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misapprehension - (2021/07/19 (月) 00:03:39) のソース
*misapprehension ◆7jHdbD/oU2 だだっ広い遊園地、北側のゲートに差し掛かったとき、緑色の髪を持つ青年、劉鳳は足を止めて振り返る。 振り返った先にあるのは煌びやかに彩られた遊園地、劉鳳の苛立ちを煽るような建造物の群れ。 人工の世界、虚構の楽園で、彼は何かの気配を感じた。 胸で燻る怒りをそのままに、劉鳳は耳を澄ませた。 無遠慮に飛び込んでくる耳障りな音楽に顔を顰めながらも、彼は音に意識を傾け続ける。 完成されたリズムに紛れ込んだノイズを探すように。それがどんなに小さくても逃さないように。 遊園地は音を鳴らし続けている。 まるで意思を持ち、劉鳳の邪魔をするかのようだった。 本当に、耳障りだ。 内心でそう吐き棄てた直後、劉鳳の耳はそれを捉えた。 それは石畳を叩く、乾いた音。とても微細な足音だ。 音楽に紛れ、その音は近づいてくる。 相手の出方を窺うため、劉鳳はそちらへと目を向けた。 すぐに絶影を呼び出しはしない。 先刻、怒りに任せて観覧車を破壊したとはいえ、彼は破壊者でも殺戮者ではないのだ。 劉鳳の目的は『悪』を処断し、断罪すること。 近づいてくる相手が『悪』だと断定できてから絶影を再構成しても遅くはない。 劉鳳のアルター、絶影は後手で出したとしても不利にならないほどの速度を持っているのだから。 やがて足音は、一定の距離を持って止まる。 一足では踏み込めない距離。だが絶影なら一瞬で埋められる距離が、劉鳳と足音の主との間に横たわる。 劉鳳の視線の先、足音の主が佇んでいる。 それは、赤を基調としたドレスを纏った人形だった。 メルヘンチックなその外見は、遊園地というこの場所によく似合っていた。 劉鳳は直感的に、アルターによって作り出されたものかと推測する。 だがその考えは、すぐに霧散した。 その人形が自分と同じデイバックを持っていて、細い首には自分と同じ首輪が嵌められていたからだ。 自分と同じ参加者である人形は右腕を構える。それを、劉鳳は臨戦体勢だと解釈した。 「……聞きたいことがあるのだわ。答えてもらえるかしら?」 人形――真紅は掌をこちらに向けたまま話しかけてくる。 劉鳳はすぐにでもアルターを再構成できるようにしながら、答えた。 「構えながら頼みごとをするのがお前の流儀か?」 「この状況下で、見知らぬ相手に隙を見せる馬鹿がいて?」 切り返してくる真紅。ガラス玉のような彼女の瞳には警戒の色が濃い。 少しの間を置き、劉鳳は腕を組んだ。 すぐに襲ってこない以上、ひとまずは問題ないだろうと判断しての行動だ。 「……いいだろう。俺に分かることなら答えよう」 劉鳳は相手の話に耳を傾けることにした。相手が『悪』なのかを見極めようとするために。 もし『悪』でないのなら、こちらに殺し合いの意思がないということを態度で示すために。 真紅はこくりと頷くと、小さな口から凛とした声を紡ぎ出す。 「私は薔薇乙女の第5ドール、真紅。おまえの名は?」 「対アルター特殊部隊HOLY所属、劉鳳だ」 「劉鳳。私のような人形、あるいは桜田ジュンという人間に心当たりはあって?」 貴族のような外見通りに話す真紅に、生意気な態度だと思いながらも劉鳳は応じる。 劉鳳に嘘をつく理由はない。だから彼は、自分の知っている通りに答えていく。 「いや、お前以外には誰とも会ってはいない」 「そう。それなら」 真紅は左手で彼女の後ろ、遊園地の中心部を指差す。 「観覧車を破壊した人物にも心当たりはないのね?」 劉鳳は真紅の後ろを一瞥し、ああ、と頷いてから。 「あれは――」 ◆◆ 「俺がやったことだ」 あまりにも簡単に告げられた劉鳳の言葉。それを耳にした瞬間、劉鳳に向ける右手が強張った。 それだけではない。体中が緊張したように強張っていくのを、真紅は感じていた。 真紅は胸中で舌打ちをしながら、思う。 とんでもない相手と話をしていた、と。 正面の人間が、観覧車を簡単に破壊してしまうような相手だったとは。 あの破壊力は、支給品によるものとは思えない。 もしもそんな強力な武器を持っているなら、それをバックにしまっておくのは不自然なのだから。 武器を手にしていなくとも、油断はならない。 真紅は後悔しながらも警戒を強めていく。彼女は、劉鳳をこう認識し始めていた。 強い力を持ちながら、それを破壊に使うような人間、と。 危険な人物だと真紅は思う。 破壊の対象が、破壊の矛先が、他の人間や自分たちドールになってもおかしくはない。 歯噛みする真紅。だがその様子を意に介さず、劉鳳は何でもないかのように口を開く。 「どうした? 嘘は言っていないが?」 「……だから問題なのだわ」 劉鳳の自然さに、頭の中で警鐘を鳴らしながら、真紅は考える。 この人間を放っておくのは危険。 姉妹たちならともかく、もしもジュンがこの男と出会えば、出会ってしまえば。 おそらく赤子の手を捻るように、劉鳳はジュンを殺してしまう。 