※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第146話 ついに、水いらず


――正義(ジャスティス)


かつてそのために戦った、数多くの戦士達が居た。
彼らは出会いや戦いの果てに成長し、そして敵対する巨悪を討った。
本来なら身に余るであろう、強大な敵を。

にも関わらず――彼らのほとんどは、この島において命を落とした。
かつて倒した悪に屈し、またある者はかつての同志に手をかけられて。

『気合』『モチベーション』『やる気』――表現はどうとでも出来る。
そんな精神的なものが、この島においては絶対的なものとなっていた。

もちろん、気合を入れたからといって、戦闘力がそこまで異常に上がるというわけではない。
例えばどれだけ小学生が気合を入れて投球しても、プロ野球選手を空振り三振には仕留められないだろう。
出来るとすれば、それはプロ野球選手が優しさを見せた時だけ。
もしくは、プロ野球選手がオフでのんびりしている時にいきなりボールを投げつけて、
「はいストライクぅ~~~!!」と叫んで逃げるを3回ほど繰り返すかだ。

気合を入れても、圧倒的な戦力差は覆らない。
だが、気合を入れてさえいなければ、圧倒的な戦力差を“覆される”ことならあるのだ。

タフネスが売りのプロレスラーも、オフの時にナイフで刺されれば死ぬように。
天才的プロボクサーも、毒りんごを齧ると死ぬしかないように。
超人的プロテニスプレイヤーも、照明器具に押しつぶされたら多分恐らくは死ぬはずであるように。
『心』の部分のスイッチを入れていないと、そもそも勝負にならないことは往々にして存在する。

そしてこの殺し合いという舞台でも、それは同じことだった。
惑うだけの者や、真の意味で危機感を持てなかった者から死んでいく。
そうでなくても、気持ちの部分で強敵を倒すために防御を捨て攻撃を高めたことで命を落とす者が多かった。

だから、もう、この島の生き残りに、気合の入っていない者や、覚悟のない者なんていない。
いないはずなのだ。
実際彼らは皆、覚悟を決めているつもりであった。

だが――その“スイッチ”は、自らの意思で気軽にON/OFF出来るようなものではない。

本人が如何にスイッチを入れたつもりでいても、何かキッカケがなければ、それは“入れたつもり”にすぎないのだ。
外的要因によってスイッチが入った者と比べると、些か薄っぺらくなる。
もちろん、スイッチが入り必死になってしまった者より視野が広い等メリットもあるのだが、それを活かせねば意味が無い。

これは、この期に及んで空回りし、いまいちスイッチを入れきれないままでいるクロード・C・ケニーに訪れた、転機についての話である。






☆  ★  ☆  ★  ☆






“キレた”時の人間の行動は、何種類かに分類される。
例えばクロード・C・ケニーやアシュトン・アンカース――それに彼らの仲間の大半は、大切な人を失うと、怒りで周りが見えなくなる。
だがしかし、その分目の前の仇に対しては絶対的な破壊力を持つ、一長一短なキレ方だ。

ルシオは、違う。
怒りの感情を持ちながらも、冷静に思考することが出来る。
かつてスリの仲間が私刑にあった時もそうだった。
湧き上がる怒りを感じながらも、冷静に作戦を練ることが出来る。

「……作戦開始だ」

故に、この行動も、単なる怒りからくるソレとは異なっている。
確かにブレアを殺されたことには腹が立つし、その怒りを発散するという目的がないわけではない。
しかし一番の目標は、分かりやすい開戦の狼煙を上げることだ。

だから、クロードのソードボンバーを、敵の待つ民家へと放たせる。
もちろん、すぐさま死角に身を隠せる場所からだ。
ブレアの仇へと向けて、クロードの気合の篭った一撃が放たれる。

