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Wind ~a breath of cure~ - (2021/09/25 (土) 23:53:30) のソース
*Wind ~a breath of cure~ ◆lbhhgwAtQE 放送がギガゾンビの狂気染みた笑いとともに終わった時。 トラックを修理していたトグサは、その修理の手を止めて唖然としていた。 「そんな……そんなことが……」 自分はあの時、確かにバトーとセラスが死ぬ瞬間を見たはずだった。 だが、現実としてセラスの名前は呼ばれなかった。 ……つまり、まだセラスは生きている。 彼女はそこまで強化された義体だということなのかどうかは分からなかったが、何にせよトグサはまた一つ判断ミスをしてしまったことを痛感した。 そして、更に彼を驚かせたのは―― 「少佐……」 草薙素子――彼が少佐と呼ぶ九課のリーダー的存在である女性もまた死んだという事実。 全身を義体化し肉弾戦、頭脳戦の双方においては自分ではとてもかなわないほどの能力を誇る彼女ですら、このゲームにおいては敗者になりうるというようだ。 彼は、その死を悼むとともに、改めてこのバトルロワイアルの恐ろしさを実感した。 「クソッ、俺がこうしてもたついている間にも……!」 何一つ、打開策を講じれない自分に悪態をつきながらも、彼は今自分が出来ること――技術手袋によるトラック修理を再開した。 それが自分が今出来る唯一の事であったから。 「あ、あの……」 そして、そうこう修理していると、背後から声を掛けられた。 その声は、先ほど少女の埋葬に向かわせた少年、石田ヤマトのもの。 「……どうした、終わったのか?」 「は、はい。お墓も作ってきました」 「そうか……。なら、もう少し待っていてくれ。じきにタイヤが直るから、そうしたらハルヒって少女を病院に――」 「え? で、でも……」 何やらヤマト少年の声は、慌てているようなうろたえている様な調子だった。 トグサはその声を訝しげに思うと後ろを振り向く。 「どうした? 何か都合でも悪いのか?」 「いや、その……あのメイド服の女の子がいないんですけど……」 「何っ!?」 メイド服の少女――彼女には自分がハルヒを見ているように命じたはずだった。 だが、振り返ると確かにハルヒのそばには誰もいなかった………………。 ◆ ――アルルゥ。今名前を呼ばれた人はな、死んでしまったんだ。 父と慕う男の名前が呼ばれたとき、ルパンは確かにアルルゥにそう言った。 そして、今度の放送でその事を告げた男の名前が呼ばれたときも彼女はそれを覚えていた。 ――勿論、大丈夫に決まってるわ! あいつはあたしがSOS団の団員にわざわざ任命してあげたのよ! そう信じたかった。 しかし、その事を高らかに言い、彼の無事を確信していた少女も今は目を覚まさないままでいる。 だからこそ、アルルゥは事の真偽を確かめるべく、男が残ったあの橋へと走っていた。 ……そして、彼女は橋に到着した時、放送の内容の真偽を目の当たりにすることになった。 「……ルパン?」 至る所でアスファルトが剥がれ、橋の高欄が削れている中、彼は高欄の傍で横たわる男の姿を発見した。 赤いジャケットを着たその男は、そのジャケットと同じ色の液体をその周囲に撒き散らし、目を瞑って動かないまま。 「ルパン……起きる。ハルヒおねーちゃんが倒れた。起きてルパンもハルヒおねーちゃん助ける」 横たわる彼の傍にしゃがみこみ、肩を何度も揺さぶる。 ……だが、彼は一向に目を覚まさない。 その理由は、腹部に横一線に走る深い切れ込みを見れば一目瞭然だ。 だが、それでも彼女は男を起こそうとする。 「起きるー! ルパン起きなきゃ嫌ぁー! 起きて、起きてルパンー!!」 彼女の脳裏には浮かぶのは自分を庇って凶刃に倒れた祖母トゥスクル。 そして重傷を負いながらもヤマユラから皇城まで敵國の襲撃を伝え、それから間もなく倒れた頼れるオヤジのテオロ。 二人とも目を瞑ってからは、何度揺さぶっても、何度声を掛けても起きることはなかった。 ……彼女には、それが死だということは分かっていた。 だが、理解したくなかったのだ。 それは、この目の前にいる男に対してもそうで…… 「ルパン……起きなきゃダメ! ハルヒおねーちゃんが怒る! アルルゥも怒る!」 それでも彼は目を覚まさない。 「嫌だ…………ルパン死んじゃ………………イヤ」 戦多き世界から呼び出されたとはいえ、彼女はまだ子供。 