「・・・・・・そ、・・・・・・んな・・・・・・」

少年は、彼に唯一残された家族である馬龍が苦しんでいる様子を見て絶望していた。




リズ連邦共和国イナマレグ州で起こった未解決殺人事件。
ある閑静な田舎町に暮らしていた平凡な農家、カバリオ一家が息子一人を残して四人失踪したことを発端とする事件だ。
被害者は全員、一家の飼っていた馬龍の腹の中から発見された。当初これは不慮の事故と思われた。
しかし馬龍の扱いに長けていた筈の被害者が飼い馬に食われるなどの不自然な点から事件性を指摘する声も多く、
真犯人が証拠隠滅の為に馬龍を隠れ蓑にした「トロージャン事件」として知れ渡っている。

当初は事故として処理された為に調査も遅れた結果、殺人の状況証拠も殆ど見つからず、その真犯人が逮捕されることは遂に無かった。



一人生き残った一家の次男は親戚に引き取られ暮らしていた。
少年は誰にも気づかれないように、たった一人で真犯人の探索を続けた。
執念の情報収集の中で彼はハッキング技術を学び急速に身につけていった。
調査探索とはいえ少年には犯人の目星が早い段階でついていた。
母親の弟である胡乱な男。多額の借金を抱えており時折カバリオ家にせびりに来ていた。
この男は事件の一年前から既に消息を絶っている。しかし事件後の農家の金品は全て無くなっていた。
そして犯人は、馬龍が妊娠期には気性が荒く、あらゆる有機物を見境なく食して栄養をつけようとする等の生態を知り利用した。
男の借金の理由には、競馬龍など賭博への大量投資もあったことは明白となっており、何らかの知識を持っていた事を臭わせる。
当然警察もその可能性を検討しなかった訳ではないが、男は消息不明のまま見つからず既に故人である可能性が高いとされた。

しかし少年はこの男が犯人である、そしてまだ生き長らえていると信じて疑わなかった。
執拗な追跡の末に彼は別人に扮した犯人と思しき人物を突き止めた。
少年はまず情報網を駆使し犯人らしき男を社会的に追い詰めた。
そして行動を監視し、自殺するような素振りを見せ始めたところで次の行動に移った。
巡回中の軍事アームヘッドを通信からハッキングする。少年にしかできない芸当であった。
暴走に見せかけた遠隔操作によって、アームヘッドは、少年は犯人を惨殺した。

少年は暴走アームヘッドを隠れ蓑に復讐を果たし、その姿を消した。

虚無感と全能感の中で命の価値を見失った少年に対しては、いつしか同情する者もいなくなり、
彼もまた、世界を恨み恨まれるだけの、犯人同様の存在となっていった。




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最終更新:2013年11月29日 20:45