ここはどこだッ?

辺り一面見渡す限り、真紅と純白の羽毛の山だ!
それらは暴風に吹かれて渦巻き、次々に顔に覆いかぶさる。

むせる。

あまりにもくすぐったく、振り払うと、余計に羽根が巻き上がった。
臭いは血だ。
紅い羽はどれもまだ濡れている。
おそらく俺の顔も今、赤く染まっているのだろう。

その、吹き荒れるくじ引きの紙のような、またはスノードームの中で輝く塵のような、
うごめく無数の羽毛をしばらくの間眺めていると、ある事に気づいた。

回っている羽根は、見えない何かを切り裂いている、削っている、貫いている。
それは大きくなる不快な音と、白い羽根が次第に赤く、赤い羽根が次第に黒くなっていくことからも確認できた。

まさに悪夢だな。

羽毛に見せかけた、せわしなく回るミキサー刃が次第に迫ってくる。
周りを囲み、焦らすように近づくそれに貫かれるのを待っていると、
それらは俺に刺さった時点で完全に速度を失い、動かなかった。

おそらく全ての羽根に包まれた後、それらは逃げるように弾けて、舞い落ちていく。

ここは成層圏のようであった。遥か眼下には、淀んだ返り血の海が渦巻いている。

違う、俺がやったんじゃない。

血は迫る。
俺は落ちてる。

凄まじい憎悪を感じて罪悪感を覚える。
でもなんで俺がッ?

犠牲者たちの血は迫る。
名誉の死など存在しない・・・・・・許される罪も・・・・・・
そんなうめきが聞こえるようだ。

まさに地獄だな。

直立の姿勢で落ちて、水面に足を触れたとき、
赤い海から何か覗いた。
脚が沈むにつれ、それはすぐ目の前に上がってくる。
腹まで浸かって、同じ目線になる。

紅い俺だ。
気づけば、俺自身も、元々藍色に染まっていて、それが血を浴びて点々と紅くなっている形になっていた。
紅い俺がじわじわと迫ってくる。同様に俺も引き寄せられていた。

近づくにつれ、分かる。
向こうの俺は無表情だ。
向こうの俺は死んでいる。
向こうの俺は俺じゃない!?

こいつは・・・そうだ、村井幸太郎だっ!
ここであったが百・・・・・・いや、これが初めてか。
本物とこうして向き合うとは?

幸太郎と思われる赤い人物は、腕を伸ばす。
腕は俺をすり抜けて、彼の赤色は次第にぶち模様に変わっていた。

俺だって最初から偽者だったわけじゃない・・・この世に生を受けた時には・・・
なんて迷惑な他人の空似・・・・・・

幸太郎は白く変わっていく。
では赤は?
それは俺に流れ込んでいた。

俺の藍の体表が、紅い斑点に蝕まれていく。
それから、浸かっていた海、つまり返り血と憎悪の塊が、次第に俺を飲み込んでいく。

どういうことだっ!

まてッ、俺じゃないだろ!

真っ白な天使になった幸太郎が、柔和な表情で天に上がっていき、
真っ赤になった俺は、血染の羽毛に殺された者たちに、引きずり込まれていくのである。

まさに、迷惑だな。




村井『辛』太郎は目を覚ます。
くそっ、何故!こんな夢を俺が見る羽目に!?

怒りを抑え、意識はぼんやりと追憶する。



辛太郎は、頁高原の戦をかぎつけ、自慢の機体「セメントイシヤクライムアップ」で向かっている所であった。
目的は当然、万全の準備で現れるであろう村井幸太郎のセイントメシアに、決闘を挑み、勝利を収め本物を超えることであった。

だが戦場に近づくにつれ、様子がどうにもおかしいと気づく。
多国籍のアームヘッドで賑わっていたが、戦いの最中には見えなかった。
退却していく機体とすれ違う、彼らはなんの反応も見せてこない。
戦いは終わってしまったのか?

「どこだ・・・セイントメシア!」
辛太郎はそう叫びながらもアームヘッドの群れを見渡す。
すでに倒されているはずは・・・・・・ない。

戦況が見えてくる。全ての軍が追い詰められている!
逃げ腰で、後ずさりながら攻撃してはいるが、「相手」に近いものから次々に、軽々と屠られていく。

そして理解する。黄金のアームヘッドとその手下、三体!
それ以外は、それに挑む者たちは、既に戦う意思を削がれ、もはや的でしかなかった。

「た、隊長っ!」
「なんだよ・・・お前も逃げるつもりか・・・?」
「だ、だって!敵うはずありませんよ!
 一瞬でこれだけのアームヘッドをバラしてしまうなんて!?」
「・・・だから、お前は残れ。俺が先に逃げるのよ!」
そんな会話がそこらで行われていた。

ミニオン達がゆっくり進むと共に、人間たちも後退していく。
その時、腰の引けたアームヘッドの群れの間を、鋭角のシルエットが駆け抜けた。

「お前たち!普段の闘争心はどこへ置いてきた!?」

ミニオンと群れの間に飛び込んできたのは、セメントイシヤであった。

「なんだか知らないが、お前たちも目的があってここまできたのだろう!?
 例えば、戦果を上げたいとか、強敵に勝ちたいとか、セイントメシアを討ち取りたいとか、
 プライドを、命を賭けるべき目標が!!」

辛太郎の機体はうつむきながらカメラアイを輝かせていた。

「今、お前たちが対している、異形の敵こそが!圧倒的な力の壁こそが!
 超えるべき相手、達成すべき目標だ!!」

セメントイシヤの閉じていた翼が、大きく開いた。

「俺たちは、戦って勝たなくてはならない!!
 こいつらは決して、俺の、俺たちの最後の目標ではないからだ!
 挑んだ夢に命を懸ければ、壁の先へも・・・・・・羽ばたけるッ!!」

飛び上がったセメントイシヤが、勇ましく武器を掲げる。
銀灰のその姿はまるで輝きを放っているようで、神々しささえ感じられた。

「よし!」
「さてやってみますか!?」
「これが・・・・・・セイントメシア・・・・・・!!」

感嘆する兵士たちの頭上で、辛太郎はその刃を、ミニオンの一体に向けた。

「行くぞォッ!!」
「「「おうっ!」」」


それから数十秒後、アームヘッドの群れは全滅して、
本物のセイントメシアが現れた頃には、辛太郎は瓦礫の下だった。




「・・・・・・うん。そうだね。やっぱ俺も悪いね。・・・・・・」

しかし辛太郎の怒りは収まっていなかった。

結局、あの日の戦いに村井幸太郎が来ていなかったとすれば?
本物はのうのうと穏やかな一日を過ごしていたってことになるッ!!


それからしばらく後。
方向音痴な辛太郎だが、ついに、遂に村井研究所へと強襲をかけることができた。

セメントイシヤは閑散とした研究所の敷地に転がりこむ。

「出て来い!村井幸太郎!!ブラッディ・フェザー、セイントメシアァッ!!
 この俺、”藍染めの翼”と、勝負しろっ!!」


すぐに護衛のセイントメシアに囲まれる。


「えええ?メシアってこんなにいっぱいいるのん?」


動揺した辛太郎はあっさりと捕まったが、
彼の姿を見た村井研究所の人々は、もっと動揺した。

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最終更新:2012年10月27日 02:33