たとえ戦争で敵対している国であろうと、全ての者がそれを嫌いになったり、文化を遮断する事は出来ない。
なぜなら文化とは、外部であるお互いが交流しあうことで発展し築かれていったものだからである。
そして国は違えど同じ人間であるから、国境を越えて通じ合うものを止める事はできないのだ。



プラント帝国領の山中。
月明かりの下を一機のアームヘッド、文月が駆け抜けていた。
河川の脇を踏んで土手を崩し、幾つもの巨大な柳を揺らしながら、一直線に闇を切る。

数十メートル前に黒い影がぼんやりと動いたのを、文月は気づいた。


「・・・・・・オヌシー、”帝国二十四仕官”の”啓蟄”どのでござーる?」

目前の影の声を聞いて、文月は足を止めた。
そして眼光を光らせ、月明かりと共にその姿を明らかにせんとする。

影の姿が鮮明になる。
突き出した甲虫のような角、紅く分厚い鎧を着たアームヘッド。
その巨体をよく見ると、唐草模様のようなマーキングや、
「大入」「とても強い」「お買い得」などといったステッカーが貼り付けられている。

影の正体は、文月にとってまだ得体の知れない、連邦の新型アームヘッド・ホズフォンであった。


「待ち伏せしていたか、連邦もよくやる」
文月は背中にマウントしていたスピアを手に取って構えた。

「セッシャ、お上の密命をあずかって、オヌーシらの悪巧みを寸止めにしにきたでござるー」
奇妙な言動の鎧武士ホズフォンは、右手から生える大刀を腰に構えた。

「悪巧みだと?既にそこまで情報を仕入れているとはな。だが無駄だ。
 貴様がわざわざここまで来たことは、単なる無駄足。
 私は別に連絡係ではないし、既に二十四仕官全員に伝わった計画を止める事は不可能。
 その上貴様はここで、無駄死にするのだからなぁ!」
帝国二十四仕官”啓蟄”の文月が、長槍の矛先を向けて襲い掛かる。

「お命プリーズ!!」
ホズフォンはその軽快な声とは裏腹に、力強く刀を振り槍を正面に受け止めた。
そしてそのままスピアをへし折るかのような怪力で押し続ける。
後退を強いられた文月は更に後ろへ跳ね飛んで態勢を立て直す。
そこへホズフォンが大刀で斬りこむが空を切った。
敵の重量系はパワーこそ高いが動きが比較的緩慢なのが弱点だ。
文月は思って、迅速に飛び上がり上空から槍を叩き込もうとする。

鋭い一撃は確かに落とされた。
しかしホズフォンは刀を横に振るって、文月の切っ先を弾き受け流していたのである。
そして同時!ホズフォンの逆方向への一閃が、文月の胴体を切り裂いていた!
文月の認識では、目の前で二つの刀が振るわれたように見えている。

「イーヴル・オダイカンはSAY☆BYE☆DEATH!!」
「いや官しか合ってないから!!」

奇妙なサムライの次の斬撃が繰り出される。
闇夜に響く悲鳴のような金属音!
静寂が訪れたとき、”啓蟄”の機体は三枚に下ろされていた!!



帝国二十四仕官の”夏至”と”冬至”は、専用にチューンナップされた文月を駆って、
配下の弥生をそれぞれ六体ずつ後ろに並べて、弥生の行進を引き連れていた。

彼らは遥か前方に敵性反応を捉えていたが、全く動じることなく前進を続けている。
「どうやら本当においでなすったらしい」
「単機で向かってくるとは愚かな」

リジアン・サムライのホズフォンが、あと二十歩ほどという地点まで来て立ち止まる。
それでも十四体のアームヘッド群は足を止める事はなかった。

「”夏至”どのに”冬至”どの、いざジンジャーに勝負でござる」
ホズフォンは抜刀して一振り、一歩を踏み出す。

「近頃、二十四仕官を討って回っているというのは貴様だな?」
「我々が、いつも単独行動だと思い込んでいたのが運の尽きだったな!死ね!!」
”夏至”と”冬至”がそれぞれ腕を振り上げると、背後に並んでいた弥生が素早く跳躍し散開、
近づいてくるホズフォンをいつでも包囲できるよう半円状に陣形を組んだ。

「アバレンボー!!」
サムライのホズフォンはそれに構わず、刀を滅茶苦茶に振り回しながら包囲網に突っ込んでいく。
弥生の群れはがむしゃらな敵の攻撃をまるで相手にせず、円形に取り囲んで的確に隙を狙う。
空を切る斬撃の嵐が止まり、瞬間の隙が生まれる、弥生はそれを見逃さず、六方からサムライに攻撃を仕掛ける!

