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峰不二子の憂鬱Ⅱ/君島邦彦の溜息 - (2021/07/29 (木) 23:50:09) のソース
*峰不二子の憂鬱Ⅱ/君島邦彦の溜息 ◆LXe12sNRSs 電車を追走していった一人の美女がいた。 賑わいのない一人旅にもそろそろ嫌気が差してきた頃、駅を訪れた美女は、新たな出会いをモノにすることができるか否か。 「次の運行は4時30分……その次が8時30分……どうやら、四時間おきの発車みたいね」 『イイロク』というふざけた名前がつけられた駅のプラットホームにて。 峰不二子は、停車中の古ぼけた電車と、覚えやすすぎる時刻表を眺めていた。 バトルロワイアルのフィールドを運行する電車……どんなものかと調べてみれば、本数は少ない上に速度は鈍足。 おまけに車内は、奇妙な土偶とおちゃらけた放送によって支配されており、乗客の士気を低下させる恐れさえ感じた。 これで本当に殺し合いをしろというのだから、まったく馬鹿馬鹿しい。 (さて……車内は私が見たとおり窓が開いていたようだけど、中はもぬけの殻。乗客はいたけれど、どこかで途中下車したみたいね) たかが3km程度の距離を6分で運行するほど鈍足なのだ。走行中とはいえ、窓を開いての飛び降り途中下車も不可能ではないだろう。 だからといって、そんなことをする馬鹿が果たして本当にいるのかどうか。 このゲームが始まってから、まだウォルターという紳士的な老人としか知り合っていない不二子には、イマイチ判断しにくいところだった。 少なくとも……ルパンや次元、五ェ門や銭型ならやりそうでもあるが。 (とりあえず、この電車に罠が仕掛けられている可能性はなさそうね。あの土偶も、こちらに危害を加える様子もないようだし……) 不二子は考える。この先の進路を。 ルパンたちと合流するなら、やはり人気の多そうな市街地を張っているのが一番能率的ではある。 だが、それ故に闘争も生まれやすい。武器を所持している現状、自分の身一つを守るくらいの自身はあるが、それでも避けられる戦闘は回避したい。 ただでさえ、遊園地付近には戦車を支給されたかもしれない輩が潜伏しているのだ。 修羅場は幾度も潜ってきたつもりだが、さすがに戦争規模の危ない目にはあいたくない。 さらに、現在不二子が立つイイロク駅のホームには、いくつかの撃ち捨てられた薬莢が散乱し、不安を加速させる要因にもなっていた。 この付近で戦闘が行われたことは最早明確、ゲームに乗った参加者がいる可能性はさらに高い。 (電車の行き先は西の果て……F-1エリア。まぁ、安全圏ではあるわね。けど、他の参加者との接触は少なくなるか……) 危険は遠ざかるが、出会いも遠ざかる。 電車に乗り、一旦安全圏に逃げ込むか。 市街地に留まり、協力者を得ることを優先するか。 選択は、二つに一つ。 「…………」 峰不二子は、再び考える。 ◇ ◇ ◇ 「はぁ……はぁ……はぁ……チクショー。風ちゃ~ん、どこ行ったんだぁ~」 息を切らしながら、情けなく声を絞り上げる男が一人。 線路沿いを西に、全力疾走で走ってきた君島邦彦は、鳳凰寺風が途中下車をした地点まで戻ってきていた。 「ぜぇ、ぜぇ、クソッ、風ちゃんはいったいどっちへ向かったんだ?」 線路沿いにて小休止を取りつつ、君島は考える。 電車の窓から見えた、燃え盛る建物。方向は北の方角のようだが、風は既にそちらへ向かったのだろうか。 正直、あのおっとりした少女がここまで行動的な女性だったとは思いもしなかった。 「そういや、かなみちゃんもあれで結構行動派だったよなぁ……カズマは言わずもがなだけど。あいつらも、今頃は無事でやってんのかなぁ……?」 しばし風のことを忘れ、再会を望んだ友人たちのことを思う。 ゲームが始まって既に四時間半……未だ風以外の人間と接触していない君島には、今が殺し合いの真っ最中であるという危機感がイマイチ不足していた。 