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正義の味方 - (2021/09/10 (金) 00:05:51) のソース
*正義の味方 ◆2kGkudiwr6 あちこちを走り回って、私に分かったことがある。 それは、ただ走り回るだけでは私にはこの怪人を撒けないということだ。 「どうした? その程度の速さしか出さないのか?」 狂ったような笑みで怪人が笑う。 小さな隙間を通り抜けることはした。久方ぶりに飛行することさえした。 だがどんな小技を使おうとも、力任せで突破してくる。 隙間を怪力で崩壊させたり、飛行並みの跳躍をするのは当然。 建物に足をめり込ませて壁走りなんて真似さえやってのけてみせた。 質の悪いストーカーにも程がある。 「下劣ね。それがレディへの態度かしら?」 「クク、お前がレディか。ハハハハハ」 またもや狂ったような……いや、狂った笑い声を上げていた。 どんな思考回路をしているかなんて考える気さえ起きない。理解不能だろうから。 私は足を止めて溜め息を吐くしかなかった。どうやって逃げよう…… 目の前から騒音が聞こえたのは、そんな時だった。 トラックが道路を走っていた。あれも支給品、なのかしら? 私が考えたのは、そんな真っ当なこと。 だけどこの怪人は。 「あれに乗っているのはただ逃げるだけの野良犬か、それとも私に歯向かえる人間か、それとも怪物か。気になると思わないか?」 「…………」 そんなことをほざいた。そろそろ本気で頭を抱えたくなってきた。 いい加減理解不能だけど、どうやら、悩み込んでいるのは確からしい。 いくらこの化け物でもトラックに追いつくなんてそうそうできないはずだ。 もしあれを追いかけるようなら、私はその隙に逃げよう。 そんな予想をして……それは、不可能だと知れた。 「餞別でも送っておくか」 「なっ!?」 怪人はあっさりと銃を抜いて、発砲した。 しかもちょっとした動作に過ぎないはずなのに、その狙いは恐ろしい程の精度。 綺麗にトラックのタイヤが撃ち抜かれ、道路から外れて横転した。 「貴方……!」 「貴様を逃がすのも惜しいが、もしあの中に面白い者がいたらそれを逃がすのも惜しい。 まあ、貴様を追うついでだ」 私は今更ながら戦慄していた。 こいつは「ついで」で人を傷つけられる。 私が撒こうとその辺を走り回れば、こいつは見た者に片っ端から「餞別」を送りつけていくのだろう。 せめて、トラックに乗っていたのが大人ばかりだったら安心できたかもしれない。 殺し合いに乗った者が乗った者を撃ったに過ぎないと思い込めたかもしれない。 ――出てきたのは、小さな子供や女の子ばかりだった。 「さて、野良犬か人間か……」 それをこいつは哀れむどころか、じっくりと観察している。 私は再び確信した。こいつはなんとしてでも撒かなくてはならない、と。 そうしないと、永遠にジュンとは合流できない……いや、するわけにはいかない。 遭った瞬間、こいつはジュン目掛けて発砲するだろうから。 デイパックの中からレヴァンティンを探す。こうなったら実力行使も辞さない…… だが、それが抜かれることは無かった。 その前に対処すべきことができたから。 咄嗟に受身を取ったことが幸いし、私――長門有希は無傷だった。 横転したトラックから身を乗り出して、なんとか脱出する。 ひどい有様だった。 涼宮ハルヒの言葉に応じ、私達はD-3の橋を目指す予定だった。 しかしそのすぐ後に、銃声と共に車体が大きく揺れ、横転。 恐らく車輪が破壊された可能性が高い。修理には相応の時間がかかると思われる。 襲撃者は恐らく悠々とこちらを眺めている長身の男。 なぜか次を撃ってくる気配は無い。理由は分からない。 とりあえず、私は急いで全員をトラックから搬出し、被害状況を確認する。 石田ヤマト。気絶しているが目立った外傷なし。脳震盪と判断。 しばらく安静にしていれば問題は無い。 涼宮ハルヒが連れてきたアルちゃんと呼称されていた人類に近似した生命体。 足と肩に打撲が認められるが、それほど重傷ではない。骨も折れていない。 ……問題は、涼宮ハルヒだった。彼女を動かすのはかなり慎重を要した。 意識が無い。呼吸が荒い。頭部から出血。明らかに、命に関わりかねない負傷。 病院で治療を行うのが最善。しかし下手に動かせばどうなるか分からない。 