『それでは失礼します、アサ王さん』
「ああ。次こそは"アーサー"って呼んでおくれよ、セリア」

苦笑して言葉を発さないところを見ると、次もそう呼んでくれることはないように思えた。
それでも出会った頃の「王」と改まった言い方からすれば、大分親しくなった感はある。
銀色の髪の女性は跪いた姿勢から戻ると、衛兵に側に並ばれて扉へと消えた。

「…ふむ」
「いかがなされましたか、王よ」

明星の国の中心にある城の最奥、謁見の間。
その玉座に腰掛けながら、偉大なる王は友人を見送った後、ため息をついた。
王の側近が、義務ではなく心からその様子を案じる。

「あぁ、ササ。俺も王とはいえ一応人間。色々と思うこともあるんだよ」
「…あのご友人が、王に何か粗相を?」
「いや、むしろ彼女にはもう少しだけ粗相して貰いたいくらいだ。それこそ友人なんだから」
「では…?」

側近のササの疑問に、王はすぐには答えなかった。
赤や青、緑に黄と、七色に変化する瞳が、黒い前髪に僅かに隠れる。

「不思議だな。何故か彼女を見てると、形容しがたい気分になるんだ」
「…もう少し、具体的にお教え頂ければ」
「はは、すまない。 …そうだな」

そこで一息置いて、王は微笑みながら答えた。

「小憎たらしいような、懐かしいような、そんな感じ」
「懐かしいのはともかく、ご友人が憎たらしい?」
「…何故か、ずいぶん前に煮え湯を飲まされたような気がするんだ。もう、どうでも良い気はするけど」
「王とは幼馴染だったのですね」
「いや、特にそうでもないな」

ササが「失礼ながら、私には事を解りかねます」と頭を下げた。
王はそれに対して特に気に触れた素振りさえ見せず、「俺もよく解らん」と苦笑した。


「また会いに来て欲しいな。不思議な不思議な腐れ縁殿」


明星の国の偉大なる指導者、"無敵帝"。
アサという名の若き王は、そう呟いてササに最高級の紅茶を一杯頼んだ。