ゴングが鳴り響き、巨大なドーム型スタジアムの真ん中に備えつけられたリングの上で睨み合っていた二体のアームヘッドが殴り合いを始める。
 片方は銀色、もう片方は緋色のアームヘッドで装備は拳のみだ。
 ――アームヘッドレスリング世界大会決勝戦だ。
 最前列の観客席で五人の年齢さまざまな女の子――女性は何歳でも女の子――がそれぞれ話に花を咲かせていた。


「エンシューさんは、アームヘッドレスリングが好きなんですか?」
 蒼い瞳に白い肌。長い金髪をポニーテールでまとめた女の子以上女性未満といったまだ未成熟な雰囲気の、エマ・チャーチが隣にいる少女に聞いた。
「うん。まあね。小さいころからよく観戦してたよ」
 エマの隣にいるその少女はボブカットのさらさら金髪、陶器のような白い肌をもっていた。
 磨けば光るが、顔以外全身ぴっちりマットブラックのパイロットスーツに覆われているあたりがなんとも変態っぽい少女の名前をエンシューと言った。
「エンシューさんの強さの秘密はコレにあったのか……」
 エンシューの隣でちゅうちゅうとソフトドリンクを吸っているのは艶のある黒髪に切れ長の目。御蓮美人手前と言った、五人の中で一番見た目が幼い少女だ。
 ――ただし、見た目は。
 いろいろあって精神だけ成熟している彼女は名前をアニーという。
「エンシューは天才だからなぁ」
 とアニーの言に賛同したのは眉、まつ毛、髪の毛すべてが燃えるように赤い少女で、名前を火乃という。
 アニーの次に若くエンシューと同じくらいだが二人とも精神的に自立しすぎているのから――ある意味で――年相応だった。
「レスリングとアームヘッドの操縦技術は関係ないと思うけど」
 と言いながらエンシューは苦笑した。
 このエンシューは今や世界で二番目にアームヘッドの操縦が上手いと言われている。そんな彼女に勝てるのは幼少からテロリストとして活動してきた最強のアームヘッドパイロット、ロバート・ラスターくらいだと口には出さないものの皆が思っている。それほど彼女は強い。
「でも、ロバートさんもアームヘッドレスリングが好きなんですよね?」
 と、言ったのは銀髪に青紫の瞳をしたこの中では一番年齢も精神も成熟していそうな女性だった。名前をセリア・オルコットという。
「ロバートは金になるスポーツは全部好きだからね」
 と笑うのはアニーで、ロバートとは精神と体の年齢が釣り合っていたころからの付き合いで、今は恋人同士だった。
「この間はラストさんとランジェリーフットボールで賭けしてたからね」
 冷静に言いながら片手に持ったアイスコーヒーを傾けるエンシューの言葉に二人の女性が反応した。エマと火乃である。
「……何に賭けてたんです? あの二人のことだから勝ち負けじゃないでしょう」
 ラスト・サンライズという男はヒリングデーモンというテロ組織のリーダーで自堕落な性格で有名だった。ちなみにヒリングデーモンに様々な理由で所属しているのがエンシュー、火乃、アニーだった。
 それに対する治安組織レインディアーズに所属しているのがセリアとエマで、組織的には対立する立ち位置にいるわけだがその怨嗟が戦場以外の場所に持ち込まれることはない。
「あー……。……ポロリの有無」
 エンシューが苦い顔で言うとセリアもはは、と苦笑した。
「あの人らしいですね」
 その周りでアニー、火乃、エマの三人が左右の胸に両掌をあてて眉間にしわを寄せて深刻な顔をしている。
「あと五年……! あと五年あれば……!」
 と呟くのはアニー。
「あと三十センチ……! あと三十センチあれば……!」
 と、火乃。
「色気……! 色気があれば……!」
 と、エマ。
 ――ふと、今気づいたようにエマはアニーと火乃の、主に胸囲をじろじろと見つめ、そして右手を高々と上げた。
「勝った……!」
「胸囲気にする男の人だったらアニーとあんなにイチャイチャしないでしょう」
 冷たく、隣のエンシューがあしらうとエマは力なく崩れた。その瞳は虚ろで口はぽかーんと開いている。
 代わりにアニーが頬を赤らめて気にしてない風に飲み物を飲む。
「ロバートさんってロリコン……?」
 セリアが驚いた風に言った。
「ロリじゃないです。好きな人が幼いだけです」
 堂々とアニーが言うとセリアは意味が苦笑しながら頷いた。意味は分からないけれど今は相手に合わせておこうという風だった。
「それをロリコンって――」
「誰がロリコンだよ」
 そう言って観客席横の階段を下りながら現れたには禁煙パイポをくわえる金色の髪に黄金の瞳を持つ男、ロバートだった。
「ロバート」
 と言ったのはエマと火乃でアイドルを見るような視線を彼に投げかけている。
 その隣には精悍なゴレンサムライと言った風の蓮田 健太郎と首から下の全身に包帯を巻き、その上から服を着ているデッドマンというあだ名の青年が居た。
「ロバート、ちゃんと禁煙してるんだね!」
 とアニーが微笑むとロバートもにやりと頷いた。
「まあな」
「さっきまで吸って――」
 と言いかけたデッドマンの顔面をロバートの裏拳が襲った。
「ひでぶっ」
 その一撃でデッドマンはうずくまり、エンシューがあきれ顔で近寄る。
「……大丈夫?」
「ぶっちゃけ、つらい……」
 年齢が十近く違うであろうエンシューに背中をさすられるデッドマンへ同情の視線を投げかけながら健太郎が腕を組むとセリアが心配そうな声をかけた。
「アイリーンさんは……?」
「キャラメルポップコーンかポップコーンにチョコレートかけるかで迷ってたからおいてきた」
「……今すぐ、呼びに行った方が良いと思います」
 わけがわからなさそうにする健太郎の顔に熱々のホットコーヒーがかけられた。
「あっつう!」
 かけたのはマイナス数千度の微笑みを浮かべるアイリーンという女性だった。彼女を見た瞬間に健太郎は縮こまって俯く。
「……大丈夫か?」
 ロバートが聞いた。
「正直つらい……」

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最終更新:2011年12月11日 22:06