ホズフォンは向かってくる一機の弥生を捉え、その方向に確実に刀を一振りしていた。
それは全ての弥生が目撃している事実であった。
しかし、その瞬間にはかかっていった弥生はそれぞれ無数の斬撃を受けていて、六機が再起不能となった。

「な、なんだ!?」
「こいつなにか剣術のようなものを?」
残りの六機の弥生がたじろぎ、数歩退いた。

「スパイダーの子を折込チラシ寿司・・・・・・」
サムライのホズフォンが胸の前に刀を構え、じり、と地面に足を滑らせる。
そのまま目の前の、”夏至”と”冬至”の文月を睨みつけるようにした。
しかし二体の文月は全く動じず、首だけを振って指示を出した。

二機の弥生がホズフォンの前後で跳躍し切りかかる。
同時に他の二機が側面から姿勢を下げて、残りの二機が死角から、それぞれホーンを刺そうと襲い掛かった。

「絶対!絶命!!」
サムライはそう言いながら、刀を振り上げて頭上の弥生に突き刺す!
その隙に、周囲の機体はホズフォンの全身に刃を埋めるはずだったが、
全ての毒角が見知らぬ刀に弾かれて、その根元にある首さえも刎ねられていた。

兜武士の周辺には十二機のアームヘッドの骸が散らばっていた。

「斬り捨てソーリィ?」

ホズフォンは袴をはいたように太い足を、重苦しく動かして標的に迫る。

「ほう、その手並み、我が軍の”血染の羽毛”を髣髴とさせる」
「だがエース級同士の二対一では、貴様に勝ち目などあるまい」
ようやく動き出す文月。
”夏至”は蛮刀を、”冬至”はレイピアを振ってその切先をホズフォンに向ける。

「オヌーシらも、相当の遣い手とオミウケいたすでござる!」
ホズフォンは大股を開いて、その膝を深く屈伸させた。
「どちらに板将?」

文月の目の前の地面が大きく抉れたとき、サムライの鈍重な機体は空中に浮かび上がり、
その太刀は日の光を浴びて閃き、”夏至”の脳天に叩き落されようとしていた。

帝国の二体は極めて冷静にその一撃を回避する。
素早く左右に散開したのち、ホズフォンの重さではとても対処できないような速さで、
二つの剣を突きたてた。

寸前で止められる”冬至”の針剣。それは確かに甲虫の刀によって受け止められていた。
しかし”夏至”の蛮刀も刺さる事は無かった。
なぜだ?
”夏至”はその瞬間を見ていた。
止めたのは実体剣ではない、瞬間的に現れた刀だ。

「貴様の剣技、読めたぞ!」
”夏至”は隙を見つけ、意気揚々と蛮刀で首を捉える!
兜武士が回転し、低く構えていた大刀が背後を迎え撃つ!
”冬至”はわずか粍秒の間に笑みを浮かべた、奴は後ろに気をとられている!
背を向けるとは我がレイピアが眼中に無いような動きだ、瞬間の判断でさえ死を招く!

「ニートを追う者ぁイットーリョーダーン!!」

”夏至”の文月が横一閃の元に真っ二つになった。
”冬至”の文月は縦一閃の元に真っ二つになった。
それは同時!

帝国二十四仕官の二人が最期に思ったのは「何故?」
正しい現実ならば少なくともどちらかがホズフォンを討っているはずだった。
ならば夢か幻か?違うどちらもその身で感じていた。

ただ”冬至”が思うのは、自分を殺した一撃が、
その前に見た、日の光を纏った一撃と全く同じだったのではないかということだ。




最後の帝国二十四仕官”立春”は、帝国のアームヘッドの中でも、弥生よりも文月よりも上等な、
葉月と名を受けるマンスナンバーの機体を貰い受けていた。
”立春”には、他の二十四仕官とは違い、リジアン・サムライが直々に差し出した、果たし状が届いていた。
それにわざわざ答える必要は本来なら無いはずだが、帝国軍は受けてたったのである。

「リジアン・サムライは連邦におけるセイントメシアではないか」
二十四仕官を雇っている政治家達はそれぞれそう言って帝国軍に講義した。
確かに、単独行動で次々にエースを葬り去っていく謎の刺客、と感じさせる点では、
敵にとっての”血染の羽毛”と恐らく同じなのだ。


