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武人の本懐 - (2022/06/10 (金) 20:58:47) のソース
*武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE 俺がこの地に来て初めて死というものを直視したのは、もう日が昇り始めていた頃だった。 「これは…………」 「何という無惨な……」 それは図書館に向かう途中の事だった。 周囲の至る所に大砲のようなもので攻撃されたような痕跡が残る中、瓦礫に埋もれるようにして、彼はいた。 身に纏っていたのがスーツであったことから察するに、彼はきっとビジネスマンか何かだったのだろう。 だが、そんな彼も今となっては砕かれた頭を初めとする体中から大量の血を流し、ぴくりとも動かなくなっている。 自慢じゃないが、俺だって他殺体(正確にはあれは死んじゃいなかったが)を見るのはこれが初めてじゃない。 だがこれは、あの夏の合宿で見たものなんかよりも数倍怖い、いわばホラー映画から飛び出してきたような見た目をしていた。 格好悪いと思うかもしれないが、俺は脚がずっと震えていたよ。 ……どんなことをしたら、人はこうも惨い死に方をするんだっていうんだ。 「某が不甲斐ないばかりに、このような事に…………」 「トウカさんが悪いんじゃない。悪いのは――」 悪いのはあくまで実行犯、そしてこんな事をするようにけしかけたあのギガゾンビとかいう奴だ――そう言おうとした時だった。 ――ちょうど話題に上げようとしていた悪趣味な仮面の男が明るくなりつつあった空に映し出されたのは。 『おはよう! いい朝は迎えられたかな!?』 「な、なんだ、あの面妖な空は!? 幻術か!?」 「いえ、違います。あれは……」 俺も信じがたいが、アレはいわゆる立体映像とかいうSFに出てきそうな技術だ。 ――確か、あれはまだ手のひらサイズくらいの映像しか投影できなかったはずなのに、何だあの規格外は。 やっぱり、時空なんとかとかいってたくらいだし、あれも朝比奈さんと同じ未来人だと言うのだろうか。 ……朝比奈さん、スマン。あんなのと一括りにしてしまって。 『さて、記念すべき第一回目の定刻放送だ。このギガゾンビ様の声を拝聴できることに感涙しながら聞け』 放送……そういえば、最初の場所にいたときに、あいつが放送がどうしたとか言ってたな。 だとすれば……。 「某に幻術を仕掛けるとは……術士はどこだ? 出て来――むがっ!」 「トウカさん、落ち着いてください! あと刀、また鞘から抜け切れていません」 俺はトウカさんの口を押さえると、放送の内容に注意を傾けた。 『禁止エリアは――7時よりA-4、9時よりH-8、11時よりD-1だ!』 禁止エリア――これを聞き漏らして自爆したら身も蓋もあったものじゃない。 故に、俺はトウカさんの口を塞いだのだ。そこ、他意は無いから注意するように! ま、でも今回はあまり関係ない場所が指定されたようだった。 とりあえずは一安心……したいところだったのだが、放送の内容はそれだけじゃないようだ。 『そして死亡者だが――』 死亡者――ここにいる男の人以外にもまだ死者がいるのだろうか。 ハルヒや朝比奈さん、長門は無事なのだろうか。 俺は、引き続き注意を放送に耳を傾けることにした。 『――まだ生き残っている61人のうち、何人が明日の日の出を拝めるか分かったものではないのだからな! ワハハハ――』 何とも不快な――古泉なんか、これに比べたら屁でもないような――笑いとともに、放送は終わった。 ……死んだのは19人か。 深夜0時からスタートしておよそ6時間……これほどまでに人が死ぬなんて、本当にどうにかしてる。 しかも、その中には鶴屋さん……あの破天荒に明るい先輩の名前もあった。 SOS団の正式な団員じゃなかったが、あの人にも映画や野球大会で色々と世話になった。 そんな少し前まで身近だった人が死んだと聞いて、冷静でいられるほど俺だって場慣れしていない。 こういったのに慣れてるのは、戦争映画か推理小説の主人公だけで十分だ。 だが、そんな俺よりも冷静さを欠いている人が俺の横にいた。 「そんな……カルラ殿、それに聖上まで…………そんな……そんな……」 トウカさんは、放送を聞いてからというものの目を見開きブツブツとうわ言のように、ことばを繰り返していた。 具体的には、カルラという友人、そして聖上……即ち彼女が仕えているハクオロとかいう王様の名前を聞いてから彼女は様子が一変した。 ……確かに探していた人が死んだと聞けば、誰だって……俺だって動揺するし、気持ちだって沈む。 だが、トウカさんの場合はそういった気持ちの浮き沈みじゃ言い表せないような状態だったのだ。 