偽天使たちの宴



その日、雪が降り始めたのは日が沈んでからすぐのことであった。
街は色鮮やかなイルミネーションで彩られ、その光は降る雪に滲んで幻想的に見える。
雪道を歩く人々の多くは上機嫌でそれを見上げる。今日は祭日、聖夜と呼ばれる誕生祭だからだ。

そしてこの街の上空でも、この日を祝福するかのように天使たちが舞い踊っていた。



・・・・・・天使?違う、よく見るともっと物騒な姿だ。
天使と呼ばれるアームヘッド、セイントメシアのようなシルエット。
しかし更によく見れば、それら3体のアームヘッドはそのセイントメシアですらなかったのだ。


「なんだ?・・・セイントメシア、村井幸太郎が現れたかと思えば・・・・・・!」

銀色のアームヘッド・セメントイシヤクライムアップのパイロット、村井辛太郎が呻いた。


「コレジャナイ、とんだパチモン掴まされたな」

言葉を繋ぐようにして愚痴ったパイロット「戦闘X(セントクロース)」の乗機は、
浮遊トナカイに跨る神話的老人のような格好のアームヘッド・ホーリーナイトだ。

彼ら二人は残党の残党が寄り集まったテロ組織「パプリカーン」のメンバーである。
しかしこの出撃は組織的行動ではなく、クリスマスに予定が無い腹いせの、打倒メシアの個人目標達成の為の行動だ。
予てからセイントメシアが撮影されやすいポイントをその手のマニアから聞いていた辛太郎は、
仕掛けておいたカメラにそれらしき機影が映ったので、慌てて襲撃に飛び出したのであった。

だが彼らを迎えたメシアは期待通りの紅白の機体、血染の羽毛ではなかった。



「そちらこそ。コピー・メシアの情報を辿って来てみれば・・・・・・。
 ・・・・・・これほどまでにクオリティが低いとは。コピーと呼ぶのも憚られますね」

吹雪に隠れるようにして冷たい光を放つアームヘッド。
その翼から氷柱のような棘を生やし、一部の装甲を氷のように透き通らせる機体は、
印象こそ血染の羽毛とは異なるものの、相対する二機に比べれば遥かにセイントメシア型に近い。


「何だとッ?こいつはセメントイシヤだ!”藍染めの翼”だ!コピーじゃない!まさに他人の空似だ!」
「でもあれ確かにパチモンにしては無駄に良く出来てる、なんだコイツ?」

パプの二人が騒ぎながら、白いアームヘッドを囲むようにして飛び回る。


「・・・・・・この機体はガランサスフェザー。そして私は村井研究所の元テストパイロット。
 私の目的は、救世主の名を貶める下卑た模造品を始末することです。
 故に、貴方がたほどの粗悪品を相手にする必要はありません。大人しく去れば見逃しましょう」

凍てついたメシア、ガランサスフェザーは二機の包囲に対し微動だにしない。
そのパイロット、郡山 択捉は決して嘘をついてはいなかった。


「元?元?」
戦闘Xが食いつく。

「元・村研だとッ?つまりお前はクビになった訳だな?
 そんで研究所からパクってきた設計図でコピーメシア作って!
 他のメシア潰して復讐しようってところかッ!?まさに偽りの満足、偽満もとい欺瞞だな!」
辛太郎もお返しに分かりやすい挑発を吹っ掛ける。


「・・・・・・・・・」

郡山は押し黙った。



「・・・・・・まさか、図星だったのか・・・・・・」
「同情するぜオッサン」
パプ勢が再び騒ぎながら回りだす。


「・・・・・・何を、勝手な、解釈を、呆れて、ものも言えなかっただけです。
 粗悪品とはいえ、貴方たちがメシアと誤認識されるようなら結局は目的の邪魔です。
 それに・・・設計図?・・・貴方がたのような連中がそれを得るから、救世主の価値が下がるのです。
 故に、その前に芽を摘ませて頂きます」


「なにいってんだオッサン」
「そりゃメシアの設計図貰えれば、イシヤにもちょこっとは使うかもしれないけどさあ・・・」
二人の動きが止まる。


「消し去ります」
郡山が冷酷に告げ、ガランサスフェザーが更に飛翔する。
それから全身の刃を怪しく輝かせた。

「まあいいッ!どの道コイツに勝てなければ幸太郎にだって勝てないからな!
 行くぞ、戦闘Xッ!!!」
「クリスマス商戦の始まりだ!!」
対してセメントイシヤとホーリーナイトも弧を描くようにして上昇した。


ガランサスフェザーは二機が追ってくる様子を見下ろすと、上昇を止め、その手に持つ槍を寒空に翳した。
その刃は研ぎ澄まされた氷のように透き通っている。全身のアームホーンが放つ光はそこへと集まり、やがて冷気の靄に包まれた。

そして靄が晴れた時、その矛先は複数の氷柱が突き立った棘々しい形状に変化していた。
間髪入れずガランサスフェザーは、目下の標的へ向け槍を振り、幾つもの氷の棘を投擲!


