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「トリオプスダイバーズ」」(2013/01/13 (日) 08:30:17) の最新版変更点

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どのような社会においても、仲間というものは重要である。 例えば、賢者と愚者の、どちらを味方にするべきか? 利害の観点だけで見るならば、そのどちらも一長一短で、 その答えは、常に変わるものである。 ---- アプルーエ周辺・北東群島近海。 群青に沈む空間を突き進む、複数の人影があった。 プラント帝国軍に所属するアームヘッド・水無月である。 水陸両用の機体であるそれらは、電灯の光で闇を裂き、水圧の壁を掻き分けて島を目指した。 「警備が軽微だな」 「まさか、あの島にはもう何も無いのでは?」 「その心配はあるまい。航空部隊が高レベルアームコアの発掘現場を捉えたのは最近だ。  それで、奴らの意識は空に向いているのだろう。我々は海から奇襲をかけて、遺跡を破壊、  あわよくばアームコアも回収するだけだ」 水無月部隊のソナーが、足元に奇妙な魚影をキャッチしたのはそのしばし後だ。 「なんだ?」 「でかいな・・・・・・ドラゴンでもいるのか?」 「しかし、魚龍は絶滅したと聞きました。あれは・・・・・・?」 反射する音波から形状を読み出し、そのシルエットが明らかになっていく。 「スリッパ?」 レーダーを見る限り、奇怪な魚影からは二匹の子が生まれたようだった。 高速で迫るそれは目視できる距離に近づく。 「魚雷だ!!」 水無月の一体がそう言ったとき、更に別の二つの巨影が渦を巻いて取り囲んでいた! 閑散としていた海面にいくつもの水柱が上がる。 それから水無月は、ただの一体も浮上することは無かった。 「・・・・・・」 上空では一機のアームヘッドがその様子を見下ろしていた。 砕けたばかりの隕石のような、いかつい巨岩が乱雑に刺さっている海岸。 朝靄が厚くかかっており、そこに座り込む複数のアームヘッドを見ることは、 よほど近づかなければ難しいだろう。 集結しているアームヘッドは全て帝国機である。 その内訳は、海水に足を浸している水無月が四機、 その背後で待機している二機の文月、一機の弥生・改、そしてセイントメシアだ。 「久しぶりだな”血染の羽毛”」 #ref(pd001.jpg) 「貴方は、”パーフェクト・ダーター”」 村井幸太郎は弥生のパイロットに向けてそういった。 ”パーフェクト・ダーター”は帝国でそれなりに名の通ったエースの一人である。 文月などの新型が次々に登場する中、最初に与えられた弥生を改造して乗り続けているパイロットだ。 というのも単純に、これまでに撃破された経験がないからである。 敵と直面するなり、瞬時にその弱点を捉え、正確無比にそれを射抜いて撃破する。 彼にとっての戦闘はそれだけのことなのだ。 その鮮やかな手際は、以前に共同任務に就いた時に幸太郎も目撃しており、 なるほど異名の通りだと深く感心したものだった。 そしてそんなエース二人が、再びここに揃っているということは、 他のパイロットにとっては拍手でもしたくなるような光景である。 「我々が空ではなく海から攻めるというのは、私たちにとっても意外だな」 ”パーフェクト・ダーター”の弥生が、水平線に向けてズームカメラを絞った。 「ええ。敵はさぞ、驚くでしょう」 一応、幸太郎はエース歴では後輩である。自然と丁寧な喋りになっていた。 しかし彼は内心、アームコアの採掘妨害と奪取が最終目的の任務だというのに、 何故二人も揃って海からの奇襲に当てられたのか、釈然としない疑問にもやもやしていた。 やがて先行した航空部隊から合図が届き、二人のエース率いる海上部隊も動き出した。 白波を立てながら海を進む四機の水無月。 完全に沈んでおかないのは、弥生と文月がその上に乗っているからである。 セイントメシアは用意された水無月には乗らず、上空から並行していた。 やがて靄の中に黒く巨大なシルエットが浮かび上がる。 リズ連邦のローレシア級巡洋艦が三隻だ。 プラントのアームヘッド部隊は、臆することなくそれに直面する。 この迎撃は想定の内である。 並列した三隻の軍艦はアームコア反応をキャッチするなり、海面に向けて激しく砲撃を始める。 