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愛鳴藩国には南北を貫く街道がある。そしてその街道には商店街が並び様々な商店が軒を連ねている。
藩国中部地区はてない商店街に幾多ある飲食店の中で、常にその味でトップの座を守り続ける店がある。その名を大衆食堂「味のれん」といふ。
時間は夜8時をまわった頃合、店内には一日の疲れを癒しに来る人々、ほとばしるエネルギーを夜になってももてあます若者。
そして世の祝福を一心に受けたかのようなカップルが同席していた。その状況はカオスである。今夜も先行きが見えることは無かった。


味のれん店内、その一角に空のビンや徳利をとりでのように並べた男がいた。
「へっ、バレンタイン~、どこぞ異国のおまつりぢゃねーのー」
ぐい飲みをその名前のとおり飲み干し、っかーと息をつく。
くだを巻く男は九頭竜川という。藩国のすんばらしい技族のおかげで「凱旋パレード」ではクールなかっけー男になっているが実際はタダの酔っ払いである。
どーやら今日は悪いほうにギアが入っているらしい。
「ば・れ・ん・た・い・ん。んー、ば・ん・あ・れ・ん・た・い」
小首をひねる。やおら手をポンと打った。
「バンアレン帯!あははー、せいそーけんでチョコ渡せるもんなら渡して見ろっちゅーの」
もはやダメダメである。あるいは負け犬モード全開である。
某日某せんとらるチャットにおいては会員加盟確実であったろう。
九頭竜川のダークサイダーぶりに、同行者もいささかもてあましていた。
同行者の名は赤星 緑という。愛鳴藩国飛行剣士隊(トップガンみたいなところ)のパイロットであり、人畜無害な外見と言動で子供には非常に人気がある。
反面その妄想っぷりに藩国内のフ女子に誤解を生み、漢としてのっぴきならないところにきているがそれはまた別の話である。


「ちょっと九頭竜川さん~、やめてくださいよ、みんな見てますよー」
「なに!そーゆーおまいは異端者だな。バレンタイン教に改宗したんだろー」
目が据わった九頭竜川にじとーっとにらまれた赤星は、ちょいと視線をずらしすっとぼけて答えた。
「いえいえ、私は敬虔なルーズドック教信者でございますから」
どぞどぞ。すっと徳利を差し出し相手の器に注ぐ。
「ならばさし許す」ぐび。
満足そうにぐい飲みを傾ける九頭竜川。それでいいのかお前。
一方赤星はせっかく回避した地雷を踏む壮挙に出る。
「そんなこといっても九頭竜川さんももらっているんでしょ、チョコ。それもたくさん」
実際は3個くらいかなーとか思いつつ、おくびにも出さずに話を振った。
ちなみに赤星は結構もらっていた。パイロットである彼は学園祭でアクロバットを披露し、新聞に載るほどの活躍を果たしたのだ。
わたしも飛行剣士隊に入ってみんなが驚くアクロバットをやりたいですー(消える魔球、みたいな?)、と書かれたファンレターをもらったことは秘密だ。
あたら純粋な少女の将来を捻じ曲げたような心地になったからだ。
九頭竜川は答えなかった。徳利を手に取る。空だとわかると福千歳を冷やで一本注文した。
赤星はさらに言葉を重ねる。
「ねーねー、いくつもらったんです?九さんのことだから、10個?いやいや100個かもー(w)」
それは偉業であった。イラクに追加派兵するB大統領くらいのすばらしさである。
その結末はベトナムかソマリアか。
九さんこと九頭竜川は、航空機事故で去った先達のように上を向くことはできなかった。
1個ももらってないなんて、お天道様に顔向けできない・・・
うつむき何かをつぶやきはじめる。
何、真っ赤、スカーフ?耳を寄せた赤星が首をかしげる。
みんなーそのきぃでー、いいれーばっいぃいー、小声で歌う九頭竜川の前に青色の透き通った徳利が置かれた。
九頭竜川は徳利を持ちやおら立ち上がると、一気に飲み干し吼えた。
「男の胸にはっ!ろまんの欠片がほしいっちゅーねん!」
(どどーん!)


