい真似をッ!」
彼が叫んでいる間にも、ハムスターは画面を埋め尽くしている。
ルシファーと連絡を取らねばならない、そう思って端末を取り出したとき。
その連絡すべき当人から、ちょうど良く着信が入っていた。

「ベリアルか」
「はっ」
「急を要するため用件だけ告げる、社長室にて放送システム及び禁止エリア発動プロセスの見直しを行え」
「ですが社長、今支給品システムが――――」
「ああ、知っている。だからこそ急を要するのだ」
「しかし」
「頼んだぞ」

通信は、一方的に切れた。




アザゼルが笑う。
失ったはずのブレアの姿をこんなにも早く見つけることが出来たのだから。
灯台もと暗し、同じポイントに念入りにアクセスを試みたところ、簡単なパスワードロックがかけられていた。
軽々とそのロックを解析し、中へとアクセスする。
そこには一心不乱にコンピュータを操作し続けるブレアの姿が映っていた。
「一時はどうなることかと思ったが……この程度とはな」
事が早く解決したことに安堵を覚えると共に、この程度の策にハマってしまっていた自分に苛立ちを覚える。
なぜ、ロストした時点でこれを試さなかったのか。
そうすれば、早い段階で解決していたというのに。
「まあ、いい」
過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
とにかく、用件は解決したのだ。
今後、この女から目を離さないようにすればいい事。
そしてアザゼルは、しっかりと報告を済ませようと端末に手をかける。
その時だ。
「ん……?」
画面の中の監視対象が、ゆっくりと立ち上がった。
そしてゆっくりと監視カメラの方へと向かってくる。
まるで監視されていることを察知しているかのように。
しかし、それを察知されていたとしてもこちらに特に実害はない。
カメラが破壊されたとしても、同じ場所に他のカメラが設置されている。
場所さえ分かればカメラの事は解決出来るのだ。
そう思いながらじっくりと画面を見つめる。
ちょうど画面の中央に写るよう歩みを止めたターゲットは、カメラの方をじっと見つめ続けている。
怪訝な表情を浮かべながら、監視カメラの映像を見続けるアザゼル。
はっきりとその行動を見るために対象へとズームをかけていく。

「ユ」

画面いっぱいにターゲットの顔が写ったとき、唇がゆっくりと動き出す。

「ル」

一文字ずつ、一文字ずつ、ゆっくりと呟いていく。

「サ」

その全てが揃いかけたとき、アザゼルの額からは一筋の汗が流れていた。

「ナ」

意味を理解したとき、形容しがたい恐怖に駆られたような気がした。

「イ」

最後の一文字をつぶやき終えた彼女は、ゆっくりと笑い。
その瞬間、首が吹き飛んでいった。
映像が赤に染まる。
首を失った遺体を中心に、斑に飛び散った血液と肉片。
何が起こったのか、しばらく理解できずに呆然としていた。
映像に視線を釘付けにされたまま、アザゼルは端末を取り出す。
報告しなくてはならない。
起きたことを正直に、しっかりと報告しなくては鳴らない。
その連絡すべき当人から、ちょうど良く着信が入っていた。

「アザゼルか」
「社長、大変で――――」
「急を要するため用件だけ告げる、社長室にて盗聴のシステム見直し及び録音ログの内容を全員分まとめろ」
「しかし! 監視対象がたった今――――」
「ああ、知っている。だからこそ急を要するのだ」
「社長!?」
「頼んだぞ」