だから、手を当てる。最低限の治療を私の手で施し、なんとか動かせる段階まで回復させる。 させられる、はずだった。 「治らない……?」 「おい……私は放置か……」 豚のような生命体が声を出した。答える余裕は無い。 仮に全身を貫かれていても、治癒できる自信があった。思念体と連絡が取れれば。 連絡が取れないこの場においても、最低意識を取り戻す程度ならば可能なはずだった。 だが今、私が手を当てても涼宮ハルヒの治癒は遅々として進まない。 通常の人間と同じ再構成の方法では涼宮ハルヒの肉体に通用しない可能性を想定してみる。すぐに否定した。 最もありうる答えは一つ。主催者による私の能力への介入。 不自然ではない。ギガゾンビという男の目的は殺し合い。 特に治癒能力に関して念を入れて阻害すれば、死亡者数の増加する速さは助長されていく。 否、理由は重要ではない。どちらにせよ結論は一つだけ。 今の私には――涼宮ハルヒを救えない。 ――何かが、切れたような気がした。 「……どーしたの……?」 アル(仮称)が声を上げたが、無視した。 石田ヤマトのデイパックを引っ張り出し、中に入っていたRPGを片手で抜き出して榴弾をセット。 反動に備え、構えながら周りと距離を取る。 軽々と私がこれを持ち上げていることに絶句しているようだが、 全く気にも留めない。今は何より――撃ってきた相手を吹き飛ばしたかった。 狙うは悠々とこちらを観察している長身の男。 風向きは南南西。強さは微風。角度は上向きに7°。目標からの距離228m。 機械的に呟く。相手は遠い。しかもあの距離から当ててくる視力。 当たらない可能性は86%。そう結論する。 だが、ノイズが言った。 ――当たる確率が、14%ある。 発射。着弾。爆発。 ……しかし、爆風の中から何かを抱えて飛び上がった相手の姿を視認。 そのまま相手は後退していく……それでも、見えなくなる距離まで離れはしなかった。 こちらが視認できる限界の距離で立ち止まる。 まるで、興味深い対象を観察するかのように。そしていつでも手を出せるように。 論理的に考えてもできれば排除したい。加えて、あの笑みは見ているとノイズが走る。 相手は予想以上に俊敏。確実に当てるとすれば、追いついて機関銃を使うしかない。 だが、ここを離れるのは危険……涼宮ハルヒの生命に関わる。 ならば、ここからもう一発撃つ。14%に賭けて。 突然声が聞こえたのは、そんな時だった。 「そこの義体!」 叫びながら、マウンテンバイクに乗った中年が近づいてきていた。 義体という言葉の意味する所は判らないが、視線からすると私に言っているらしい。 アルは私の後ろに隠れており、豚はまだトラックから出ていない。私以外に言ったということはないだろう。 ……急いでいるのに。 右腕でRPGを構えながら左腕で拳銃を抜く。 それを見て、慌てて男はマウンテンバイクから下りて手を上げた。 「と、とんでもない強化義体だな。とりあえずこっちはやるつもりじゃないんだが」 「……そのような証拠はない。 何より、あなたが私を信用する理由が無いのと同じように、 私もあなたを信用する理由は無い」 「警察なんだが、駄目か?」 そう言って相手は警察手帳を見せてきた。 写真にある顔と彼の顔は一致している。本物の可能性は高い。 それでも、まだ警戒を解くには情報が不足。 「……あなたが私を信用する理由は」 「こんなにたくさんの子供を引き連れている。遺体さえ丁寧に扱ってる。 それに怪我人に丁寧に手を当てて、何かしようとしてたのが見えた。 殺人者がこんな真似するか?」 そう、男は言った。その表情は、なぜか誠実なように見えた。 論理的思考をすれば、警戒を怠るべきではない。表情なんて簡単に誤魔化せる。 ……だけど、今は時間が無い。涼宮ハルヒの命が危険だ。 何より。横転の原因となった男は未だに、こちらを観察していた。 「あなたに頼みがある。私がいない間、ここにいる人間を守っていて欲しい。 それと、彼女の手当ても」 男に背を向けて、横転したトラックの中から機関銃を引っ張り出した。 右腕にも拳銃を構えておく。武器は多ければ多いほどいい。 RPGはここに置いていくことにした。動きが重くなるだけだから。 「援護は……」 「いらない」 男はやれやれ、と溜め息を吐いた。「彼」を思わせる仕草だ。 