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しっぽの生えた薬師の少女 - (2021/06/27 (日) 22:20:37) のソース
**しっぽの生えた薬師の少女 ◆g3BDer9VZ6 獣のような耳と、獣のような尻尾を生やした少女が一人。 彼女もまた、この理不尽な惨劇の参加者として、世界に佇む。 「ここは……いったい何処なのかしら」 そこはエルルゥにとって、完璧なる別世界だった。 周囲に聳えるのは、コンクリートによって建造された建物の群集。 木造の家にしか親しみのないエルルゥは、その丈夫でしっかりとした造りにただただ感心するばかりだった。 いったいどんな技術で製造されているのだろう……鋸では斬れそうもないし、斧では粉砕してしまう。 色鮮やかな塗料類も気になった。果実や植物の持つ色彩をうまく加工したのか、どちらにせよ建築について知識の浅いエルルゥの知る所ではない。 と、ゲームの始まりを迎えたスタート地点にて、エルルゥはそんなどうでもいいことを考えていた。 それもこれも、殺し合いなどという非現実的なものに巻き込まれたが故の混乱が原因である。 ギガゾンビなる主催者もそうだが、ここが何処なのかも謎だった。 エルルゥの暮らす国――ハクオロが統治する、『トゥスクル』ではない。 そして、トゥスクルを含む多くの国を総称した世界――『ウィツァルネミテア』でもない。 異世界、などという概念がまったくないエルルゥにとって、この事態はあまりにも深刻かつ混乱を招くものだった。 ただ、するべきことは決まっている。 「ハクオロさんにアルルゥ……トウカさんやカルラさんも、ここにいる」 ギガゾンビが開幕を宣言したのは、『殺し合い』。 これは、敵味方が二つに分かれて行われる『戦』とは違う……いつ、だれが、どこで死ぬとも限らない、そういうルールで行われるものだということもわかっている。 それこそ、まだ幼い妹アルルゥや、トゥスクルの皇という地位に立つハクオロとて、例外ではない。 ならば……一刻も早く仲間を探し出し、この殺し合いを中断させる道を探さなければ。 エルルゥは逸る気持ちを抑え、自らの荷物を調べ始めた。 冷静になり、自分ができることを的確に見据え、行動する。 闇雲に仲間を捜すよりは、よっぽど懸命な判断のはずだ。 四次元デイパックなる摩訶不思議すぎる品物については考えないことにして、コンパスや水の入ったペットボトルなる入れ物にも戸惑ったが、どうにか使い方はマスターすることが出来た。 そして一番問題なのは、全参加者に一個から三個までの割合で支給されるという特殊な道具の数々。 参加者によって異なる中身らしいが、エルルゥのデイパックには、幸運にも三つの支給品が入っていた。 その一つは、小さな瓶に入ったピンク色の液体。 「何かの薬――殺し合いに使われる薬品っていったら、まさか毒!?」 エルルゥは警戒心を強めながら、その薬品についていた説明書を読む。 『惚れ薬』:魔法によって生成された秘薬。飲んだ相手は、視界に入った異性一人に対し狂人的な好意を抱くようになる。効果は1~2時間持続する。 その正体は、おおよそ殺し合いの場には似合わない、素敵な乙女アイテムだった。 「ほ、ほほほほホレ薬ぃぃ!? そんな、なにかの本で読んだことがあるけど、まさかこんな薬が実在していたなんて…… ここここここれをハクオロさんに飲ませればばばばばば鈍感なあの人でももももも私の気持ちに気がついててててててて」 殺し合いのことも忘れ、恋する一人の少女として動揺しまくるエルルゥ。 赤く染まった顔を静まらせ、落ち着くのに数分を要した。 とりあえず、これは役に立ちそうにない。 うまく使えば自衛にも応用できそうだが、こんな少量の液体、そうそう相手に飲ませることも難しいだろう。 飲食物に混入するのが一番良策に思えるが、このサバイバル空間ではその機会も少ないだろう。 だが、捨てはせず。 フフフ……とやや興奮気味に息を切らし、デイパックに惚れ薬をしまい込むエルルゥであった。 二つ目は、珍妙なデザインをした杖。 武器と取るには些か小さく、これも明確な使い方が分からないため、調べてみた。 『たずね人ステッキ』:人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。ただし的中率は70%。 「すごい! どういう仕組みかはよく分からないけれど……これがあれば、ハクオロさん達とも簡単に合流できる!」 と、エルルゥがたずね人ステッキの効力に喜んだのも束の間。 