通信は、一方的に切れた。




「あーあ、こりゃまたド派手にやるわねぇ……」
ブレアから受け取った偽装通信プログラムを使いつつ、ため息を一つゆっくりとつく。
画面に映る二つの惨劇を見ては、流石のベルゼブルもため息をつくしかなかった。
片方は瞬く間にハムスターが画面を埋め尽くし、操作系統を無効化させている。
片方は生々しいスプラッタ映像と共に、根幹システムへのロックを解除するウィルスが作動している。
数日前にこのプロジェクトの事を教えただけというのに、ここまで強力なウィルスを作成できるのか。
兄が大天才なら、妹もやはり大天才……ということだろうか。
これで一部だというのだから、あとどれだけの罠が残っているのだろうか。
考えるだけでもゾッとするが、同時にワクワクが止まらなくなる。
「"罠"のうち二つが動作開始……よん♪」
通信ではなく、ショートメッセージを送る。
「"罠"の一部が動作したら連絡して」
このプロジェクトが始まる前、ブレアにそう言われたとおりに。
「やはり、お前か」
ちょうどその時、背後から一人の声が響いた。
チッ、と聞こえないように舌打ちをしながら振り返る。
「あらやだ社長、何の事かしら?」
あくまで笑顔を崩さず、ベルゼブルはルシファーへと振り返る。
何時もどおりの表情のベルゼブルに対し、ルシファーはあくまで事務的に用件を伝える。
「席を外している間に数日間の端末通信ログを、全社員分解析させてもらった。
 ブレアと連絡を取っているのだろう?」
そこで、ルシファーは一呼吸を置く。
ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべる男を睨みなおし、一言だけ告げる。
「何が目的だ?」
凍りつくような覇気を放ちながら、ルシファーがベルゼブルに問う。
ああ、バレてしまったのか。
それならばと言わんばかりの笑顔を浮かべ、開き直って彼は口を開く。
もう隠す必要も、こそこそ動く必要も無い。
「目的? ウフッ、それはね――――」
盤面は、動き出しているのだから。

端末が鳴動する。
そこに表示されていた文字を読みとり、ブレアは事態を大まかに把握する。
罠が二つ作動したのならば、それぞれの対処に追われるはず。
その対処の手段の付近にも、ある程度罠を仕込んでおいた。
偽装通信が上手く流れれば、次々に罠が動作するはず。
そうすれば、あのプログラムを制御するのはほぼ不可能になる。
それが意味するのはプロジェクトの失敗だ。
そうとなれば兄はまた、E・Sを削除しようとするだろう。
罠が作動し自由に動けるようになったという事は、同時にタイムリミットも出現したという事。
バグが全てを乗っ取り制御不能にさせる前に、会場の参加者を脱出させなければいけない。
兄や管理部の人間の妨害が入ったとして、バグがシステムの根幹を食いつぶすには半日はかかる。
それまでの間に、E・Sから脱出させる。
この瞬間のために数日で用意してきた、全ての準備を今こそ使うときがきた。
あのプロジェクトを、完全に終わらせるために。
「さぁ、まずは……!!」


初手。
まずはIMITATIVEブレアにアクセスする。
とある裂け目から突如登場し、ある程度の思考ルーチンでプロジェクト内を行動する存在。
プログラムの手によって、人造的にゼロから作られた彼女。
このプロジェクトで唯一「上書き」が可能な存在。
つまり、同時にこのプロジェクトの「穴」でもあるのだ。
まずはリモートコントロールにより思考ルーチンを攻撃し、その意識を失わせる。
ぱたりと行動を停止したことを確認し、すかさず事前に用意したプログラムへと書き換えていく。
本当は当初のアクセスの段階で書き換えることが出来たのだが、あの時点で大胆な動きをすれば一発でバレてしまうのが目に見えている。
だから罠が発動し、本部が混乱するタイミングまで待っていたのだ。
このプログラムへと干渉しようとすれば、他のウィルスへの対処が遅れる。
事前の仕込みとリアルタイムの攻撃による二面攻撃。
向こうの管理人数に対抗するには、これしかなかったからだ。

自由な領域へ書き込んでいくのは、意志を持つ者に次元を飛び越える力を与えるプログラム。
いわば、次元の裂け目と言ったところだろうか。
コンピュータを操作し、IMITATIVEブレアが存在した領域へそのプログラムを書き込んでいく。
じわりじわりとIMITATIVEブレアがその姿を失っていき、代わりにその空間に黒い裂け目のようなモノが現れていく。
これこそが、ブレアの考案した次元を飛び越える力を与えるプログラム。
名付けて"ディメンジョン・ゲート"だ。
但し、このプログラムは試験動作すら行っていない。
ブレアが頭の中で組み上げ、上手くいくように仮説に仮説を重ねたモノだ。
だから、このゲートで彼らが脱出できる確信はない。
それでも、彼女は信じている。
数々の奇跡を起こす彼らなら、人の力を持つ彼らなら。
きっとモノにしてくれると。