ひょっとしたら、仲間を追って全力疾走なんて無駄な苦労をしているのは、自分だけではないのだろうか。 他の連中は殺し合いなど意に介さず、とっくにギガゾンビ打倒の策でも練っているのではないだろうか。そんな予感さえしてくる。 (そうだよなぁ……ここにゃカズマもいるし、HOLYの連中まで参加してるんだ。殺し合いやれって言われて、素直にハイ分かりましたなんて言うヤツがいるのかね) 現実逃避――というわけではないが、疲れた身体で考えると、どうにも発想がいいかげんになる。 だが冷静に考えて、あの仮面の男が、化け物じみた戦闘力を誇るアルター能力者に適うものかどうか。 このような大掛かりなゲームを仕組むほどの人物、ただ者ではないということは分かるが、これがもしタイマンでの喧嘩だったら。 君島の脳裏には、勝ち名乗りを上げるカズマの姿しか思い浮かばない。 「なんかあいつのこと考えてると、殺し合いのゲームなんて馬鹿馬鹿しくなってくるなぁ……ん?」 白みがかってきた空を見上げる君島の後方、ガタンゴトンという錯覚しようのない騒音が聞こえてきた。 振り返ってみると、そこには電車の姿が。 君島が途中下車し、イイロク駅に到着した電車が、エフイチ駅に戻るべく引き返してきたのだ。 「電車が動いてる、ってことは……ゲ、もう四時過ぎてるじゃねぇかぁ。早いとこ風ちゃんと合流しないと、放送が流れちまうぜ」 現在時刻を確認して慌てだした君島は、通り過ぎていく電車に一目もくれず、北へ向けて歩き出す。 ◇ ◇ ◇ ガタガタレールの上を行く電車が、終点を迎えてゆっくりと停車した。 その車中から出てくるのは、一人の妖艶な美女。 結局、不二子は電車に乗ることを選択した。 「ここがエフイチ駅……イイロク駅とほとんど一緒で、なんだか味気ないところねぇ」 降り立った駅構内を調査し、不二子は失望と近しい感覚に囚われていた。 ホーム、改札、駅長室……設備のほとんどはイイロク駅と大差なく、印象としては日本のド田舎を思わせる、実に面白みのない駅だった。 特に何を期待していた、というわけではないが、もっと派手で衝撃的なサプライズはないものだろうか。 たとえば、素敵なナイトが出迎えに来てくれるとか。 「やっぱり、こんな端っこの方で協力者を求めようっていうのは高望みすぎかし――」 改札を抜け、駅の外に出る……その時だった。 不二子の耳に、けたたましい程の爆音が轟いたのは。 「な、何!?」 爆音は、駅のすぐ外から。 音だけではない、熱気や煙までもが、駅構内を侵食していく。 場慣れしていない人間だったら、混乱したかもしれない。しかし、裏の道を渡り歩いてきた確かな経験は、不二子に正常な判断を齎した。 (すぐ近くで、何かしらの爆発物が――――!?) 素敵なナイトどころではない、とんだ歓迎だった。 爆発が起こる原因などに、碌なものはない。これは経験上言っているわけではなく、一般論としても言えたことだ。 そして、殺し合いの場で起こる爆発などといったら――相手を殺すためのものに決まっている。 現状を把握し、不二子は逃走の道を即決した。 下車して早々厄介事に巻き込まれるなど、冗談ではない。 先の長い人生、こんなところでくたばっては、あの世で一生後悔することになる。 駅から離れていく最中、少年のものらしき絶叫が聞こえたが、全て無視した。 たとえそこで殺し合いが行われていたとしても、不二子に関わり合いになる意思はない。 これまで数多の修羅場を潜り抜けてきたのも、全ては引き際を見極める的確な判断力があったからこそだ。 (危ない橋を渡るのは嫌いじゃないけれど、見るからに壊れている橋を渡って転落する趣味はないわ。くわばらくわばら……) そんなことを思いながら、不二子はひっそりと駅から離れていく。 それにしても不幸だ。安全圏だと思って逃げ込んできたエリアだったが、まさか着いて早々、トラブルに巻き込まれそうになるとは。 先の未来に若干の不安を感じつつ、不二子は頭を抱える。 