子供が見るには、その死は余りにも多すぎ、そして衝撃的すぎた。 「イヤ……ダメ死んじゃ…………ダ……メ……」 彼女は、出るだけ涙を流し尽くすと、糸が切れたようにその場に倒れこんでしまった。 ◆ 「クソッ! 俺は何をやってたんだ!!」 トグサは修理していたトラックのフレームを叩いた。 放送でセラスが生きていたことや少佐が死んだことを告げられ衝撃を受けていた事。 技術手袋での修理に神経を集中させていた事。 修理の際に出る音により足音が聞こえなかった事。 アルルゥがいなくなったことに気付かなかった理由を挙げろといわれれば、これらが挙げられる。 だが、それらはすべて自分の不注意という過ちの結果という理由に収束される。 トグサは、そんな進歩しない自分に嫌気が差していた。 セラスをほっぽりだし、バトーと少佐の死を防げず、あまつさえ傍にいた少女でさえも見失う――これだけの失態、公安九課ではありえない。 「あ、あの……俺、探してきます」 「いや、ダメだ。君までを見失うわけにはいかない」 「だ、だけど今ならまだそう遠くには……!」 「ここにはどんな殺人鬼がいるか分からないんだ! 装備もなしに単独行動は危険だ!」 先ほど、一人で少年に離れた場所まで人を埋葬させに行かせた男の言う台詞とは思えない、トグサ自身でもそう思う。 だが、アルルゥを見失ってしまった今、不用意に子供を動かすわけにはいかない。 ……しかし、だからといって自身が少年と重傷者を放り出して探しに行くわけにもいかない。 「……おい、私を今カウントしていなかっただろう……」 どうする……どうすればいい。 せめてあと一人、頼れる仲間がいれば、任せられるのだろうが……。 「何か問題が発生したの?」 トグサが悩んでいると不意に、声を掛けられた。 その声は、トラックに追いついた当初自分を威嚇したあの少女のもので……。 「あんた……! 今までどこ行ってたんだ? それにその体……」 ヤマトは久方ぶりに再会した同乗者のボロボロな姿に驚きを隠せないでいた。 だが、長門のほうはというとさも平然を装う。 「少し用があって席をはずしていた。私の体は問題ない。……そちらで何か問題……例えば涼宮ハルヒの容態に何か異変が?」 トグサはヤマト同様に長門の姿に驚きつつ、答える。 「いや、今のところ彼女の方は安定している。依然予断を許さない状態だがな」 「……そう」 「しかし……それよりも本当に大丈夫なのか? 特にその腕……」 傍目にも、その動かされていない長門の左腕には何らかの異変があったことは確かだった。 ……だが、それでも長門は顔色一つ変えない。 「問題ないと言っている。大丈b――」 その足元から崩れる瞬間まで、彼女は表情を変えることないままだった。 「お、おいっ! 大丈夫か!?」 倒れた長門にヤマトとトグサが駆け寄る。 「な、何で急に倒れたんだ、こいつ……」 「少し熱がある。……恐らくはさっきの戦闘で無理して動いて疲労したツケがここで来たんだろうな」 「戦闘? ……どういうことですか、トグサさん」 襲撃者、そしてそれを迎撃した長門の話を伏せられていたヤマトが不思議そうな顔をする。 一方、その話をあえて伏せていたトグサはというと、もう隠す必要もないと思ったのか、長門の怪我の状態を見てやりながら、彼にあの時の真実を告げはじめた。 すると、それを聞き終えたヤマトは顔を赤くして怒る。 「何でその事を早く言ってくれなかったんです!」 その反応はトグサにとっては予想の範疇にあるものだ。 逆に言えば、こんな反応を示すだろうから、彼はあの時すぐに話さなかった訳で……。 「……その事については謝る。……しかし、もしあの時その事を知ったとしたら、君はどうしていた?」 「決まっています! 俺も一緒に戦いに――」 「満足な武器もなしに、子供の君が? ……一体どうやって戦うつもりだ?」 トグサの問いに、ヤマトは言葉を詰まらせる。 ……ヤマト自身にだって、パートナーもいない現状で自分が何も出来ないことは分かっていた。 だからこそ、トグサの言葉は耳に痛かった。 「相手は遠くから走行する車のタイヤを撃ちぬけるほどの腕の持ち主だ。並大抵の戦力じゃあっという間にやられる。そしてあの長門という少女は、それに対応しうる強化された体を持っていた。……だからこそ俺は行かせた」 「じゃあ、何でトグサさんが一緒に行ってやんなかったんですか? ……刑事さんなら戦えるはずでしょ」 「援護は要らないって言われたよ。