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愛する者の為の騎士 - (2021/06/20 (日) 16:47:36) のソース
**愛する者の為の騎士 ◆u6VrQNC6KE 彼の視界が急転したのは、音無小夜を発見し、彼女に声をかける直前だった。 「飛ばされていく」という言葉が見事に当てはまる感覚と共に、彼は会場へと強制的に移動される。 そして気付けば彼は建物の中にいた。 見れば広い部屋に机と椅子が規則的に並んでいる。 恐らくここは学校の教室だろう。窓からの景色から推理するに三階程度だ。 ……まぁ、どうでも良い。とにかく、確かに自分がワープされたというなのだろう。 「便利なものですね」と苦笑し、彼――ソロモン・ゴールドスミス――は静かに溜息をついた。 何故死んだはずの自分が再び生を得たのか。 何故この様な事に巻き込まれてしまったのか。 何故あのギガゾンビと名乗った者は我々に殺戮を求めるのか。 彼の疑問は尽きない。だが、どうでもいい。 小夜がいた。愛する小夜がいた。護りたい小夜がいた。 そうなれば、と彼は一つの決断をする。 「小夜を……護らなければ……」 ゆっくりと呟く。 「小夜の本当のシュヴァリエは……ハジはいなかった……」 確認するように。 「ならば今度は僕が小夜を護る番です」 使命の焔を心の内に生み出す為に。 「全ての血を越えて……」 自分の生きる意味を消さぬ為に。 「……再び得た、この命を懸けて」 そう、誓った。 不安は無い。小夜を護るという使命を与えられた彼は何も臆さない。 ザックを手にし、教室の扉を開いた。 使命を全うする為に、彼は力強く歩き出す。 その筈だったが、突然彼は歩を止めた。 視線の先――長い廊下の先だ――に蒼い服を着た子供が立っていた事に気づいたからだった。 視線の先にいる相手はこちらに気づいておらず、何かを呟いている。 申し訳なく思いつつも、彼はその呟きに耳を傾けた。 「レンピカがいな……僕は確か……何故今……」 澄んだ空気をもってしても、聞こえたのはこの程度だった。 「レンピカ……? 香水でしょうか……」 ソロモンが思案しつつ呟く。しかしこの状況で香水の話をする意味が判らない。 しばし考えたが、やはり理解出来ない言葉の意味を探る事は時間の無駄に等しかった。 すぐに疑問を投げ捨てた彼は、もっと建設的な行動を取る事にした。 子供は自分の姿に気づいていない。今の内に、とばかりにそっと支給品を確認した。 人が「レイピア」等と呼ぶ細身の刺突剣が鞘に仕舞われたままで入っていた。これはかなり運が良い。 早速取り出し抜く。そして暗殺者の様に静けさを保ったまま、刀身を目の前の相手に向けた。 そして極力足音を立てない様、そっと相手の背後へと近付く。 焦らず、慎重に歩む。相手が考え事をしていたおかげか、剣が届く間合いへと無事に辿り付く事が出来た。 ―――ここからが賭けだ。ソロモンは、相手の首筋にレイピアの刀身を突きつけ、言った。 「すみません……ザックを置き、両手を挙げて下さい。 従わなかった場合、僕がこの剣であなたを刺します。ご協力を」 突然のその言葉に相手は驚く。 だが首筋を狙う冷たい気配に早速気付いたのか、すぐに指示に従った。 「僕をどうする気だい……? 目的は?」 「手数をかけてすみません……大丈夫です、どうもしませんよ」 その問いに、ソロモンは出来るだけ爽やかに答えた。 敵意が無い事を笑顔で示し、レイピアを鞘に収める。 「もう構いません。楽な体勢で振り向いてくれるだけで良いですよ」 「……じゃあ」 振り向いた相手の目は、左右で色が異なっていた。 ―――それから数分後。 「先程は驚かせてしまいました……申し訳ありません」 ソロモンは先程自分がいた教室の中へと相手を招待し、非礼を詫びた。 突然の脅迫によって相手に多大な負担を強いた事に対しての、深い謝罪だった。 彼はシュヴァリエである前に、一人の温厚な青年”ソロモン・ゴールドスミス”だ。 色々と後ろめたい部分があったのだろう。 「あ、いや……この状況なら仕方ないし……。 とりあえず話は聞くから、頭を上げて欲しいかな……」 ソロモンの謝罪の結果、相手は警戒を解いて信用してくれた様だった。 頭を上げると、ヘテロクロミアの両目がソロモンを見上げていた。 「僕はソロモン。ソロモン・ゴールドスミスです」 互いに適当な椅子に腰掛け、まずはソロモンが名乗る。 「僕は蒼星石。ローゼンメイデンの第四ドールだ、宜しく」 「ローゼン、メイデン? ドール……人形、ですか……」 蒼星石と名乗った蒼い服の相手は、確かに人形の様に小さかった。 大きさなど、一度見れば違和感を覚えるだろうに気づかなかった。 暗殺者の真似事をしている時はそこまで頭が回っていなかったのだろう、自分の不器用さに驚かされる。 