次の手。
このプロジェクトの中の参加者は、それぞれが強固な意志を持ち、思考や行動はもちろん、命や意志に至るまで一切の干渉が出来ない。
管理者ですら干渉できないその部分に、干渉した参加者がいる。
レザード・ヴァレス。
この殺し合いという限られた条件下で、ドラゴンオーブなどの土台をしっかりと揃え、還魂の法と輪魂の呪を成立させた。
魂を別の肉体に移し変える儀式、プログラムの観点で言えば「干渉すら出来ない領域に干渉し、その内容を書き換えた」という事になる。
つまりレザードは、各参加者に敷かれているある種のロックを解除してその中身を書き換えたのだ。
このプロジェクトでは、参加者が死亡してもその思考や行動を記録するため、いわば"魂"を記録している。
死体になってもその部分だけは書き換えられないようになっている。
そもそもこのプロジェクトの参加者達の"魂"とは、ソースコードを見てもブラックボックスだらけでヘタに書き換えられるものではない。
IMITATIVEブレアのような単純な思考ルーチンを与えただけの存在ではなく、中身がリアルタイムで更新されている存在なのだ。
外部から何かしら干渉を加えようとしたところで、存在側の更新速度に勝てるわけもない。
だが、レザードはドラゴンオーブを用いることでその不可能を覆した。
外部から書きかえれないのならば、内部の"魂"を持つ人間から書き換えればいい。
格納されていたレナス・ヴァルキュリアの魂を持ち出し、ルーファスの魂の場所へと書き換えた。
ルーファスの存在を亡きものにする事によって、レナス・ヴァルキュリアを蘇らせたのだ。
魂の書き換え、管理者でも解くことのできないロックを解除して行われた予想外の行為。
レザードはその不可能を見事達成させた。
しかし、それが行われたというのにレナス・ヴァルキュリアは目を覚ますことがなかった。
簡単な話だ。
プログラムがエラーを吐いていた。
ルーファスという肉体にレナスという魂が宿っている。
一致するはずのない符号を照らし合わせ続け、ルーファスの肉体が拒否反応を起こしていた。
魂だけが突然書き換えられたのだから、プログラムからしてみれば「予期せぬエラー」なのだ。
だから、レナスを起こすにはレナスの魂をルーファスだと偽装すればいいのだ。
輪魂の法にて書き換え不可属性が改変されたレナスの魂なら、そのプログラム部分の名称を「ルーファス」だと偽ること程度ならできる。
そして、利点はそれだけではない。
フィールド全体に流れる放送の応用で、読み書きが可能になったレナスの魂と電脳上での対話ができるのだ。
どこにいるかわからない偽ブレアがゲート化した事を知ることなど、参加者たちには不可能だろう。
放送が使えれば呼びかけることも可能なのだが、生憎と実行権がまだ手元にない。
それならば、器に相入れぬ魂としてさまようレナスにその情報を与えておけばいい。
彼女の能力であれば、きっと参加者たちを正しい道へと導いてくれる。
「脱出の可能性」を託すには最高の人物だ。
そうして、ブレアはレナスの魂へと接続する。
禁忌の法にて電脳の世界をさまようことになった、戦乙女の心へと語りかけるために。
「レナス、聞こえる!?」