……確かに彼女の力を見るに俺程度じゃ足手まといになりそうだった。……それに、彼女から直々に頼まれたんだ。――涼宮ハルヒという少女を頼む、とな」 そう言って視線をハルヒへと向ける。 彼女は相変わらず、眠り姫か白雪姫の如く眠り続けたままだ。 ただその二人と違うのは、目覚めさせるのは王子様のキスなどではなく、適切な救命措置だったが。 「……だが何を言おうと結果として、彼女がこうなるまで見殺しにしていたことには変わりない。その上に不注意のせいで少女を見失ってしまうなんて本当に九課失格かもな……」 今もなお、消えた少女の行方は分からない。 だが、だからといって彼女を探すべくここを離れれば、倒れる少女二人と武器を持たない少年一人を置いていくことになる。 何も出来ない自分に呆れ、自嘲気味に力ない笑みを浮かべるトグサをヤマトはただ見ることしか出来なった。 そして、そんな沈痛な空気の中、声を掛けるものが一人。 「あの……どうなさったんですか?」 突如聞こえた声に驚き、振り返った二人が見たもの。 それは、眼鏡を掛け緑色のブレザーの制服を着た一人の少女だった。 ――いや、二人といったほうがいいかもしれない。 何故なら彼女は犬のような特徴的な耳と尻尾を持ったメイド少女を背負っていたのだから。 ◆ 鳳凰寺風が友を求めて西方から橋に到着したのは、アルルゥが倒れてから間もなく。 彼女は橋に到着するなり、その橋の惨状に唖然としていた。 「……堅牢な橋がこれだけ破壊されるなんて……しかも焦げた跡まであるということはもしかして魔法? まさか光さんの炎の魔法!?」 炎から親友の姿を想像した彼女は不安になりながらも、橋を渡る。 そして、橋の中央部に到達した時、彼女は重なるように倒れる二人の参加者を発見した。 「こ、これは…………!」 下にいたのは長身の中年男性。 腹部に巨大な裂傷があり、そこから溢れた血液はもう一部が凝固していた。 念のためその冷たくなった手首を持ち、脈を取ってみるが、時既に遅し。 「こんな酷いことを一体誰が…………」 続いてその男の胸の辺りに折り重なるようにうつ伏せになっている小さな少女の方を見る。 少女はメイド服を見ていたが、そのスカートの部分からなにやらふさふさした尻尾のようなものが出ていて…… 「尻尾? ……それにこれは!」 目を頭部に移してみると、その耳のあるべき部分には犬のような耳が生えていた。 ――フサフサした耳と尻尾。 それは彼女がこの地で新しく出会ったあの少女に類似していて、更に言えばその少女が探していた妹とやらに年頃が近いように見えた。 「まさか……この子がアルルゥさん?」 風は慌てて、彼女の手首を持ち上げる。 すると、それはまだ暖かく、しっかりと脈打っていた。 更に彼女の顔に自分の顔を近づけてみると―― 「……すー、すー、すー、うにゅ~……」 彼女は寝ていた。いや、怪我も殆ど無く本当にただ寝ているだけのようだった。 「でも、一体どうして……」 どうして彼女はこの切り裂かれた死体に折り重なるように、無傷で倒れていたのだろうか。 風にはそれが疑問に思えて仕方が無かった。 ――だが、今はそれを考えていても始まらない。 あのエルルゥが探していた妹を見つけてしまった以上、このような目立つ場所に放っておくわけにもいかない。 「せぇの――っと!」 彼女はその眠る少女をおぶるとひとまず安全な場所まで運ぶことにした。 そして、そうやって橋を渡りきり、東へ更に進路を進めている時に彼女は道路脇に横転するトラック、そしてその周囲にいる人々の姿を見つけたのであった。 ◆ トグサ達と風が互いに戦意が無い事を確かめ合うのにそれほど時間は掛からなかった。 そして、互いに自己紹介を済ませると、早速話題は風の背負っていた少女アルルゥについてに移ることに。 「その子は俺達も探している最中だったんだ。……どうやって君が見つけたのか話してくれるかい?」 「えぇ、勿論ですわ」 風は、アルルゥを見つけた経緯や背負っていた理由を隠すことなく話した。 トグサはそれを聞いて事情について納得すると同時に、新しい情報を手に入れる。 「なるほど。その橋で何かしらの戦闘があったと……」 「はい。私もその場に立ち合わせたわけではありませんが、あの橋自体の様子やそこで亡くなっていた男性の姿から連想すると恐らくは。それよりも……」 風の視線が、横転するトラック、そして倒れた二人の制服姿の少女へと向く。 