◎◎◎


 ――昼食。
 ぼくらは空き教室でお弁当を食べていた。
「もぐもぐもぐ……」
 谷君はおライスを食べる時だけもぐもぐいう。
「っちーす」
 そんなぼくらのもとにやってきたのは一人の少女だった。
 中学生とは思えぬタッパと栗色のポニーテール。全身から漂うのは巨大な熊っぽさ。この女の前に勝てる者なし。
「っちろっーす」
「こんにちは、旬子さん」
 この少女、旬子がぼくの作った三つの弁当のうち、一番大きいものを持っていくやつである。
 母にアームヘッドレスリングのチャンピオン、父になんとか剣術道場の師範を持つ根っからの武闘派でありながら成績が良すぎるため生徒会に睨まれている少女でもあった。
 ぼくとは小学生のころ彼女が野良アームヘッドに襲われているのを助けた以来の仲である。
 この三人がいつも昼食をとるメンバーだった。
 ぼくと谷君が昼食を終え、旬子さんがデザートのカステラを一斤頬張り出す。これで100メートルが10秒台なのだから怖い。
「ちょっと、お花摘みに……」
 カステラ完食後、旬子さんはトイレへ向かった。
 と、少しして空き教室にライフルを構えた風紀委員たちと、風紀委員長が現れる。
「……なんだろ?」
「陽草秋道、お前を『不良』として粛清する!」
「な、なんだってー!」
「度重なる授業中の睡眠と、風紀委員への妨害が理由だ」
「なにをいってるんだ!」
 ぼくは叫んだ。
「授業は寝るものだろ!!」
 隣にいた谷君がぼくを叩く。
「谷君、痛いよ」
「ご、ごめんつい」
「くくく、安心しろ。ゴム弾だから骨にヒビが入ることはあっても死ぬことはない……」
 風紀委員長が笑った。
「ここで粛清されるか、それとも……」
 ごくり、となぜか谷君が息をのむ。
「谷アキラを私の彼氏としてさしだ――」
 ぼくはいったん委員長を手で制して止めた。
「委員長」
「なんだ!」
「歯にホウレンソウついてます」
 委員長がちらりと隣の風紀委員を見る。
 見られた風紀委員の一人はそっと頷き親指を立てた。
 ――と同時にその風紀委員を無慈悲な暴力が襲う。
「えぇい、トイレに行ってくるからお前ら待ってろよ!」
 ぼくらは風紀委員長の戻ってくる間風紀委員と大富豪を楽しんだ。
 歯磨き粉の香りのする委員長が戻ってくると、会話が再開となる。
「粛清されるのがいやだったら――」
「谷君よ! 彼氏になってくれ!」
 ぼくが先取りすると委員長が地団太を踏み、なぜか谷君が照れた。
「そ、っそんな急に、秋道君ったら……」
「キエエエエエ!」
 委員長は奇声をあげて委員に指示を出すと同時にぼくに向け委員たちのライフルからゴム弾が発射される。
「っふん!」
 ぼくは持って来ていた枕でゴム弾を跳ね返した。
 ゴム弾はそのまま委員たちの鳩尾の気絶するツボに直撃し、委員たちは気絶する。
「……っな」
 委員長は面食らった。
 その間にぼくは谷君と自分のと旬子の分の荷物を回収すると谷君の手を引いて廊下へ出る。
「はーい、逃げるがかちー」
 しかし、ぼくらの走りは遅すぎた。
 委員長はキックボードに乗りながら一気に間合いを詰め、ぼくらを襲う。
 谷君と一緒に委員長の斬撃を避けると壁際にあった消化器に刀が当たり、白い噴煙が立ち込めた。
「っく、やるしかないのか……?」
「や、やるしかないって、秋道君、相手は真剣を持ってるんだよ?」
「……突破口は、あるけど」
 ぼくはちらりと谷君を見る。
 噴煙の向こうから返り血で制服を赤黒く染めた風紀委員長がぬらぬらと近づいてきた。
「ふふふ」
「そ、それが風紀委員のやる事か!」
 谷君が叫ぶ。
「風紀は人の命より重い! ッチェストーッ!」
 委員長が刺突の構えで猪のように突進してきた次の瞬間、真横からの跳び蹴りで吹き飛んだ。
「今のうちに逃げるのよ」
 それはお花摘みから帰ってきた旬子さんだった。彼女はは谷君とぼくへ声をかける。
「で、でも旬子さんは……」
「後で追いかけるから!」
 そんな旬子さんの背中を、刀を掲げた風紀委員長が襲った。
「……っく!」
 ぼくは二人の間に割り込むと、枕で刀を受け止める。
「何なのよ! その枕!」
「……知りたいかい?」
 叫ぶ委員長にぼくは応えた。
 ――破れた白い枕カバーの下。そこにあるのは鈍く輝く“完全物質”。
「これは、アームコアさ――」
 説明をし始めたぼくを委員長が刺した。
「グエッ」
「ハーッハッハ! 隙だらけだばかも――」
 柄と鍔を挟んで、すぐそこにぼくの身体がある。刃はめり込んではいるけれど、刺さってはいない。
「――え?」
 刀は刀身から二つに割れ飛び、天井に突き刺さっていた。
「か、身体に何を仕込んでいるんだ……ッ」
 委員長は折れた刀を捨てると短刀を取り出し、こちらを睨む。
「しょうがないなぁ……」
 ぼくは自分のメガネを外した
 そうして“ぼく”は眠りにつき、“わたし”が目覚める。
 髪は伸び、周囲のプロトデルミスを吸って身体が変化していく。
「あ、秋道、ちゃん……?」
「それは違うわ」
 わたしは谷君の方を振り向いて訂正した。
「今は、秋桜・サニーレタスよ」
 それから、委員長をのした。


   ◎◎◎


「に、人間型ファントム?」
「そうよ」
 驚く谷君に旬子ちゃんが頷いた。旬子はわたしのことをよく知っていた。
「悪いやつの作ったファントムだったんだけど、いろいろあって鹵獲されて、秋道と言う枷をはめられたのよ。あっちの方が主導権もってるし」
 わたしたちは委員長を倒した後、屋上に来ていた。地上では色々な悪行のばれた生徒会と生徒会に雇われた傭兵と、レインディアーズとかいう政府の組織が戦っているが、生徒会もさすがに劣勢なようである。
「な、なるほど。秋道君が女性の下着を持ってるのもそういう事だったんですね」
「そうそう」
 となりの旬子ちゃんがぎょっとした。
「……ねえ、谷君」
「な、なんですか?」
「元から女だ、って早めに言ったほうが良いわよ」
 谷君は崩れ落ちながら「ですよね……」と呟いていた。

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最終更新:2014年11月06日 03:31