リズのアモールは今も昔も静かで平和な街だった。災厄を持ち込むようなものも居ないし流行の貧困によって街そのものが堕落することも無い。
 そんな昔からの石で作られた家の一角に立つ三人の男女がいた。
 ヒリングデーモン、民衆から絶大な支持を受ける反政府組織だった。政府の権力が中央だけになった今、細々とした権力の衝突のある地方都市たちを絶対的な武力で統一している彼らの幹部ロバート=ラスター、井上火乃、エンシューである。
「ありがとう」
 露天商の老婆にそう言ったのは金色の髪に浅黒い肌、レンズの大きな黒いサングラスをしたロバートだった。その雰囲気は常に変化して「よくわからない」、という印象を人に与える。
「ロバート、ホントは罠じゃないの?」
 そう言ったのは腰まである真っ赤な髪をした少女、井上火乃だった。赤毛という言葉は赤茶色の髪のことだが少女の髪は深紅よりも深い赤みだった。染めたようにも見えるが細い眉毛や長くかわいらしいまつ毛も真っ赤なところを見るとどうやら地毛らしい。
「罠だった時のためにお前たちを頼ったんだよ」
 そういうとロバートはにやっと笑った。
「ラスターと一緒に戦えるのなら、僕は罠だった場合の方が良いですけど」
 そう率直に言ったのはエンシューだった。この中では一番身長が低く、事実童顔で若く見える。襟元までの金髪は細くさらさらだった。ボディースーツのように身体に張り付いた黒いTシャツは細くしなやかな肢体を見せている。顔や体はうっすらと女性的だがその言葉遣いでその性別をよくわからないものにさせる。
「エンシューってば……」
 火乃は唇をとがらせて言った。彼女はエンシューとロバートの対アームヘッド戦においての相性の良さをなんとなく嫉妬していた。
「さて、道も訊いたことだ。行くぞ」
 ロバートはそう言ってサングラスをくいっとあげてから道をあごでしゃくった。
「はーい」
「はい」

 それはほかと同じように石造りの店だったがネオンの看板がついていた。シンプルな色に縁どられた文字は「Blind alley」。
「ここか」
 入口の扉には「Open」の文字が下がっていた。ロバートは一瞬の逡巡すらなしに、まるで家に帰る子供のようにさっさとその扉を開けた。
「いらっしゃい」
 薄暗いカウンターに立つのは筋骨隆々の金髪の男だった。茶色の瞳が光る。
「きみが……」
 ロバートはどかどかとカウンター席に陣取った。あとから入ってきた火乃やエンシューがそそくさとその隣に座る。
「いかにも、ロバートラスターは俺のことだ」
「……本当に来るなよ」
「ちなみにこっちの燃えている方が井上火乃。こっちの金ぴかがエンシュー」
 燃えている方、と形容された火乃はなぜか嬉しそうに両頬に手を当てて身をくねらせた。エンシューはロバートの方を見て唖然としている。
「幹部が三人もか。なんだい、おれを殺しに来たってのかい」
「お前らの出方次第かな。俺はエマに誘われてきただけだし」
「エマが……」
 男は、レインディアーズの代表格、ブライアン=オールドリッジは顎髭を触った。
「ただいまーっ」
 そう叫びながら店に入ってきたのはウワサのエマ=チャーチとその傍らに立つセリア=オルコットだった。
「……えっ」
 一瞬、抱えた紙袋を落としそうになりなったエマは目を丸くした。長い金髪とオレンジ色のカーディガンが揺れる。
「ど、どうしてロバートさんがここに……?」
 そう言ったのはセリアだった。その額には脂汗が浮かんでいる。
「エマからの紹介だ」
 ロバートがにやりと笑う。その手にはいつの間にか鋲の付いたグローブが嵌められていてセリアの脂汗と困惑の色を深めた。
「先の事件ではこいつのせいでヤバイ目に遭ったからな」
 迫るロバートの口元には氷像の微笑みがある。先の事件、とは北御蓮で起きたキスフォーネイプ事件という事件のことだ。
「セリア、何かしたのかい」
 ブライアンが聞く。
「わ、私はなにも……?」
「戦闘中に射撃を迷うやつがあるか? あぁん?」
「……」
 ブライアンが苦い顔がをした。エマも苦笑している。セリアにそういうところがあるのは周知の事実だったが初めて共闘した彼らにとってはそうではなかった。
「まあ、セリアを殴る殴らないは後にして、ここはバーだ。いい加減、何か注文してくれないか?」
 ブライアンがそういうとロバートは舌打ちしながら席に戻った。安堵したセリアはそっとカウンターの奥の調理室に入ったまま出てこようとしなかった。それを追って中に入ったエマはオレンジ色のエプロンを着て出てきた。
「お嬢さん、なにか飲み物は?」
 ブライアンが気さくに訊く。火乃から順に答えていった。
「エスプレッソで」
「水で」
「ウーロン茶で」
「酒頼めよ……」