説明書には、追記として補足事項が書かれていることに気がついた。 その内容は、『3時間に一回しか使用できない』『一人につき一回しか使用できない』というもの。 すぐさまたずね人ステッキを倒そうとした手を止め、エルルゥは数秒、思案する。 これがあれば仲間との合流が楽になる。が、一回しか使えないという点がネックだった。 方向が分かったとしても、距離が離れていたら意味がない。エルルゥがその場にたどり着く前に、相手が移動してしまう恐れがあるからだ。 使うなら、慎重に。もっと情報を集めてから使用するべきか。 エルルゥはたずね人ステッキをその場に置き、とりあえずは保留とした。 最後に、三つ目の支給品を確認する。 エルルゥに授けられた三つ目のアイテム。それは、 「ひっ……」 思わず、声を漏らす。 三つ目の支給品は、見ただけで恐怖を感じるような――そんな、おどろおどろしさが伝わるものだった。 『五寸釘三十本と金槌』 説明書は、特に付いていなかった。 だがこればっかりは、さすがのエルルゥも何に使う道具か分かる。 釘の先端には黒ずんだ血の塊が付着し、金槌にも使い込んだ形跡が見られる。 つまりこれは、拷問道具なのだ。 三つ目の支給品から受けたショックで、数分の間言葉を失ったエルルゥ。 やはり、今行われているのは殺し合いなのだと……思い知らされるようで。 いつか、これを使う日が来るのだろうか。 いつか、これで誰かを痛めつける日が来るのだろうか。 いつか、これで誰かを殺…… そこまで考えて、エルルゥは頭をブンブンと振り払った。 (悩んで、俯いてばかりいたってしょうがないもの。早く、ハクオロさんやアルルゥたちを見つけないと――) エルルゥはたずね人ステッキを再度取り出し、名簿に目を通す。 ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカ――本命はこの四人との接触だが、回数制限がある以上、迂闊な使い道はしない。 まずは情報交換とこのステッキの効果を実験するため、誰か適当な人物を選び接触を図る。 ざっと目を通して、名簿の文面に入り乱れる多種多様な言語を頭に入れ、やがて一つの名に行き着く。 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』 (な、長い……!) エルルゥのいた世界では考えられないような長い名称に、興味を引かれた。理由はそれだけ。 それもしょうがない。名前からその人物が善人であるか悪人であるかなんて判断がつくはずないし、会ってみないことには情報も掴めない。 駄目で元々。運がよければ、接触することもできるだろう。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんどーこだ」 地面にたずね人ステッキを突き立て、エルルゥは手を放す。 ――ステッキは、南西の方角に倒れた。 「あっち……ね。怖い人じゃなければいいんだけど……」 期待半分不安半分で、エルルゥはまだ見ぬルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんの下へ歩き出した。 【E-5/住宅街/1日目/深夜】 【エルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に [思考]:1、南西の方角へ向かい、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんと接触する (3時間以上経っても接触できなかった場合は、他の参加者との接触を試みる)。 2、他の参加者と情報交換をし、機を見計らってたずね人ステッキ使用。ハクオロたちの居場所を特定する。 3、ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカと合流し、ギガゾンビを倒す。 [備考]各支給品の制限について。 『惚れ薬』→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。 効力は長くて一時間程度。量は一回分のみ。 『たずね人ステッキ』→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。 死体にも有効。的中率は70パーセント。 *時系列順で読む Back:[[STALKER]] Next:[[「悪人」の正義]] *投下順で読む Back:[[夜空の再会]] Next:[[「悪人」の正義]] |エルルゥ|60:[[薬師は見た? 血で血を洗う商店街!]]|