「時は戻せなくても」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
時は戻せなくても - (2007/02/21 (水) 02:46:34) のソース
*時は戻せなくても ◆2kGkudiwr6 乗り物を走らせるというコトは、それだけで多大な労力を必要とする。動力がなんにせよ、だ。 わざわざそこまで再現する必要もないし利益もない、そう判断していた。 しかし、それは間違いだったと目の前の光景が教えている。 装甲で固めた列車が轟音と共に、目前を走り抜けていく。 後ろで束ねた髪が吹き飛ばされそうになるのを押さえながら、線路の脇に私は立っていた。 どうやら予想とは違い、動いていたようだ。 わざわざこんなことまで作っている辺り、ギガゾンビは余程神経質なのか、それとも暇人なのか。 「……もしくは、よほど強大な力があるのか」 そこまで考えて頭を振る。 いくら考えても答えは出ないし意味はない。今考えるべきことは生き残るためのこと。 列車はこの駅から発車した。もし列車目当てに参加者が駅に集まっていたとしても、それは列車に乗って去ったはず。 駅の内部を探るとすれば今のうちだろう。 そう決めて、私は駅へ歩き出した。 さっきまで戦っていた相手のことは考えなかった。 あれはもう自分の敵であり、私はあれの敵。気遣う理由などない。 ――あれはきっと敵に情けをかけられることを、屈辱だと思うだろうから。 ■ ……駅前はひどい荒れ様だった。倒壊したとおぼしき建物に何かの爆発の痕。そして死体。 もっともおかしな結果ではない。むしろ当然の結果だ。 それなりに参加者が集まるであろう場所だ、戦火の火種があって当たり前だろう。 「……探索は手早く行うべきだな」 そう呟いて構内に入る。 無論まだ参加者がいる、もしくは集まってくる可能性はある。 しかし、それを考慮した上で私は駅の調査を行うことに決めた。 あらかじめ調査しておけば、状況次第で逆に人が集まるという事を利用して待ち伏せや罠をかけることも可能だ。 虎穴に入らずんば虎子を得ず――もっとも、無謀と勇気の違いはしっかりと履き違えるべきだが。 クラールヴィントに警戒させながら内部を探索すること十五分ほど。 だいたいのことは把握できた。 「まず、発車は四時間おき。速度はそれほどでもない。 駅自体はそれほど大きな部類ではない……まあ、無人駅としては大きいほうか」 ――そして、隠れる場所はそれなりにある。 おそらく、もう一つある駅も同じか、大して変わらない構造だろう。 待ち伏せによる奇襲にはそれなりに適していると言える。 ただ、それなりに消耗している今はまだ行うべきではないが…… 「……む?」 そこまで考えた所で、私は眉を顰めた。 クラールヴィントに反応がある。生命反応ではない。むしろアーティファクトが発するものに近い。 発生源は倒れている赤毛の少年。当然、とうに息絶えている。 調べてみれば、正体はあっさりと見つかった。 「――ペンダント、だな」 ポケットから見つかったのは赤いハートのペンダント。 ただし、ただのペンダントではない。魔力を貯蔵するための物のようだ。 本来の許容量からは相当減ってしまっているようだが、それでも魔力は残っている。 ベルカ式のカートリッジに直して一発分、といった所だろうか。 この状況ではありがたい拾い物だ。切り札になる。それにこのデザイン―― そこまで考えたところで、ふと笑っていた。 「死体から物さえ漁るか。大した身分だ」 嘲笑う対象は自らの行い。 死体から物を漁ると言うのは、騎士ではなく賊が生業とすることに違いあるまい。 何より。死者を冒涜するような真似をした挙句、女の子に、 ――主はやてに似合いそうだなどと考えた自分は馬鹿にしか思えない。 「…………」 黙したままクラールヴィントに魔力を流す。目的は癒し。 幸い傷はどれも浅い。自分でも十分に治すことが可能だ。 もちろん魔力はそれなりに消費してしまうが……予備の魔力タンクとなる物を手に入れた今は気兼ねする必要はない。 ひとまずはペンダントの魔力を使わずに治し、誰かが来たらこのペンダントから魔力を吸い上げ完全な状態にして応戦、と言ったところか。 ……とはいえ、できれば温存したいのも確かだ。 「……列車が走っているとなれば、ここに留まるのは危険だな」 向こうの駅から何者かが列車に乗ってくる可能性もある。 待ち伏せをするには消耗が大きすぎる。一旦駅を出て、近くの民家で眠ることに決めた。 しばらく歩き、駅の出口からは死角となっている家へ入る。 そのまま入り口に家具を置いて即席のバリケードを作った後、クラールヴィントで結界を展開。 結界とは言うものの、封鎖結界のように周りとこの家を遮断するものではない。 この家に侵入しようとする者がいた場合知らせるという簡易的なものだ。 魔力消費も少なく、放って置いてもクラールヴィントが維持してくれる程度のもの。 