さらに甲板が開き、その下の格納庫からはヴァントーズやヴァンデミエールといったアームヘッドが、 次々に姿を現し、飛び立った。 「ずいぶん守りが堅いな!」 様子を見たセイントメシアが急降下する。 ヴァンデミエールやブースター・パックを背負ったヴァントーズが迫り来るが、 ”血染の羽毛”は次々に撃墜してみせ、左の軍艦に近づいていく。 「流石だな!」 ”パーフェクト・ダーター”もそれを見て、水無月から跳び上がると、 真ん中の敵艦の舳先に向けて飛翔し、邪魔する機体の首を次々に貫いた。 残った文月と水無月も、砲撃をたやすく切り抜け右側の軍艦に取りつく。 それから文月は甲板の上に乗り込み、四機の水無月は海中から船底を攻撃した。 セイントメシアは空中でヴァンデミエールを蹴落とすと、艦橋に高速で接近! すれ違いざまに翼を薙いで、戦艦の首を切断する! #ref(pd002.jpg) 一方、敵艦に乗り込んだ”パーフェクト・ダーター”も次々に敵を仕留めていた。 その速さと正確さはまさしく殺人マシーンのそれだ! ぼろぼろと海面にこぼれていく、リズ連邦のアームヘッド! 二機の文月は背中合わせに、ヴァントーズ群と対峙する。 そこで轟音!水無月によって船底が破壊され、大きく傾いた船体から群れが転がり落ちる! ブリッジを切り裂かれた戦艦であったが、尚もメシアに向けて集中砲火を続ける! その中には、コルダックブラスターなどといった対バリアー武器も紛れている。 ”血染の羽毛”は高機動でそれらをかわし、突き出した砲塔の山へ向けてヴァントーズの残骸を投げる! 船上は激しく炎上し崩壊! #ref(pw001.jpg) 「もう沈めたか!?」 深緑の弥生・改は、ヴァントーズを軽く弾いただけで海面に突き落とす! 迎撃アームヘッドを全て退けた”パーフェクト・ダーター”も、ブリッジへ向けて矢となり突き進む! この時、残りの一隻を攻撃していた文月であったが、すでに水無月との交信が途絶えていることに気づく。 直後に彼ら二体も、奈落の底に引きずりこまれていた・・・・・・。 「何だ!?」 炎上する艦船の上空、異変を感じた幸太郎が一面の海を見下ろした。 海面から頭を出したヴァントーズがある。それは弥生改が弾き飛ばした機体だ。 その下では確かに、黒い影がうごめいていた。 だが直後! #ref(pw002.jpg) 「!?」 大きな水柱が上がったのはセイントメシアの背後だった! 飛びついてきた新たな敵は、血染の羽毛の足を捕らえると、 そのまま急降下し、海面に思い切り叩きつける! セイントメシアは、黒い海の中へと引きずり込まれ、完全に沈んでいった。 「セイントメシア・・・・・・」 潰れた艦橋の上からそれを見ていた弥生・改。 そして”パーフェクト・ダーター”は、不敵に笑った。 村井幸太郎。お前をこの任務に呼んだのは他でもない、私だ。 この海域には、水無月さえもたやすく沈める、謎の水中専用アームヘッドが存在している。 今、帝国でその事実を知っているのは、唯一目撃していたこの私だけなのだ。 セイントメシアとはいえ、血染の羽毛とはいえ、こうなってはもう戦えまい。 貴様は、調子に乗りすぎたのだ。 御蓮人のくせに帝国の旗として振舞うなど、我が国にとっては屈辱的なこと。 我らが、貴様の代わりに英雄となってやろう。 私とて、好きでこんな機体に乗っていたわけではない。 煩わしいメンツによって!貴様と比べられる事によって! 私はこの機体に乗ること自体でしか、評価されなくなっていたからだ! この任務で大量のTレベルアームコアを回収した後は、私が新たなトーアとして、 深緑のセイントメシアを駆り、我らネイティヴ・アイシアンこそが、 神聖プラント帝国の正当な所有者であることを、証明してみせる!! ”パーフェクト・ダーター”は足元に槍を突き刺し、更に艦橋を爆破させた。 黒煙に紛れて飛び上がると、水平線に浮かんだ小さな島々に向けて、ズームカメラを引き絞る。 そして、高度をとって迅速に戦場を去っていく! しかし彼は、彼の弥生の片目と同じように、円く目を開かずには居られなかった。 敵は、前方、そして頭上から落ちてきていたのだ。 「この高度!!?」 #ref(pw003.jpg) 青い影は大鎌で弥生の脇を挟み込み、いとも簡単に海中へと引きずり込む! 「ば、ばかな!?」 ”パーフェクト・ダーター”の視界が泡に包まれた。 そして、そのズームカメラは、薄く光の差し込んでいる海の闇だけを見つめた。 「奴は!?」 #ref(pw004.jpg) 弥生の放つ赤い光は、虚しく青の中に飲まれていった。 引きずり込んできた敵が、背後を悠々と泳いでいることを察する。 「まずいッ!?」 水中とはいえ完全に動けぬわけではない。弥生が振り向くが、敵の姿は無い。 また背後だ! 直感がよぎって、振り向くとそこには、先ほどと同じ人外のシルエットがあった。 違うのは、その体の底部に、魚雷を抱え込んでいたことである。 「まさか!?」 海中を滑るように向かってくる敵は、機体底部から鎌のついた捕脚を伸ばし、 弥生改を捕らえると、あざ笑うかのようにゴーグル状の目を上下させ、牙を開閉した。 「!?」 #ref(pw005.jpg) 超近距離で放たれる二本の魚雷! それが一拍おいて爆発した時、敵は既に目の前から消えていた。 そして青白い光が浮かび上がる。三度目だ。 「く、クソッタレ・・・・・・!」 ”パーフェクト・ダーター”の機体は、装甲に食い込んで破裂した魚雷によって、 海水が浸入するほどの穴を開けられていた。 全身が水に浸っていくなか、気力を振り絞り、迫りくる敵を睨む。 奴の弱点は!どこだ?どこだよ!? 無心で槍を振っていた。 だが意外!次の敵は鎌で捕らえることなく、弥生の目前で上に逸れた。 その代わりに、槍の渾身の一撃も外れていたが、もはやそんなプライドなどどうでもよい。 #ref(pw006.jpg) 「!?」 ”パーフェクト・ダーター”は我が目を疑った。 上に逸れた敵は、その尾を力強く振り落として、その先にあるアーム・ニードルを突き刺してきたのだ!! 頭上に見える、激しい泡と光の爆発。 水中でのアームヘッドの自壊は、まるでスローモーションのようだ! #ref(pw007.jpg) 弥生の機体が全身から泡と血を吐いて分断される。 ”パーフェクト・ダーター”はそれに包まれて、去っていく敵の姿を見た。 泳いでいくその姿は、別の二機と合流していく。あの敵は、三機いたのだ・・・・・・。 突然、体に衝撃を受けた。 沈んできた機体の破片に押されているのである。 もはや泳いで脱することも出来ない・・・・・・。 スーツとヘルメットに蓄えられた、酸素が尽きるまでの間、 こうして遠い海面を、見つめ続けるしかないのだ。 そして彼と彼の弥生は、そのアームコアを除いて、マリンスノーとなって海底に積もることだろう。 セイントメシアは暗黒の海中を漂っていた。 「敵が離れてった・・・・・・”パーフェクト・ダーター”が?」 彼が今、敵の餌食となって、俺に時間を与えている・・・・・・。 幸太郎はそう感じて、もう一人のエースに感謝した。 だが、現状を打破する方法が見当たらない。 海中での実戦は、これが初めてなのである。 しばらくして、周囲の闇から、三つの青い影がその姿を現した。 「さぁて今晩のメインディッシュ~」 「おれたちまだ朝メシも食ってないぜ?」 「・・・・・・そうだ」 セイントメシアの周りを泳ぎ回るシルエット。 幸太郎はそれを見て、幼き日に田んぼで見た生物を思い出した。 「ふはは、まさか俺たち『トリオプス・ダイバーズ』が、  メシアを仕留めるなんて偉業を、成し遂げちまうなんて!!」 「誰にとっても意外だぜ!これで今までコケにしてきた連中をいびれるぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 アームヘッド水中戦隊『トリオプス・ダイバーズ』は、 元々おちこぼれのパイロットだった三人が、 完全水中専用の試作アームヘッド・パディーウィーダー(”田んぼの草取り虫”の意)の、 テストパイロットになることを、失敗して藻屑になることを確定された捨て駒として強制されたが、 偶然にも、強い適性とチームワークを発揮したために結成された、特殊すぎる特殊部隊である。 パディーウィーダーのフォルムは、まず速度よりも水中挙動の安定を重視した、 つまり、完成形の一つである”生きている化石”を模しているものなのである! 「こいつどうやって料理すんだよ!!!」 「あいつの全身トゲトゲは猛毒だぜ!取り除いてからの調理だぜ!」 「・・・・・・そうだ」 三匹のカブトエビは、メシアの周囲を旋回しながら、 機底に抱える魚雷を、順番に放っていく! セイントメシアは、水圧を不自由に感じながら、翼を振り回して魚雷を切り裂く。 しかし持ち前の速度が削がれて、防ぎきる事は出来ない! パディーウィーダーはそれぞれ、シャコを髣髴とさせるような捕脚を展開すると、 三方向からセイントメシアに襲い掛かった。 