「おいなんだ!?」
先行していた戦闘Xが、自身に迫ってくる氷ミサイルを見て騒ぐ。
「怯むな行けッ!あんな氷にぶつかったって大したことは」
辛太郎が言いかけた矢先、一際大きな氷の棘がホーリーナイトの肩羽を貫徹していた!

「おいシンタロ!大したことは?なんだって?思いっきし食らったぞ!?」
愚痴を言いながらホーリーナイトは、プレゼント袋じみた盾キヨシールドで氷棘をしのごうとした。
だがぶつかった氷は砕ける様子もなく盾へ次々に突き刺さっていく。
「ば、バカな・・・・・・レーザーほど速くもないただの氷がッ・・・・・・いやあの光沢は?」


そうこの氷こそが、ガランサスフェザーの調和『ホワイトアウト』の賜物なのだ。
その能力とは、空気中の水分とプロトデルミスを利用し、金属質の氷を生み出すというものだ。
常軌を逸した強度を持つこの氷は、更に鋭く成形することで水圧レーザー以上の破壊力を発揮する!

「吹雪に舞う羽毛のごとく散りなさい」
ガランサスフェザーは淡々と槍を振るい、氷棘の弾幕で二機を近づけないようにする。

辛太郎のセメントイシヤは全身の刃で氷柱を砕いているだけだった。
手一杯か?いや、このセメントイシヤはクライムアップしているのだ。
追加装備の尾っぽがしなって、先っぽの水圧レーザーの銃口を郡山に向ける。
連射されるレーザー、その少量の水はガランサスフェザーの装甲に辿り着いた時には凍り、パラパラと砕け散った。
更に氷天使は手をかざしてレーザーの一本を掴みとる。投げ返されたそれはイシヤの頭に当たって砕けた。
「あ痛ッ・・・・・・まさに手も足も出ないな・・・」

その頃戦闘Xのホーリーナイトは、キヨシールドで氷矢の雨を受けながら、ガランサスの真下まで潜り込んでいた。
郡山の認識では、刃の多いセメントイシヤの方を近づけるべきではないとしていたが、
このサンタもどきもここまで近づかれると無視できない。だがそこにばかり集中することは・・・。

「よし行け!ソーリーシーカー!!」
突進してきていたホーリーナイトが突如二つに分かれた。
神話的浮遊トナカイ型の無人機、ソーリー・シーカーとの合体を解いたのだ。

無人機は不自然な軌道を描き回り込む。戦闘Xも別進路から接近をかける。
ガランサスフェザーは三方向に対しての氷ミサイル攻撃をするが、しかし対処優先度の選択を迫られていた。

最も早くたどりつくのは躊躇いなく飛び回るトナカイだが危険は少ない。
氷天使は特大の氷柱針をセメントイシヤに放ち牽制、そして最大危険度のホーリーナイトに集中攻撃!
だが槍の矛先にサンタもどきは居ない!その間に無人機が同高度に達し外周を回るように接近!
すれ違うトナカイから飛び降りたのは・・・ホーリーナイトだ!!

ホーリーナイトの剣トシコソードが一閃!
その刃は氷天使の左翼を斬りこみ火花を散らす。
しかしガランサスフェザーも同時に一撃を放っていた!
ノコギリ状に成形された氷の刃がホーリーナイトの胸を裂く!

「ああクソ!」
反動で後退を強いられる戦闘X。
「近づけば何とかなると思うのは早計ですよ」
郡山は言いながら、片足を振るってセメントイシヤの方向へ氷の矢を放つ。

「何とかなるなどとは思ってない!ん?いや、なめるなああ!!」
ホーリーナイトは剣をマウントし、プレゼント袋じみた盾の裏に腕を突っ込んだ。
それからカラフルなプレゼント箱を取りだして次々に投げる!
ガランサスフェザーは無言で氷棘を放ちそれを撃墜!爆発した箱からはトリモチが散らばる!
粘着物によって動作が僅かに緩慢になる氷天使、戦闘Xは更に箱を投げながら接近!
トシコソードを掲げるホーリーナイト!しかし郡山は表面に巧みに氷を生成して爆発とトリモチを防いでいた!
ガランサスフェザーの氷槍が剣と衝突!その時既に、両翼と頭部ホーンが輝いて氷ミサイルを形成!
戦闘Xの背筋が凍る!剣を引いてキヨシールドに手を突っ込んだ!
取りだしたのは巨大パーティークラッカー!けたたましい音が吹雪を散らす!
衝撃波が氷柱ミサイルを吹き飛ばし、同時にホーリーナイトも接近を離脱していた。
その上クラッカーの筒から発射される怪しげなリボン!