ルシオ自身が使ってこなかった技を使うと、他にも誰か仲間がいると勘付かれる恐れがある。
しかしソレを差し引いてなお、この一撃は必要なものだった。

敵は、非戦闘員を抱えている。
そして、自分達の居場所や戦力をよく知る危険人物――ルシオや洵のことだ――が居ることも、当然ながら理解している。
そのうえでなお、近場に篭もることを選んだのだ。
下手な移動は危ないと踏んだのか、それとも単に移動までする時間がなかっただけなのか、はたまた別の理由があるのか。

それは分からない。
分からないが――いずれにせよ、無策で何もせず家に篭もることはあるまい。
ある程度、襲撃を考慮した上で立て籠もっているはずだ。
こちらから無策に突入するのは、あまりにもリスクが高い。

「後は頼んだぞッ」

だから――こうして、2階から落とされてきた馬鹿でかい桐箪笥で遠距離攻撃が塞がれるのも、想定内だ。
見張りが居るのは当然。
ある程度の迎撃があるのも当然だ。

クロードに一言投げて、ルシオは駆け出す。
クロードのおかげで、相手の迎撃手段が“家の中で見つけた物を投げつける”であったことが確認出来た。
あまりにも原始的で、些か心許ない方法。その手段は、魔術ですら無い。

つまり、相手の迎撃体制は、そこまで整ってはいない。

少なくとも、飛び道具に魔術や飛び道具をぶつけられるほど、向こうの戦力は潤沢ではない。
おそらくは武器の類も、まともに調達出来ていないことだろう。
ならば、作戦に変更はない。
このまま自分が飛び出して、マリアを――例の“メルティーナ”を叩き切るだけだ。

“詩帆”についても、当面は問題がない。
何せ大魔法は、詠唱に時間がかかる。
要するに、連発するのが難しいのだ。
ましてや、先程の一撃で、敵が一人ではないことを示唆している。
そう易易とルシオ一人に詠唱してくることはあるまい。

「うおッ!?」

一つ、想定外のことがあるとすれば、それは今しがた飛んできた“光の矢を放つクロスボウ”の存在だ。
あの時確かに洵が壊していたはずなのに、何故か再度こうして飛来してきている。
今回躱せたのは偶然。呑気に手札を隠していられる状況ではない。

「お返しだ――ッ!」

デイパックから取り出したのは、複製に成功していた“光の矢を放つクロスボウ”だ。
クロードにも秘密にしていた切り札を、今ここで切る。
命中するとは思っていない。ただ、使えさえすればそれでいいのだ。

そうして光の矢は放たれる。
狙い通りとは決して行かず、部屋の隅をぶち抜いただけではあったが、それでも十分だった。
端から、この光るクロスボウに頼るつもりなどない。
そのつもりがあれば、このクロスボウに精通している可能性に賭け、クロードにこの武器の存在を明かしている。
ましてや先程突如使えなくなり痛い目を見ているのだ、実践で頼る気など毛頭ない。

あくまでこれは、奇襲用。
想定していない一撃を加えるのが目的の隠し武器だ。
もっとも、今回はその用途で使えなくはなったのだが――――

「さっきぶりだな」

派手な音と共に、二階から少女が飛び降りてきた。
重力を乗せた一撃を避け、僅かばかり距離を取る。

クロスボウの存在を明かしてしまうと、切り札として使うことができなくなる。
ましてやこちらは素人同然。
タネが分かった状態で、戦闘に組み込むことは容易ではないだろう。

それでも、ここで明かして得られるものは確かにあった。
こちらには、家屋の壁を貫き破壊する装備がある――それを、相手に知らしめる。
相手はこの道具を熟知しているのだ、その威力はルシオ達よりもよく理解しているだろう。

故にマリアは、戦場へと引きずり出される。
守りに徹しやすい民家を飛び出して、先程辛酸を舐めたばかりの野外へと誘き出される。
何故なら彼女には、守らねばならない非戦闘員がいるのだから。
非戦闘員を傍に置いた状態で、防壁がまるで意味をなさない威力の兵器を撃ち合うことなど出来まい。