そういうわけで、”立春”の葉月の隣には、”血染の羽毛”の姿があった。

「何故この俺が政治家の犬の護衛など云々」
村井幸太郎は平然と毒づいた。

「き、貴様こそ村井研究所の宣伝係としてこき使われているではないか」
”立春”の醜悪に聞こえる声が届いた。

「お前たちは政治家の使いっぱしりをしているだけで、戦績を上げずともエースやら隊長やらの扱いだ。
 それとも今まで、一般兵を犠牲に生き残って他人が仕留めた敵を手柄にしていたからか?」
ほとんど敵に対する挑発だが、二十四仕官は帝国兵にとっても気に入らない相手なのである。

「ずいぶんだなセイントメシア!他の二十四仕官にはそういうところもあったと聞くが、
 私は実力者だ。貴様の手助けがなくとも、サムライごっこのチャンバラをさっさと終わらせてやる」

「言ったな?では俺はお前の戦いぶりを観賞して、敵の妙技の研究に勤しむとしよう」
セイントメシアはスタッフを地面に刺して、腕を組んだ。

「・・・・・・いや、おい、だが、一応、本来の任務を忘れるなよ?」

「ええ?」


空は灰がかった黒に染まっていた。
灰は薄く伸びた雲と、満月に照らされた星空の色。
冷たい夜風が流れて、辺りがざわめく。
バイオニクル時代より原生する、とてつもない生命力を誇る植物、
バンブーの林が騒ぎ立てているのだ。

ざわめきが止む時、葉月とセイントメシアの二体は、空を見上げた。
そこには、降りてくる太い人影があるのだ。
ホズフォンは、竹林から闇討ちするような事は無く、実に堂々と二体の前に現れたのである。
それはこの敵が、十四機のアームヘッドを瞬く間に倒したことを考えれば、当然の自信といえた。

「来たか!備えろ」
「俺がか?」
メシアの返答を聞いて、葉月がわずらわしいという風に首を振る。
しかし結局、メシアは戦闘態勢をとらぬまま敵を眺め続けていた。

「ラスト・イーヴル・オダイカン”立春”どの、
 わざわざ用心棒を連れるとは、とってもゴージャスでござる?」

「いいや戦うのは私一人だ!私一人で充分だ!!」

ホズフォンと葉月は互いに近接武器を構えあった。

「・・・・・・イッツア勝負っ!!」

刀を振り上げて飛び込む鎧武者を、光が撃つ。
それはトンドルの輝きに照らされた水圧レーザーの矢!
”立春”は後ろ手に隠し持っていたレーザー銃で先に仕留めようとしたのだ。

だがホズフォンはその鋭い攻撃をか細いものと思い替えるように、
避けることも無く真正面から受け止めて向かい続けた。
”立春”がほくそ笑む。あとはレーザーで抜いた箇所に刃を埋めるのみだ!!

葉月は迫る甲虫の装甲の隙間に素早く長刀を刺しこむ。
しかし脳天めがけ降ろされたホズフォンの刀は予想以上に早く、
お互いの攻撃を妨げあって鍔迫り合いとなった。

ホズフォンは素早く刀を引いて次の横斬りを繰り出す。
葉月は長刀の刃を下に向ける形でそれを弾いた。
しかし兜武士の勢いは止まらない。
そのまま機体を回転させて更に速度が倍増した横斬りを当てようとしていた。
「フン!!」
ホズフォンが背を向けた段階で隙を捉えていた葉月だったが、
気づいた頃には遅く、側面からは恐ろしく唸る斬撃が迫っていた。
「!?」
だがその致死確実の一撃も寸前で届かなかった。
刀を止めたのはセイントメシアの複数のホーンであった。

「よくやった!?」
「敵が技を出す前に死ぬようではな!」

”立春”が安堵したのも束の間。
幸太郎は妙な音を聞きとっさに回避行動をとった。
ホズフォンの刀は確かにセイントメシアが受け止めている。
だが振り下ろされる垂直の斬撃が、目前に存在したのだ。

”立春”の葉月は、少し前に防いだはずの、脳天かち割られ両断される可能性に再び直面して、
あえなくアジの開きとなった。


それに気づいたセイントメシアは、敵の刀を翼で弾いて、背後の竹林へ向けて後退する。
血染の羽毛は月光の下で、片腕で片腕を雑に叩く、一見には分からない『拍手』を始めた。