「改めて、ガッカリしたからよ」
ため息と同時に吐き出された言葉に、ルシファーは眉を顰める。
ベルゼブルはその様子を気にとめる事なく、決壊したダムのように次々に喋り続ける。
「社長が思っていたより、無能だったからよぉん」
今まで黙っていたこと、全てをぶちまけるように。
「自分が創造した世界の存在に滅ぼされそうになったから、創造した世界を滅亡させた。
 そんな姿に本当にガッカリしたわぁ」
起こった事実から、自分が受け止めた真実を吐き出していく。
「だから、思ったの。
 今回も自分が掌握しているはずの存在に、社長がボコボコにされちゃうんじゃないか、ってね」
可能性の話と自分の気持ちを織り交ぜて、ぶつけていく。
「だったら、そんな上司に従うなんてバカらしいじゃない?
 プロジェクトが失敗すれば社長の無能が再度証明されておしまい。
 成功すれば社長が汚名返上しておしまい。
 だからどっちでもよかったのよん」
試してやろうと思ったのだ、このいけ好かない野郎の実力を。
「でも、はじめからガチガチの枷をかけておいてプロジェクトが成功しましたって言われても微妙よねぇ。
 だったら、前回の汚名を返上しきるぐらいの事じゃなきゃ、面白くないでしょ?
 だから妹や外部の妨害を受けさせて、それすらも乗り越えてプロジェクトを運用できるかどうか。
 それを見届けようと思ったのよん」
どれだけの壁が立ちふさがろうと、全てはねのけて野望を掴む力のある人間なのか。
それとも、今回も無様な姿を晒して終わる存在なのか。
「ここで私を殺してもいいわよ、でも罠も作動してるしブレアちゃんも新たな妨害に走ってる。
 私にかまうことがプロジェクトの成功に結びつくのか、考えた方がいいわねぇん」
このクソったれの無能を試してやろうと思ったのだ。
「もう一度、私が惚れた社長を見せて頂戴」
一言、強めに言う。
挑戦的で高圧的な一言を受け、ルシファーは笑う。
「……フッ、私も見くびられたものだな」
やれやれと肩をすくめてから、次の言葉を放つ。
「いいだろう、私の力のみでこの状況に対処してみせる。
 助けも何も必要ない。絶対にこのプロジェクトを成功させてみせる」
素早く身を翻し、ルシファーはその場を去っていく。
「ええ、見せてもらうわぁ」
ベルゼブルはその後ろ姿を笑いながら、ずっとずっと見守り続けていた。

ブレアがこのプロジェクトに無数の罠を仕掛けていた。
これに気がつけなかったのは確かに自分のミスだ。
ベルゼブルの言うとおり、どこか慢心していたところがあったのかもしれない。
ならば、その慢心を捨て去る。
自分こそが絶対支配者なのだともう一度示してみせる。
その証明のために、彼は駆けだしていく。
己の部屋ではなく、このプロジェクトの全てを統括している、メインルームへと。




暗い暗い闇の中。
ふわりとした意識だけがさまよっている。
エインフェリアを勧誘するときも、こんな感じの場所に居たのかもしれない。
そんな暗黒の中を長い長い間、特に考えることもなくさまよっていた。
どれほどの時間が経った時だろう。
「レナス、聞こえる!?」
耳に覚えのない声が聞こえたのは。
「あ、そっか。意識だけみたいなモノだから返事ができないのか……でもま、聞こえてるわよね」
声は一人で話を進めていく。
いったい何者なのか、目的は何なのか、彼女にはわからない。
「ごめんね、レナス。今から言う事を落ち着いて聞いてほしいの」
そんなことを考えている内にも、謎の声は一人で話を進めて行ってしまう。
手短にまくし立てるように天の声が響く。
自分がレザードの手によって蘇った事。
とある村のとある場所に、この殺し合いから抜け出せる可能性のある空間があるという事。
意識の中で整理する時間すら与えられず、ざくざくと語られていく。
「これからあなたは全く違う肉体で目覚めることになる。
 すごく困ることや、面倒な人間もいるかもしれない。
 でも、私にはあなたぐらいしか頼ることのできる人がいないの。
 私のこの話をしっかりと、みんなに伝えてあげて、導いて欲しいの」
突然現れて話し始めたと思えば、それを誰かに伝えて欲しいと願ってくる。
いったいこの声は何者なのだろうか?
自分が蘇ったという情報を突きつけたと思えば、この殺し合いから脱出することができるという。
正直、都合のよすぎる話だ。
「ごめん、時間がないからもう行かなくちゃ」
そんな都合のいい存在は、向こうの都合で今消えようとしている。
こちらの答えは纏まっていないというのに。
「よろしくね、ヴァルキリーさん」
その一言を残して、声の気配は消えてしまった。
都合のいい情報だけを残して、跡形もなく。
ふわりと浮くような感覚に襲われる。
ああ、これは。
目覚めるときの、感覚だ。
「……う、うん」
微睡みから覚めていく。
現実へ引き戻されていく。
はっきりとわかる感覚と共に、彼女は目覚めようとしていた。