「決着をつけてやる」

それと――冷静に見えて、マリアは目に見えて疲弊している。
肉体的にも勿論だが、それ以上に精神的に。
目の前で一番の戦力だったクレスを失えばそうなるだろう。
それに、仲間を失う辛さは、ルシオもよく知っている。

だから、マリアが出てくることは、想定の範囲内だった。
戦略的にそうするのがベストという状況を作り上げれば、マリアは絶対にそうすると確信していた。

「それはこちらの台詞よ」

マリアの目には、殺意が込められている。
クレスを失ってなおも、何とか気丈に振る舞い立ち上がっていたのだろう。
そんな少女にとって、憎むべき仇は、立ち上がれないくらいに折れた心を無理矢理奮い立たせることの出来る存在だ。

守るためという大義名分と、殺したい程憎い相手。
折れそうな気持ちと崩れそうな体に鞭打ち、マリアは前線へと再び舞い戻ってきた。
今度こそ、決着をつけ、仲間を守りぬくために。






☆  ★  ☆  ★  ☆






「……レナは逃げて」

窓から飛び出すマリアの背中を見送るしかなかったプリシスが、顔を歪めて呟いた。
誰かに襲われるであろうことは、想定していた。
その相手がクレスの仇の場合、マリアが真っ先に飛び出すであろうことも分かっていた。

しかし――相手がフェイズガンを入手していたことは、さすがに想定していなかった。

着弾地点を見る限り、扱いに長けているということはないだろう。
それでも、あの威力のものを連射されてはこの家が持たない。
引いては、脱出に繋がるゲートの崩壊に繋がりかねない。

だからこそ、マリアは飛び出していったのだ。
攻撃対象を自分にすることで、少しでもゲートを守るために。
確実に殺し合いに乗っている危険人物を、少しでもゲートから遠ざけるために。

「そんなこと――」
「出来なくても、そうするしかないんだよッ!」

震える声で、プリシスが叫ぶ。
もう、優先順位は変わったのだ。
今一番脱出に必要なのは、このゲートであり、このゲートが分かる人物。
自分という存在は、このゲートと比べると、塵芥のようなものだ。

「このゲートだけは、守りぬかなきゃ駄目なんだ」

レオンが死んでも、まだ完全には希望が死んでいないように。
きっと自分が死んでも、希望はまだ残るだろう。
それでもおそらく、このゲートに代わりは存在しない。
命の張り時は、今なのだ。

「今のほとんど紋章術を打てないレナよりは、あたしの方が戦力になるよ」

そう言うと、無理矢理笑みを形づくり、プリシスはVサインを掲げて見せる。
自身の腕と、そして背負った機会の腕で。
その動作すら、レナにはすることが出来ない。
今この場で唯一武器となりえるその機械は、プリシスにしか扱えない。

「それに、この部屋が襲われるまではマリアの銃を直して、一刻も早くマリアに投げ渡さないといけないしさ」

先程マリアが放ったのは、回収したパラライズボルト。
怪我の影響か、命中することはなかった。
これでもう、パラライズボトルのエネルギー残量は0。
それでも、それを気取られなければ、牽制にはなるだろう。

とはいえ、慣れない近接戦闘を愛用の武器なしで切り抜けられるとは思えない。
この場で早々に作業を再開し、マリアにサイキックガンを届けねばならないだろう。

「それなら、2人で――」

レナの言葉を遮って、プリシスが首を横に振る。
それから、ゆっくりと、床に置かれた“それ”を指差した。

「レナには、レナの仕事があるから」

C4爆弾。
マリアが調整した、人を呼び寄せるための道具。
奇襲のせいで、完全に製作が終わったのかは分からないままだけれども。
それでも。

「皆を呼ばなきゃ。禁止エリアになる前に、来てもらわなきゃゲートを守っても意味ないもん」

賭けに出ると決めたのだ。
仲間の屍の上に、この作戦は存在するのだ。
賭けに出ずに終わるなんてこと、許されない。

「それに、誰か仲間が来てくれれば、アイツをぶっ飛ばせるようになるじゃん?」

そう言って、真剣な目でレナを見つめる。
レナだって、理解していた。
今の戦力では、心許ないことくらい。
それを打破するには、やはり誰か仲間を呼ぶしかないのだ。
そして、今、それが出来るのは――――