「こちらで何があったのか、教えてもらえますか?」 「ああ。……だが、俺もこの場に到着したのは車がこうなった後だ。その前のことは……頼めるかい?」 急に話を振られたヤマトは驚きに変わる。 「は、はい!」 「……おい、だからいい加減……私を無視するな……。私だって語ることくらいは…………」 そして、またも豚は無視された。 トラックが本来、ハルヒの命により橋へと向かっていた事。 そのトラックが何者かの襲撃を受けて横転、ハルヒが重傷を負った事。 トグサが到着すると同時くらいに、長門が襲撃者に応戦すべく出ていった事。 そして、放送後にアルルゥが失踪したが、風に連れられてきて戻ってきた事……。 ヤマトとトグサはそれらを簡潔に説明する。 「……それじゃあ、あの橋で倒れていたのは……」 「ハルヒって人が助けようとしたのは男の方だっていうし、きっとそうだと思います……」 風が橋で見た死体――それは、本来ヤマトらが支援しようとしていた人物だった。 彼女はそれを知って、表情を暗くしながらも更に問いかける。 「それに、その有希さんという方は南の方角へ襲撃した方を迎撃しに行ったと仰っていましたけど、それはもしかして禁止区域に指定されたE-4のあたりでしょうか?」 「それは分かりかねるが……だが、今もあっちで何かが起こってるのは確かのようだな」 トグサは日の差す南の方へと目を向ける。 すると、その方向からは今も絶えず、何かがぶつかり合うような音が聞こえてきている。 「このままでは、いつこっちに戦場が移動、拡大するか分からない。……そうなる前に俺達は車を修理して病院に向かわねばならない」 「ハルヒさんと長門さんの治療、ですね」 「私の腹も…………そろそろスーパーピンチ…………」 「あぁ。特にハルヒという少女は、このままでは動かすこともままならない。……ここにある病院の設備で何とかなればいいのだが」 改めてハルヒを見やると、彼女は依然として目を覚ます気配もなく、顔もやや青白いままだ。 すると、その様子を見た風がトグサに声を掛けた。 「あのトグサさん。その治療ですけど、私がお力になれるかもしれません……」 ◆ きっかけは意志だった。 魔操師アルシオーネとの戦いで傷ついた友を助けたい――そんな意志に、セフィーロという世界は応えてくれたのだ。 「……傷を癒す術だと?」 「はい、そうです。私のその力を使えば、ハルヒさんと有希さんの傷を少しでも癒すことが出来ると思います」 そうは説明するものの、トグサの顔はどうにも半信半疑といった表情が浮かんでいる。 確かに、セフィーロに来た事のない人にそのようなことを話しても、疑われるのが関の山かもしれない。 彼女ですら、君島の言ったロストグラウンドやアルター能力の話やエルルゥの言うウィツァルネミテアや亜人の話を当初は信じられなかったのだから。 だが、ここで意外な助け舟が入る。 「トグサさん、風さんに一度賭けてみませんか?」 「ヤマト……」 「俺もここに来る前にいた世界で、色々な不思議なものを見ました。だから……傷を治す力があってもおかしくないと思うんです」 この時の風やトグサに、ヤマトがデジモンワールドというこれまた不思議な世界を旅していた事など知る由もなかったが、その言葉はしっかりとしていた。 「それに、やらないよりやったほうがきっといいはずです」 「確かに……そうだな。それじゃ、その力とやら、見せてもらうかな」 「……分かりました」 トグサに促されると、風は精神を集中させる。 あの時――傷ついた海を助けようと思った時のように。 ここはセフィーロではないが、不思議と力が集まってくるのを感じる。 もしかしたら、ここも意志が力になる世界なのかもしれない――そう思っていると、彼女の脳裏にあの言葉が思い浮かぶ。 そして思い浮かぶが否や、彼女の口は自然とその言葉を紡いでいた。 「――癒しの、風!!」 穏やかな風がその場に吹く。 それはトラックの横転する周囲を包み、そして次第に異変が現れる。 「……あれ? 打ち身の痛みが急に退いていく……」 「気持ち悪いのは…………治らんぞ…………」 軽い打撲や擦り傷が治っていくのを見てヤマトが驚きの声を上げる。 「こ、これが魔法だというのか? ――だとしたら」 トグサは横たわる長門に近づくと、体の至る所にあった擦り傷がもう塞がり始めていた。左腕のほうは見た目だけでは分からなかったが。 「信じられない……が、現実として回復してるのか。