コンコン。ノックの音がする。だがディエゴは無視する。どうせ新聞か何かの勧誘だろう。白樺一族が御蓮に移り住んだあと彼は念願の一人暮らしを開始した。異国での暮らしはなれないものだったけどずっと寝てればいいので白樺家での生活よりはマシだ。煩わしい訪問者も無視すればいいわけだし。しかしこの訪問者はやけにしつこい。もう昼なのになんて暇な奴なんだろう。トイレと食事以外には布団の外に出たくないんだよ、俺は。おかしいノックの音が急にやんだ。諦めたのか?

 違った。ゴンゴン。怖い。こいつ扉を叩いている。
『おいてめえ!いるのはわかってるんだよ!』
ギャングか?借金取り?でもお世話になる覚えはない。一体誰なんだ。考えてるうちにも音は止まない。
『扉ぶっ壊すぞ!てめえ』
相手は叫ぶ。
『や…やめてください…』
『ならとっとと開けてね、さあ早く』
女の声だった。恐ろしい叫び声過ぎて気づかなかったがこいつ女だ。
『早く、ねえ早く、は!や!く!』
俺は飛び起きて扉を開ける。だがチェーンはかけたまま。パジャマだ。こいつパジャマのままここに来ている。いや俺も似たような格好か。だがこいつの両手を見て血の気が引いた。扉を思い切り叩いたせいで血まみれだ。裾に血が滲んでいる。そいつは自分の指をしゃぶってその血を舐めた。そして笑った。怖い。目は笑ってないし、口も思い切り大きく開けて、そう肉食獣のようだった。
『私はジャガー』
名前だと気づくのに少し時間がかかった。まさにこいつはジャガーだ。俺を食いに来たのか?
『あなたがムスたんの子供ね』
その「ムスたん」という単語を言う一瞬だけ野獣のような笑顔は引っ込み純粋無垢の子供のような表情を見せた。
『でもあまり似てないねえ』
ジャガーが笑う。例の笑い方で。
『俺の親を知ってるんですか?』
俺は思わず聞いてしまった。特に興味はなかったが、こいつと話を続けないとやばいのはわかった。
『あんたはどっちかって言うとあの憎むべき塵芥のようなカス野郎のゴミクズの掃き溜め生まれのロバートのこんちくしょうの糞野郎の面影あるわね』
すべての憎悪をその男にむけているような口ぶりだ。
『でも、あなたの目はムスたんに似てるわ。ねえ頂戴』
『え?』
ジャガーは俺の目に指を突っ込む。しまった!寝起きでメガネをしていない。
『やめて…ください』
俺はジャガーの腕をつかむ。ものすごい力だ。執念といってもいい。
『……』
ジャガーは舌打ちし、俺の目から手を離す。
『ムスたんから言われてたっけ、怪我させないでねって』
俺の目をジャガーは物欲しそうに見ている。
『ええと、襲うのが目的なんですか?』
『そんなわけねえだろうが!』
ジャガーが叫ぶ。怖い。ちょっと漏れた。
『…ついて来て』



代替特異点のパラドックスにつづく。

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最終更新:2012年11月17日 19:39