「でもまあ、この近くでソレを使っちゃうと、アイツどころかあたし達やゲートまでぶっ飛びかねないからさ」

威力の大きい爆弾であり、簡単な操作のあと爆弾から離れる必要があることは、マリアから聞いていた。
そして、マリアは敵と向い合っており、プリシスは先程本人が言ったように近接武器を持っているためここの防衛を離れられない。

「ここから援護してあんまりこっちに攻撃向けられても困るわけだし、紋章術が撃てるようになっても、レナがここから援護するわけにはいかないでしょ」

先程の戦闘でも、各々に役目があった。
その役目を果たすために――プリシスは、仲間の死を感じながらも、家の中で自分の役目に徹したのだ。

今度は、レナの番。
仲間のために戦いたい気持ちを堪え、自分の役目を果たすために戦場に背を向け一人ぼっちで戦う番。

「それに、最悪これの製作が終わってなくて時間が来ても爆発しない場合、レナには紋章術をこれにぶち当てて無理矢理爆破してもらわなきゃいけないしさ」

時限爆弾としてまだ使えないとしても、爆発物としては復活しているはずだ。
スターフレアや炎系の紋章術をぶち当てれば、大爆発を起こすだろう。
未完成だった場合、爆破出来る可能性は、レナが飛び抜けて高いのだ。

「ごめん……絶対、仲間を連れてくるから」

本当は、レナだって、この場を一人離れるなんてしたくはなかった。
ミランダも、クレスも、自分達のために戦い、そして死んだのだ。
その仇を前にして、自分だけ逃げるような真似、したいはずなんてない。

それでも、レナは、その役目を受け入れた。
立ち上がることも難しいほど磨り減った心を、役目という杖を使い無理矢理前へと進ませる。
C4爆弾を受け取って、言った。
きっと無様な表情だったけど、それでも、しっかりと、心の底からの想いを、告げた。

「死なないでね、プリシス……」

力強い表情で、プリシスが静かに頷く。

「レナこそ、気をつけて。レナの役目も、決して安全なんかじゃないんだからね」

確かに、正面切って戦うことが決まっているマリアよりは安全だろう。
こちらに攻撃を向けられぬようにマリアを援護し、命を賭してでもゲートを守らなくてはいけないプリシスよりも安全だろう。
だが、それでも。
レナにだって、等しく危険はあるのだ。

「それに――相手も一人とは限らない。
 最初の攻撃はあの金髪の攻撃とは違うみたいだし……
 それに、さっき居た黒髪の方が戻って来た可能性だってあるから。
 非戦闘員を捕まえて、武器だけ奪ったって可能性も、勿論あるんだけどさ」

先程の戦いを、レナは思い出す。
相手は、挟撃の末各個撃破を行ってきた。
もう一人の敵が、挟撃のため裏口に回ってきていてもおかしくない。
ましてや敵は、レナが居ることを知っているのだから。

「レナを探して家に乗り込んできたら、あたしが迎撃するけど――」

狙いがレナで各個撃破しに来た場合、おそらくはプリシスと対峙することになるだろう。
その相手が黒髪の敵なら、分が悪いのは分かっている。
非常に素早く縦横無尽に駆けまわる相手は、一撃が重い代わりに非常に遅いプリシスにとって、最悪の相手だろう。

「レナが遭遇する可能性だってあるんだから」

それでも、レナは行くのだ。
クレスが分断したとはいえ、黒髪の敵が再度来ている可能性はそれなりに高い。
それでも、レナはプリシスを置いて行かねばならない。
例え自分がここに残っても、あの黒髪に勝てる可能性は薄いと理解しているから。

