第141話 境界線上のフェイト



「嘘、だろ……?」

親友。
チェスター・バークライトにとって、クレス・アルベインとはそのようなカテゴリーに入る人物であった。
ダオスを倒す旅の仲間達の中でも、旅に出る以前からの仲であった。
そんな唯一無二の親友が、死んだ。

「おいおい、冗談キツイって。勘弁してくれよ」

この島でも無事に会えて。アーチェの死をきっかけに仲違いして。
それでも、お互いにまた会えると信じていた。
クレスがチェスターはきっと戻ってくると、マリアに喋っていたように。
チェスターが口に出しこそしないが、いつかまた一緒に戦えるだろうと考えていたように。
二人でルシファーに立ち向かう未来を夢見ていた。

「やめろよ、やめてくれよ……」

改めて、気づいてしまったのだ。
チェスターにとって、クレスは――。

「どうして、死んじまうんだよ……俺を、置いていくなよ……!」

――かけがえのない親友だったという真実に。

「畜生、畜生っ、ちくしょおおおおおおおおおっ!」

どんなに悔やんでも、涙を流しても。
クレスはもう自分とは一緒に歩めないのだ。
馬鹿なことを話しながら笑顔を交わしたり。彼の放つダジャレを冷ややかな目で見ることも。
全部、消えてしまった。仲直りの機会は永遠に訪れない。

「返せよ……返せよっ、ルシファーッ! こんなはずじゃなかった全てを!」

ルシファーさえいなければ。
俺達の旅はこんな形で崩れ去ることもなかったんじゃないか。

「あああああああああああああああっっ!!!」

そう考えると、叫ぶしかなかった。
この行き場のない感情を胸の内に溜め込むには、少々重すぎた。
抗っても、手を伸ばしても。その手は大切な仲間には届かない。
目の前で死んでいく仲間達を見て、チェスターは何度も苦しんだのだから。

「クレスゥ……俺より先に逝くとかざけんなよ! 脱出は僕達に任せておけって言っておきながら下手こいてんじゃねぇ……!」

森の中に慟哭が響き渡る。
それは、自分が選択肢を間違えてしまった後悔と、謝る機会を失ってしまった悲しみに溢れていた。

「お前自身が死んだら、台無しだろうがっ!!! 自分を護らないで、他人護ってんじゃねぇよ!
 ああ、そうさ! それは俺にも言えるってか! だけど、そんなの知るかっ! 俺は、俺はなっ!!!」

涙を両の瞳からだくだくと流しながら、チェスターは空へと咆哮する。
こんな状況で叫ぶのは危険だ? 知ったことか、そんなこと。
叫びたいから叫ぶのだ。伝えたいから言葉にするのだ。

「それでも、生きていて欲しかったっ! 別れ際のこと、謝りたかったんだよぉっ、お前に!!!!」

届かない思いを風にのせて。
チェスターはこの世界に咆える。
否。吼えなければやりきれなかった。

「……クリフ、アルベル」

親友。それとライバル?
フェイト・ラインゴッドにとって、クリフ・フィッターとアルベル・ノックスはそのようなカテゴリーに入る人物だった。
特に、クリフは自分の始まりとも呼べる人物だ。
忘れもしないあの出会い。
ノートンと一人対峙していたフェイトの前に颯爽と現れた金髪の大男。

「あの時は、助かったんだぞ。今回だってピンチの時にニヤついた笑みを浮かべてさ、来てくれるんだろうなって信じていたんだ」

その後の旅でも、クリフの助けは大きかった。
彼がいなければ自分は旅の途中で野垂れ死んでいただろう。

「何、死んでるんだよ……勝手に、死ぬなよっ! 僕よりも先に……どうしてっ!?」

時間が経つごとに死んでいく仲間達。
無論、フェイトも殺し合いを甘く見ているわけではない。
仲間が死ぬ可能性だって考慮している。
だが、感情は別だ。悲しくないわけがない、苦しくないわけがない。

「ルシ、ファー……! お前は、お前だけは……絶対に許さない!」

フェイトの中に滾る憎しみの炎が燃え上がる。
最初は皆生きていた。
長い旅路を終えて、それぞれの幸せを手に入れたはずだった。
それが、壊された。
他でもない、自分達が倒したはずのルシファーによって。

「返せよ……僕達が手に入れたはずだったこれからを! お前はどれだけ奪えば気が済むんだっ!!!」

他はいい、ルシファーだけはこの手で――殺す。
元の世界の仲間は二人しか生き残っていないけれど。
これ以上、失ってなるものか。
護る、この生命を糧にしてでも絶対に護り抜く。
しかし。

(ルシファーを倒しても、また復活するんじゃないのか?)

フェイトの懸念はそこにあるのだ。
一度は倒したはずだったルシファーが蘇る。
死んだはずのヴォックスが参加者としてこの島に存在していた。
幾つもの不可解が重なりあって、解けないパズルとなってフェイト達を縛り付ける。

(もし、そうだとしたら全知全能としか言えないぞ……? 僕達は、本当にこの世界から抜け出せるのか? 少なくとも前みたいな方法は無理だ。
 現に僕達は倒したルシファーによって“一度”は完全に負けている)

ルシファーはやろうと思えば、最初の会場で全員を殺すことができるのだ。
それをやらない理由は知らないが、自分達は生殺与奪を完全に握られている。
つまり、この殺し合いの黒幕は人間の生死すらも操れる超常の力を持つということだ。

(真っ当な方法では倒せない……なら、どうすればいい?)