血染の羽毛は最小限の動きで、敵の駆動部が集中する、尾の部分を狙った。 この判断も”パーフェクト・ダーター”が居たから出来たのかもしれない、 ありがとう”パーフェクト・ダーター”! 元・おちこぼれパイロットたちは、現・エースの狙い澄ました一撃を、悠々と回避! そして再び散開すると、背中に付いた水圧レーザー砲を向け、無数に放つ! 見えざる流れの槍が、セイントメシアに襲い掛かる。 これでは満足にかわすことは出来ない、翼を閉じて防ぐのが精一杯である。 「おおお!?」 「トゲトゲ無くなったぜ!!調理するぜ!!」 「フォーメーション・アームキルだ」 トリオプス・ダイバーズのパイロットは、機体の頭部に酷似したヘルメットの中で、それぞれ言った。 三匹のカブトエビは腹を合わせて並び、尾の針先をメシアへ向けると、 再び散開して泳ぎ回り、メシアの前方で再び集まった。 そのまま目掛けて向かってきたかと思うと、再び散開して、通り過ぎていく。 そのすれ違いざまである!三機が急速に腹を曲げて、毒針が遂に繰り出された! 刺さる直前の事、再び翼を開いたセイントメシアの眼は、海面に差し込む光のように蒼い! 三つのアームニードルが一点にかちあった時、血染の羽毛は姿を消していた! 「えええ!?」 「消えたぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 セイントメシアは彼らの頭上から、泳いで迫っていた。 (水のトーアのカノイ・カウカウ・・・・・・出来たのならば、もっと早くに発動してもらいたいものだ!) 血染の羽毛の一撃を、寸前で避けるトリオプス・ダイバーズ。 「あいつもう泳げるようになったのか!!」 「まるでミノカサゴのようだぜ!!」 「・・・・・・いや、アオミノウミウシだ」 そんな会話をする三人だが戦う気がないわけではない。 パディーウィーダーは再び散開し、見えざるレーザーと魚雷で追撃を開始する! それらを背に、海底に向かい泳ぐセイントメシア。 カカマの発動によって加速、更に水中にもかかわらず飛行形態に変形! 「姿が変わったぞ!」 「今度はヒトデだぜ!!」 「・・・・・・オトヒメエビ」 セイントメシアは宙返りするように上昇してトリオプス・ダイバーズに向き直ると、 レーザーと魚雷の壁に向かって一直線に突っこんでいった。 全身の刃でそれらを白い泡に変えながら、敵との距離を詰めていく! 「こっちに来るぞ!」 「とどめを刺すぜ!!」 「フォーメーション・アームキル!」 三機のパディーウィーダーは互いに腹を向け合いながら回転、 尾のアームニードルの針先が、セイントメシアの機体中心を正確に捉え、ぶれることなく迫る! セイントメシアとパディーウィーダーが交差する直前! カブトエビは散開と同時に尾の一撃を放つ! 血染の羽毛は機体を回転させ翼で斬撃を生み出す! セイントメシアの刃は、三機の針を弾くだけでなく尾の付け根に深々と突き刺さる! 「なんだと!?」 「やばいぜ!!」 「・・・・・・やばい」 カブトエビの群れを串刺しにしたまま海面に上昇するセイントメシア! 海から引きずり出されたトリオプス・ダイバーズが見たのは、 爆発炎上する三隻の軍艦である! 血染の羽毛もそれを見下ろすと、翼と足を振り回して、 パディーウィーダーを一匹ずつ、戦艦に向けぶん投げる!! 「晩飯はカブトエビの丸焼きだああああ!!」 「まずいぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 キャボーン! トリオプス・ダイバーズは軍艦と激突し、爆発の火の海に飲まれた。 血染の羽毛は、黒煙の中で、轟沈していく戦艦を見ていた。 そして、自分を除き、敵味方ともども全滅したのだと気づく。 ”パーフェクト・ダーター”・・・・・・。 俺は少なからず貴方のおかげで生き残ったと言っていい。 神聖プラント帝国は俺が守り、必ず勝利に導く。 それから幸太郎は、彼の真意に気づくことは無く、 燃え盛る海を背に、小さな島々へと向かって飛んでいった。 ---- 類は友を呼ぶ、というように、 幾ら計画的に仲間を揃えても、結局は似たもの同士なのである。 賢者には賢者が集まり、裏切りあう・・・・・・。 愚者には愚者が集まり、けなしあう・・・・・・。 その逆も然りだ。 