そう、言うなれば絶望……生きる希望を無くしたというか――って、うぉ!! 「トウカさん! 何やってるんすか!!」 いつの間にかトウカさんは、その場に正座するとバッグから欠けた包丁を取り出していた。 ……ここまでくればやることは唯一つだろう。 「某が不甲斐ないばかりにカルラ殿を死なせてしまい、それに何よりも聖上をお守り通す事が出来なかったのだ! この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」 「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」 俺はハラキリをさせまいと、包丁を握るトウカさんの腕を掴む――が。 「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」 「ぐほぁっ!!」 掴んでいない片方の腕で俺は思い切り殴り飛ばされた。 親父にも殴ら……いやついさっき自分で自分を殴ったから、このフレーズは使えないのだが――って、そうじゃなくって! マズい。このままでは、本当にハラキリしてしまう。 えぇい、こうなったら最終手段のわすれろ草で………………くそっ! こういう時に限って、バッグの中から思うように取り出せないと来やがった。 「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」 欠けた刃が、トウカさんに今まさに突き立てられようとしている。 ……こうなったら、最早――!! 「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ。……では!!」 「させるかぁぁぁ!!!」 「――!!!」 俺はその瞬間、必死の思いでトウカさんに飛びつき、そして包丁を手放させた。 腕を押さえるだけじゃ無駄のようだったから今度は体ごと取り押さえれば、という安直かつ確実な方法。 だが、それは同時に妙齢の女性に覆いかぶさるということでもあり、あまりやりたくはない手だった。 「え、えっと、その……」 「何故だ……何故逝かせてくれぬのだ、キョン殿!!」 俺の真下にいいるトウカさんは初めて怒りをあらわに俺へ叫んできた。 その目には大量の涙を湛えている。 「某は……某はエヴェンクルガの使命を務めることも出来なかった未熟者……! ならば、死を以って償うのは当然――」 「何で……何ですぐに死ぬ死ぬ言うんですか……」 「……え?」 「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」 ◆ カルラ殿は強き武人であった。 今までに見たことも無いような巨大な剣を振り回し、戦場を縦横無尽に駆け巡る様はまさに鬼神というに相応しい。 そして、それと同時に彼女は自由人だった。 城内で所構わず酒を飲み、倉庫から食料を盗んだかと思えば、次の瞬間には寝ていたりと、某には何を考えているのかさっぱりであったが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。 ……某を幾度と無く騙し、おちょくってはきたというのに……真に不思議な人であった。 やはり、それがカルラ殿の魅力なのだろうか。 だが、そんな彼女も今はもう……。 聖上は真に賢き皇だった。 民の生活をその知恵により向上させ、戦場に来れば陣頭に立って采配を振るい、兵達を鼓舞すべく自らも出陣する。 そして、何より、その人柄と人望の厚さはまさに皇の鑑だった。 ……そんな聖上に仕える事が出来た某はこの上ない幸せであった。 そんな聖上であったからこそ、某は全力で聖上を、そしてトゥスクルを守ろうという意志が強く働いたのだと思う。 だが、そんな聖上も今はもう……。 二人はもう……いない。 共に聖上をお守りするはずだったカルラ殿も、守るべきはずの存在であった聖上も。 某が包丁の刃を折ったり、荷物を川に流したり、あのサァバント殿との戦いに苦戦したりして時間を浪費していなければ、もしかしたら助けられたかもしれないというのに。 そう、全ては某が未熟だったが故の失態……取り返しがつかない事なのだ。 ならば、取るべき道は唯一つ。それは―― 「この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」 首一つでどうにかなるようなちっぽけなことではないのは分かっている。 それでも、こうでもしない限り某の心は治まるはずも無く……。 「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」 キョン殿は必死に止めてくれるが、某はもう決めたのだ。 