「流石だな。敵にヒントを見つける隙さえも与えないとは。
 サムライごっこと侮っていたが、その剣技、御蓮人としては心奮えるものだ」

ホズフォンは刀を斜に構えていたが、少し固まった後で姿勢を正した。

「Oh、ムラーイ?
 ムライ・オサーム!?
 オサムラーイ!!!!」

リジアン・サムライは”血染の羽毛”の姿をはっきりと確認して、思い出した情報を口走った。

「・・・・・・俺はオサムでもお侍でもないぞ」

「セッシャー、オーヌシの大ファンでござーる。
 プラントキラーイ、しかしゴレニーズ・カルチャーは大好物でござる。
 ミスタームラーイ、いいえブラッディ・フェザー!サイン・プリーズでござるー!!」

「そのサインというのは、貴様の鎧に刻み込めば良いのか?」
セイントメシアは矛先を、ホズフォンの体に付いた珍妙なステッカーに向けていた。

「ヨロシィーでござる」
リジアン・サムライが堂々と体を差し出したのを見て、幸太郎は拍子抜けした。

(し、死ぬ気かよ・・・・・・いや、これも奴の自信の表れに違いない)
「ならば存分に受け取るがいい、持って帰れる保障はしないがな」

「セッシャとお手手のしわしわを合わせるでござる。
 アコガレとは追いかけるものではなく乗り越えるものなのでござーる!!」


二機のアームヘッドが、じり、じりと足を滑らせる。
向かい合ったまま円を描いて、互いの動きを見合う。
両者の鋭い眼光が閃いた時、一騎討ちの火蓋が切って落とされた。

セイントメシアの武器とホズフォンの刀が交差して競り合う。
火花に照らされる両機だが互いに小手調べをしている状況だ。
そこで幸太郎は恐ろしい事実に直面した。
先ほど葉月を葬った脳天唐竹割りと、更にその前の豪速回転斬りが、
同時に迫ってきているのだ。
そうそれは、今実際に受け止めている刀が動いていないことから考えると、
先ほどの攻撃を再現したものだと感じた。

とっさに、二振りの可動式大型アームホーンで防御する幸太郎。
だが伝わる衝撃までは打ち消す事は出来なかった。
幸太郎が左右を瞬間的に見やる。ホーンで止めた二本の刀は既に消えていた。
続いて競り合っていた相手の刀も退いていた。
メシアは急いで跳躍し脚部ホーンでの攻撃に移行する。
ホズフォンは刀をかざしてそれを弾いた。
そこまでは普通の応酬だったが、次の妙刀がメシアに迫っていた。
先ほどの強力な斬撃と同じだ。縦横から血染の羽毛の足を斬り飛ばさんとする。

「!?」
血染の翼が早急に閉じられ盾となる。
しかし同時に間を縫うような斜めの斬りこみも迫っていた。
スタッフで受け止めることも叶わず、かわしきれぬその一撃を甘んじて受けた。
セイントメシアは自らの血を上げながら衝撃によって弾かれ退く。

「アヴァレインボー・ジェネラル!!」
ホズフォンはそれをすぐさま追撃しようとはせず、
何を思ったか、闇雲に刀を振り回し始めた。

(この剣技・・・・・・これ以上戦いを長引かせるべきでは、ないようだ!!)

セイントメシアの瞳が橙を帯びて輝いた。
調和マタ・カノイズ、加速能力のカカマである。
続いて翠に染まる眼光、飛翔能力のミルも発動した。

高速で敵に迫る血染の羽毛。
ホズフォンの脇をすり抜けてその周囲を旋回しながら上昇、
甲虫に対し右手上空で斜めに構え、次には槍となって急降下!

敵は右腕の刀しか主武装を持たぬようである。
この角度からの複数ホーン攻撃ならば、右腕を封じるのみならず首を刎ねるアームキルも可能だ。

凡庸なアームヘッドではとても捉えきれないセイントメシアの残像。
紅白のシルエットは血の霧を撒きながら稲妻の如し刃を振り落とした。
血染の羽毛を迎え討ったのは、幾つもの光の線。
飛び交って見えるそれは、近づいてみると無数の残撃であることが分かる!
セイントメシアの装甲の表面でギヂギヂと音が弾ける!
斬撃の雨を真正面から受けながら、血染の羽毛はその刃をホズフォンの右腕に突き刺した!
そして抉り弾く!月光に閃く大刀は、唸りを上げながら地に刺さった。
幸太郎はホズフォンの腕をはねた事を確認、次に首を刈ろうと翼を振る。
その瞬間的な出来事、敵の横を去る直前に、再び襲い掛かる回転斬り!!