まあ、実際は、こういう考え方で付き合う者には劣悪な関係しか築けぬ、ということだね。 さて、次は・・・・・・? 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どのような社会においても、仲間というものは重要である。 例えば、賢者と愚者の、どちらを味方にするべきか? 利害の観点だけで見るならば、そのどちらも一長一短で、 その答えは、常に変わるものである。 ---- アプルーエ周辺・北東群島近海。 群青に沈む空間を突き進む、複数の人影があった。 プラント帝国軍に所属するアームヘッド・水無月である。 水陸両用の機体であるそれらは、電灯の光で闇を裂き、水圧の壁を掻き分けて島を目指した。 「警備が軽微だな」 「まさか、あの島にはもう何も無いのでは?」 「その心配はあるまい。航空部隊が高レベルアームコアの発掘現場を捉えたのは最近だ。  それで、奴らの意識は空に向いているのだろう。我々は海から奇襲をかけて、遺跡を破壊、  あわよくばアームコアも回収するだけだ」 水無月部隊のソナーが、足元に奇妙な魚影をキャッチしたのはそのしばし後だ。 「なんだ?」 「でかいな・・・・・・ドラゴンでもいるのか?」 「しかし、魚龍は絶滅したと聞きました。あれは・・・・・・?」 反射する音波から形状を読み出し、そのシルエットが明らかになっていく。 「スリッパ?」 レーダーを見る限り、奇怪な魚影からは二匹の子が生まれたようだった。 高速で迫るそれは目視できる距離に近づく。 「魚雷だ!!」 水無月の一体がそう言ったとき、更に別の二つの巨影が渦を巻いて取り囲んでいた! 閑散としていた海面にいくつもの水柱が上がる。 それから水無月は、ただの一体も浮上することは無かった。 「・・・・・・」 上空では一機のアームヘッドがその様子を見下ろしていた。 砕けたばかりの隕石のような、いかつい巨岩が乱雑に刺さっている海岸。 朝靄が厚くかかっており、そこに座り込む複数のアームヘッドを見ることは、 よほど近づかなければ難しいだろう。 集結しているアームヘッドは全て帝国機である。 その内訳は、海水に足を浸している水無月が四機、 その背後で待機している二機の文月、一機の弥生・改、そしてセイントメシアだ。 「久しぶりだな”血染の羽毛”」 #ref(pd001.jpg) 「貴方は、”パーフェクト・ダーター”」 村井幸太郎は弥生のパイロットに向けてそういった。 ”パーフェクト・ダーター”は帝国でそれなりに名の通ったエースの一人である。 文月などの新型が次々に登場する中、最初に与えられた弥生を改造して乗り続けているパイロットだ。 というのも単純に、これまでに撃破された経験がないからである。 敵と直面するなり、瞬時にその弱点を捉え、正確無比にそれを射抜いて撃破する。 彼にとっての戦闘はそれだけのことなのだ。 その鮮やかな手際は、以前に共同任務に就いた時に幸太郎も目撃しており、 なるほど異名の通りだと深く感心したものだった。 そしてそんなエース二人が、再びここに揃っているということは、 他のパイロットにとっては拍手でもしたくなるような光景である。 「我々が空ではなく海から攻めるというのは、私たちにとっても意外だな」 ”パーフェクト・ダーター”の弥生が、水平線に向けてズームカメラを絞った。 「ええ。敵はさぞ、驚くでしょう」 一応、幸太郎はエース歴では後輩である。自然と丁寧な喋りになっていた。 しかし彼は内心、アームコアの採掘妨害と奪取が最終目的の任務だというのに、 何故二人も揃って海からの奇襲に当てられたのか、釈然としない疑問にもやもやしていた。 やがて先行した航空部隊から合図が届き、二人のエース率いる海上部隊も動き出した。 白波を立てながら海を進む四機の水無月。 完全に沈んでおかないのは、弥生と文月がその上に乗っているからである。 セイントメシアは用意された水無月には乗らず、上空から並行していた。 やがて靄の中に黒く巨大なシルエットが浮かび上がる。 リズ連邦のローレシア級巡洋艦が三隻だ。 プラントのアームヘッド部隊は、臆することなくそれに直面する。 この迎撃は想定の内である。 並列した三隻の軍艦はアームコア反応をキャッチするなり、海面に向けて激しく砲撃を始める。 さらに甲板が開き、その下の格納庫からはヴァントーズやヴァンデミエールといったアームヘッドが、 次々に姿を現し、飛び立った。 「ずいぶん守りが堅いな!」 