だから……だから…… 「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」 「ぐほぁっ!!」 気遣ってくれるキョン殿を殴ってしまった事は心苦しいが、それでも某は……。 「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」 それはおこがましい願いであり、叶わぬことなど百も承知。 「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ」 そして、あの心優しき姉妹が某の分まで生きながらえてくれることを願いながら、某は再び刃を腹に―― 「させるかぁぁぁ!!!」 「――!!!」 刺せなかった。 某はキョン殿にいつの間にか押さえつけられていたのだ。 殿方とはいえ、戦に出たことの無い者にねじ伏せられるとは某もやはり……。 悔しかった。死ねなかったことが。未熟だったことが。 だから、某はキョン殿に無意識のうちに喚き散らしてしまった。なんとも浅ましい姿だろう……。 きっと、こんな姿を見てキョン殿も呆れているだろう。 そう思っていたのに…… 「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」 キョン殿が口にしたのは、そんな言葉だった。 そして、その顔はどこか悲しげだった……。 ◆ 自分でも在り来たりの陳腐な言葉なのは分かってる。 だが、今の俺にはこの他に言葉が見つからなかった。 自分の表現力の貧しさをこんなときに思い知らされるとは……。 これからは長門みたいにもっと本を読むとしよう、あぁそうしよう。 「あ、あの……俺、死ぬのはまだ早いと思うんですよ。それに、ここで死んだら、残っているトウカさんの仲間は誰が守るんです。だからその……」 ◆ ――死ぬのはまだ早いと思うんですよ そういえば、かつて聖上にも同じ事を言われた気がする。 あの時は、騙されているのも知らずに聖上を悪漢ラクシャインと信じ、トゥスクルを戦乱に巻き込んでしまった事で某はひたすらに罪の念に囚われていた。 そして、玉座の間、聖上の目の前で自らの首を差し出そうとしたその時――聖上は止めてくださったのだ。 ――死ぬのはまだ早い。貴公にはまだ成すべき事がある。 成すべき事……。 それは、聖上にしてみれば失意のまま謀殺されたオリカカン皇をクッチャ・ケッチャの土に還して差し上げろという意味だったのかもしれない。 だが、某にはそれだけには思えなかった。 某が犯してきた罪を償うために、生を以って成せる事。 それは、聖上に一生仕え、この身を聖上そしてトゥスクルに捧げるということ。 ……そうか、某はまた、同じ過ちを繰り返そうとしていたのだな。 某には聖上亡き後もまだ成すべき事が残っている。 キョン殿の言うように、まだ生きているエルルゥ殿とアルルゥ殿を某は命に懸けてもお守りせねばならない。 そして共にトゥスクルへ生きて帰って、ベナウィ殿やウルトリィ殿達と國の安寧に務めなくてはならない。 それに何より、某はこの目の前にいるキョン殿を守り通すとエヴェンクルガの名に於いて誓ったばかりではないか。 某としたことが、そんなことも忘れて命を絶とうとしていたのか……。 ◆ ……また、薄っぺらいような言葉を並べてしまった。 侍に腹を切るな、まだ死ぬなと言うのは確か生き恥を晒せと言っているのと同等だとどこかの時代劇か何かで言っていた気がする。 それなのに、俺ときたら何を言ってるのやら…………。 「…………ない」 ……やっぱり怒っているのだろうか。 だけど、その場合どうすればいいんだ? 素直に切腹させるか? いや、それは流石にマズイな。でも他に方法が―― 「キョン殿……かたじけない」 かたじけない……はて、その言葉は確か礼を言うときの言葉であって……ん? 「某、しばしの間、己の使命を忘れてしまっていた故に取り乱してしまった。……真に申し訳ない」 「あ、いや、それなら良かったんですが……」 それは、本当にいきなりだった。 トウカさんはまだ涙の跡が残っているものの、もう顔はすっかり元通りになっていた。 「それで……いつになったらこの体勢から抜け出せるのか、尋ね申したいのだが……」 俺はそう言われて、今更ながら自分が妙齢の女性に対しては失礼極まりない体勢をとっている事を思い出した。 嗚呼、何やってんだか。 トウカさんが復活した後。 俺とトウカさんは二人で、先ほどの男性を埋葬した。 メチャクチャになった店が雑貨屋だったことからスコップが見つかったのが幸いして、土を掘るのはそこまで……いや、実際重労働だった。 人一人を埋めるのに必要な穴を掘るのにこれほど苦労するとは……。 