「まさかアームスキンとでも?」
危険を感じたガランサスフェザーが上昇してかわす。
リボンは下の方にいたセメントイシヤに絡まった。
「うぐわーッ、まさに足手まといだな」

やはり大した敵じゃないと分かった郡山は、容赦なくホーリーナイトを追撃しようとする。
クラッカー反動を利用し後退していた戦闘Xは、びびりながら盾に手を突っ込む。
「包装紙!」
放り投げられた箱が爆発的に広がり派手なプレゼント包装紙が互いの視界を埋め尽くす!
「反武殺装備?」
訝しむ郡山、しかしその瞬間に紙に突っ込んでガランサスフェザーが包装される!

「ほーほーっ!!子供に渡した瞬間のプレゼントの包装紙と同様共に細切れになれえええ!!!」

包まれたガランサスフェザーの背後から、スケートブレードで斬りかかったのは無人機ソーリーシーカー!
押し飛ばされた氷天使を、ホーリーナイトは居合のように両断!!

切り裂かれた包装紙、確かな手ごたえがあったが、振り向くとそれは氷塊!
攻撃の瞬間に紙切れを破って飛び出したガランサスフェザーは、既に戦闘Xの下から接近していた!!

すれ違いざまの冷徹な一撃!
形成された氷の棍棒がホーリーナイトの背を抉り、叩き落とす!

「ふおおおおおおおお」

彩られた夜の街並みが戦闘Xの視界にどんどんと近づいてくる。
無人機トナカイは嘲るように頭上を飛び回って去っていく。

「せ、戦闘Xーッ!!」
辛太郎がリボンと格闘しながら叫んだ。



「ふおおおおお・・・」
下降していくホーリーナイトは街路に接近、建物の間にかけられたイルミネーションが次々に引っ掛かり減速する。

「みて!サンタさんが!」
「でかい!!」
見上げる子供たちがはしゃぐ。

「ご覧。綺麗だね」
カップルの夢見がちな男が、空で光るアームヘッドと無人トナカイを指さして微笑んだ。
「こんな日に何やってんのかしら」
カップルの冷めがちな女が、眉をひそめながら言った。

「見せもんじゃねーぞ・・・って言いてえけどそういう見た目だし」
操作不能になったホーリーナイトは看板にぶつかり減速下降しながら、墜落地点を真っ直ぐに目指す。
街路が途切れる。人通りの上に落ちなかったことを戦闘Xは内心安堵した。だがどこに落ちるのか?


ホーリーナイトは教会の屋根に突っ込んだ。

「「「ラーメン」」」

戦闘Xの目下では、カソックと中華服の中間のような服を着た集団が祈りをささげている最中であった。
その先頭に居た宣教師の袖からはロックスターめいて多数のヌードル紐が伸びていた。そいつが振り向く。

「・・・・・・このような忌まわしき日に巨大プレゼント老人で押しつけがましく襲ってくるとは。愚なり邪悪なる異教徒よ」
宣教師が恐ろしい形相で睨み上げる。
スパモン教修道士たちが一斉に振り向き、両袖口からサブマシンガンを抜いて構える!
そして戦闘Xめがけて集中砲火!!これではコクピットから出ようにも出られない。

「・・・・・・だからクリスマスは嫌いなんだよぉ!!!!」





ガランサスフェザーの意識がセメントイシヤに向けられた時、銀の機体は目前に迫りリボンを引きちぎったところだった。

「休ませるかッ!今のは前座だ、本当の敵はこの俺だからな!」
セメントイシヤクライムアップがロングクロー突きを放つ!
「また同じことを言わせるつもりですか」
氷天使の槍先が盾状に変化して爪を食い止める。
「近づけたことを今度こそ後悔するぞッ!」
辛太郎はもう片方のクローと尾先のブレードで挟撃!
しかしガランサスフェザーの透き通った装甲から冷気が吹き出し、生成した氷の盾で防御!
セメントイシヤは次に頭部ホーンを構える、しかし氷天使の槍は刺又状に変化してその首を捕えた。
槍は冷気を放って再び形を変えようとしていた。辛太郎は躊躇わず敵の槍の柄を抱え込む!

