「いやあ、あーむへっどがにんげんに勝ってしまって、もう5年にもなりますなあ」
「ええ、今ではすっかり人間が操られてる側ですね。世知辛い世の中になったものです」
「そうですなあ。もしにんげんが勝ってなかったら、わしみたいな老いぼれのにんげんなんかいまごろ食い扶持つぶしですなあ」
「世の中、どうなるかわかりませんもの。今こうしてある状況が何よりかもしれませんし」
「ところで、なしてお兄さんはわかいのに、そんな昔のことを知ってるんかいの」
「嫌ですね、もう10年来の付き合いじゃないですか。ヘタすれば、もっと」
「ははあ、そうだったかいのう。ところでお姉さん、名前はなんといいます?」
「はじめまして、アイリーン・サニーレタスです」
「ははあ、したらばはじめまして。ガラクタ・ガッポですんね」

きょうのおじいちゃんは、なんだかいつもよりよくしゃべっていた。
あいての女の人が、ぎん色の長くてきれいな髪のびじんさんだったからかもしれない。
でも、なぜかこの女の人は、ほかのみんなと違っておじいちゃんのふしぎなはなしをボケだとおもわなかった。
それよりも、なんというか、まるでおじいちゃんのふしぎなはなしを、まるで自分もしってるみたいにしゃべっていた。
それだけじゃなかった。アイリーンさんは、おじいちゃんのはなしに、まったくおいてけぼりにされることもなかった。
ぼくだって時々、というよりいつもおいてけぼりにされるのに、このひとはそれがふつうみたいに、おじいちゃんとしゃべっていた。

アイリーンさんは、そうしておじいちゃんとしばらくしゃべっていた。
なにをしゃべってたかなんてぜんぶはおぼえてないけど、でもぼくはしっかりとおぼえてることがある。

「ばあさんは、げんきにしとるかいのう」

ぼくには、どういういみだったのかよくわからなかった。
だけど、そのときのおじいちゃんの顔は、いつもよりすこしだけさびしそうにみえた。
……ぼくは、おぼえている。アイリーンさんがそのときいったことを。

「ええ、元気にしていらっしゃいますよ。貴方が亡くなったあとも、ずっと。
 貴方を思い続けているようですけど、悲しむよりは幸せそうにしているのをよく見ます」

ぼくは、ほんとうはアイリーンさんがボケてるのかなとおもった。
だけど、そのときのアイリーンさんの顔は、たしかにうそをついていないようにみえた。
……ぼくは、おぼえている。そしておじいちゃんがいったことも。



「そうかあ。ばあさんは幸せかあ。よかったよかった」



アイリーンさんは、それからいちじかんしないうちに、ガッポ村をでていった。
おじいちゃんは、めずらしくながいあいだ、ずっとおなじ顔をしてた。えがおだった。

おじいちゃんは人をまちがえることはたくさんあるし、いなくなった人をいると思ってはなしかけたりするけど、
いる人をいなかったことにしちゃうことは一度もない。
ぼくはアブク・ガッポ。ふしぎなおじいちゃんのまご。