「だから、レナも、死なないでよ」

間違いなく、今一番戦闘力が低いのはレナだ。
肉弾戦には自信があるとはいえ、今は肉体的にも精神的にも疲弊している。
更には紋章術を撃とうにも、もうMPも底を尽きかけている。
護身用にと万能包丁を持ってはいるが、正直これを振るうくらいなら拳の方がまだ何とかなりそうだ。

「……絶対に、また生きて会うんだからね」

遭遇したら、高確率で命を落とす。
それを分かっていて、それでもなお、プリシスはレナを送り出すのだ。
もう、そうするしか、3人全員生きて帰れる可能性はなさそうだから。

「うん……約束だよ」

部屋を飛び出したレナの背中を見送って、プリシスは、再度サイキックガンへと向き直った。
絶対に、皆で生きて帰る。
そのためにも、この因縁の戦いを、絶対に切り抜けなくてはならない。

悪いけど――“皆”の中に、あの金髪は、いくらなんでももう入れてはあげられなかった。






☆  ★  ☆  ★  ☆






探知機を睨みながら、クロードは家の裏手への移動を完了していた。
この期に及んでなお、クロードは相手の無力化を考えている。

『この島の、この酷いルールのせいで、凶行に走ってしまう』
『些細な誤解から、殺し合いに繋がってしまう』

そんなことを考えれば考えるほど、クロードの頭には、“殺さず無力化”という単語が浮かんでくるのだ。
自分が軽率に“倒すための攻撃”をしたせいで、誤解を与えたことがあるから。
すれ違いを止められず、友人が命を奪ってしまうのを、目撃してしまったから。
よく言えば反省して――悪く言えば、過去の失敗に囚われて、相手を“無力化”で終わらせようと考えている。

ブレアを殺したことは許せないし、相手が憎いのは確かだ。
それでも、命まで取る気には、どうしてもなれなかった。

とはいえ――殺す気はないが、戦闘の末“無力化”をするつもりはあった。
無抵抗だったブレアを殺したことを思うと、きっと相手は無慈悲な殺人鬼なのだろう。
野放しにするわけにはいかないし、戦いはそもそも避けて通れそうにない。
それに自分が死ぬわけにもいかないし、騙し合いになった場合勝つ自信も正直なかった。

となれば、出来ることは相手を完全に無力化し、戦闘になる心配をなくした上で説得を行なうこと。
これなら、多少恨まれることはあれど、会話にすらならないという心配はないだろう。

(来たッ――――!)

ルシオから、相手の手口は聞いていた。
紋章術による援護と、数による挟撃。

ルシオの考えていた通り、敵の一人は裏口を開け挟撃をしようとしているようだ。
光点の一つが動かなかったことを見るに、これが紋章術師なのかもしれない。

(ソードボンバーッ!)

光点が家の出口に近づき、ドアが僅かに開いたことを確認し、ソードボンバーを放つ。
狙いはドアの僅かに横。
ソードボンバーが相手に直撃はしないであろうが、それでも扉は壊れ、熱や破片が多少なりとも当たるであろう距離だ。

相手の戦闘力を削ぎ、また同時に冷静さも奪う狙いがある。
もしこれで家の中に逃げることを選択したら、扉が壊れ筒抜けになった場所から空破斬を当てる。
即座にこちらを攻撃しようにも、射線上では壊れた扉の破片が未だ宙を待っている。
接近してくるのは困難だろう。
こちらは遠距離攻撃を警戒するだけでいい。

「な――――!?」

そう、遠距離攻撃にだけは、しっかりと警戒していた。
故に、何かを投げられたことはすぐ分かった。
空破斬で当然のように撃ち落とす。
すると、ソレ――袋に入った小麦粉やらパン粉やら、とにかく大量の粉だ――が弾け、視界が白く染まっていく。

(しまった、目眩まし――――!)

