そのお店は、あまり人の通らない暗い道にひっそりと立っていました。
あまりにひっそりとしているので、数少ない通りすがる人も、まるで興味を持ちません。
まるで世間から置き去りにされたような、古ぼけたレンガ造りの店舗でした。

その扉が再び開いたのは、最後に開いてから久しく89日ほど経った頃でした。
その前のお客さんというのも、実際のところはただの冷やかしだったので、店長さんは「またか」と愚痴って、すぐには出てきませんでした。
しかし、その後何度もの「ごめんくださーい」という声を聞いて、やっと店長さんはその重い腰を上げるのでした。

「……冷やかしなら帰ってくれ」
「いえ、冷やかしではなくて、ちょっと買い物に」

腰がひん曲がり、顔面が皺くちゃになった店長さんがそう吐き捨ててから見たのは、
長い外套を羽織った、銀色の髪に青紫の瞳の女性でした。
見た目は中々に美人さんで、でも着ている服は全体的にどこかよれよれです。
それでも目立った汚れがないあたり、無頓着なのではなくむしろ物をちゃんと使い込む人だと思えました。
ちょっとばかり、店長さんと反りがあいそうです。

「……御用は?」

声にわずかに期待を込めてしまうのを抑えられず、店長さんはバツの悪そうな顔をします。
それに対して、女性は、

「剣を一振り、お願いしたいのですが」

と返しました。
それは、店長さんが数年ぶりに聞いた、待ちわびていた一言でした。


つづく

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年08月23日 00:54