考える。何が正しくて、間違いか。
普段はこのような役目はマリアが担うはずだが、いないものを頼っても仕方がない。
幸いのことに、ソフィアは熟睡している。クリフ達の死亡を告げたことを想像すると、とてもではないが落ち着けるとは言えないだろう。
今のような落ち着いた時間こそ、考察を進めるべきだ。

(もう一度が二度と起こらないように)

さて、どうする? どうやってこの殺し合いを終わらせる?
普通の勝利じゃ無理だ。絶対的な勝利が必要なのだ。
もう一度をもう二度と起こさない。
自分が考えつくあらゆる結末を想像して、破棄。
そして。その過程の末に浮かんだものは、本来なら考える可能性が微塵もないものだった。

(僕が、エターナルスフィアの支配者として……君臨する?)

絶大な力による恒久的な平和の創造。
つまり、フェイトがルシファーの代わりにエターナルスフィアの管理を行うということだった。
少なくとも、自分が支配者として君臨すれば、ソフィア達が死ぬまでの平和は確保されるのではないだろうか。

(だけど、そんなことが可能なのか? 前みたいに最後の悪あがきでもされるんじゃないか?)

前回はルシファーを倒しこそしたが、最後の最後に油断をしてしまい世界を滅ぼすトリガーを引かせてしまった。

(とりあえず、もう油断なんてしない。ルシファーは迅速に討つ。できるならば、奇襲みたいに相手が万全でない時を狙いたいけど……。
 その為には、主催者側の内部を知らないことには動きようがないな)

今のフェイトには圧倒的に不足しているものがある。
それは情報である。
ルシファーが何の目的でこのような催しを開いたか。
そもそも、どうやって復活したか。
わからないことだらけの現状で下手に動くのは危険すぎる。

(そもそも、主催者側の内部を知ったとしても、だ。そこからどうする? 仲間を騙してでも向こうについて……隙を狙う? 
 僕の持つ力は有用だってことをルシファーは知っている。取り引きするには悪くはない条件だけど……上手くいく可能性は低い)

一度完全に敵対もしている身だ、自分が向こう側に取り入ることはかなりの難度であろう。

(……八方塞がり。何か事態が好転するキーが欲しいんだけどな)

フェイトが思考に身を浸していたその時。
ドスドスと地面を踏みしめる音が身体を揺らす。
ブラムスだ。先程、帰りが遅いチェスターを迎えに行ったはずだが、もう戻ってきたのか。
振り返り、その背中には矢の回収から戻ってきたチェスターと。

「面白い奴を発見してな。すぐにでも行動を開始したかったのだが、ここで足止めだな。
 どんな思惑があってその体を借りてるかは知らんが、話してもらうぞ。全て、な」
「いいえ話は歩きながらでもできるはずよ。時間は有限、ゆっくりしてる暇はないわ。
 それと……久しぶり、とでも言えばいいのかしら。フェイト」
「ブレアさん……? というか、どうしたんですか、その体は! 裸ででで!」
「さっきの俺と同じ反応だな……無理もねーよなぁ」

レナスの身体を借りたブレア。
今この瞬間、フェイトは今まで足りなかった情報というカードを手にすることになる。
そして、そのカードをどのように使うのか。
裏切り? それとも仲間と共に戦い抜く?
さあさ、いよいよ終盤戦。
ターニングポイントはもう顔を出している。



――ここからが、正念場だ。



【D-05/朝】

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%]
[状態:左足火傷+打撲(少し無理をした為に悪化。歩くにも支障あり)。クロード・アシュトンに対する憎しみ]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP(?)、ソフィアのメモ、首輪×1、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:アルベル……]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考4:主催側の内部に潜入するか、このままの方針で行くか……]
[備考1:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]
[備考2:ソフィアの傷は全身に渡っています。応急手当にはしばらく時間を取られるかもしれません]


【チェスター・バークライト】[MP残量:30%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)、腹部に当身による痛み]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×???本)@VP、パラライチェック@SO2]
[道具:レーザーウェポン@SO3、アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:この次は必ずクロードを殺す]
[思考2:アシュトンも、もう許せねえ]
[思考3:使えそうな矢を拾い集める]
[思考4:どっちに向かったらいいんだ?]
[思考4:レザードを警戒]
[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました]
[備考3:手持ちの矢は無くなりましたが、何本かはこの場で回収出来るかもしれません]


【ソフィア・エスティード】[MP残量:0%]
[状態:気絶中。全身に『レイ』による傷(応急手当中)。ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック。疲労大]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:魔剣グラム@VP、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:クロード、アシュトンを倒す]
[思考2:平瀬村へマリアを探しに行く]
[思考3:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流。ただしレザードは警戒。ドラゴンオーブは返してほしい]
[思考4:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]


【ブラムス】[MP残量:90%]
[状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SOシリーズ、魔法少女コスチューム@沖木島(右肩付近の布が弾け飛んだ)]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2、和式の棺桶、袈裟(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島、荷物一式×2]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:放送後、方針を決める]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]

【ブレア・ランドベルド@レナス・ヴァルキュリア】
[状態:本当なら死んでる]
[装備:なし]
[道具:なし]
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:レナスの死体を介して、ゲートの存在を知らせる]
[備考1:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施しています。現在二個発動中]
[備考3:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります]

【現在位置:D-05東部】

【残り15人+α】





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最終更新:2014年07月11日 17:40