十年目こそ。
また新鮮で初々しい結婚ごっこ一年目が始まろうとしている。
けれどもう、ダメみたい。三度もこんなものに身をゆだねるなんて、もう目を覚まさないと。

流体金属型アームヘッドの調和能力「オンキャスト」
ただ、空間ごと人を模して人の真似をするだけの能力。
これが、私の幸せの正体だった。
あの子との本当の幸せは、三年目の、あの子が指輪を拒んだ日に終わっているから。

私は、本物のあの子と過ごした三年間を真似て、繰り返して、修正して、そうして、四年目を手に入れたいだけ。
けれどもう、薄々感づいている。四年目は来ない。夢ですら、あの子は私を拒む。
だからせめて、あの子が指輪を受け取ってくれた夢を見る。夢でいいから、ただそれだけを。

そのことを認めて鏡台からベッドのほうを眺めると、休日のメリーはまだ眠っていた。左手の薬指には私の渡した指輪が。
まだ朝は五時。
この後の予定はこの子がもう少し後に起きてホットドッグを食べに行く話をすること。
けれど、けれどそう。この予定は絶対に決行されない。私がこの子にたくあんホットドッグを買いに行かせるから。
どんなに行こうと思っても、私はこの日絶対に外に出ない。
だって、本物の思い出がそうだったから。

「お姉さま、起きて!ホットドッグって好きですか。一緒に食べに行きませんか」
「え、うーん。家から出るのがめんどくさいわ」
「じゃ、じゃあ買ってきます!たくあんホットドッグっていうのが名物みたいで、面白いですよね」
「だったらそれをお願い。私はもう少し寝るわね」

これが本物の記憶。私は、本当はあの子を起こしてあげるようないい子ではない。
なのに、猿真似の記憶を重ねるたびに起床時間が早くなる。後悔しているから。
あの子と私の世界はついに外に広がることはなくって、私はわがままで。かわいくなんかなくって。
ごめんなさい。メリー。
だから、十年目のこの子は起こさないつもりでいた。

「お姉さま、もう起きてるの」
「――ええ、あなたの休日が、楽しみで」

けれど十年目も、虚構に縋りついて。

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最終更新:2016年10月15日 17:43