バッグス・バニーの51と½周年記念

(blooper) Bunny!

監督: Greg Ford, Terry Lennon
脚本:Ronnie Scheib, Greg Ford, Terry Lennon
発表: 1997年6月13日(テレビ)
L/M: Merrie Melodies


あらすじ

 バッグス・バニーがデビューから51周年と半年を迎えた。これを記念して劇場で盛大なセレモニーが行われることになり、ダフィー・ダックエルマー・ファッドヨセミテ・サムら往年の共演者達もお祝いに駆けつける。バッグス、ダフィー、エルマーがステージ上で仲良く踊った後は、特大バースデーケーキの中から現われたサムがロケット花火に点火し、最後は皆に祝われたバッグスが慎ましく謙遜したところでセレモニーは幕を閉じた。
 しかし、この短い祝賀フィルムが撮影され終わるまでには、様々な紆余曲折が隠されていた……。

・・・・

収録状況

1. DVD
  • ルーニー・テューンズコレクション【バッグス・バニー】(吹き替え無し/字幕選択可能)
    グレッグ・フォード監督による音声解説トラック付き


登場キャラクター


備考

1. 日本での放送

2. 作品内容
  • 1940年に「A Wild Hare」でデビューしたバッグス・バニーの51歳と半年を祝って作られた11分の短編作品。キャラクターを並べただけの当たり障りない小品かと思いきや、1分間の祝賀フィルムの後は本編以上に長いメイキング(NG集)が始まる。お祝い映像では営業用の笑顔を浮かべていたライバル達も、メイキングではバッグスやワーナーに噴出する不満を隠そうとしない。皮肉にもこうした態度の落差はキャラクターのイメージを損なうものではなく、むしろ本来の彼らのイメージにより近いものである。
  • 監督のグレッグ・フォードは本作について「近年の作品ではキャラクターのアクの強さがなくなってきたので、NG集的な発想で彼らの本来の姿である“いがみあい”を復活させた」と語っている。1980~90年代のルーニー・テューンズはファミリー向けのコンテンツとして広く喧伝される一方、明るく健全なイメージを打ち出すあまり、シリーズ本来の破壊的なユーモアはおざなりにされる傾向にあった(このような当時の風潮を象徴する作品が『スペース・ジャム』で、本作は興業的には大成功を収めたが、キャラクターの性格描写については大きく的を外している)。本作の砕けた作風からはそうした時代の流れから踏みとどまり、今一度基本に立ち返ろうとする意思が読み取れる。
  • 「51と1/2周年」という邦題からも分かるように、本作は当初1992年中の劇場公開を見込まれていたが、実際に陽の目を見たのは1997年のテレビ特番『June Bugs』(米国カートゥーン ネットワークで放送されたバッグス・バニー短編の一挙放送企画)でのことだった。“お蔵入り”の事情については不遜な作風が上層部の不興を買ったせいとも言われるが、実際のところは不明。
    • 「50周年」ではなく中途半端な「51と1/2周年」を祝っているのは、本作が50周年のお祝い騒ぎのパロディを意図しているからだと思われる。なお「1/2年」は「3歳半」や「24と1/2世紀」のようにルーニー・テューンズで好んで使われるフレーズである。
50周年記念のロゴ
  • 原題の「blooper」とは放送用語で「NG」という意味。タイトルカードは「That ●×▲■(伏字表現)」という文字に覆いかぶさるように「(blooper)」の文字が入る。

