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”何で、嫌いな食べ物(黒豆)の商品開発する羽目になってるんだろう?”
初登庁の翌日、わんわん帝國愛鳴藩国の食料倉庫の黒豆区画の片隅でキラ=カンナの独白

 わかば大族のキラ=カンナは、犬で言うなら「尻尾しおしおのお耳ペッタンコ」の心境で、黒豆倉庫にいる。何故そんなことになってたかは、彼女の朝の風景から遡る。

 キラ=カンナは、今日は皆に合わせる顔が無いと思ってる。昨日の勉強会の際に少しでも戦闘事務の練習をしようとしたが、皆の仕事を増やしただけだったのだ。特に吏族の方々には
『資料室に入るときに、ミリ殿が一生懸命整理した書類の束を床にぶち撒けた』事や、
『淹れたコーヒーをたまき殿に渡そうとして、作成中の書類に零した』事や、
『勉強会が終わった後に資料室の清掃&片付けを頼まれ、書類の整理中にでっかいデータ集をカイエ殿の秘書であるキサラ殿の頭の上に落っことした』事が頭によぎった。
(うう、挨拶以外は散々な初仕事だった。よし!今度は他の人に迷惑の掛からない仕事をさせて貰おう。)
 表向きはともかく藩国の実情として、今日の無断欠勤は問答無用で銃殺確定なので内心ビクビクしながらキラ=カンナは職場に出勤した。

 「おはよ~う、カンナ様。昨日はお疲れ様。」
びくぅ!(す、少なくとも朝だけは会わずに済むと思ってたのに・・・)
「お、お早うございます。キサラ殿でしたな?あの、昨日も聞きましたが頭のほうは大丈夫ですか?たんこぶとか何か障害とかは出てませんか?ちゃんとお医者さんに見てもらいましたか?」
キサラ殿は遠い目をしながら、
「ええ。イキモノって思ったより頑丈ですね。5Kg近くあるデータ集が、2メートル以上の高さから落ちてきた時には、一瞬私達の戦場で戦死(?)するかと思いましたが。」
 私がキサラ殿の前で縮こまっていると、
「それで、吏族のお三方が貴女に対して出した結論を先に言うと『元の能力はともかく、共同作業には向いてないかも』らしいの。ま、次からはそれ用の任務が下されるんじゃない?」
はう、結構本気で怒ってらっしゃる(汗。しかし次の任務がすぐにあるとは。
「昨日は大変失礼しました。並びに、貴女と吏族のお三方のご厚意に感謝を。それで、貴女の上司のカイエ殿はどちらへ?」

 先程話題にしていた3人の吏族の方々が、カフェテラスからこちらに歩いてこられた。お互い朝の挨拶を終えた後、最初に任務に関する必要事項の通達を始めたのはたまき殿でした。
「おっはよ~。た・し・か~、キラさんは黒豆が大っ嫌いだったよねぇ?今年の冬はわんにゃん問わずゴタゴタしてたでしょう?我が愛鳴藩国では黒豆の収穫が最近終わったばかりで、他の藩国には一粒たりとも輸出できなかったのよ。」
次にミリさんが、
「でも、腐らせるのは勿体無いし黒豆を使った商品の開発をお願いしたいの。吏族の面々からのお・ね・が・いでもあるし、藩王様からも許可は貰ってるわ。一人で存分におやんなさい。」
トドメにカイエ殿が
「試食ぐらいなら私達も付き合うわよぉ。」
 な、何たる悪夢!しかし、これで昨日の汚名返上が可能になった。頑張らねば。


 どれだけの量の黒豆が、どのような保存方法で保存されているのかを確かめる為、早速食糧倉庫に自分は向かいました。そこでは鞘から出され、豆の状態で乾燥されたものを50Kg単位で袋詰めされた物が、倉庫にうずたかく積まれていました。
「壮観だな。これが黒豆でなければ自分も素直に喜べたのだが・・・」
早速1袋だけ拝借して、『試作用材料。食ったら刀の錆になると思え Byキラ=カンナ』と表面に書いてから、政庁の調理場の一角に置かせて貰いました。
 次に、この国の老人達にこの藩国の黒豆調理方法を聞こうと思いましたが、ふとたまき殿の言葉を思い浮かべました。
『一粒も輸出できなかったの』
もしや、輸出の為だけに作付けされた農作物かもしれない。そんな疑問がムクムクと湧いてきました。まずは、資料室でいつから黒豆が愛鳴藩国で植えられ始めたかを調べることにしよう。
 調査結果は、有り難くない事に予想した通りでした。植え始められてから十数年しか経っていません。しかも、藩国の国民達はこの作物を自分達で食べたことが殆ど無いのです。
「くっ!本当に資金を稼ぐの為の作物か。確かに大豆よりは金になるしな。しかし、食料としては扱いの難しい代物だぞ?」
キラ=カンナは黒豆が自生し、それを食べる習慣のある国からの移民です。だからこそ、好き嫌いが発生したのですが。
「一番最初の試作は、私の記憶の中にあるレシピからか?あのお茶は、はっきり言って豆が嫌いな人間には拷問だぞ。」
ブツブツ言いつつ、しっかり準備は開始しています。
手順1:黒豆を香ばしい薫りがするまで煎る。
手順2:煎った黒豆を、お湯を沸かしたやかんに好きな量を入れる。
手順3:お湯の色が紫色になったら、出来上がり。
「さて、試食ではありませんが付き合っていただけますな?吏族の方々。」
ちょっぴりダークな影をまといつつ、彼女たちにも(不幸の)御裾分けをしようと執務室へ急ぎました。