意固地な女の子だとでも呆れているのだろうか。……そうかもしれない。 「状況はまだよく分からないんだが、わかった。俺はトグサ。君は?」 「長門有希。 それと……涼宮ハルヒには私の力の事は言わないで」 思わず呟いてしまったことは、今更どうでもいいことだった。 この状況下で、涼宮ハルヒによる情報爆発を防ごうとするなんてもはや不可能だ。 彼女はもう、恐ろしい数の在りえないことを目撃している。 それでも、なぜか言いたくなった。 「倒れてる女の子のことか? なんでだ?」 「私のことを、特別扱いしてほしく、ないから」 とっさに答えたこの言葉。嘘だった。色々と誤魔化すはずの、嘘のはずだった。 なのに、なぜか、説得力があった。 そうかもしれない、と私は思う。 言葉も、それに続いて自然と出てきていた。 「今まで、私は影で彼女を助けてきた。 それは、今も変えたくない。普通の人として、見ていて欲しい」 ノイズは、事実だ。言葉は、事実だ。 例え涼宮ハルヒの力を奪って行使してでも……今の私はSOS団という存在を保持するだろう。 それも悪くない、と私は思う。 そんな私を見て、アルが声を上げた。 「おねーちゃん、せいぎのみかたみたい」 ……正義の味方。 抽象的な発言。正義というものは数多く存在する。 統合思念体さえ、意志を統一することなく争う。有機生命体も同じ。 当然、正義というものは数多く存在する。 それぞれが正しいと思うことこそが正義。正義という言葉ほど抽象的な物は無い。 だが。 「――ありがとう」 なぜか、そう呼ばれても悪くない気がした。 「安心するがいい……真の正義の味方であるわたs」 そうして少女の言葉を背に、私は跳んだ。 「クク、来たか。 来ないようならば誰かもう一人吹き飛ばしてみるつもりだったが」 誰かこちらへ歩いてくるのを見て、嬉しそうに怪人は呟いていた。 そのままのんびりと相手を待ち構えている。嬉しそうに。 なんで私は逃げ出そうとしないかというと、理由は簡単。 怪人に左腕で抱え上げられていたからだ。 「離しなさい! レディに失礼なのだわ!」 「先ほどの爆風から守ってやっただけだが?」 「元々貴方が原因でしょう!?」 私の反論も全くこいつは気にする様子が無い。 確かにあのままだったら巻き込まれて吹き飛ばされていただろうけど、 そもそもこいつが撃ったから撃ち返されただけだろう。 力ずくで逃れようといくら暴れても無駄だった。この怪人の膂力は尋常ではない。 結局、私に出来たのは溜め息を吐いて相手を一緒に待つことだけだ。 しばらくしてこっちへ移動してきたのは、一見無害そうな女の子だった。 無表情で、大人しげ。小柄な体に着ているのはどこかの高校の物らしき制服。 見る限りは、ただの女の子だ。 容姿だけを、見る限りは。 左腕に機関銃、右腕に拳銃。 それを持ってこちらを無表情で見つめているというのは、正直……怖い。 そもそも、数mくらいの距離を軽々と跳び移りながらこっちに来たような気がする。 もっとも、私を抱えてる怪人もそれくらい朝飯前だろうけど。 「いい目だ、ヒューマン。怒りに燃える目……誰か死んだか?」 「…………!」 「やはりただ追い払うためだけに来た、というわけでもないらしいな。 敵討ちか? いい心がけだ!」 「いいえ」 相手は相変わらず無表情。 だけど静かな声の中には、確かに感情が込められていた。 怒りという名の、感情が。 「私は、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。人間ではない」 「え……?」 「なに?」 疑問の声を浮かべる私達に答えは無い。 代わりに贈呈されたのは、銃弾。当然、掴まれたままの私も巻き込まれた。 私を抱えている本人がしっかり避けたお陰で怪我は無いけれど、 拘束されている状態で銃口を向けられるのは精神衛生上非常によろしくない。 「私を離しなさい! 危ないでしょう!?」 「この程度、当たらん」 「そういう問題じゃ……きゃあ!?」 こちらのことなんて全く考える様子も無いまま、近くの住宅へと怪人は銃弾から逃れる。 私を抱えたまま、コンクリートの壁ごと蹴破って。おかげで埃まみれだ。 もちろん、女子高生の方も礼儀正しい入り方なんてしない。扉を蹴破って追ってきた。 ……そろそろ本気で勘弁して欲しい。 「逃がさない」 「やってみろ!」 