ここにきて、自分の考えの浅さを痛感する。
視界を塞がれたのはまずい。
この程度ならすぐさま晴れるであろうが、それでも相手を見失ったのは不味い。

このままルシオの元に行かれる可能性もあるし、自分が狙われる可能性もある。
いや――おそらくは後者だろう。
よく見ると、今度は霧まで発生していた。
最初から姿を消す予定で、紋章術でも使わせていたのだろうか。

ここまで視界を奪うことを徹底しておいて、やることが逃走だけとは思えない。
向こうも勿論こちらの姿を見えちゃいないのだろうが、それでも先程の攻撃のせいで大まかな場所に気付かれている。
かといって、無策に適当な移動をするのは命取り。
全神経を集中させ、迎撃するより他ないだろう。

「しまっ――――!」

そう思った直後であった。
手の甲に衝撃。
気がつけば、しっかりと握りしめたはずのエターナルスフィアを奪い取られていた。

「クソッ!」

冷静でいられたら、相手が武器を奪い取ったことから、相手もあくまで無力化を目的としていると気がついただろう。
けれども、身の危険を感じてしまい、冷静さは失われた。
このまま攻撃を貰うわけにはいかない――その想いが、反射的にクロードに攻撃という手段を選ばせる。

『流星掌』

武器に頼ることなく出来る、数少ない必殺技。
冒険の時にも多用していたし、熟練度には自信がある。
故に、武器を奪われたこの状況で、咄嗟に飛び出したのだろう。

「あうっ!」

確かな手応えを感じる。
どうやら転倒してくれたようだ。
向こうが接近し攻撃することを選んできた以上、まずは無力化せねばならない。
本当ならエターナルスフィアを回収したかったのだが、視界に収められない以上、あまり追いかけるべきではないだろう。
この状況で無闇に背を向けるというのも得策とは言い難く、運良く相手が持っていたと思しき万能包丁が転がり落ちるのが見えていた。
手早く制圧するためにも、あの包丁を拾いあげるのが一番だろう。

あちらも同じことを考えたのか、同時に包丁に伸びた手を、白く染まった視界で捉えた。
まだ相手にやる気があるのだと判断し、素早く拾い上げた包丁を横に薙ぐ。
鮮血が、パッと飛び散った。

とはいえ、斬りつけたのは手だ。
命に別状まではあるまい。
むしろこれで相手が武器を取りにくくなったと考えると、好判断だったのではないか。

もう一度、不格好ながら空破斬。
相手の体勢を再び崩し制圧する目的と、この鬱陶しい目眩ましを晴らすのが目的だ。
殺さないよう、威力は抑えた。
これが、一番の道だと思った。

視界が晴れ、敵の正体を拝むまでは。






☆  ★  ☆  ★  ☆






思い付いたきっかけは、ミランダのことだった。
ミランダのことを思い出すだけで胸が締め付けられるが、それでも忘れてしまうなんて許されない。
彼女との少ない思い出を振り返り、思い出した。
彼女がかつてぶちまけたパニックパウダーの騒動。
粉末で満ち、イマイチ前が見えづらかったあの状況。
そして、着想を得て、こうして数少ない装備が完成した。
目眩ましとして使う用の、家中にある“粉”を集め布で包んだ簡易煙幕が。

勿論、屋外ではその程度大した目眩ましにはならないだろう。
幸い相手が炎系の攻撃をしてくれたおかげで煙が立ち込めてはいるのだが、それでも精々数秒動きを止める程度。
だが――それだけあれば十分だ。

ディープミスト。

何とかかろうじて使用できる紋章術。
これの発動時間さえ稼げば、姿を消すことが出来る。
自分の役目を考えれば、何も相手を攻撃する必要はないのだ。
ディープミストさえ使えれば、逃走可能性もグンと上がることだろう。

勿論ディープミストを使用したことで、C4爆弾の整備が不十分だった際にスターフレアをぶち当てることは出来なくなってしまった。
それでも、さほど大きな問題ではない。
レイで代用出来るかもしれないし、最悪ランタンを放り投げてどうにかする。
今はまず、この場を切り抜けねばならない。

(ピックポケット――!!)

