「ここよ!」

 白亜の機体は左腕を横へ振りつつ、手にするレーザーライフルのトリガーを一度引く。
 起動操作を得て最後部の変成器が内部駆動を行い、一本の薄い光線を中心部集束照射器へ伸ばした。
 集束機関が呻り、上下二股に割れる砲身は帯電を始める。そのまま砲口を接近してくる四機の最左、外苑の一機に定めて固定する。
 無人機は尚も近付いてくるが、エクセレクターとの間には未だ一定の距離があった。
 双方が接するには幾許かの猶予がある。
 この間に白機が握るレーザーライフルのエネルギー充填は為り、集束照射器が燐光を放った。
 次の瞬間、眩い閃光が解き放たれ、二股砲身の中心部を蒼い光芒が駆け抜ける。
 空気を劈く高音を発しながら照射された蒼光は、狙点を定めた無人機へと直進し、その胸郭を貫いた。
 何の抵抗も許さぬまま襲い掛かり、突破を果たす高出力レーザーが、無人機の胸部装甲を熔解させる。
 強烈な焦点温度の発揮は想定強度を易々と超え、機体内部の中枢機関も焼き切り貫通し、背部装甲を食い破って空中へ飛んだ。
 無人機の胸部内奥には、リアクターそのものたる小型アームホーンが収蔵されている。
 エクセレクターのレーザー攻撃はこれを精確に射抜いていた。
 外部圧力によって削られたアームホーンは機能を停止し、アームヘッドの動力源であるテトラダイ粒子の生成と循環も失われる。既に稼働エネルギーとして供給されていた分は、その制御機関を突如喪失したことで逆流を始め、伝達系バイパス内で暴走を遂げる。
 結果、行き場を失くしたエネルギー流が機体内部の重要機関を相次いで食い荒らし、外へ向けて強烈に発散された。
 膨張した力場は衝撃量を肥大させ、遂には爆発を引き起こす。これによって無人機は内側から爆炎を噴き、形状維持を不可能として砕け散った。
 灼熱色の猛火が夜空に咲き誇り、無人機は轟音と高熱に包まれながら瓦解。
 分散した構成部品が爆風に飲まれて更に細かく溶け崩れ、遥か地上へ落下していく。

「まず一機」

 眼下で散りゆく無人機を見切り捨て、リィンは呟く。
 注視するメインモニターの中では残る三機が、こちらへ向けて自前のレーザーライフルを構え取った。
 そうかと思えば間髪入れずに引き金を引き、輝くレーザー光を撃ち放ってくる。
 しかしリィンは動じない。モニターを睨み、右手と左手でそれぞれに操縦桿を操作する。

「馬鹿ね。アンタ達の単身砲で撃ったって、この距離で届くわけないでしょ。こっちのライフルは収束率を上げて、射程距離を伸ばしてるんだから」

 軽んじる一声を吐き付けて、リィンは僅かに口角を吊った。
 エクセレクターが持つレーザーライフルは、射程の他にもレーザーの拡散率が低く、エネルギーが分散しにくい設計となっている。
 これによって従来型の同型兵器を上回る威力を実現していた。
 ただしチャージにやや時間がかかり、実体弾を使う射撃兵器のような連射は出来ないという欠点もある。
 無人機から次々と撃ち出され、しかし白亜の機体へ届くことなく拡散消失していくレーザー群。臆することなくこれを見据え、リィンは右手の操縦桿を外側へ捻った。
 応えてエクセレクターの右腕が斜下を向き、握り持たれるアサルトライフルの銃口が、敵勢三機の右端奴へ狙いを定める。

「サクサクいくわよ」

 虹色の双眸でモニター内の無人機を射抜き、リィンはフットペダルを蹴り込んだ。
 同時に右手はグリップボタンを軽快に滑り、機体の躍動下でも正確な操作を行う。
 エクセレクターの腰部が僅かに曲がる一方で、脚部は伸ばされ、それぞれに敷設されるブースターが推進力を拡大する。
 四点の巧みな連動と噴射制御で機体は微妙な傾きを為し、敵機の繰り出すレーザーへの対面面積を最小に抑えて降下した。
 眼下より迫るレーザー光を、リィンは両操縦桿の組み流しとフットペダルの緩急で姿勢制御に変え、次々と回避する。
 エクセレクターが闇空を翔けて降る様は、素早い上下運動、左右への振れ、半転からの射線離脱を隙なく繰り返す連続機動。
 何条もの光線を華麗に掻い潜り、無人機との間合いを刻々と詰めていく。

「捉えた!」

 複雑な機動で向かい来る攻撃を躱し続けた先、武装の射程距離に敵を収めたエクセレクター。
 リィンはメインモニター内に表示される円形のロックオンサイトが、現在の標的を中心に囲い置き、白枠から赤い点滅光を発すへ即応した。
 右手の操縦桿を引き、グリップボタンを二指で叩く。
 操作は機体を恙なく従わせ、巨腕が握る銃器のトリガーを、鋼の指が軽やかに絞る。
 アサルトライフルの長大な銃身が震え、空気を叩き裂く猛音が響き出た。暗黒の洞を思わす銃口の深部から、凄まじい勢いで対アームヘッド用の専用徹甲弾が続け様に射出される。
 激音と弾速の重なりは正に暴力的の一言。本来ならば威力と速度の弊害として、超高光度のマズルフラッシュが発生するところ。
 しかしマズル下部へ取り付けられている不燃性の霧を放射する補助装置が働いて、荒ぶる銃口火炎を抑え込む。
 加えて銃体最端上部に設置されているアイカメラが、ある程度自動で敵勢を捕捉するため、まびかれた連弾は高い命中率を以って敵機へ舞い飛んだ。
 一度放たれた徹甲弾は止まらない。
 一斉に夜空を下り、狙った無人機へと忠実に襲い掛かる。上方から敵機の全身へと降り注ぎ、頭部を拉げさせ、肩部装甲を粉砕し、胸部パーツを抉って、下肢体を削ぎ散らした。
 凶暴な破壊の牙が躊躇なく無人機を食い千切り、其の身を徹底的に蹂躙する。
 ただただ他者を滅ぼすため機能と効果を追求した銃火器の連続射撃に、無策で晒された敵体は為す術もない。僅か瞬きの間で強襲弾に全躯を撃ち抜かれ、当初の原型を逸してしまう。
 各部装甲を貫徹して刳り貫いたアサルトライフルの弾雨は、機体深部のアームホーンも逃していなかった。
 レーザーで貫かれる以上に手酷く、ホーン全体を蜂の巣さながらに突き破られる。
 故に機体の機能は程なく止まり、溢れたテトラダイ粒子の変換エネルギーが内爆を引き起こした。
 あとはもう紅蓮に包まれ何度も弾け、壊音を夜空に流して砕け墜ちていくばかり。


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最終更新:2016年10月30日 09:38