気分は、憂鬱だった。 ◇ ◇ ◇ 「だー、もうチクショー! どこいったんだよぉ~、風ちゃーん!」 心細い一人行脚を続けながら、君島は寂しさと疲労感の蓄積に怒りを募らせていた。 風が目指した燃え盛る建物は、地図を見るに病院か図書館のどちらかのはず。 そう信じて、途中下車してからの約四時間をほぼノンストップで移動し続けてきた君島は、ついに根を上げた。 「ガー! もう休憩だ休憩! このまんまじゃ足が棒になっちまうよ!」 今なら分かる。あの電車のありがたみが。 風とは一刻も早く合流したいが、いざという時のための逃げ足を潰してしまっては、死活問題になる。 君島は捜索の手を一旦休め、近くの民家に駆け込んだ。 家屋の中には、数え切れないほどの部屋と豪勢な装飾物の数々が置かれており、そして何より広い。市街の連中が住んでいそうな大豪邸だった。 殺し合いなんていうふざけたゲームに付き合ってやってるのだ。身分不相応な家に泊まったとて、罰は当たらないだろう。 君島は感じたこともないような柔らかさのベッドに飛び込み、疲れ果てた身体に休息を与える。 一時だけかもしれないが、今は何もかも忘れて幸せを感じていたい。 とは思いつつも。 「カズマの奴は……今頃どうしてんのかねぇ」 寝転がりながらも、頭ではしっかりと相棒のことを考えている。 怒りの沸点が低く、誰に対しても好戦的な態度を取るような人間……性格だけ見れば、こういったゲームでは長生きできないタイプである。 だが、カズマにはそのセオリーを超越するほどの怪物的戦闘能力がある。少なくとも、自分より先に死ぬことなどは絶対にないはずだ。 「おかしいな……いつもは黙ってても厄介事を持ってくるようなとんでもねぇヤローなのに、なんだか無性に会いたくなっちまったよ……って、何センチになってんだ俺は」 再会できぬ友人を思いながら、君島は仰向けになって天井を眺めた。 この先、自分の運命はどう運ばれるのか。 カズマがいない、というだけで平穏に暮らせるような気がするのは……錯覚なのだろうか。 錯覚であってほしくない。平穏に暮らせると信じたい。 「だけど、ま、錯覚なんだろうな」 思わず、溜め息が漏れた。 【G-1/1日目/早朝】 【峰不二子@ルパン三世】 [状態]:健康 [装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発) [道具]:支給品一式/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット@ルパン三世 [思考]:1、駅から離れる。 2、頼りになりそうな人を探す。 3、ゲームから脱出。 ※不二子が聞いた爆音の正体は、太一が投げた手榴弾です。 【D-2/豪邸/1日目/早朝】 【君島邦彦@スクライド】 [状態]:重度の疲労、軽い打ち身 [装備]:バールのようなもの [道具]:ロープ、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅) iPod(電池満タン、中身は不明、使い方が分からない) [思考・状況] 1、しばらく休憩。 2、鳳凰寺風との合流(病院、図書館の辺りを捜してみる)。 3、カズマ、かなみと合流。この際、劉鳳でも構わない。 4、なんでもいいから銃及び車が欲しい。 *時系列順で読む Back:[[眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶]] Next:[[Pernicious Deed!]] *投下順で読む Back:[[眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶]] Next:[[第一回放送]] |74:[[峰不二子の憂鬱]]|峰不二子|127:[[峰不二子の退屈]]| |70:[[ギーガ鉄道の夜]]|君島邦彦|135:[[行くんだよ]]|