3. 小ネタ
シーン1:祝賀会
  • まず最初にバッグスの51歳半を特集する架空の雑誌(どれも実在する雑誌のパロディ)の表紙が映し出される。その中には『The New Yorker』誌を模した本も混ざっているが、その表紙はチャック・ジョーンズがロートレック風にバッグス・バニーを描いたイラストを基にしている。
本編カット(左)とチャック・ジョーンズによるイラスト(右)
  • バッグスがダンスを踊る場面のBGMは、長年ワーナーの音楽監督を務めたカール・スターリングが作曲したオリジナル曲。バッグスは「Stage Door Cartoon」(1944年)や「Bugs Bunny Rides Again」(1948年)でもこの曲にあわせてタップダンスを踊っている。
「Bugs Bunny Rides Again」より
シーン2:舞台裏
  • シ-ン2はコンピュータとセルの共同作業によって作られている。これによりカメラマンが実際に現場を歩き回っているかのような一続きのロングショットが可能になった。
  • エルマーは撮影前の空き時間を利用してミノキシジル育毛法に励んでいた。「Hair Cwub for Men」とは「Hair Club for Men」をエルマー風の発音(LがWに置き換わっている)で表したもの。
  • 出演者の楽屋の扉には、バッグス、サム、エルマーの他、ルーニー・テューンズの初代&二代目看板キャラクターである“ボスコ”(と“バディ”)の名前も確認できる。(バディは「ddy」の部分のみ判読可能)
  • ダフィーだけまともな楽屋が与えられず撮影所の隅にプレハブ小屋があてがわれているというギャグは、「ショービズはキビシ」の1シーンを彷彿とさせる。
シーン3:NG集
  • バッグスの「どったの、センセ?」という台詞(設定上の口癖を作品外で使うという行為)でスタッフ間に笑いが起きる場面はメタ作品ならでは。
  • 発砲を巡ってバッグス、エルマー、ダフィーが掛け合う場面は、クラシック短編の狩猟期三部作へのオマージュ。
「ちゃっかりウサギ狩り」より
  • スタッフロールで流れるBGMは、「魅惑の蛙」でお馴染みの『Hello Ma Baby』。

4. 台詞
リハーサル前のスタジオで、ダフィーは不満げに企画をけなす。
ダフィー・ダックあぁ全く、51と1/2周年記念だって? 一体誰の駄作デス!? 誕生日おめでとう、友よ、盟友よ、相棒よ…。その次は気付いたら鼻垂れの甥っ子どもと共演させられてるんだ。やりかねないね!一体全体、ワーナーブラザースにはオリジナリティってものが…
 “アニバーサリーもの”を手掛けるワーナーの企業姿勢に疑念を示すダフィー。「甥っ子」のくだりはディズニーの『わんぱくダック夢冒険/Duck Tales』(ドナルドダックの甥っ子のヒューイ・デューイ・ルーイが大おじのスクルージと冒険を繰り広げるテレビアニメ)を意識したものだと思われる。

撮影事故の後「ノーカット」で自分がエルマーを叱るシーンを記録しろというダフィーだが、喋り終わって片足を踏み出した途端、床板が反り返り顔面に直撃する。
バッグス・バニーニー、もうカットしていい?
ダフィー・ダックこの汚い…〔※言い終わる前に次のNGリールに切り替わる〕
 ダフィーの負け惜しみに定番の「お前って、サイテー!」ではなく、よりドギツイ「son of a***」という言葉が使われている。これはNG映像のキャラクターが台本ではなく個人の言葉で発言していることを示す演出だと思われる。アニメキャラクターが放送禁止用語を口にしてしまうというアイディアは、1938年にシュレジンジャースタジオで製作された“ポーキー・ピッグがカメラに向かってSon of a ***と言う”内輪向けのジョークフィルムを思わせる。

ヨセミテ・サム登場場面のNGテイク。
監督:カット! ケーキから出るタイミングはばっちりだよ、サム。でももう少し、その、楽しそうにできないかな。想像してごらん。バッグス・バニーの誕生会を。みんなハッピーで、とっても盛大なお祝いに…〔※サムのしかめっ面に気付く〕、何か問題でも?
ヨセミテ・サムバッグス・バニーが51才半だと? 知るか!!
 お祝いの席でも平常運転のサム。サムの悪態はエンドクレジットでも堪能(?)できる。

5. 関連作品
  • Invasion of the Bunny Snatchers(1992年)
    「バッグス・バニーの51と1/2周年記念」を手掛けたグレッグ・フォード&テリー・レノン監督によるもう1つのバッグス・バニー短編。登場キャラクターは本作と同じバッグス・バニー、ダフィー・ダックエルマー・ファッドヨセミテ・サムの4人。「空から謎の宇宙ニンジンが襲来し、バッグスのライバル達が一夜にして心のこもっていない木偶の坊に成り代わってしまった!」という筋立てのホラーコメディだが、成り代わられたライバル達の姿がテレビ時代の安っぽいアニメーションや商業主義によって毒気を抜かれたキャラクター像を皮肉ったものであることは明白。






 2015/06/30 冗談でなく泥棒に入られたので生活が困窮しています。


最終更新:2015年06月29日 15:36