「ふあぁ……」

欠伸と共に、どこか艶のある力の抜けた声が漏れた。
アイリーンはNo.XIIIでありながら、レインディアーズ屈指の技術者でもあるのだ。
しかしいくらファントムとはいえ、二日も寝ずに作業を続ければ多少はガタが来る。

「これで一段落はついたかな……あぁ疲れた」

巨大な机の上に固定されているのは、これまた巨大な紙だった。
何かの設計図のようで、複雑かつ広大な構造がみっちりと書き込まれている。
素人が凝視すれば途端に目が悪くなりそうな細かさだった。

モノクルとペン、大型の定規を放ると、
アイリーンはそのまますぐ側にある仮眠用ベッドに倒れこんだ。
あまり柔らかくない寝心地だったが、彼女は気にするそぶりも見せなかった。

(……ケントさん、喜んでくれるかな)
ふとそんなことを思いながら、アイリーンは眠りに落ちていった。

……アイリーンが起きた頃には、時すでに遅し。
ほぼ完成していたその代物、新型機"Alternative Someone"の設計図は、
エマの差し入れたコーヒーによって真っ黒になっていた。
(設計図の右下に、何を思ったのかわざわざ『ごめんなさい!byエマ』)と名乗りがあった)


その日、レインディアーズの本部中に

『 うおおおおおおおおおおおおおおお 』

というメスゴリラのような叫び声が響き渡ったことは、今でも語り草となっていない。
話題にすれば、顔を真っ赤したアイリーンから神速のビンタを食らうからだ。

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最終更新:2011年08月16日 02:04