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知らぬは…… - (2021/08/20 (金) 03:06:50) のソース
*知らぬは…… ◆pKH1mSw/N6 俺は、戻ってきた。 このクソッタレな殺し合いにおける、始まりの地に―― かなみとよく似た声を持ちながら、かなみではない少女と出会った場所。 静寂が支配するモール街に慄然と立つ、一軒の雑貨屋に。 一夜の間とはいえ、ここで時間を共有した高町なのはは傍はいない。 ……別に、俺には関係ねえ。 あいつはかなみじゃない、心配なんてしてたまるか。……クーガーも一緒にいるしな。 ああクソ! 苛つくぜ! 苛立ちまぎれにカズマがドアを蹴飛ばすと、哀れなドアは、砕けた蝶番ごと店の内部に吸い込まれていった。 深夜に続いて、馬鹿力のカズマに二度も蹴られた結果であった。 ガシャンと、安っぽい破砕音が聞こえ、商店の中に埃煙が舞い起こる。 そのまま店内に入り込んだカズマの目に、少し膨らみを持った毛布が映った。確か、なのはが使っていた毛布だ。 毛布に近づこうとしたカズマは、顔をしかめた。ほんの数時間前まではなかった異臭がしたからだ。 その異臭は、ロストグラウンドで慣れ親しんだ匂い。すぐ、身近にあった匂い。ついさっきも、感じた匂い。 死臭、だった。 「チッ……」 毛布を引き剥がしたカズマは、その下に予想通りのモノを見つけた。 首と胴体が泣き分かれになった、鶴屋の死体である。 ついさっきまで生きて、自分と話をしていた人間が、次の瞬間屍に変わる。 今まで何度も経験したことだが、現状のカズマにとっては、苛立ちを増幅させる不愉快極まりない事象だった。 まあ、今のカズマにとっては、周りのもの全てが苛立ちの原因でしかないのだが。 暴走しそうになる身体を抑えつつ、カズマは鶴屋の首を持ち上げた。 骨の切断面が少し荒いが、皮膚や肉は鮮やかに切り裂いてある。 「……鮮やか過ぎるな。血も殆ど飛び散ってねえし、こいつは死後にやられたものか」 骨ごと死体を綺麗に切り裂くことは、並の技術ではできねえ。 少なくとも素人ではなさそうだな……。 他に死因があるだろうと思ってよく見ると、なるほど、左胸に小さな刺し傷がある。 「この傷……ナイフか!」 制服に開いた5cm程の穴の周りを、赤い染みが囲んでいた。 傷口から凶器を推測したカズマは、身体中の血液が逆流するのを感じた。 そう、かなみもナイフのような凶器で殺されていた。 そして、かなみの死体があったのはすぐ北にあるF-8エリア。 北からやってきたゲイナーは誰も見かけなかったと言うし、この周辺を闇雲に探していた俺も、誰も見なかった。 そして唯一、探していなかった場所が、かなみがいないことがわかりきっていた商店街だ。 そして、俺がいない間に鶴屋が殺された。おそらく、かなみを殺した凶器で、だ。 これだけで十分だ。十分過ぎる。 鶴屋を殺したやつは「かなみを殺したやつだ」。 「ハハッ、下手に動かずここで待ってれば、かなみの仇と会えたってことか。……笑えねェぜ」 天井を見上げ、自嘲の笑みを浮かべる。 その表情とは反対に、身体の内ではマグマが心を燃やし尽くしていく。 入れ違いの可能性だの証拠不十分だの、そんな細かいことは関係ねえ。 鶴屋を殺した奴が、かなみを殺した奴と同じ……十分だ、十二分だ、フルに納得できる。 理屈なんていらねぇ。 俺が、俺である。その証拠さえありゃあいい。 つまり――ブン殴る。この首切り野郎を、特級レベルで叩き潰す。 辺りに散らばっている荷物をデイパックにブチ込み、出口に足を向ける。 その途中、ふと鶴屋の死体を振り返った。 首を切断された、哀れな死体。死後も死体損壊趣味の変態に蹂躙された、惨たらしい最期。 なぜ殺害された後に首を切られたかは、想像がつく。 鶴屋は生前、確かこう言っていた。 『うん、実はここに来る前にちょっと襲われちゃってね』 『まあね……っ。相手に怪我させて、その隙に逃げたのさっ』 この「鶴屋を襲ったやつ」が逆恨みして鶴屋を殺しに来たってことだ。 死体に対してまで憎しみを抱くほど、怪我させられたことを恨んでいたんだろうよ。 それ以外に首を切断する意味なんて思いつかねえからな……小せえ野郎だ。 気に食わねぇ……もし万が一、億が一、かなみを殺したやつじゃなかったとしてもブッ飛ばす。 俺を苛つかせるやつは、一つの例外もなく、カケラの例外もなく、一片の例外もなく殴り飛ばす。 乱暴な手つきで死体に毛布を掛け直した後、誰にともなくカズマは呟いた。 「お前はかなみを殺した犯人の手掛かりを持ってたからな、デタラメな方向を教えたことはチャラにしてやる。 ……それと、道具は貰ってくぜ。代わりに――かなみの仇のついでだ……ついでだぞ! 鶴屋、テメエの分も首切り野郎を殴り潰す!」 カズマは商店を去り、後には物言わぬ死体だけが残された。 布団に包まれた陽気な道化師は、死化粧ですら笑っている。 【G-8・モール/1日目/午前】 【カズマ@スクライド】 [状態]:激しい怒りと苛立ち。 [装備]:なし [道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、かなみのリボン@スクライド、支給品一式 鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、ボディブレード@クレヨンしんちゃん [思考・状況] 1:かなみ・鶴屋を殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(ナイフを持っているやつと断定、かなみと鶴屋を殺した犯人は同じだと思っている)。 2:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。 3:君島と合流。 4:本心では、なのはが心配。 *時系列順で読む Back:[[たとえ道が見えなくとも]] Next:[[「サイトと一緒」]] *投下順で読む Back:[[峰不二子の退屈]] Next:[[「サイトと一緒」]] |117:[[Salamander (山椒魚)]]|カズマ|157:[[いつか見た始まり]]|