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食料大増産計画
(画:ミリ)

「さあ、しまっていくよ~!!」
色とりどりのスカーフ、タオル、ボンネットを頭に被った女性たちが、農地に散っていく。きびきび動くのは若い女の子。ツボを抑えた作業を行い、仕事の采配をするのが中年の女性。子供と老女は彼女たちのサポートの仕事を行い、テキパキと確実に収穫を行って行く。
老若男女、あらゆる人の手が係る農業。それが愛鳴藩国の農業である。

愛鳴藩国の農業生産力はそれほど高くはない。農業の機械化率がそれほど進んでいないためだ。現在の農業技術では、農業機械の消費するエネルギーと生産される農作物とのバランスを鑑み、化石燃料に不足感のある藩国いまだ手作業による農業を中心としている。それは耕作地面積に対しての生産量が現代日本と比べて数分の一という現状も示している。

現代の戦争は総力戦であり、それは前線、銃後の区別なくすべてが戦争に関係するということだ。
前線で兵士が血を流すのと同等以上に、各班国でもその国民たちは汗を流し(時には血を流し)自らを守るための戦いを始めている。
 兵士は食事をしなければならない、しかも兵士が十分な戦力として実力を発揮するためには、一般人が一日に摂取する以上のカロリーを補給する必要がある。
 一人の兵士が一食に4個のおにぎりを消費するものとして、一日4食で16個。一師団の定数が6000人として、一日96000個。1ヶ月軍事行動を行うとして×30日の2880000個。おにぎり1つが100グラムとして288トン。
水田の10アール(1000平方メートル)あたりの収穫量は約500キロとすると、それだけのお米を生産するには5760アール576000平方メートルの田んぼが必要となり、その大きさは東京ドーム13個強という東京都の世田谷区程度の広大な敷地が必要となる。
それだけではなく種籾の育成から、田植え、稲刈りまで通常の米で約半年も費やす。あらゆるコストが背景にあるのだ。
しかも今ここで挙げたのは「米」だけである。兵士におにぎりだけ与えるわけにはいかない。週に一度のカレーがなくなれば、果たして兵士のモラルは地に落ち、実際の戦闘に入る前に戦線が崩壊する。カレーを作るためには、米のほかにじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、とお肉が必要で、それぞれが戦場にいる兵士の数だけ必要なのだ。
戦争をするためにはまず食糧を確保する必要がある。そのため戦争時には、食糧生産量の少ない国では一国の経済すら破綻させる規模のブラックホールが生じるのである。


しかし、田んぼで作業にはげむ女性たちに暗さはない。はてない国人の特長であろうか、常に前向きで、楽天的そうしたところが、ムダに落ち込むことなく純粋に労働を楽しむことができるのではないだろうか。
田園の周囲には戦時とは思えない牧歌的な雰囲気が漂っていた。日本の昭和30~40年ごろの農村の雰囲気である。
 遠くには愛鳴山とそのふもとの森が眺められる。田園に目をやると、四角く区切られた金色の波の中を、たくさんの人の手がその波頭を崩すように金色の束を拾い上げ、また刈る。金と茶の大地の色を更に細かく区切るのは青空を移す水路である。
 水路の両側には雑草がやさしい緑のラインを添え縦横に走っている。水路をさかのぼると大きなため池に至る。ため池はポツンポツンと田畑を囲むように配置されている。人々は夏にはここで泳ぎ、釣りを行い、また雨が少ない時には貴重な水源として大切に管理している。
 収穫作業の脇ではなにやら炊事の煙が立ち昇っている。かまどをしつらえ、大きな鉄なべで料理をしているのだ。
 女性たちや子供の笑い声が聞こえる。みなはそれぞれの自慢料理を持ち寄ってあーだこーだとおしゃべりに夢中だ。子供はお手伝いにあいたのか、友達と犬と追いかけっこを始めた。老女はそのすべてをやさしく見守り。ちょこんと座って、同じ老女と話をしている。
 いよいよ鍋の中身が煮えたようだ。様々な野菜がはいった芋鍋である。こんなの歓声がはじけた・・・

 そこには愛すべきすべてがある。ここにはいない夫や息子はそう思うであろう。女たちも考えていた。今ここにあなたがいたならどんなにうれしさがますことだろう。
 だからこぞ、日々を一生懸命に生き、もう一度この田園で一緒に収穫をするのだ。



○農業地帯の設定

【水田と二毛作】
愛鳴藩国の農業地帯は、国土の中央地区の中にあり、上区西側に位置する。
農作物は、主食の米を生産するため稲作を中心とした水田が多く、藩国北部に位置する愛鳴山を源流と八幡川を主要な水源としている。
水田は基本的に四角く区画整理が行われており、あぜ道と共に農道も適宜整備され、将来的な農業の機械化を見据えている。
水田では主に稲作が中心であるが、水田として利用されるのは春から秋に掛けて(4月から10月)行われる。その後、冬の期間の水田跡には、大豆、麦等の他の種類の農作物を栽培する二毛作を行っている。これは農地の有効利用と食糧生産性の向上を意図したもので、特に農業の機械化の進んでいない当藩国においては国策として行われている。


【愛鳴野菜】
この国では伝統的に野菜を主とする食文化が伝わっている。よって各種野菜が生産されているが、特徴として1つの野菜に対し、大きさ、色、味等様々なバリエーションを持つ派生種が生産されていることだ。ダイコンひとつにしても、甘いのから辛いの。太くて長いやつから、コロコロとしたまん丸のやつまで5~6種存在する。
その他かぼちゃ、なす、ごぼう、瓜、唐辛子等、他国では見ることのできない種類の野菜もあり、国内の各家庭ではこれらの野菜を用いた料理がそれぞれの家庭のレシピとして残っており、折々の祭の際などにそれぞれの家庭の自慢料理を持ち寄って宴会が行われる。


【水源と鯉】
八幡川はそれほど大きな河川ではなく流量も莫大とはいえない。そのため農繁期に備え田畑の周辺や高地に遊水地を設け、ため池として雨量が少ない際の給水源としている。
なお各所にある遊水地では、緊急時の食糧確保のため鯉の養殖が行われており、その他食用可能な鮒、海老、貝等の放流も行い、食料資源の確保に努めている。
八幡川と各遊水地と田畑を繋ぐ用水路が農業地帯を縦横に走っている。この水路から各田畑に水が供給される。
また用水路には鯉が泳ぎ、田んぼにはめだか、カエル、タニシが見られる。現代日本では失われつつある生物が今も残っている。


【食品加工】
農産物の量を確保するためには、その加工と保存の技術が不可欠である。また農作物の二次製品として、穀物からしょうゆ、味噌、お酢等の各調味料。米酒、麦酒等一部の人間にとって必要不可欠な嗜好品等も生産される。
特に米酒については、歴史ある醸造元が蔵を構え、腕のよい杜氏が質のよい醸造酒を作り上げる。醸造元として「赤龍酒造」が名高く一品大吟醸「石田屋改」の入手には一年がかりだという。その飲み口は、口当たり良くかつ口内で圧倒的に広がる馥郁たるかほり、米の甘さを力強くかつ滑らかであるという。
その他保存食として、高野豆腐、切干ダイコン、各種漬物が有名である。
国内を縦断する街道の左右に店を構える商店街の中には、その愛鳴野菜による漬物を取り扱う商店があつまる場所がある。
その店の前を通ったものがいうには、そのにおいが物理的な衝撃を持って襲ってきたとのことである。

(文章:九頭竜川)
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