様子を見たセイントメシアが急降下する。 ヴァンデミエールやブースター・パックを背負ったヴァントーズが迫り来るが、 ”血染の羽毛”は次々に撃墜してみせ、左の軍艦に近づいていく。 「流石だな!」 ”パーフェクト・ダーター”もそれを見て、水無月から跳び上がると、 真ん中の敵艦の舳先に向けて飛翔し、邪魔する機体の首を次々に貫いた。 残った文月と水無月も、砲撃をたやすく切り抜け右側の軍艦に取りつく。 それから文月は甲板の上に乗り込み、四機の水無月は海中から船底を攻撃した。 セイントメシアは空中でヴァンデミエールを蹴落とすと、艦橋に高速で接近! すれ違いざまに翼を薙いで、戦艦の首を切断する! #ref(pd002.jpg) 一方、敵艦に乗り込んだ”パーフェクト・ダーター”も次々に敵を仕留めていた。 その速さと正確さはまさしく殺人マシーンのそれだ! ぼろぼろと海面にこぼれていく、リズ連邦のアームヘッド! 二機の文月は背中合わせに、ヴァントーズ群と対峙する。 そこで轟音!水無月によって船底が破壊され、大きく傾いた船体から群れが転がり落ちる! ブリッジを切り裂かれた戦艦であったが、尚もメシアに向けて集中砲火を続ける! その中には、コルダックブラスターなどといった対バリアー武器も紛れている。 ”血染の羽毛”は高機動でそれらをかわし、突き出した砲塔の山へ向けてヴァントーズの残骸を投げる! 船上は激しく炎上し崩壊! #ref(pw001.jpg) 「もう沈めたか!?」 深緑の弥生・改は、ヴァントーズを軽く弾いただけで海面に突き落とす! 迎撃アームヘッドを全て退けた”パーフェクト・ダーター”も、ブリッジへ向けて矢となり突き進む! この時、残りの一隻を攻撃していた文月であったが、すでに水無月との交信が途絶えていることに気づく。 直後に彼ら二体も、奈落の底に引きずりこまれていた・・・・・・。 「何だ!?」 炎上する艦船の上空、異変を感じた幸太郎が一面の海を見下ろした。 海面から頭を出したヴァントーズがある。それは弥生改が弾き飛ばした機体だ。 その下では確かに、黒い影がうごめいていた。 だが直後! #ref(pw002.jpg) 「!?」 大きな水柱が上がったのはセイントメシアの背後だった! 飛びついてきた新たな敵は、血染の羽毛の足を捕らえると、 そのまま急降下し、海面に思い切り叩きつける! セイントメシアは、黒い海の中へと引きずり込まれ、完全に沈んでいった。 「セイントメシア・・・・・・」 潰れた艦橋の上からそれを見ていた弥生・改。 そして”パーフェクト・ダーター”は、不敵に笑った。 村井幸太郎。お前をこの任務に呼んだのは他でもない、私だ。 この海域には、水無月さえもたやすく沈める、謎の水中専用アームヘッドが存在している。 今、帝国でその事実を知っているのは、唯一目撃していたこの私だけなのだ。 セイントメシアとはいえ、血染の羽毛とはいえ、こうなってはもう戦えまい。 貴様は、調子に乗りすぎたのだ。 御蓮人のくせに帝国の旗として振舞うなど、我が国にとっては屈辱的なこと。 我らが、貴様の代わりに英雄となってやろう。 私とて、好きでこんな機体に乗っていたわけではない。 煩わしいメンツによって!貴様と比べられる事によって! 私はこの機体に乗ること自体でしか、評価されなくなっていたからだ! この任務で大量のTレベルアームコアを回収した後は、私が新たなトーアとして、 深緑のセイントメシアを駆り、我らネイティヴ・アイシアンこそが、 神聖プラント帝国の正当な所有者であることを、証明してみせる!! ”パーフェクト・ダーター”は足元に槍を突き刺し、更に艦橋を爆破させた。 黒煙に紛れて飛び上がると、水平線に浮かんだ小さな島々に向けて、ズームカメラを引き絞る。 そして、高度をとって迅速に戦場を去っていく! しかし彼は、彼の弥生の片目と同じように、円く目を開かずには居られなかった。 敵は、前方、そして頭上から落ちてきていたのだ。 「この高度!!?」 #ref(pw003.jpg) 青い影は大鎌で弥生の脇を挟み込み、いとも簡単に海中へと引きずり込む! 「ば、ばかな!?」 ”パーフェクト・ダーター”の視界が泡に包まれた。 そして、そのズームカメラは、薄く光の差し込んでいる海の闇だけを見つめた。 「奴は!?」 #ref(pw004.jpg) 弥生の放つ赤い光は、虚しく青の中に飲まれていった。 