そして脚部ホーンによる強烈な後ろ回し蹴り!
槍先についた金属質の氷の刃が叩き折られ、その勢いのまま次の回し蹴りが迫る!
二撃目の蹴りには氷盾の生成が間に合わず、顔面から蹴飛ばされるガランサスフェザー!
だがこれは接近を解く一つの理由付けだ、セメントイシヤを氷の矢の雨が襲う!
しかし辛太郎は刃のついた両翼を振り回しながら果敢にそれに向かった。



その頃、彼ら二機に向かって高度を上げていく存在があった。

”おーいー、なんでこんなクソ寒いのにわざわざ戦いにいかなきゃいけねえの”
”厄介なモノを付けてくれたものだ、勝手に体が疼くとは”
「遠藤です」

黒いコピーメシア、イヴィレンデシアだ。
機体のAIは既に7つのコアによって縛られ封じ込められているのだが、
それでも呪詛のように、本来の目的である打倒セイントメシアを囁き続けており、その行動に影響を及ぼしてくるのだ。
イヴィレンデシアは、先ほどまで遠藤を使ってクリスマス商戦でカーダ・ヌイめいたおどろおどろしいグッズを売っていたのだが、
降ってきたホーリーナイトを見、またその上の戦闘を見つけた時にAIが過剰反応を示し、うるさいので出撃したのだ。

やがて白と銀の二体の天使の戦いが鮮明に見えてくる。
”アタシ思うんだけど、アレ救世主じゃなくない?”
”そうじゃな、期待と違うな、帰っておコタにあたるんじゃ”
しかしAIは機体を制御しようと引き下がらない。
”止むを得まい、早急に倒して帰るのだ”
イヴィレンデシアは上昇した。


郡山と辛太郎は、高速で接近してくるアームコア反応に気付き、戦闘を中止し振り向いた。
そこには悪魔じみた黒いコピーメシアの姿があった。
「遠藤です」

「げっ、またなんか来たけど絶対幸太郎じゃねえ、しかも絶対ヤバいやつだコイツ」
辛太郎が顔をしかめた。

「・・・・・・ようやく現れてくれましたか、コピー・メシア。
 しかも連邦の機体反応、純正品のようですね。ずっと待っていました。
 空を汚す偽天使の翼を削いで地に叩き堕とす時をね」
ガランサスフェザーの眼が怪しげに光る。

”寒いんでさっさと倒させてもらいますんでハイ”
イヴィレンデシアの声が二人に届く。

「何と、動かしているのは人間ではないようですね」
「いろんな声がきこえる、こわい」
辛太郎が引き下がって身構え、郡山の標的は完全に定まった。

ガランサスフェザーの持つ槍の折れた矛先が、バリバリと音を立てて再び形成を始めた。

そして目の覚めるような氷の剣の一閃!
イヴィレンデシアは大鎌を振るってそれを叩き止める!

「人が乗っているのなら多少の慈悲も考えますが、単に暴走しているだけなら潰し甲斐があります!」
郡山が笑う。
「遠藤です」
「その声が少し引っかかりますが」
”遠慮は無用、死に物狂いでかかってくるがいい”
イヴィレンデシアも嘲った。

そして繰り返される氷剣と大鎌の応酬!


セメントイシヤは後退し二体の闘争を眺めていた。
「なんて戦いだ、すっかり放置されちまった・・・帰るか?
 だが待てよッ、上手くすれば二体撃墜金星のチャンスだし、一応幸太郎との戦いの参考にはなるか・・・?」
そして辛太郎は更に距離を取った。


実際白と黒は銀の存在を大して気にかけていなかった。
刃が交わり再び離れる。ガランサスフェザーが翼と足を光らせて氷の矢を放った。
イヴィレンデシアはそれを甘んじて受けながら、鎌で斬りかかる。
氷の剣に阻まれるが、鎌の刃先が赤く滲み、至近距離で血圧カッターを放つ!
無残に切断される氷剣、氷天使は再び礫を飛ばし後退する、終世主は血の刃を発射し迎撃!
ガランサスフェザーが再び剣を生成しようとするところへ、イヴィレンデシアの大鎌が迫る!
作りかけの剣でそれを受けた、更に槍先が冷気を発し、三叉槍へと変化する!
追加した刃で鎌の柄を絡め、ガランサスフェザーはイヴィレンデシアを下へ振り飛ばす!

迫る街並みを背に食い留まるイヴィレンデシア、そこへ氷トライデントの突きが執拗に襲う。
終世主は大鎌を振りつつ途中で血刃を放って、ガランサスフェザーの隙を作ろうとする。

流れる夜の街の上で繰り広げられる、白と黒の偽天使の殺陣!
刃がぶつかり合うたび、大鎌は凍てつき、三叉槍は血塗れる!