「人間ではない、という事ですか? 自分は動く人形だと?」 確認の言葉に、蒼星石は頷いた。 「成る程……人形が人間のように話し、動く……と。 わかりました、その言葉であなたの身体の小ささの理由等も納得がいきましたよ」 ソロモンはあまり驚きはせず、くすくすと笑みを浮かべる。 「何故簡単に納得出来たの? 普通は人間は僕達の事を見ると驚くのに……」 どうやら蒼星石にはそれが奇妙に映ったようだ。つい本音を漏らしてしまう。 呟きを聞いたソロモンは、笑みを浮かべたままその問いに答えた。 「僕も人間ではないんですよ」 その言葉が合図だったかのように、互いに情報交換が始まった。 自分達このゲームに乗っていないこと。 自分達が人間ではなく、別の種類の存在であること。 自分達が過去にしてきた事。 自分達の大切なもの、護りたいもの。 自分達が報われぬ最期を遂げた事。 様々な事を話した。 「あなたにも……護りたい者がいるのですね」 「あなたも……一度死んでしまったんだね」 そして互いに知った。 二人の境遇は相反し、だが似ていた事をだ。 姿形、生きる為に繰り返した物事は違っていても、 護りたい者がいるという事と、互いの生き様は通じるものがあった。 結託するには十分すぎる理由だ。少なくとも、今の状況では。 「僕は小夜を探し、護りたいのです。無意味に殺戮などをする意味などありません」 「僕も翠星石を……真紅やジュン君も探さなければいけない……」 ソロモンがそっと右手を伸ばす。それは誓いへの一歩だ。 「互いの望みは護るべき人を護る事です……共に行きましょう、蒼星石」 蒼星石は一寸の間を置いたものの、彼の右手を静かに取った。 「あなたは信用できそうだ。宜しく、ソロモンさん」 「ソロモンで構いませんよ」 「じゃあ……宜しく、ソロモン」 こうして二人は、盟友となった。 その後、今度は互いの支給品を確かめ合い始めていた。 互いが仲間であれば、物品を把握してもデメリットは存在しないからだ。 蒼星石の支給品はまずコンバットナイフ。同封された説明書には ”対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの一人が使っていた物の同モデル!” という適当に辞書で引いてきたような文が書かれていた。 人形にとっては少し大きいそれを、蒼星石は両手でしっかりと持つ。 「他に何か無いのですか?」 「ちょっと待って……ん、これは?」 更にもう一つ出てきた。厚紙を蛇腹折りにしたもの。俗に言うハリセンだった。 「……ハズレだね」 「まぁ、ナイフが出て来ただけ良しとしましょう」 そう言いながら、蒼星石がハリセンをバッグにしまうのを眺める。 そしてレイピア以外に何かが入っているのを期待して、もう一度バッグを開けてみた。 中には白衣。かつて「人間の医者」だった自分へのあてつけか何かだろうか。 苦笑しつつ蒼星石にそれを見せ、袋にしまった。 「ではそろそろ動きましょうか」 支給された物品の確認を終えると、立ち上がる。 蒼星石もその言葉を合図に椅子から降り、立ち上がった。 「まずは僕達でこの建物の内部を探索しましょう。灯台下暗しという言葉もあります」 「そうだね……じゃあ、行こう」 扉を開き、外に出る。風が静かに二人を撫ぜた。 「さて……僕達がただの男で終わらない事を、あのギガゾンビという男に証明しましょう」 不適に微笑みつつ、冗談めかした言葉を紡いでみた。 すると、その言葉を聞いた蒼星石の表情が何かを言いたそうなものに変わる。 何かまずかったでしょうか、と問うと、蒼星石は静かに答えた。 「僕、女の子なんだけど……」 ソロモンは、二度目の謝罪をした。 【A-1高校内部(三階廊下)・一日目 深夜】 【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+】 [状態]:健康 [装備]:レイピア [道具]:白衣 [思考・状況] 1:音無小夜と合流し、護る 2:翠星石の捜索 基本:蒼星石と共に行動する 【蒼星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:健康 [装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ [道具]:ハリセン [思考・状況] 1:翠星石と合流し、護る 2:音無小夜の捜索 基本:ソロモンと共に行動する *時系列順で読む Back:[[竜殺し]] Next:[[信頼に足る笑顔]] *投下順で読む Back:[[竜殺し]] Next:[[信頼に足る笑顔]] |ソロモン・ゴールドスミス|63:[[ソロモンの指輪]]| |蒼星石|63:[[ソロモンの指輪]]|