引きずり込んできた敵が、背後を悠々と泳いでいることを察する。 「まずいッ!?」 水中とはいえ完全に動けぬわけではない。弥生が振り向くが、敵の姿は無い。 また背後だ! 直感がよぎって、振り向くとそこには、先ほどと同じ人外のシルエットがあった。 違うのは、その体の底部に、魚雷を抱え込んでいたことである。 「まさか!?」 海中を滑るように向かってくる敵は、機体底部から鎌のついた捕脚を伸ばし、 弥生改を捕らえると、あざ笑うかのようにゴーグル状の目を上下させ、牙を開閉した。 「!?」 #ref(pw005.jpg) 超近距離で放たれる二本の魚雷! それが一拍おいて爆発した時、敵は既に目の前から消えていた。 そして青白い光が浮かび上がる。三度目だ。 「く、クソッタレ・・・・・・!」 ”パーフェクト・ダーター”の機体は、装甲に食い込んで破裂した魚雷によって、 海水が浸入するほどの穴を開けられていた。 全身が水に浸っていくなか、気力を振り絞り、迫りくる敵を睨む。 奴の弱点は!どこだ?どこだよ!? 無心で槍を振っていた。 だが意外!次の敵は鎌で捕らえることなく、弥生の目前で上に逸れた。 その代わりに、槍の渾身の一撃も外れていたが、もはやそんなプライドなどどうでもよい。 #ref(pw006.jpg) 「!?」 ”パーフェクト・ダーター”は我が目を疑った。 上に逸れた敵は、その尾を力強く振り落として、その先にあるアーム・ニードルを突き刺してきたのだ!! 頭上に見える、激しい泡と光の爆発。 水中でのアームヘッドの自壊は、まるでスローモーションのようだ! #ref(pw007.jpg) 弥生の機体が全身から泡と血を吐いて分断される。 ”パーフェクト・ダーター”はそれに包まれて、去っていく敵の姿を見た。 泳いでいくその姿は、別の二機と合流していく。あの敵は、三機いたのだ・・・・・・。 突然、体に衝撃を受けた。 沈んできた機体の破片に押されているのである。 もはや泳いで脱することも出来ない・・・・・・。 スーツとヘルメットに蓄えられた、酸素が尽きるまでの間、 こうして遠い海面を、見つめ続けるしかないのだ。 そして彼と彼の弥生は、そのアームコアを除いて、マリンスノーとなって海底に積もることだろう。 セイントメシアは暗黒の海中を漂っていた。 「敵が離れてった・・・・・・”パーフェクト・ダーター”が?」 彼が今、敵の餌食となって、俺に時間を与えている・・・・・・。 幸太郎はそう感じて、もう一人のエースに感謝した。 だが、現状を打破する方法が見当たらない。 海中での実戦は、これが初めてなのである。 しばらくして、周囲の闇から、三つの青い影がその姿を現した。 「さぁて今晩のメインディッシュ~」 「おれたちまだ朝メシも食ってないぜ?」 「・・・・・・そうだ」 セイントメシアの周りを泳ぎ回るシルエット。 幸太郎はそれを見て、幼き日に田んぼで見た生物を思い出した。 「ふはは、まさか俺たち『トリオプス・ダイバーズ』が、  メシアを仕留めるなんて偉業を、成し遂げちまうなんて!!」 「誰にとっても意外だぜ!これで今までコケにしてきた連中をいびれるぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 アームヘッド水中戦隊『トリオプス・ダイバーズ』は、 元々おちこぼれのパイロットだった三人が、 完全水中専用の試作アームヘッド・パディーウィーダー(”田んぼの草取り虫”の意)の、 テストパイロットになることを、失敗して藻屑になることを確定された捨て駒として強制されたが、 偶然にも、強い適性とチームワークを発揮したために結成された、特殊すぎる特殊部隊である。 パディーウィーダーのフォルムは、まず速度よりも水中挙動の安定を重視した、 つまり、完成形の一つである”生きている化石”を模しているものなのである! 「こいつどうやって料理すんだよ!!!」 「あいつの全身トゲトゲは猛毒だぜ!取り除いてからの調理だぜ!」 「・・・・・・そうだ」 三匹のカブトエビは、メシアの周囲を旋回しながら、 機底に抱える魚雷を、順番に放っていく! セイントメシアは、水圧を不自由に感じながら、翼を振り回して魚雷を切り裂く。 しかし持ち前の速度が削がれて、防ぎきる事は出来ない! パディーウィーダーはそれぞれ、シャコを髣髴とさせるような捕脚を展開すると、 三方向からセイントメシアに襲い掛かった。 