女子高生が機関銃の引き金を引くのと、怪人がテーブルを相手へ蹴り付けるのはほぼ同時。 撃ち出された銃弾はテーブルに衝突し、遮られる。 ……だが、盾としては問題がありすぎる。 確かに分厚いテーブルだったが、その材質は木に過ぎない。 機関銃に穴だらけにされるのは時間の問題だろう。防御としてはお粗末だ。 だけど、違った。私は怪人が差し出した銃を見て知った。 これは防御のためではなく、攻撃のためだと。 あの距離からタイヤを軽々と撃ち抜く銃だ、こんなテーブルを貫通するくらい簡単なんだろう。 テーブルで視界を塞ぎ、銃を撃ち込む。単純で分かりやすく、だからこそ有効。 あの子に警告を出そうと思った。だけど、その暇は無く必要も無かった。 あっさりと女子高生はその場に屈んでテーブルごと銃弾を回避する。 まるで、「視えていた」かのように。 「第三の目か? 確かにただの人間ではないらしいな!」 心底愉しそうに怪人が笑う。 ……この時、この二人は本当に人間じゃあないみたいね、と今更ながら私は思った。 そんな私の感想を露知らず、相手は拳銃を向けてくる。ただ、狙いが少しおかしい。 「情報因子、解明」 そんなことを呟いて、女子高生は私達の背後へむけて撃つ。 正確には、キッチンに巡らされたパイプを。同時に広がるのは、何かきつい匂い。 何かのガスだと気付いた時には、相手はもう何か呟いていた。 「微調整……発火」 女子高生が、言葉を呟きながら跳ぶ。 その言葉によって生み出されたのは、ほんの小さな火花だけ。 だけど盛大にガス漏れしているのだ、それはあっと言う間に家の中を爆発させるだろう。 着火した当人はとっくに窓から脱出している。このままでは大惨事だ。 それでも結果から言うと、私は無傷で済んでいた。なぜかというと。 「ハハハッ、魔女狩りならぬ吸血鬼狩りの炎と言うわけか!」 怪人はこんなことを叫びながら、その場から垂直に跳躍。 天井を突き破って屋根に降り立ち、爆発から逃れるというとんでもないことをしていた。 当然私も怪人も無傷……ただしまた埃まみれ。 眼下には、やっぱり大した傷も無くあの少女が立っている。 もちろん、家の中は無事じゃないだろうけど。 「ククク、面白い、面白いぞ!!! 片腕しか使っていないとは言えここまで戦えるか! いいだろう!」 そんな事言うんだったら離して頂戴、と言う間も無かった。 怪人は私を放り投げた。あっさりと。 慌てて受身を取った私を見ることもなく、彼は告げる。高々と笑いながら。 「本気でやらせてもらおう。これはゲームだ。 女、貴様はどれだけもつか。そして人形、貴様はどれだけ逃げられるか……!」 思わず、全身が泡立ったように錯覚した。私の体にそんな機能はないはずなのに。 今までだって、十分過ぎるほど狂っていると思っていた。 だけど、もうこいつは狂ってるとかそんなレベルで表現できる奴じゃない。 今までずっと無表情だった女子高生も、思わず数歩下がっている。 それを見て、にたりと怪人……いや、怪物が笑う。 「どうした? 逃げないのか? 撃たないのか? お楽しみはこれからだ! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY!!!」 銃声が響く。女子高生が機関銃を乱射したのだ。 それに釣られる形で、私も慌ててその場から逃げ出していた。 だが、しっかりと見ていた。 銃弾を掻い潜りながら、軽々と突進していく怪物の姿を。 「愚かだな、私も」 溜め息を吐く。自分に嫌気を覚えながら、かつて渡った橋を渡る。 やっていることは人探し。だが殺すために人を探しているわけではない。見つけたい人物は二人だけ。 結局こんな結論に傾いた自分に自嘲するしかなかった。 さっきまで、家の中で悩んでいた。 聞こえていたのは二つの声。 衛宮士郎が死んでも、この身は消えない。 ただ永遠に、掃除屋として人を殺していくだけ。そう運命は決定された。 なら、せめて今だけは従わなくてもいいだろう。サーヴァントである今だけは。 そんな声が聞こえる。もう一方で、別の声も聞こえた。 ただの我侭で、仕事を放棄するのか? もしそれが原因でギガゾンビに逃がし、また惨劇が繰り返されればどうする? それにもう二人、お前のせいで死んでいる。 二つの考えがぶつかり合う。 苦悩した。オレだって、好き好んで人殺しなどするものか。 