戦うつもりは毛頭ない。
しかし、黙って一人逃げるつもりもなかった。
このままただ逃走すれば、プリシスやマリアが危険に晒される。
ならば、今こそ、自分に託された盗賊手袋の使い時ではないか。

すでに存在を察知されている以上、盗んだことに気付かれても問題はない。
とにかく相手の武器をスれればそれでいい。
あとはそのまま相手の武器を持って出来るだけ遠くまで逃げる。
追ってきたらプリシス達に迫る危険が減るから良し、追ってこなくても武器を一つ減らせただけ良しとしよう。

だが、しかし――甘かった。
相手の武器を奪い取れた一瞬、油断が生まれてしまった。
そして、相手に弾き飛ばされる。

普段なら、戦闘中であることを意識し、肉弾戦になる覚悟を決め反撃くらい出来ていただろう。
だが――精神の摩耗は、そんな普段の行動すら出来なくさせる。
ただ相手の武器を奪うことしか考えていなかったレナに、相手の攻撃を防ぐ手立てなどなかった。
折角奪った武器も取り落とし、更には腰に刺してた万能包丁までもが尻もちの拍子に転がり落ちる。

相手に近い万能包丁をまず拾わねばと慌てて手を伸ばし――そして、その手に激痛が走った。
痛みのあまり手を引っ込め、見てしまった。
己の小指が、第二関節で千切れかけているのを。
剣ほど鋭くないせいで、切り飛ばされ損ねた小指が、ぶらぶらと揺れている。

「――――――ッ!」

いっそ、指が全て切り飛ばされていたら、痛みのあまり危機感を覚え、もっとまともな行動が出来たかもしれない。
けれども中途半端に切断されたグロテスクなソレは、レナの頭を恐怖と混乱でいっぱいにした。

『どうしよう』

そんな言葉で満たされた頭では、次の一手など打てない。
ただ衝撃のまま、再度尻もちをつかされる。

いっそここで命を落とせていたら、どれだけ幸せだったであろうか。
もっと精神が安定しており、冷静な思考ができていれば。
もしくはいっそ、心が壊れてしまっていれば。
仮定は尽きない。そして、そんな仮定に意味は無い。

「う……そ……」

精神が摩耗していく中、目を背けていた現実。
すでにキャパシティを越えそうな心の器を、ハンマーでいきなり砕くが如き残酷な現実。
霧が晴れ、包丁を突きつけてきた“敵”の正体。

「クロード……?」
「レ……ナ……」

会いたかった人が、会いたくない形で、確かにそこに立っていた。






☆  ★  ☆  ★  ☆






友愛とは、一朝一夕で成るものではない。
長い時と過程を経て、強固なものになっていく。

けれども――この島では、そうではない。
危機的状況が、一朝一夕で友愛を作り、また憎悪をもつくり上げる。

クロード・C・ケニー。
レナ・ランフォード。

二人の関係は、長い時と過程を経て、ゆっくりと熟成されてきた。
けれども――このたったの一瞬に、その年月が負けることもある。
むしろ長い工程を経ていたからこそ、最後のたった一瞬で、一瞬で生み出されたとは思えない程の大きな感情を生み出すのだ。

ソレが友愛の爆発なのか、反動による憎悪なのか、はたまたまるで別の感情か、それはまだ分からない。
それでも。
このたった数分が、これまで熟成してきた様々なものを爆発させ、何かの大きな形を成そうとしていることは確かだった。

そう、それはまるで、カレーメシのように。

【F-01/午前】

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:電撃による軽い火傷 右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有 仲間達の死に対するショック 腰のクロス無し]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3、パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔0/100〕@SO3]
[道具:荷物一式、カラーバット@現実、解除された時限爆弾@現実]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を憎悪。ここで茶髪の剣士とは決着をつけるッ]
[思考2:ゲートを死守する]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:ブレアを確保したい]
※高い確率でブレアは偽者だと考えています。