血染の羽毛は最小限の動きで、敵の駆動部が集中する、尾の部分を狙った。 この判断も”パーフェクト・ダーター”が居たから出来たのかもしれない、 ありがとう”パーフェクト・ダーター”! 元・おちこぼれパイロットたちは、現・エースの狙い澄ました一撃を、悠々と回避! そして再び散開すると、背中に付いた水圧レーザー砲を向け、無数に放つ! 見えざる流れの槍が、セイントメシアに襲い掛かる。 これでは満足にかわすことは出来ない、翼を閉じて防ぐのが精一杯である。 「おおお!?」 「トゲトゲ無くなったぜ!!調理するぜ!!」 「フォーメーション・アームキルだ」 トリオプス・ダイバーズのパイロットは、機体の頭部に酷似したヘルメットの中で、それぞれ言った。 三匹のカブトエビは腹を合わせて並び、尾の針先をメシアへ向けると、 再び散開して泳ぎ回り、メシアの前方で再び集まった。 そのまま目掛けて向かってきたかと思うと、再び散開して、通り過ぎていく。 そのすれ違いざまである!三機が急速に腹を曲げて、毒針が遂に繰り出された! 刺さる直前の事、再び翼を開いたセイントメシアの眼は、海面に差し込む光のように蒼い! 三つのアームニードルが一点にかちあった時、血染の羽毛は姿を消していた! 「えええ!?」 「消えたぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 セイントメシアは彼らの頭上から、泳いで迫っていた。 (水のトーアのカノイ・カウカウ・・・・・・出来たのならば、もっと早くに発動してもらいたいものだ!) 血染の羽毛の一撃を、寸前で避けるトリオプス・ダイバーズ。 「あいつもう泳げるようになったのか!!」 「まるでミノカサゴのようだぜ!!」 「・・・・・・いや、アオミノウミウシだ」 そんな会話をする三人だが戦う気がないわけではない。 パディーウィーダーは再び散開し、見えざるレーザーと魚雷で追撃を開始する! それらを背に、海底に向かい泳ぐセイントメシア。 カカマの発動によって加速、更に水中にもかかわらず飛行形態に変形! 「姿が変わったぞ!」 「今度はヒトデだぜ!!」 「・・・・・・オトヒメエビ」 セイントメシアは宙返りするように上昇してトリオプス・ダイバーズに向き直ると、 レーザーと魚雷の壁に向かって一直線に突っこんでいった。 全身の刃でそれらを白い泡に変えながら、敵との距離を詰めていく! 「こっちに来るぞ!」 「とどめを刺すぜ!!」 「フォーメーション・アームキル!」 三機のパディーウィーダーは互いに腹を向け合いながら回転、 尾のアームニードルの針先が、セイントメシアの機体中心を正確に捉え、ぶれることなく迫る! セイントメシアとパディーウィーダーが交差する直前! カブトエビは散開と同時に尾の一撃を放つ! 血染の羽毛は機体を回転させ翼で斬撃を生み出す! セイントメシアの刃は、三機の針を弾くだけでなく尾の付け根に深々と突き刺さる! 「なんだと!?」 「やばいぜ!!」 「・・・・・・やばい」 カブトエビの群れを串刺しにしたまま海面に上昇するセイントメシア! 海から引きずり出されたトリオプス・ダイバーズが見たのは、 爆発炎上する三隻の軍艦である! 血染の羽毛もそれを見下ろすと、翼と足を振り回して、 パディーウィーダーを一匹ずつ、戦艦に向けぶん投げる!! 「晩飯はカブトエビの丸焼きだああああ!!」 「まずいぜ!!」 「・・・・・・そうだ」 キャボーン! トリオプス・ダイバーズは軍艦と激突し、爆発の火の海に飲まれた。 血染の羽毛は、黒煙の中で、轟沈していく戦艦を見ていた。 そして、自分を除き、敵味方ともども全滅したのだと気づく。 ”パーフェクト・ダーター”・・・・・・。 俺は少なからず貴方のおかげで生き残ったと言っていい。 神聖プラント帝国は俺が守り、必ず勝利に導く。 それから幸太郎は、彼の真意に気づくことは無く、 燃え盛る海を背に、小さな島々へと向かって飛んでいった。 ---- 類は友を呼ぶ、というように、 幾ら計画的に仲間を揃えても、結局は似たもの同士なのである。 賢者には賢者が集まり、裏切りあう・・・・・・。 愚者には愚者が集まり、けなしあう・・・・・・。 その逆も然りだ。 まあ、実際は、こういう考え方で付き合う者には劣悪な関係しか築けぬ、ということだね。 さて、次は・・・・・・? 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