だが、オレには脱出できるだけの自信が無い。力も無い。 全てを救おうとして二も三も取りこぼすのは、今まで何度も繰り返してきたこと。 未来への諦観から生まれた理屈と、過去から生まれた諦観が生んだ理屈がぶつかり合う。 だが最後に勝敗を分けたのは、単なる私情だった。 ――ふざけんな。セイバーと遠坂を殺すのかよ? 聞こえたのはそんな声。 そう言ったのは、紛れもない……かつての自分自身だった。 否定しようにも、できなかった。 自分でさえ迷っている理屈で彼女達を殺すなんて、できない。 そうして何も決まらないまま、二人を探しにあたりを飛び回っていた。 「……くそ」 磨耗して尚、過去に引き摺られている自分が嫌になる。 それでも凛とセイバーだけは、助けたい。どちらかなんて選べない。 そして二人の前で、みっともない真似なんてできない。 それだけは、誤魔化しようがない事実。 「HAHAHAHAHAHAHAHA!!!」 「…………!」 怪物が、笑う。銃声が響く。暴力の嵐が周辺を破壊する。 その魔手から逃れるために、塀を蹴る。宙を舞う。 天と地が逆さまになった視界で両腕に持った二つの銃を放つ。 何割かが命中しているのは明らか。なのに死ぬ様子は全く無い。怯みさえしない。 相手の放った銃弾が腕を掠めた。血が出る。痛む。反応が遅れる。 同時に左腕で振り回してきた標識は、住宅の屋根へ飛び移って避ける。 情報因子を変更し、強化していたはずの足がだるい。明らかに稼働率が落ちている。 なのに相手に疲れた様子は無い。笑いながら、呼吸を乱すことなく迫ってくる。 「どうした? 瞳に絶望が混じってきたぞ!」 そんなことを言いながら、相手は標識を上段から振り下ろしてきた。断頭台のごとく。 間一髪で外れたそれは易々と住宅の屋根に突き刺さる。 当たっていれば両断されていたことは想像に難くない。 だが突き刺さり、止まったのは好機。拳銃を素早く標識の柱の部分に密着させ、銃弾を放つ。 構造上脆い部分が綺麗に撃ちぬかれ、先端がもげる。標識はただの棒と化した。 だが相手の武器を失わせたことに安堵する間もない。上を見て、私は再び絶句した。 片手で自動車を持ち上げながら、怪物が上空へ跳んでいる。 自動車とは言っても、タイヤはなくフレームもボロボロ。 明らかに動きそうもない廃自動車だが、それでも重いことには変わりないはず。 それを相手は軽々と持ち上げて、上から私目掛けて叩きつけていた。 寸前で回避はできた。だがそのままバランスを崩して、屋根から地面に叩きつけられる。 「……はぁ、あ」 体が軋む。それでもすぐに呼吸を整えて、立ち上がって走りだそうとして。 目の前には既に、相手が立っている。 離れていく。 後ろで盛大に行われている戦闘から逃れる。 できれば、あの女子高生が怪物を倒してくれるのが理想だろう。だけど。 「……勝てるのかしら」 あの女子高生は明らかに普通の人間じゃなかった。 だけど、あいつは普通じゃない程度で勝てる相手じゃない。 あいつは、常識の尺度で測ることさえできないのだから。 それに……子供が倒れていた様子を思い出すと、軽く自己嫌悪に陥りそうになる。 あいつを放って置けば、今後どんどんと人が巻き込まれていくだろう。姉妹達やジュンさえも。 私はこうやって逃げないで、援護するべきではなかったんだろうか? そんなことを考えながら走っていたからだろう。誰かが接近しているのに気付けなかったのは。 「首輪があるところを見ると参加者か…… 何か向こうで戦闘が起こっているようだが、どういうことか知っているのか?」 「!?」 慌てて立ち止まる。目の前には、赤い外套の男が立っていた。 例の怪物同様こちらも長身だが、髪は白く肌は浅黒い。その体は明らかに鍛え抜かれた物だ。 すぐに右手を構えた。 「……誰? それがレディに物を聞く態度かしら?」 「これは失礼。 金髪に青いドレスを纏った少女と、黒い髪を二つに纏めた少女を探しているが、知らないかな?」 「知らないわ」 即答する。質問するどころか逆に質問されてしまった。 そんな私の考えを露知らず、更に男は質問を続けていく。 「では、向こうで戦闘をしているのは?」 「赤い外套で長身の男と高校生くらいの女の子よ」 「……その男、吸血鬼とか自称していなかったか?」 「言ってたわ」 「奴か」 ふん、と男は息を吐いた。溜め息のような、それとも鼻で笑ったかのような。 