……じゃあ、こっちも……」 更に今度は昏睡状態だったハルヒの横に跪き、様子を見る。 まず腕の布を取り去ると、矢が刺さり腕に空いた穴は少しずつ塞がりつつある。 そして次に頭に巻いていた布を取り去ってみると……確かに出血は治まっていた。表層の傷も治りつつあるように見える。 ……だが、頭部へのダメージはその程度では治ったとはいえない。 頭には脳という人間の生命の根幹を司る器官がある以上、もっと設備の揃った場所でしっかりとした検査のもとに治療法を見つけない限り、本来は治るわけがないのだ。 「……如何でしたか? ハルヒさんや有希さんの容態は良くなりましたか?」 振り返るとそこには様子を窺おうとしている風の姿が。 トグサはやや複雑そうな顔をしながら答える。 「確かに、表層の怪我は大分治ってきてる。……だが、骨や脳に関しては何とも言えないってところかな。病院での検査次第ってことかもしれない」 「すみません、力が及ばなくて…………」 「いや、傷が治りつつあるということは、体内の治癒力が高まっているということかもしれない。……だとすればきっと良くなってるはずだ」 「……そう言ってもらえると嬉しいですわ」 そう言うと、僅かながら風の顔に笑みが浮かぶ。 やはり女の子は笑顔が一番だ――――トグサは先に逝ってしまったあの上司の笑顔はどのようなものなのかと想像しながら思った。 ◆ 風の治癒の魔法は確かにある程度の負傷の回復を実現した。 ――だが、それでもハルヒが依然意識不明なのは事実であり、病院でより適切な処置をするべきであることには変わりない。 それゆえにトグサはトラックの残りの修理を急ぎ、そしてそれを完了させた。 「本当に一人で大丈夫か?」 「えぇ。どうしても気がかりなので」 運転席に乗り込みキーを回しながら問うトグサに、車外にいる風は毅然と答えた。 曰く、彼女には探すべき人物がいて、その人物が放送で告げられた“動けないでいる参加者”かもしれないということでE-4に向かうつもりのようだ。 E-4方面と言えば、激しい戦闘音が断続的に聞こえていた上に、じきに禁止エリア化する場所だ。 しかも、ついさっき車に乗り込んだ直後あたりにはガス爆発のような巨大な爆発音すらあった。 トグサとしては、そのような危険ばかりを孕んでいる場所に少女を一人向かわせたくはないのが本音だ。 だが、この風という少女の決意は確固としており、彼が何と言おうと向かうのは必至であろう。 「すまない。俺が一緒に行ければよかったんだが……」 「心遣いありがとうございます。ですがトグサさんはハルヒさんと長門さん、それに……」 「救いの…………ヒーロー……ぶりぶりざえもんだ……」 「そう、ぶりぶりざえもんさんを治療する為に病院へと向かうことを優先するべきですわ」 「……あぁ。そうだな」 あの横転現場で出会ってしまった以上、見殺しには出来ない。 もうバトーや少佐の時のように死を黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。 「ハルヒさん達をよろしくお願いします。もう誰かがこれ以上亡くなるのは見たくも聞きたくもありませんから……」 失った友の事を思い出したのだろう、悲しげな顔をする風を見て、トグサは決意した。 今度こそ……今度こそミスをせずに少女達を助けてみせる、と。 「分かった。君の力に報いる為にも彼女達は俺が絶対に守ってみせる。……だから君も無事でいてくれ」 「えぇ、勿論ですわ。トグサさん、ヤマトさんもどうかご無事で。……それでは私はそろそろ――」 「――ま、待ってください!」 助手席でぶりぶりざえもんを抱えていたヤマトは、踵を返そうとする風を引き留めると、車を降りて彼女の前へと立った。 そして、長い棒状のもの――鞘に入った一振りの刀を差し出す。 「……丸腰じゃ危険だからその……これを持って行ってください」 「いいんですか? これはあなた方の――」 「構わないさ。もともとの持ち主には俺が説明しておく。それにこっちは車だし武器もまだ残ってるからな」 とは言っても、トラックにあるのはRPGとヤマトのクロスボウ、そして残弾少ない長門の銃くらいであったが。 それでも、徒歩の風を丸腰で行かせるわけにはいかなかった。 「……感謝しますわ。……それでは今度こそ、失礼致します。光さんやエルルゥさんを見つけた時は……お願いしますね」 「あぁ。君も、ホテルに向かう用事がある時はセラスを頼む」 「えぇ。