郡山はほくそ笑む。鎌に氷塊が纏わりつき応酬に僅かに遅れたところを狙い、
氷トライデントの突きを放ってイヴィレンデシアの胴体に突き立てる!

怯んだ終世主の眼が細まり顔を歪めた。それは郡山にも視認できた。
イヴィレンデシアは怒り気味に、氷塊付きの鎌でガランサスフェザーの頭をひっぱたく。
砕け散る氷と共に二機は仰け反った。


「今だッ!!」
隙を見せた二機へセメントイシヤが加速接近!

セメントイシヤは両者の間に割り込んで高速回転、足のクローと尾のブレードで幾度も斬りかかる!
”何だと?”
「邪魔を!」
二機はそれを防ぐことが出来ず、直撃を受けて蹴り飛ばされる!

辛太郎はガランサスフェザーの三叉槍を砕いた事を確認すると、イヴィレンデシアに追撃をかける。
胴部へのダメージを見ていたからだ。体を目がけて尾の水圧レーザーを連射!
”きっ、きたねえぞ!”
「悪く思うなよッ、藍染めの翼はリアリストなんだ」
レーザーを撃ちながらロングクローで襲い掛かるイシヤ!
何とか持ち直したイヴィレンデシアは上昇回避、更に近づいて大鎌を振り落とす!

セメントイシヤは鎌を辛うじて受け止め、更に尾のレーザーで胴を抉る!
「行ける・・・行けるッ!!」
イシヤは翼と爪を駆使して力強い鎌の進行を弾き、クロー蹴りをイヴィレンデシアの体に打ち込む!


一方ガランサスフェザーは待機して見ていた。その槍先は特に濃い冷気の靄で覆われている。
「やれやれ・・・・・・邪魔も利用するに越したことはありませんが、しかし私の獲物です・・・・・・」

イヴィレンデシアが敵の肩口に鎌を食い込ませた時、セメントイシヤはその胴体を蹴り上げていた。
その勢いのまま上に飛ばされる終世主、しかしその上昇は止められた。
ゴッという鈍い音と共に、氷塊のハンマーに思いっきり頭を殴られたのだ。
”い、痛ってえーーーーっ!?”
すぐさま下に吹っ飛ばされるイヴィレンデシア。

「!?」
辛太郎の目前を、落ちる黒い機体が通り過ぎた後、白い機体が氷塊ハンマーを振り上げて降ってきた。
「これ以上の邪魔立ては不要です」
セメントイシヤの頭に叩き込まれるハンマー!
間髪入れず、ガランサスフェザーの脚部が変形する!

刃のついた四本足となったガランサスフェザーは、その足でセメントイシヤを挟みながら下降!
脚部イージーホーンを装甲に食い込ませながら、金属質氷塊を生成してイシヤの動きを封じる!
辛太郎も足爪ホーンで抵抗するが、氷結が早い!

しかしそこへ持ち直したイヴィレンデシアが駆け来る!
対しガランサスフェザーは、イシヤをぞんざいに横殴りにして吹っ飛ばすと、脚の変形を解いて迎えた。

上昇してきた終世主は、鎌を赤く滲ませ血刃を繰り出して氷塊ハンマーを輪切りにする!
氷天使は槍の先に残った氷塊を投げつけ、怯んだところを翼でなで斬りする!
交錯した二機は再び向かい合い殺陣を繰り広げた。


辛太郎はしばらく気を失ったまま吹っ飛んでいたがやがて目覚めた。
「くそッ!なんだ奴ら、眼中に無いような真似しやがって!」
そして怒りながらスイッチを叩いた。
「・・・・・・幸太郎戦までとっておきたかったが・・・切り札を使うッ!」
セメントイシヤクライムアップの背が変形し、二つの長い砲塔が突き出した。
「コイツでどっちも落としてやる!」
そう言って戦う二機の高度を目指す。


ガランサスフェザーの槍先が十手状に変化して鎌を捌く!
イヴィレンデシアも負けじと蹴りを繰り出すが、同じく蹴りで受けられる。
氷天使の翼が斬ろうとするも同じく黒い翼がそれを弾いた。
「暴走している割になかなか骨がありますね」
”フン、貴様も人間にしてはよくやる”
拮抗する二機は再び大鎌と十手を交えた。

同高度に達するセメントイシヤ。
「よーしよく集まって当てやすい、感謝するぞお二人さんッ」
辛太郎は冷静に照準を合わせる。

「セメント砲ッ!!発射ッ!!!!」


”なんか来るぜ!?”
「まだ堕ちていなかったのですか!」
黒と白の二機を、水圧レーザーよりも大きな灰色の弾丸が襲う!
両者はそれを避け、次々と打ち込まれるそれを、氷矢と血刃で迎撃する。
撃たれた弾丸は減速し散らばったが、その破片は二機の体に次々と浴びせられた。
”!?”
かかった灰色の物体は急速に硬化し始める。
これこそがセメント砲の恐ろしさなのだ!
普通の速度で当たればダメージ、更に減速されれば付着しやすくなり行動を封じる特殊セメント弾!

