「むぎゅ! …だぞ」
「わっ!」
いきなり何もない空間から男の子が飛び出して、私に正面から抱きついてきた。
いや、男の子にも見えるし女の子にも見える。
髪はふわふわとしていて白く、赤い瞳はまっすぐに私を見上げている。
「あなたは、誰…?」
「ムスタングなんだぞ。はじめましてだぞ、葵」
ムスタング君(としておく)はそう言うと、棒のようにか細い腕を放した。
今気づいたけど、コートの下は何故か水着だった。
上には女子用のブラ、下は男子用の海パンでやはり性別がわからない。
「どうして私を知ってるの?」
「まぁ色々あってなんだぞ。今日はちょっと用事で」
「用事?」
ムスタング君が少し哀しそうな顔をして言った。
「『今日』なんだぞ。時間がないから、眠ってないで起きるんだぞ」
その瞬間、眼が覚めた。
ベッドの上。腕には点滴。側には幸君。
「葵、おはよう」
心配そうな表情を隠した微笑みで聞いてくる、私の大事なだんな様。
おはよう、と返して、私は幸君の手を握った。
――あぁ。そういうことか。
ありがとう、ムスタング君。
あなたの最後の言葉の意味が今解りました。
「今日は、たくさん聞いてほしいことがあるの 幸君」
「気の済むまで付き合うさ」
最終更新:2011年06月06日 22:36