……ではまたいつか」 こうして風はトグサ達に背を向けて歩き出した。目指すは爆心地のE-4。 ……それを見送るとトグサはギアを入れ替えペダルを踏み込み、トラックを発進させる。目指すは橋の向こうの病院。 ――そして、双方のいなくなったその地に再び静かに風が吹いた。 【D-3・橋付近(南岸) 1日目・午後】 【トラック組(旧SOS団) 運転:トグサ】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:比較的正常、若干の疲労 [装備]:73式小型トラック(運転席) 暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本 [道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん [思考]: 基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索 1、病院までの間、警戒しつつトラックを運転 2、情報および協力者の収集、情報端末の入手 3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索 [備考] 風と探している参加者について情報交換しました。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、右腕上腕に打撲(回復中)、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定 [装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(助手席) [道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク [思考・状況] 1、トラックに乗りながら周囲を警戒 2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。 3、八神太一、長門有希の友人との合流 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】 [状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒、激しい嘔吐感、無視されている、なぜか無傷、SOS団非常食扱い? [装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席) [道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回)、パン二つ消費 [思考・状況] 基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する 1.無視するなって言ってんだろうが貴様ら! ……お願いだからこっち向いてください 2.強い者に付く 3.自己の命を最優先 [備考] 黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。 癒しの風による回復はありませんでした。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:意識不明、左上腕に負傷(傷は塞がりつつある)、頭部に重度の打撲(出血は止まる。現在回復中) [装備]:73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考・状況] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。 1、気絶 [備考] 腕と頭部にはトグサの服の切れ端に代わり、風の包帯が巻かれています。 癒しの風を受けたものの意識不明の重体という状態は変化ありません。 あえて変化を挙げるならば、「動かすだけで危険」だった状態から、「動かす程度なら大丈夫」な状態に移行した程度です。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:疲労に伴う睡眠、左腕骨折、思考にノイズ、SOS団正規団員 [装備]:S&W M19(残弾2/6) 、73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式/タヌ機(1回使用可能) @ドラえもん [思考・状況]: 1、疲労回復の為に休息する [備考] 放送はトグサ達のもとに戻る前に聞いていました。 癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:諸理由に伴う睡眠、右肩・左足に打撲(回復中)、SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席) [道具]:無し [思考・状況] 1、精神的ショックと疲労による一時的な睡眠 [共通思考]:病院へ向かい、ハルヒと長門、ついでにぶりぶりざえもんを治療する。 [共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります) RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク(荷台に置いてあります) 【E-4 北東部 1日目 午後(15時よりも前)】 【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】 [状態]:健康、魔力中消費(1/2) [装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ [道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、 マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク 包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅) [思考・状況] 基本:光と合流して、東京へ帰る。 1:E-4範囲内に動けない人がいるか捜索、結果の如何に関わらず15時までに脱出する。 2:2で該当者が見つからなかった場合、F-8に向かい捜索する。 3:3の後、ホテル方面へ向かい、出来ればセラスと接触したい。 4:消えたエルルゥが気がかり。 5:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。 6:自分の武器を取り戻したい 7:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。 [備考] ・「癒しの風」について 風の魔法である「癒しの風」はいわゆる回復魔法です。 基本的に人間の自然治癒力を高める効果を持っており、傷や疲労の回復を促進します。 ただし、魔法により傷が完治するということはなく、あくまで回復の補助をするだけに留まります。 よって、切断された部位の接合や死者の蘇生は効果の範疇の外にあることになります。 また、病気や食中毒、疲労を回復することは不可能です。 また、発動には魔力と一定の時間を要し、対象が一箇所に固まっていた場合はそこにいた全員に効果があります。 消費した魔力は睡眠等の休憩で回復することができます。 *時系列順で読む Back:[[峰不二子の消失]] Next:[[白地図に赤を入れ]] *投下順で読む Back:[[峰不二子の消失]] Next:[[「ミステリックサイン」]] |155:[[お別れ]]|トグサ|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |155:[[お別れ]]|石田ヤマト|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |155:[[お別れ]]|ぶりぶりざえもん|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |155:[[お別れ]]|涼宮ハルヒ|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |155:[[お別れ]]|アルルゥ|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |145:[[正義の味方Ⅱ]]|長門有希|187:[[「救いのヒーロー」(前編)]]| |174:[[今、助けに行きます]]|鳳凰寺風|202:[[「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」]]|