ともかく質問が止まったのは確かだ。素早く口を開く。 「次は私の質問に答えてくれるかしら」 「…………」 「ちょっと!?」 それを男は完全に無視して、近くの電柱に跳び上がっていた。 どうやら戦闘を眺めているらしい。悩んでいる様子もある。 とりあえず、聞いていないのは確かだ。 「聞いてるの?」 「……すまない。もう一つだけ聞かせてくれ。 戦闘が始まった経緯はどうなっている?」 ……警戒より、怒りが先に立ってきた。 あの怪物といい、長身の赤い外套を着た男は話を聞かないのだろうか? 「あの怪物が先に手を出したわ。相手をしている方はそれに応じただけね」 「そうか」 答えは小さな呟きだった。同時に、男は剣を取り出していた。 狙いは明らかに私じゃない。見ているのはあの戦いの場。 ……まさか。 「……戦うつもりなの? 相手は正真正銘の怪物だわ」 「知っている」 「なら、どうして?」 警戒することも怒りも忘れて、そんな事を私は言ってしまっていた。 理由は単純だろう。私は、人を囮にしてあいつから逃げ出したばかりだから。 だから、信じられない。彼の判断が。 「ちょっとした勘違いで下らん判断ミスをし、何人もそれに巻き込んだ。 だからせめて奴を倒すとは言わないまでも……責任を取って保護するだけだ。 実行犯も違う以上、償いには程遠いがな。それでも、私が止められたかもしれないという共通点はある」 返ってきたのは、そんな自嘲の笑みだった。 腕を掴まれる。そのまま野球のボールかなにかのように軽々と投げられ、地面に叩きつけられる。 状況判断。背骨に衝撃。呼吸に一時的な阻害。 「は……ぐ……」 「いい目だ。まだ諦めていない目だ」 悠々と笑いながら、相手は歩いてくる。攻撃してくること、そのものを期待しているかのように。 罠だろうか……だけど、撃つなら今しかない。 「情報、因子変、更……射出!」 右手を翳す。同時に、左右から放たれた三本の槍が相手を貫いた。 機動戦では勝てない。射撃戦でも同じ。なら、勝つためにはそれ以外の要素を使うだけ。 だから、跳びまわりながらゆっくり、確実に槍を構成していた。相手に気付かれないように。 組み上げるのにかなり時間は掛かったものの、威力はかつて朝倉涼子が私に放ったものと同じ。 一つは頭部を貫いた。致命傷。致命傷のはず。そうでなくてはおかしい。 それなのに。 「なるほど、これが貴様の切り札か。吸血鬼には杭を撃ち込むものだしなあ?」 相手はあっさりと頭から槍を抜きとり、平気で喋っていた。一歩一歩近づいてきた。 機関銃を向けた。カタカタ、と耳障りな音を立てるだけだった。 目の前に相手の膝が迫る。とっさに機関銃を盾にする。 それなのにその一撃で左腕ごと機関銃は砕かれ、私はあっさりと宙を舞った。 再び地面に叩きつけられる。体が動かない。意識が朦朧としている。 理由は脳震盪。そう判断した。回復には十秒ほど必要。 だが、十秒あれば相手は私を殺せるだろう。 「じょ……ほ……つ」 情報凍結、解除開始。そう、呟こうとした。 無理だとは、分かっている。思念体と連絡の取れないこの状態でできるはずがない。 それでも、呟かずにはいられない。 結果は、無残だった。指先さえ、消えようとはしない。 男が腕を振り上げる。 私も死という概念はよく理解していないけれど、これから死ぬと言うことくらいは分かる。 そんなことを思った矢先だった。 「I am the bone of my sword」 ふと、声が聞こえた。周りの情報因子が変わっていく。 振り向けば、赤い外套の男が手を掲げて叫んでいた。 「熾天覆う七つの円環――!」 四枚の花弁を持った桃色の花が咲く。 殺し合いの場にはそぐわない幻想的な趣の花が、私を潰そうとした腕を受け止めていた。 【E-3中央 1日目 午前】 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:左腕骨折、疲労、背中に軽い打撲、脳震盪により一時的に行動不能、思考にノイズ、SOS団正規団員 [装備]:熾天覆う七つの円環(不完全)@Fate/stay night、S&W M19(残弾2/6) [道具]:支給品一式/タヌ機@ドラえもん [思考] 1、アーカードの撃破(自己保身より優先) 2、ヤマトたちに付き合い、ハルヒ及びぶりぶりざえもんの治療。