少女に撃たれた腹が痛んだ。
 ――痛い。
 久しぶりの感覚を味わいながらも目の前の敵と何千、何万という攻撃を受け、与え、それでいて戦況は変わらない。
「アニー、連れてきて、すまない」
 言った後で、らしくないなと笑う。
「俺の、最後のわがままなんだ……」
 視界の隅でヘブンに落ちていく健太郎がみえた。
 敵と一旦距離を取り、互いに最後の一撃を放つ機会をうかがう。
「もう、未来は望まない」
 男の金の瞳が輝いた。
「過去は忘れない」
 血でぬれた唇がめくれあがって笑う。
「無郷で生まれ……、ただ、奪っていた」
 凄惨な笑みを浮かべ、まるで死を覚悟した者のように最後の一歩を踏み出しかけた瞬間、視界の端に白銀の翼をもつ鳥が現れた。
 羽毛のように見えるそれはただの彗星だった。
「零から産まれた俺は、何かになれたかい?」
 答えるように鳥が瞬いた。男は目を閉じ、右手を操縦桿から離し、左胸に当てた。
 ――Lu lu lu……
 ――Ta ta ta……
 ――Do do do……

 そして、この世のどこにもいなくなった。

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最終更新:2011年10月22日 22:32