悪いときに悪いことは重なるものである。
悪の萌芽をよそにピンクがかった絶対防壁を展開するカップルがいた。
「ねぇー、かずくぅん(はあと)」
「なに?ちーちゃん(はあと)」
「あのねー、今日何の日かしってる?」
「ええっ、なんだろう。」
「ほんとーに、わかんないのぉ」
「二人で一緒に行った長スパ遊園地記念日」
「ちがうもんっ(プンプン)」
「ちーちゃん、ごめん冗談だって。VDでしょ」
「いじわるぅー、せっかくかずくんにあげようと思ったのに・・・」
「?。でも昨日ちーちゃんからチョコもらったよ」
「昨日のはVDイブの。そして今日が本番でー、明日もアフターVDでチョコあげるのー」
「ありがとうっ、ちーちゃん大好きっ」
「あーん、かずくんわたしもー(くねくね)」


(バレンタインデーなら略さずにそー言いやがれっ!)
臆面も無く繰り広げられるカップルののろけ話を苦々しく思いつつ、周囲の者はジト目でやり過ごしていたが、
心の奥のやっこい(やわらかい)ところをえぐられた男が暴発した。
「こっ、殺す・・・」
九頭竜川の目が二人にロックオンされた。
体内のはどーエンジンが破局に向け臨界まで内圧を高める。
たーげっとすこーぷおーぷん。対ショック、対閃光防御ってなものである。
どこからか取り出した般若のお面をていっと放り捨てると、これもどこからか取り出した粉砕バット(!)を腰にさした。
「ひとぉーつ、人のこともしらんと甘い空気を垂れ流し」
「ふたぁーつ、不埒にも、ひとりから三つももらいやがるチョコ三昧」
「みぃーつ、見苦しきアツアツ(死語)バカップルを退治してくれよう、桃太郎!」
粉砕バットを高々と掲げ見栄を切るチョコ侍の後ろで、赤星があわあわしていた。
(不祥事、ふしょーじ発生中ー!)
史上まれに見るバカさ加減の、チョコの怨恨による惨劇の幕が上がろうとしていた。


そのころのカップルの様子。
「かずくぅん。チョコおいし?」
「とっても甘くておいしいー(はあと)」
「ちぃの、かずくんへの愛が込めてあるのぉー(はあと)」
(もー好きにしてくれ・・・)


「九さん、景気づけの一杯を!」
赤星が透明な液体が注がれたショットグラスを差し出した。
「うむ、くるしゅーない!よきにはからへ」
すでに意味はわからない。九頭竜川は差し出されるままにグラスを干した。
「・・・ンガッグッグ!」
ポンという音でもしたかのように九頭竜川の顔が真っ赤になり、そのままカウンターに崩れ落ちた。


「やれやれ・・・」
赤星は額の汗をぬぐった。救いの手を差し伸べてくれた味のれんの店主、通称「親父」に礼を言った。
「親父さん、なんですかこのグラスの中身?」
「(ニヤッ)世界最強のウォッカ「スピリタス」。アルコール度数96度」
ほー。感心した赤星がグラスにライターを近づける。
透明な酒の上にゆらゆらと透明な炎が揺らいでいた。アルコールランプのようだった。
「毒には毒をもってせーす、とゆーやつですね」
グルグル目を回してカウンターに突っ伏している九頭竜川を、赤星はとほーに暮れた顔で見下ろした。
「この人の介抱するの、やっぱり僕?」


かくして悪は滅び正義が成され、味のれんにも愛鳴藩国にも平和が訪れた。
しかし九頭竜川は知らない、孤児院の子供たちから政庁関係者にチョコが配られていたことを。
翌日「おしごとがんばってください」と書かれたカードを見て思わず目頭が熱くなっちゃうことを。
明けぬ夜は無い。はかなき負け犬にせめて一夜の休息を・・・
(暮れぬ昼も無いともゆーけど(w))


(文責:九頭竜川 2007.3.30上梓)