そんなことをさせてはならない。させたくない。 ならば、どうすればいい。戦って、倒しておくべきか。 真紅は思考しながら、劉鳳を見据える。彼は腕を組み、立ち尽くしたままで真紅へと視線を送っていた。 一度生まれた不信感は加速度的に広がっていき、真紅の心を支配していく。 構えもしない劉鳳に、真紅は顔を顰める。 劉鳳の態度は、余裕を見せているように映った。 話を聞き、質問に答えたのも、全て。 こちらに余裕を見せているように、真紅は感じ取った。 真紅は破壊された観覧車を思い出す。一瞬で鉄屑と化した観覧車のことを。 恐るべき破壊力に、真紅は背筋に悪寒を感じる。 勝てる気がしなかった。少なくとも、自分一人では敵いそうになかった。 渡るにはあまりにも無謀すぎる勝負の橋。 最後まで渡りきることができるかどうか、それすらも分からない橋。 だから真紅は、決断する。 強く強く、奥歯をぎゅっと噛み締めて。 自分の決断は最善だと、そう思いながら。 真紅は腕に力と意思を込める。すると、彼女を守るように薔薇の花弁が舞い始めた。 「待て! 俺は――」 劉鳳の声を最後まで待たず、無数の花弁が舞い上がった。 ◆◆ 劉鳳が花弁を振り払ったとき、既に真紅の姿は消えていた。 彼は、迂闊だったと内心で自嘲する。 この遊園地に飛ばされたときから感じていた苛立ちが後押しをして、劉鳳は自分への怒りを感じていた。 八つ当たりをするように、劉鳳は右手で左の掌を叩く。ぱしん、という快音が、遊園地の音楽に飲み込まれていった。 劉鳳は、真紅を『悪』だと判断してはいなかった。 このような殺し合いの下では警戒するのは当然のことだし、責めるつもりもない。 ただ問題なのは、彼女が劉鳳にとって都合の悪い誤解をしている可能性が高いということだった。 『悪』を処断することに何の躊躇もない。また、宿敵と戦うことに躊躇いはない。 だが、それ以外の戦闘は極力避けたかった。無駄な戦闘で消耗するのは、劉鳳の望むところではない。 どれほどの『悪』が潜んでいるのか分からないのだから。 そのために、真紅を放っておくわけにはいかなかった。 誤った情報を彼女の仲間や他の誰かに広められる前に、再び真紅と接触したい。 相手は小さな人形だ。それほど遠くには行っていないだろう。 そう考えながら、劉鳳は再び遊園地の中へ戻っていく。 少しだけ、自分の迂闊さを呪いながら。 ◆◆ ゲートの陰、物音を立てないように劉鳳の様子を窺っていた真紅は、彼の姿が見えなくなるまで身動き一つしなかった。 どうやら獲物を逃がしてイラついてるようだったが、上手く逃げ切れたようで胸を撫で下ろす。 花弁を具現化し、目くらましからの撤退。発見されるかどうかは賭けだった。 距離を取るだけでは確実に追いつかれる。だから真紅は小さな体を活かして隠れることを選んだ。 戦う前から逃亡するのは不本意だったが、犬死にするよりマシと真紅は自分に言い聞かせた。 アリスゲームを髣髴とさせる殺し合いを終わらせるために、死ぬわけにはいかない。 ゲートから出ると、真紅はもう一度遊園地内に目を向ける。 劉鳳の姿がないことを再確認してから、真紅は早足で、だが極力足音を立てないようにしてゲートを潜る。 この殺し合いに乗った者、劉鳳のような危険人物がどれだけいるのか分からない。 だから、急がなければならない。一人として、欠けないうちに。 「ジュン、みんな。無事でいて……!」 焦燥に駆られるようにして、真紅は遊園地を後にする。 突如降り始めた雨が、その身を濡らしても構うことなく。 【F-5遊園地・1日目 黎明】 【劉鳳@スクライド】 [状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂、自分の迂闊さへの怒り [装備]: なし [道具]:支給品一式、斬鉄剣 [思考・状況] 1:真紅を捜し、誤解を解く 2:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する 3:相手がゲームに乗っていないようなら保護する 4:カズマと決着をつける 5:必ず自分の正義を貫く 【E-5・1日目 黎明】 【真紅@ローゼンメイデン】 [状態]:健康、人間不信気味、焦り [装備]:なし [道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン [思考・状況] 1:劉鳳から逃げるように移動 2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい 基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る 備考:劉鳳を破壊嗜好のある危険人物と認識しています。 *時系列順で読む Back:[[洗濯⇔選択]] Next:[[貪る豚]] *投下順で読む Back:[[「夢を見ていました」]] Next:[[死と少女と]] |20:[[正義という名の覚悟]]|劉鳳|109:[[リスキィ・ガール]]| |49:[[決意の言葉]]|真紅|130:[[Ultimate thing]]|