できれば人物の捜索も並行したい 3、SOS団のメンバーを探す/八神太一を探す/朝倉涼子を探す 【アーチャー@Fate/stay night】 [状態]:右腕に中程度の火傷や裂傷(応急処置済み) 右目の視力低下(接近戦は問題ないが、エリアを跨ぐような狙撃に支障) 右半身に軽い火傷や擦り傷、魔力消費小 [装備]:名も無き剣@Fate/stay night [道具]:支給品二人分、チャンバラ刀専用のり@ドラえもん [思考・状況] 1.長門の保護(アーカードの撃破より優先) 2.凛、セイバーと合流 基本:セイバーや凛と合流し、脱出案を練る。 【アーカード@HELLSING】 [状態]:全身の所々に銃創、頭部・脇腹・右足に裂傷(自然治癒可能) [装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾10)@HELLSING [道具]:なし [思考・状況] 1、真紅の捕獲、だがアーチャーも長門も逃がさない。 2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく 3、殺し合いに乗る 【E-2 1日目 午前】 【真紅@ローゼンメイデン】 [状態]:健康、人間不信気味、迷い [装備]:なし [道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン [思考・状況] 1:ここから離れたいが、少し罪悪感も 2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい 基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る 【D-3・E-3境界・道路脇 1日目 午前】 【新生SOS団 団長:涼宮ハルヒ】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:左上腕に矢(刺さったまま)、頭部に重度の打撲 [装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+ [道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考・状況] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。 1、気絶 [備考] 矢は刀によって極力短く切られた状態にされていますが、出血を抑える目的で依然刺さったままになっています。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:人見知りモード。右肩に中程度、左足に軽い打撲。SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服 [道具]:無し [思考・状況] 1、「正義のみかたのおねーちゃん」の帰りを待つ。 2、ハルヒ達に同行しつつエルルゥ等の捜索。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、右腕上腕に打撲、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定、脳震盪 [装備]:クロスボウ [道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク [思考・状況] 1:気絶 2:病院へ行ってぶりぶりざえもんとハルヒの治療 3:ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。 4:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる 5:八神太一、長門有希の友人との合流 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。 額からの出血は止まりましたが、額を打ち付けた痛みは残っています 【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】 [状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感。