俺はこんなふざけたゲームから出たら、土木作業現場のおじさん達をいつもの十倍尊敬して、感謝しようと思う。 「よし、これでいいか」 とまぁそんな訳で、埋葬も終わると、トウカさんが手近にあった木材をそこに刺した。いわゆる墓代わりというやつだ。 「……こんな質素な形ですまない。本来ならもっと正式に弔わなければならないのだが……」 そうトウカさんがお墓に向かって言っている脇で、俺は男を埋める際にその人の懐から落ちたそれを再び見た。 ――平賀=キートン・太一。 手にした名刺には確かにそう書いてあった。 ……言われてみれば、死亡者を発表していた時、そんな名前があった気がする。キートンって……この人ハーフだったのか。 職業もビジネスマンではなく大学の講師であったらしい。 普通の高校生の俺が言うのもなんだが、戦闘向きの職に見えないのは確かだ。 それが何で、あんなことになっちまったんだろうな……。 「キョン殿……いかがなされた?」 「あ? あぁ、今行きます」 トウカさんに促されて俺はその場を立ち去ることにした。 ……鶴屋さん、それに大学講師の平賀さん。 そっちに行く用事があったら、俺を歓待してくれよ。 いや、本当は行きたくないんだけどさ。 ◆ ヒラガ殿を弔ってから、某たちは再び歩みを進めることとした。 その目的地は―― 「キョン殿、その“としょかん”という場所に行ってどうするつもりなのです? 確かあそこは火が……」 「ちょっと気になることがありまして。……いや、まさかとは思うんですけどね」 「そうですか。気がかりならば致し方ありません、某はキョン殿の行く地なら何処へでもついていく覚悟ですので、あまり気にしないでください」 「どこまでもって……そんな大げさな」 大げさな話などではない。 某は、某の誓いを思い出させてくれたキョン殿を絶対に守り通さねばならないのだ。 そして、それと同時にエルルゥ殿やアルルゥ殿とも合流し、守り通さねばならない。 エヴェンクルガとして、そして聖上に仕えた身として、それは成し遂げなくてはならない。 たとえ、聖上亡き後でもそれは変わらず。 それが、某の出来る聖上への最大の恩返しであり、忠義の証であると見つけたから。 ――聖上、カルラ殿。某はお二方の分まで守るべきものを守り通して見せます! 「――って、トウカさん。だからここまでついてこなくっていいですって!」 「いや、某、誓いの下に決してキョン殿を危険な目に遭わす訳には!」 「俺が行こうとしてるのは危険とかそういう場所じゃないんで……」 某は走りながら建物の中へと入ったキョン殿を追いかける……が、そこでようやく気づいた。 キョン殿が行こうとしてしていたのは……厠だった。 「も、申し訳ない! そ、某としたことが、つい!」 「いや、分かったなら別にいいですけど……」 【C-4/歩道/1日日/朝】 【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:色んな事にそろそろ慣れてきた [装備]:スコップ [道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺 [思考・状況] 基本:殺し合いをする気はない 1:火災現場(C-3図書館)に向かう 2:トウカと共に仲間の捜索 3:ハルヒ達との合流 4:朝倉涼子には一応、警戒する [備考] キョンはキートンをただの大学講師だと思っています。 トイレタイムはすぐに終わったものとして、現在地は歩道ということにしてください 【トウカ@うたわれるもの】 [状態]:左手に切り傷 [装備]:物干し竿@Fate/stay night [道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に [思考・状況] 基本:無用な殺生はしない 1:火災現場(C-3図書館)に向かう 1:キョンと共に仲間の捜索 2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す 3:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す ※C-4状況まとめ 道路から少し離れた場所にキートンが埋葬されました。 残骸である木材を土の上に突き立てられただけの墓なので、誰の墓なのかは端から見ただけでは分かりません。 *時系列順で読む Back:[[Ground Zero]] Next:[[Unlucky girl]] *投下順で読む Back:[[Ground Zero]] Next:[[Unlucky girl]] |100:[[王様の剣]]|キョン|135:[[行くんだよ]]| |100:[[王様の剣]]|トウカ|135:[[行くんだよ]]|