イヴィレンデシアは体に引っ付いたセメントを引っぺがすが、その間に次のセメントを浴びることになる!
ガランサスフェザーは回避でしか対処できないと判断、しかし不用意に近づけない上に氷矢も撃てない!

「まさに漁夫の利だな・・・・・・勝ったッ!」

更にセメントと格闘するイヴィレンデシアが、ガランサスフェザーに衝突!
ぶつかった翼部分にすかさず、セメント弾幕が撃ちこまれる!
「貴様!何てことをしてくれたのですか!」
”我々は暴走機だ、文句を言っても無駄だと思うが”
セメントによってくっつけられた終世主と氷天使、ぎこちなく宙を舞う。
その様子を見て辛太郎は大笑いした。
「俺を無視した結果このマヌケな事態ッ、もう到底メシアには似ても似つかないなァー」


”くそっ・・・”
「こうなれば仕方ありません、連動で行きますか?」
「rえんどうです」
そして黒と白の偽天使は、くっついたまま銀の機体へと迫る!
更なるセメント弾が襲い速度が削がれるが、息を合わせ避けつつ接近!

「あっ・・・・・・」


”これで終いだ!”
「堕ちなさい!!」
イヴィレンデシアとガランサスフェザーの武器が、同時にセメントイシヤに叩き込まれる!

「 」
辛太郎はその衝撃の前に何も出来ず、力なく落下していった。

二機は互いの翼を接合するセメント塊に対し、それぞれの刃を力任せに衝突させて砕いた。
そして飛び離れた後その手に持つ武器を向け合う。

しかしその静寂も長くは続かなかった。

「サプライズプレゼントとは!ナイスだ戦闘Xッ!!!」
下から突撃してきたのは無人機トナカイに跨ったセメントイシヤであった!
セメント砲を連射しながら加速!終世主と氷天使は避けるために散開。
しかし辛太郎の狙いはガランサスフェザーのみだった。集中砲火でセメント弾が直撃!

「しつこいですね・・・・・・!」
郡山が恨めしそうに呻く。
イシヤとソーリー・シーカーは敵二機の間を通過すると、まず氷天使に向かって華麗なターンを決めた。
「戦闘Xの仇ッ!まずはお前からだ!!」
セメントイシヤはトナカイに乗ったまま脚部のホーンクローを突き出し、セメントで封じたガランサスを狙う!

あと少し、勝利を目前にして辛太郎は並列する黒い影に気付いた。


”よう”
辛太郎がイシヤの腹部を鎌が小突いたと気づいたのも束の間、血しぶきが視界を包んだ!
イヴィレンデシアが零距離で血流カッターを発射したのだ。
そして抉られた傷口を大鎌が一閃!セメントイシヤの身体は腹から真っ二つに裂かれた。
「・・・なッ!おっお前!そんなん卑怯だ、まさに・・・・・・自業自得?」
その上イヴィレンデシアは、勢い余って無人機トナカイに乗っかり、そのまま優雅に上昇していった。
”そんじゃーなー”

「ふおおおおおお・・・・・・」
セメントイシヤの上半身、そして辛太郎は教会の方向へと落ちていった。


郡山はその様子を見、ガランサスフェザーが装甲に張っていた氷をセメントと共に剥いだ。
それから標的を黒いコピーメシアに改めて定める。

イヴィレンデシアはソーリー・シーカーを乗りこなそうと寒空を舞ったが、
やがてトナカイから火花が吹き出し蛇行し始めているのに気付いた。
”こんなプレゼントいらねえ・・・”
終世主はターンしてガランサスフェザーへと向かい始める。

「さて、邪魔は居なくなりました」
ガランサスフェザーは全身の刃を光らせ振るい、羽毛のような氷矢を無数に放って迎撃する!
氷の刃はイヴィレンデシアとトナカイに容赦なく突き刺さる!しかし躊躇いなく前進!
郡山には一つ疑念があった。
この敵は人操作ではない暴走機体、このように能も無く向かってくるのは当然だ。
しかしもし単調行動が、一対一になるこの瞬間まで調和能力を隠し温存する為の偽装行動だったとすれば?
分からないがこの敵は一筋縄にはいかない、郡山は備えた。

イヴィレンデシアはトナカイを盾にしながらガランサスとの距離を詰める。衝突は近い!
(何を仕掛けてくる?)
思案ばかりしている時間は無い!ガランサスフェザーは氷槍を突く!