【ルシオ】[MP残量:20%]
[状態:全身の怪我はほぼ回復。衣服が所々焼け焦げている。精神的疲労・中]
[装備:アービトレイター@RS、サイキックガン:エネルギー残量〔10〕[90/100]]
[道具:コミュニケーター@SO3、その他不明]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:マリアはここで殺す]
[思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める]
[思考3:ゲームボーイを探す]

【現在位置:平瀬村(中島家付近)の民家前】

【レナ・ランフォード】[MP残量:3%]
[状態:右手小指切断寸前、仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、
    精神的疲労極大、ミランダが死んだ事に対するショック、その後首輪を手に入れるため彼女に行った仕打ちに対する罪悪感]
[装備:盗賊てぶくろ@SO2、万能包丁@SO2]
[道具:首輪×2、荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:クロー……ド……?]
[思考2:C4爆弾を使い人を呼び寄せる。仲間が来てくれたら、一緒に中島家に戻る]
[思考3:茶髪の剣士(ルシオ)を撃退する]
[思考4:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考5:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考6:アシュトンを説得したい]
[思考7:エルネストに会ったら何があったかを話す]


【クロード・C・ケニー】[MP残量:50%]
[状態:全身に軽い痛み。怪我はほぼ回復。]
[装備:エターナルスフィア、スターガード@SO2、エネミー・サーチ@VP]
[道具:首輪探知機@BR、その他不明]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:レ……ナ……?]
[思考2:ルシオと共に平瀬村でマーダーを倒……倒……え? は?]
[思考3:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考4:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:チェスターの事は『ゲームには乗ってないけど危険な人物』として認識しています]


※クロード及びルシオの状態表に書かれている以外のもので、クロード達の持っていた道具がどの様に整理、分配されているのかは後続の方に一任します。
 以下整理、分配されている可能性のある道具
 ・ルシオの荷物=マジカルカメラ(マジカルフィルム×?)@SO2、10フォル@SOシリーズ、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、グーングニル3@TOP、拡声器、スタンガン、ボーリング玉@現実世界、首輪、荷物一式×4
 ・クロードの荷物=セイクリッドティア@SO2、昂魔の鏡@VP、荷物一式×2(水残り僅か)、アヴクール@RS(刀身に亀裂)、アシュトン、アルベル、レオンのデイパック
 ・アシュトンの荷物=無稼働銃、物質透化ユニット@SO3、首輪×4、荷物一式×2
 ・アルベルの荷物=木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????(3)、????(5)、鉄パイプ@SO3、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)
 ・レオンの荷物=どーじん、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????(2)、荷物一式

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:かつての仲間達がゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、仲間達の死に対する悲しみ]
[装備:マグナムパンチ@SO2、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、
    メモに書いた首輪の図面、結晶体について分析したメモ荷物一式、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔50/100〕@SO2、
    壊れたサイキックガン(フェイズガンの形に改造)〔10〕[100/100]@SO2]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す。アシュトンは――]
[思考1:ゲートを、守る。絶対に……]
[思考2:茶髪の剣士(ルシオ)を撃退する。そのためにも、マリアの銃を一刻も早く直す]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考5:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる]
[思考6:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡す]
[備考1:制御ユニットをハッキングする装置は完成しています]

【現在位置:平瀬村(中島家付近)の民家2階】

※ミランダの遺体は平瀬村の民家(中島家)周辺に仰向けで寝かせてあります。
 クレスの腕は布に包んだ状態でその脇に置いてあります。
※中島家周辺に落ちているアイテムはマリアがすべて回収しました。
 セブンスレイと壊れたサイキックガは現在プリシスが修理・改造しています。
※壊れたサイキックガンの修理時間は後の人に任せます。

【残り15人+α】



第145話← 戻る →第147話

前へ キャラ追跡表 次へ
第142話 マリア
第145話 ルシオ
第142話 レナ
第145話 クロード
第142話 プリシス


|