「レナス……頼んだわよ」
レナスの魂の名義を「ルーファス」と書き換えながら、ブレアは次の作業へと移る。
あまり考えたくはないが、レナスが思った通りの動きをしなかった場合、全ての策が無駄になる。
故に保険として、自分自身も動く必要がある。
しかし、IMITATIVEブレアは次元転移プログラムの犠牲となってしまった。
彼女がプロジェクト内の人間に干渉できる手段はない――――


いや、ある。

よく考えてみて欲しい。
輪魂の法によってレナスとルーファス、二人分の読み書き権限は変更され、ルーファスにレナスの魂が移った。
では残されたレナスの根幹の部分はどうなっているのか?
もちろん、空だ。
書き込みを許されたまま、何も受け入れるプログラムがないまま、レナスの「死体」だけが存在している。
ここなら、干渉できる。
IMITATIVEブレアに干渉したときのように、レナスの魂を納めていたはずの空白にプログラムを書き込めば。
レナスの体を操れるようになるはずだ。
根幹の魂を格納する部分に、マニュアル操作のプログラムを書き込むことによって無理矢理動かす。
他の死者では死してなお更新し続ける魂が邪魔してできない方法が、魂を移され、空の容器となった彼女にだけ通用する。
迷うことなく、レナスを示す領域にアクセスし、プログラムを書き込んでいく。
もう、形振りを構っている場合ではない。
「悪いけど、ちょーっと借りるわよ」
手慣れた手つきで、IMITATIVEブレアへと干渉したときのプログラムより多めのプログラムをレナスの空白へ書き込んでいく。
普段からは、考えられない速度で。
「……よし」
予想通り、書き込みが上手く行った。
これで、レナスの遺体はブレアが操作することができる。
マニュアル操作の影響で体が動いているだけに過ぎないので、心臓をぶち抜かれた全裸の彼女の体が動いているわけではない。
いわば、運営者の扱う「アバター」のような感じだろうか。
ブレアがプロジェクトに干渉するための「皮」なのだ。
とはいえ、いつまでこの体が持つかは分からない。
あくまで操作しているのは魂と意識なので、肉体の損壊が激しくなってしまえば操作ができなくなってしまう。
使える時間は思っているより残っていない。
「さ、行かなきゃ!」
心臓をぶち抜かれた全裸の女性の姿を纏いながら、ブレアは殺し合いの地を駆ける。
この殺し合いを、兄の野望を、全て打ち砕くために。






【其々の場所で/朝】

【ブレア・ランドベルド@レナス・ヴァルキュリア】
[状態:本当なら死んでる]
[装備:なし]
[道具:なし]
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:レナスの死体を介して、ゲートの存在を知らせる]
[備考1:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施しています。現在二個発動中]
[備考3:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります]
[現在位置:D-5西部]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%]
[状態:ルーファスの身体、気絶から覚醒――?、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています]
[備考4:ブレアに一方的に情報を渡されました、はっきり覚えているかどうかは不明です]
[現在位置:D-03]

【ルシファー】
[行動方針:プロジェクトを成功させる]
[思考1:ブレアの作った"罠"への対処]

【ベリアル】
[行動方針:オーナーの方針に従う。]
[思考1:与えられた任務の続行]

【アザゼル】
[行動方針:オーナーの方針に従う。]
[思考1:与えられた任務の続行]

【ベルゼブル】
[行動方針:社長を見届ける]
[思考1:物見遊山]

[現在位置:それぞれ不明]


※平瀬村(中島家付近)の民家2階にブレアの作ったゲートが存在しています。
※首輪のみがゲート付近に落ちています。動作しているかどうかは不明。


【IMITATIVEブレア@SO3 消滅】
【残り15人+α】




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第136話 レナス@ルーファス 第144話
第137話 IMITATIVEブレア
第131話 ブレア@レナス 第141話
第106話 ルシファー
第135話 ベルゼブル
第125話 ベリアル
第135話 アザゼル


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