無視されている。 なぜか無傷。SOS団非常食扱い? [装備]:照明弾 [道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費 [思考・状況] 基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する 1.私こそが真なる正義の味方……おい、聞いてるのか貴様ら? 2.強い者に付く 3.自己の命を最優先 [備考] 黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。 [共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。 [共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります) RPG-7弾頭:榴弾×1、スモーク弾×1、照明弾×1(地面に置いてあります) 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労 [装備]:暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本/マウンテンバイク [道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り19回)@ドラえもん [思考]:1、涼宮ハルヒの治療・護衛 2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。 3、十分な協力者を得られた後、ホテルへ帰還しバトーとセラスを弔う。マーダーがいるようであれば撃退。 4、九課の連中と合流。 [備考] ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。 ※セラスや長門のことを、強化義体だと思っています。 ※セラスが死んでしまったと勘違いしています。 ※なので、正午にホテルに戻るという行動はキャンセル。ですがあそこを拠点として使う考えは失っておらず、いつか必ず戻るつもりでいます。 ※マウンテンバイクはレジャービルの中で発見しました。 ※あの場にいたもう一人のメイド(みくる)を、バトー殺害犯だと勘違いしています(セラスについてはよく確認できなかったため、保留)。 ※トグサの首輪についての考察は以下の通りです。 ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』 ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』 ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』 ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』 ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自信ない』 *時系列順で読む Back:[[白雪姫]] Next:[[親友を失った悲しみと、愛する人を失った悲しみ]] *投下順で読む Back:[[白雪姫]] Next:[[ハードボイルド・ハードラック]] |125:[[D-3ブリッヂの死闘]]|長門有希|145:[[正義の味方Ⅱ]]| |119:[[幸運と不幸の定義 near death happiness]]|アーチャー|145:[[正義の味方Ⅱ]]| |130:[[Ultimate thing]]|アーカード|145:[[正義の味方Ⅱ]]| |130:[[Ultimate thing]]|真紅|160:[[逃げたり諦めることは誰にも]]| |125:[[D-3ブリッヂの死闘]]|涼宮ハルヒ|155:[[お別れ]]| |125:[[D-3ブリッヂの死闘]]|アルルゥ|155:[[お別れ]]| |125:[[D-3ブリッヂの死闘]]|石田ヤマト|155:[[お別れ]]| |125:[[D-3ブリッヂの死闘]]|ぶりぶりざえもん|155:[[お別れ]]| |132:[[トグサくんのミス]]|トグサ|155:[[お別れ]]|