「何ッ!?」
血染の羽毛の全身に衝撃が走った。
そのまま背後の竹林まで吹き飛ばされる。
勢いを纏った翼で竹を切り倒したが、最後には受け止められた。
折れた細い竹の一部が、先ほど刀の雨を受けた傷に刺さって、さらに出血させた。

(いつにも増して血に染まっているな、血染の羽毛!)
幸太郎はそう思って自らに喝を入れる。

ホズフォンは首にかかる寸前で、右翼による攻撃を避けたようだった。
腕を失った機体は衝突の勢いで傾いて、地を転げる。

「し、質店抜刀!!」
リジアン・サムライは七回転がったあたりで、上手い具合に地に足をうずめる。
そして輝く角を、竹の上に倒れるセイントメシアに向けた。

「すでに刀は貰ったぞ、リズの侍よ!」
邪魔なバンブーを切り飛ばしながら、立ち上がる血染の羽毛。
同じくスタッフの切先を相手に向けた。


刀を失ったホズフォンは、片足を後ろへ滑らせ、膝を曲げて腰を落とした。

「セッシャのトレジャーソード・・・・・・!」

カブトムシの角のごときアームホーンは、
月光によって、あるいはそれ自身が光を発して輝き、
ゆっくりと円を描いていた。

それによってもたらされる神秘的な像を、幸太郎は網膜に焼きつけた。


そして、メシアが飛ばしていた竹が、元の竹林に落ちて甲高い音を立てた時、
向かい合う二つの影は、駆けはじめた。

「"ムーン・サークル・キリング"!」
一瞬にして距離を詰めたセイントメシアを迎えたのは、
腕を失ったはずのホズフォンが放つ、無数の斬撃である!!
脳天唐竹割り、豪速回転斬り、刀剣土砂降りの全てが、
同時に一箇所、血染の羽毛だけを狙って、放たれたのである!

それに応えるようにセイントメシアの瞳を赤い光がよぎる!
マタ・カノイズの一つ、ハウは耐久性能を上げるものだ!
幾多もの刀の攻撃を、硬化した装甲で受け止め、
全身のホーンで弾いていなしながら、更に距離を詰めていく!

スタッフを振り上げた幸太郎が見たのは、円形に並んで迫る、幾つものアームホーン!!
ホーン攻撃までも増幅させることが出来るとは!?

「南無三!!」
「ナムサン?」

遂に交差する二機のアームヘッド。

トンドルの月の下で、黒い影の片割れが崩れる。

セイントメシアは刃を地に立て、膝を折った。
ホズフォンの首が宙を舞って、竹林に飛び込んでいった。

影のもう片割れは、跡形も無く姿を崩した。



リジアン・サムライの調和、”ムーン・サークル・キリング”は、
自らが記憶している限りの『斬像』を呼び起こし、再現する能力である。
実際に行った攻撃を覚えている限り、それをどんな状況でも、例え刀を失っても再現できるのだ。
しかし最後の「無数の一撃」の再現は途中で終わっていた。
それは、知らない御蓮語を記憶することのほうが、リジアン・サムライにとって重要だったからである。




「おい、トム、見舞いに来てやったぞ?」
トムと呼ばれた男の同僚、パイロットの男が病室に入ってきた。

「Oh、カタジケ・ナッシングでござる」
全身にきつく巻かれた包帯で、白い忍者のようになっているトムが答えた。
リジアン・サムライは、奇跡的に一命を取り留めた上、
リズ軍の尽力によって回収され、帰還を遂げていたのである。

「お前の食いたがってた御蓮の料理だ。これ食ってとっとと復帰しろよ」
同僚の男が包みを広げる。


「サンライズ・ベントー・・・・・・カニカマ・・・・・・なむさあああああああああああん!!!!」

紅白恐怖症に陥っていたトムは錯乱した。






御蓮かぶれのリジアン・サムライは、結局それが祟って敗北した訳だが、
彼を強く育てたのもまた、御蓮の、異国の文化を愛する心だな。

セイントメシアは無敗だが、必ずしも無血の勝利ばかりではない。
・・・・・・そんな事を言っては私のハードルが上がってしまうがね。

さてこの次は・・・・・・。


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最終更新:2012年12月19日 23:05