 「あらぁ、もう出来たの?」カイエ殿、「ふむ、最初の試作品は茶ですか。カンナ殿。」たまき殿、「あら、丁度良かったわ。皆でお茶にしましょう。」ミリ殿と、全員が疑うことも無く自分からお茶を受け取った。味は、『見た目がちょっと変わってて、味はきな粉』な代物だ
 「これ、え、お茶だよねぇ?」「うーむ、商品化は無理が無いか?カンナ殿」「普通の水チョーダイ。」やっぱり大不評でした。


 さて、気を取り直して(3人の吏族達による、理力での総攻撃によりボロボロ)真面目に考えますか。基本は豆だから、実際には料理への応用は簡単なんだよね。
豆臭さを取り除く為、残りの試作用の黒豆を全て乾煎りにして色んな物に混ぜてみた。
 1つ目はクッキー。ちょっと黒いけど、荒く挽いたものは食感がアーモンドみたいでナイス。黒豆粉末を生地にも混ぜてみたけど、ちょっと黒くなるだけで小麦粉より多く入れなければ普通においしいかも。逆を言えば、小麦粉以上に入れたら本気で豆臭くなったんだけど。
 2つ目はコーヒー。アメリカン(薄いコーヒー)は無理があるなぁ。ほんの少し黒豆茶を思い出しちゃうよ。まぁ、この国ではアメリカンで飲む習慣は無いからいいか。それ以外の飲み方なら粉末黒豆が結構入ってても十分イケル。
 3つ目はココア。うん、コーヒー程に沢山黒豆粉末は入れれないけど、こっちもOK。商品化可能だわ。さて、今度は誰に試食(生贄)して貰おうか。

 結局吏族の方々には断られたので、商店街の付近で子供達と一緒に遊んでいる判 新殿に試食をお願いした。
「どうですか、新商品は。」
判 新殿と一緒に遊んでいた子供達の1人がクッキー、もう1人の子供がココア、判 新殿はコーヒーを飲んでいる。
「うん、いいんじゃね?このコーヒー、材料あんなに変えてるとは思えないほど美味いし。ココアやクッキーに到っては、あいつら『おかわり!』って言ってるし。」
彼の背後では、2人の子供が目をキラキラさせいる。
やった、後は藩王様への試食とゴーサインだけ!自分がそう思っていると、ついと子供達が私の服の裾を握っている。
「あのね、おねぇちゃん。このココアたかくなかった?」
私は驚いて、その子達の目線になるように腰を下ろしてから話を聞いてみた。
「せんせいがね、『せんそーだけど、ココアもたかくなったわね』って言ってたの。それとね、『コーヒーは”ぜいたくぜい”がかけられるかもしれない』って、おべんきょうをおしえてくれるおにいちゃんがいってたの。ほんとにそうなるの?」
 自分と判 新殿は顔を見合わせました。確かに、そういう娯楽品は真っ先に税がかけられるものが普通だ。しかし、この国では子供達に関する食の娯楽に関しては決して他国の”普通”の基準では、税をかけない事も感じ取れた。
「大丈夫だ。そうならないようにするのが、私達大人の仕事だ。」
「そうそう、お前達は好き嫌い無しに食って、たくさん遊んで、一杯大人達に甘えるのが仕事だ。」


 さて、仕事が増えたな。ココアとコーヒの価格変動の調査・戦争前の値段に戻すための
其々の品目に関する原材料の最低含有量の試算・黒豆の加工工場の新設&更新・元の味を極力壊さないための新しい加工法の開発・・・やらねばならぬ事はそれこそ一杯だ。
「やれやれ、コレを見越してあのお三方は私に依頼なされたのか?まぁいい、子供達の笑顔を守れるならば、仕事の増加は止む無しだ。」
 結局、ココアは民間軍用を問わず、極力黒豆の混入量と価格の高騰を抑える事となった。コーヒーについては、例によって例のごとく”贅沢税を設けるべきだ”との声も挙がったが、議会に掛けるまでも無く反対の声が多かった。代替案として、価格据置で民間用コーヒーの方がほんの少し黒豆の混入量が多くなった。

(文章:キラ=カンナ)