『小娘がぁッ!』
「ハァッ!」

 再度の気合裂帛。両パイロットは示し合わせたでもなく、ただ勝利の為に求める操縦を取る。
 その結果、二度目の弾き合いが発生した。
 オーダムの戦斧とエクセレクターの刃が、揃って相手側をかち上げる。重量物の擦れ合う甲高い異音を零し、鉄火の散り粉が夜気へ瞬く。
 衝撃と反動に地盤が砕け、発した空気圧が波紋となって周囲のビルを打ち叩いた。嵌め込まれた窓硝子が一斉に割れ、破片を不可視波の外側へ舞い飛ばす。
 両機は爆ぜた破力に巨体を押され、それぞれ一歩だけを引き下げた。
 鋼鉄の脚が直後路へ踏み退かされ、舗装の道を砕いて止める。
 僅かに振れた上体。しかしそれも腕と得物の次続打ちに引き摺られ、またも敵勢側へと揺り戻された。
 雄々しい戦斧と鋭麗の長刀が空気を断ち、改めて正面からの激突を果たす。火花と轟音は先よりも強く眩く、衝撃の波は一帯を容赦なく撫で叩く。
 双方の武装が接触面で軋みを上げ、刹那の膠着。即座に振り払いが強行され、得物同士は弾かれ戻った。

『チィッ、しゃらくさい』

 舌打ち混じりに漏れ出るテロリストの苛立ち声。
 次いでオーザムの鋼腕が振り上げられ、握る剛斧が上天へ掲げられる。
 そこから勢いよく振り下ろされ、速度と重量、機体の膂力が合わさる一斬が、エクセレクターを襲う。

「当たらないわよ!」

 メインモニターに敵機の大撃を認め、リィンは操縦桿を右へ捻り、フットペダルの右足を連続的に蹴り込んだ。
 白亜の機体は操舵に導かれて右方へ重心移動をし、背部・腰部・脚部のブースター一斉点火で瞬時に滑る。
 オーダムの斧打が落ちるより早く、その軌道を逃れて範囲外へ移動を遂げた。
 直後にメタルアックスが振り下ろされ、寸前までエクセレクターの立っていた路面を激しく砕く。
 粉々に飛び散る瓦礫の欠片を真横にしつつ、白亜の頭部はアイカメラに敵機を定める。

「そこッ!」

 大振りによって生まれた間隙。これをリィンは見逃さない。
 握る左右のグリップを内側に回しながら、操縦桿自体は前へ押し出す。右足のフットペダルを蹴り、左足のフットペダルを二度に分けて踏み叩いた。
 エクセレクターが手中の長刀を手首の返しで寝かせ、水平に構える。
 その状態から大きく前へ踏み込み、オーダムの胸郭目掛けて薙ぎ払った。
 白刃の剣閃が真横へ疾り、コックピットを保護する最外部の装甲へ襲い掛かる。闇の中に冷たい刀身の麗光が、一条の閃光が如く直走った。
 しかし剛斧から逸早く離されたオーダムの左腕が、素早く太刀軌の中に飛び込んできたことで、腕部が刃を防ぎ止める。堅固な装甲塊が横薙ぎの出鼻を阻み、速度が乗り切る前に威力を殺す。
 優れた切断力を誇るイーストブレードとて、浅い振り込みの初端で止められては真価も鈍る。
 敵機の腕装甲の半ば近くまで刃は減り込んだが、そこで止められ進まない。

「コイツ、思ったよりやるわね」

 必殺の好機が防がれた事へ唇を歪めつつ、リィンは直ちに次動を操作に乗せた。
 操縦桿を左右共に引き戻し、フットペダルから足を浮かす。
 連動してエクセレクターは半歩を引き、僅かに長刀を前斬撃方向へ戻してから、腕毎に自機の側へ引き寄せた。
 一手を阻まれた状態で、敵の圏内に武装を留めるのを下策と考える故の対処。素早い形勢の立て直しも要因にある。

『まるで盗っ人の所業だな!』

 怒気の込もる罵声を放ち、テロリストのオーダムが動く。
 片腕だけでメタルアックスを持ち上げ、僅かに引くや、腰部を捻りながら前方へ突き出してきた。
 放たれた突撃はエクセレクターの胸部を狙う。相手もまたコックピットを潰しにきた。
 巨大な戦斧が打突力で押し出され、振り下ろし時よりも速く迫る。

「それなら!」

 咄嗟の反撃に対しても、リィンは惑わず慌てず乱れなかった。
 右のグリップを捻りながら、操縦桿を内側へ傾ける。
 更にグリップを手前へ引いて、放しを小刻みに重ね、合わせて親指でボタンを叩く。
 パイロットの挙動を我が意とし、エクセレクターの腕部が続いた。握っていた長刀を、右手の五指が一瞬放す。
 支えを失い自重によって刀剣が落ちんとするが、右腕が反転様に捻り戻され、即座に柄を逆手持ちに握り取った。
 柄を上、切っ先を下方へ向けた縦構えで、右腕が機体前方へ繰り出され、オーダムの剛斧を迎え撃つ。
 迫る重物の直撃進路を仄かにずれ、やや側方へ位置取られたそれが、得物の最接近で真横へ奔る。
 刀身の背から戦斧へぶつけられ、これと同時に白亜の左腕が、刃の先端付近に宛がわれた。
 両腕で長刀が押し込まれ、刀と斧の接触面からけたたましい強音が迸る。
 凄烈な火花も生まれては散りに散り、得物の擦れる一カ所だけが真昼めいた明度を持った。
 エクセレクターの用いた長刀は、衝突する戦斧の軌道を強制的に外側へ誘い流していく。真っ直ぐに駆ける大斧を、備えた勢いと速度の逆用で、偽りの経路へ誘導したまま逸らさせる。
 長刀がレールの分岐点と同様の働きを見せ、機体を狙ったオーダムの一撃を、機外へと逃がさせた。


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最終更新:2016年10月30日 09:40