郡山が狙ったのはイヴィレンデシアであったが、その刃が貫いたのはトナカイの赤っ鼻だ!
インパクト直前、急激な上昇をかけた終世主は鹿を踏み台に飛び上がった!
そして大鎌の逆側についた鉈を振り下ろす!氷天使の左肩に突き刺さり、それを支点にまた跳躍!
ガランサスフェザーは反撃の暇もなく、最大速ソーリーシーカーとのクラッシュ事故に遭う!

「ちいぃぃぃっ、何と雑な戦法・・・・・・!」
郡山は唸って槍を振り、破損トナカイを放り捨てた。
なおトナカイは教会の方へ墜落していった。

一方どこまでも高くジャンプしたイヴィレンデシアは、そのまま消えて行ってしまうかのようだった。

顔をしかめながら空を見上げる郡山。
・・・・・・やがてその目は大きく見開かれた!
鎌を大きく振りかぶりながら降ってくる死神の姿!!

「・・・・・・そんな戦い方ではァーーーー!!」


重力を乗せた巨大な鎌がガランサスフェザーの左肩を抉りこむ!!
しかしその時氷天使も武器を振り上げていた!その刃先は終世主の鎌と同形状!!
同じくイヴィレンデシアの左肩に食い込んで血交じりの氷粒を散らす!!

”真なる救世主を破るまで!我々は負けるわけにはいかないのだ!!”
「セイントメシアは・・・幸太郎ぼっちゃんは貴方ごときには倒せませんよ!」
”なにいー?知ってるなら教えろよホンモノの救世主のことを!”
「そして私こそが彼を超えなければならない!英雄という名の!呪縛から解放する為に!」
”何を言っているやらだ!!”

そしてイヴィレンデシアの大鎌が血の激流を放つ!
ガランサスフェザーの左肩が切断され、片翼が雪の空に散る!
同時に氷鎌も終世主の傷を内側から壊死させていた。
翼をもがれた氷天使は、左側から体液を噴き出しながら後退。
握る白い腕が付いたまま突き刺さる氷の大鎌を、イヴィレンデシアは引き抜く。
急激に体温を奪われた終世主は震え、自身の死神の鎌を取り落した。

満身創痍の偽天使たちは、もはや互いを滅ぼし超える事しか考えていなかった。
終末への加速!
アームホーンの翼を開き、向かい合って進む機体は交錯の時を待つ!

赤黒いオーラを残しながら駆けるイヴィレンデシア、その眼を赤、橙、深緑の光がよぎる!
ガランサスフェザーの翼が青白い光を放って、全身に氷の鎧を纏う!


すれ違う二振りの翼!!


”ぐ、ぐわぁーーっ!!!”
イヴィレンデシアの悲鳴。
氷鎌によって壊死しかけた部分を更に斬りこまれ鮮血が噴き出した。

一方ガランサスフェザーは。
「・・・・・・!?・・・・・・」
その装甲は金属質の氷によって補強されていたはずだったが、
身体には赤熱する深い傷口が穿たれていた。
再び氷を生成し傷を塞ごうと試みるが、歪み軋んでいく音は最早全身に広がっていた。

そして郡山は悟った。調和能力を使われたのだ。
敵はやはり調和を温存していた、それも交差するただ一瞬にのみ、確実に使うために。
それに比べて自分は、奥の手を隠しておくような事もなく、最初から無鉄砲に調和を使い頼っていた。
自分は、この暴走機体よりもまだ、未熟であったのか・・・・・・。
郡山は反省し目を閉じる。


ガランサスフェザーは体中の傷から血の羽毛をばら撒き、その機能を停止し浮力も失っていった。
それから微動だにしないまま、吹雪に流されるようにして堕天していく。

イヴィレンデシアは自らの傷を押さえながら、ただその様子を見下ろしていた。

やがて氷天使は川に墜落し、水飛沫と共に消え去った。

終世主は息を整えるようにしながらそれを見届けた。
ささくれ立っていたAIもようやく鳴りを潜めた。


”今度は、けっこう、危なかったんじゃない?”
”調和を使うと、疲れるからのう。その点あやつは、限界をわきまえず、使いすぎとったんじゃ”

”しかし・・・・・・”

”・・・・・・コータロー・・・・・・ホンモノの救世主・・・・・・!”

自問自答を終えるイヴィレンデシア。
地に刺さった血染の大鎌を回収し、暗雲の中へと力強く上昇していった。

「遠藤です」






・・・・・・数週間の時が流れた。
そこには完全復活したガランサスフェザーと郡山 択捉の姿があった!!