置いてあった目覚まし時計を放送前の時刻に合わせて、私は眠りに付いた。 ■ かけておいた目覚まし時計の音に目が覚めた。窓から入ってくる夕日が眩しい。 「……もう五時半か」 目を擦りながら状況を確認する。 誰かが入ろうとした形跡はない。バリケードを作った意味もなかったらしい。まあ、無いほうがいいのだが。 そのままデイパックから食料を取り出した。睡眠の次は食事。 味わう気もないし、味わえるような食事ではなかった。 孤独で、味も無く、あるのは栄養補給という最低限のものだけ。 ――かつてのような食卓は、ここにはない。 口に入れたコッペパンを噛み締める。 ……必要以上に力が入ったのは否定できない。 食事を終え、言葉もなくその場から立ち上がるまでに数分も掛からない。 そのまま家を歩き回り、目的の部屋を見つけた。 騎士甲冑を解除し、服を脱いでいく。髪を解き、長髪を重力のままに流す。 一糸纏わぬ姿になったあと扉を開け、温度調節をした後コルクを捻る。 同時にシャワーヘッドから出てきたのは、冷たい水。 どうやら、ガスの通りが悪いらしい。程よい熱さになるまで時間が掛かった。 「…………」 逆に恐ろしくなるほど静かだ。するのは自分がシャワーを浴びる音だけ。 壁という障害物があることを抜きにしても、戦いの気配は全くない。いや、人の気配すらしない。 代わりに水蒸気が充満する。髪から、肩から、腿から、水が流れ落ちていく。 前にヴィータにからかわれた事もある、豊満な胸から水滴が落ちる。 汗と――返り血と、自分の業を洗い流せるような錯覚。 しかしそれはあくまで錯覚に過ぎない。これはこんな水では洗い流せない。 ――過去は、決して簡単に逃げ出せるようなものではない。決して。 窓から差し込む夕日に肢体を照らされながら、シャワーを止めた。 体を拭って服を着、再び騎士甲冑を具現化する。そのままリビングに戻ってソファに座り込んだ。 当分、ここから動くつもりはない。ペンダントの魔力も温存しておきたい。 18:30までひとまず休み、まだ完全に回復したわけではない魔力の自然回復を待つ。 その後は駅に行き、列車に乗って中心部を目指す。 後は状況次第だ。駅から出て積極的に狩るか、駅で待ち伏せを行うか。 考えるのはそんなことだけだ。 ――余計なことは考えない。 敵対することになったヴィータのことなど考えない。考えても意味がない。 時は戻せない。自分は独りで戦い抜く、この事象は決定された。どう足掻いてもこれは変えられない。 ――だから、せめて。未来で在りし姿を取り戻せるように願う。 そのためには。 下らない情など、邪魔だ。 だから、考えない。考えては、いけない。 考えないように意識すると言うことは考えるのと同義だと――そんな声も、聞こえた。 【F-1/駅周辺の民家/夕方】 【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:魔力消費小/騎士甲冑装備 [装備]:ルルゥの斧@BLOOD+ クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's 鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢20本) コルトガバメント(残弾7/7) 凛のペンダント(残り魔力カートリッジ一発分)@Fate/stay night [道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、スタングレネード×4 ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15) [思考・状況] 1 :駅に行って列車に乗り、中心部へ。 2 :無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す。 基本:自分の安全=生き残ることを最優先。 最終:優勝して願いを叶える。 [備考] ※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。 ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」 という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。 ※第二回放送を聞き逃しました。 ※士郎の遺体からペンダントを回収しました。 *時系列順で読む Back:[[Infection of tears]] Next:[[へんじがない。ただのしかばねのようだ。]] *投下順で読む Back:[[Infection of tears]] Next:[[へんじがない。ただのしかばねのようだ。]] |170:[[――は貴方の/あたしの中にいる]]|シグナム|210:[[永遠の炎]]|