彼は執念の情報傍受を行なった結果、イヴィレンデシアと思しきコピーの目撃情報を得ることに成功した。
そして終世主へのリベンジを果たし完膚なきまでに捻り潰すべく、快晴の下、意気揚々と出撃したのである!

だが、そこで彼を待っていたのは、偽天使ではなかった。
そう紛れもなくセイントメシアだったのである。それも郡山の見たことのない型であった。

セイントメシアサードが二機、そして司令機のセイントメシアフォース。
彼らは村井研究所の特別粛清部隊『マーダーエンゼル』所属だ。
その目的はメシアタイプの破壊、それに伴った機体とデータの回収だった。
まさか研究所が直々にそれを行なっているとは、個人で勝手にやっていた郡山が知る由もない。

「・・・・・・郡山さん、今ならまだ間に合います」
そして、メシアフォースのパイロットは彼の知る村井幸太郎その人であったのだ。

「・・・・・・!」
郡山は自らが誘き出されていたことを悟る。

「その機体・・・・・・あなたがテストパイロットとして、セイントメシアに何らかの感慨を持って、そうしている事は解ります。
 しかし、わざわざ隠れてまでメシア・ファーストのコピーに乗ることはないじゃないですか。研究所に、戻ってきてください」
幸太郎はなだめるように言った。

「幸太郎ぼっちゃん・・・・・・」

「これからはテストパイロットではなく、あなたにも我々マーダーエンゼルに協力していただきたいのです。
 もし、メシアに乗れなかったことが不満だったというのなら・・・今ではこの通り、最新型メシアサードの量産化にも成功してます。
 その機体が良いというのなら、研究所の最新技術でサード級まで改良もしましょう」
村井研究所における幸太郎の権力が発揮された、最上の条件であった。


「・・・ち、違う、そうではないのです、私は・・・・・・。
 私が、救世主に成り代わり、幸太郎ぼっちゃんにセイントメシアから降りて頂きたかったのです」

「な・・・・・・」

「私は、デュアルホーンのテスターとしてメシアに乗った時、起動できる資格こそありませんでしたが部分的に接触しました。
 その時感じたのです、救世主の・・・いえ、使命に呪われたアームコアの怪物の、厳かな、何か得体の知れぬ、意志?気配?予感のようなものを・・・・・・。
 結局セイントメシアには貴方しか乗れず、そのまま瞬く間に帝国の救世主となり・・・・・・。
 しかし以来私はずっと、テストも証明も出来ぬまま運用される、デュアルホーンそしてセイントメシアの安全性に疑問を抱いていました。
 裏付けるように、私の出会ったコピーメシアは、コアの支配による暴走状態であったり、パイロットが居ても人格に支障をきたしているようでした・・・。
 今からでも遅くはありません、そんな未知の危険を孕んだものに、幸太郎ぼっちゃんにはこれ以上乗って頂きたく無いのです」
郡山は言った。


「・・・・・・そんな心配は要りませんよ、エトロフおじさん。俺もいつまでも子供のままじゃありません。
 今まで少なくとも・・・・・・俺自身が、メシアに身を滅ぼされることは・・・ありませんでした。
 こうしてメシアと共に在るのは、俺自身の意思でしていることです。もう何が起ころうと・・・・・・俺の自己責任ですから」
幸太郎の妻に関しては、郡山は知らなかったがその物言いの裏に只ならぬものを感じた。

「セイントメシア・・・メシアフォースは、国を守るだけじゃない、家族や我が身を守るための力です。今の俺の力です。
 救世主と呼ばれることは・・・・・・今はただ誇りに感じます。
 それが何らかの宿命に囚われたことだとしても。俺自身の意思でそう有り続けます。
 だからこの役は、救世主は、誰にも代われません。誰にも譲れません」

村井幸太郎は言った。


「・・・・・・そうですか・・・・・・自分の責任。役割。坊っちゃんはもうすっかり大人になられていた。
 そうですね、詭弁を並べた私も、実際には研究所を抜けてから、目的も曖昧に反逆に類する行動ばかりとっていました。
 尚更、このまま事も無げに村井研究所に戻ることは、出来なくなりました・・・・・・!!」

郡山が呻くようにして言う。
ガランサスフェザーの眼と両翼が輝きを放った。

「・・・・・・!」
セイントメシアサードの二機が、幸太郎のフォースの前に出て身構えた。


ガランサスフェザーはメシアファーストのコピー故、実質ナンバリングが二つ三つ上の後継機と対峙していることになる。
無謀な挑戦だがしかし郡山 択捉は向かったのだ。



この厄介な男の戦いの結末は、ここでは伏せておくとしよう。




END





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最終更新:2014年03月14日 21:55