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苦労人 - (2021/10/19 (火) 23:34:18) のソース
*苦労人 ◆/1XIgPEeCM 時刻は遂に18時を迎え、窓から覗く外の景色もすっかり薄暗くなっていた。 ジャイアン少年の話を聞こうとしていた俺とトウカさん。だがそれよりも先に、本日三度目となる定時放送を聞くことになるのであった。 『まずは悲しい知らせからしておこう。 遂に禁止エリアに留まって爆死する者が出た。今まで散々忠告した上に、懇切丁寧に警告までしてやっているというのに、だ。』 第三回目の放送で最初に流れた内容はそれだった。 そういえば、第二回目の放送で禁止エリアに指定された場所に、身動きのとれない参加者がいるとか言ってたな。 結局その参加者は禁止エリアから脱出することができず、首輪を爆破されてしまったということだろうか。何とも痛ましいことだ。 その人を助けてあげられなかったことによる悔しさと、ギガゾンビに対する怒りをひしひしと感じながらも、俺は放送に耳を傾けた。 禁止エリアをメモし終え、遂に死亡者の発表となる。 『朝倉涼子』 俺の知っている人物がまた一人呼ばれた。まあ、予想はしていたからさして驚きもしなかった。 ここには市街地を容赦無く破壊するスーパーマンや、一エリア丸々ぶっ飛ばすようなとんでもない奴が存在するのだ。 いくら朝倉でも、そんな奴に襲われたりしたら普通に死ぬわな……。朝倉を追い詰めたアーカードとかいう吸血鬼も、相当ヤバイ奴に違いない。 俺が今こうして生きていられるのも、実はすごい偶然の積み重ねなんじゃないか? と、そんなことを考えてしまう。 何度も言うが、もしトウカさんがいなかったら俺はとっくに甲冑女騎士に葬られていたであろう。本当にここは地獄だぜ。 さて、朝倉の名前も呼ばれたことだし、トウカさんには後でハクオロさんの死について教えてあげなければならないな。 「蒼星石だって!?」 と突然、俺の隣に座っていたジャイアン少年が血相を変えて立ち上がった。 その動揺ぶりはさながら、現在入院中の母上様の病状が急激に悪化したとの報を電話で伝えられたかのようなものだった。 「ど、どうした?」 「くそっ! 翠星石!」 そんな俺の問いを無視して、彼は部屋の出口へ向かって走って行く。 何でそんなに慌ててるんだ? 察するに、蒼星石って奴の死が関与してるみたいだが。 って、そんなことよりまずはこいつを止めなければ! 「待て!」 だが、そんな俺よりも早くトウカさんが立ち上がり、彼の腕を捕まえてそれより先には行かせまいとした。 「離してくれよ! 翠星石を探しに行かないといけねぇんだよ!」 ジャイアン少年は必死に自分の腕を掴むトウカさんの手を引き剥がそうとするが、瞬間接着剤で接着されているかのようにその手は離れない。 トウカさんは女性だが、こう見えても立派なお侍様である。剣を振るうことが多いから、多分握力とか俺より強いかもしれん。 妙に肩身が狭くなったような感覚に陥ってしまうが、今はそんなことを考えている場合じゃない。 俺はトウカさんと同じように彼に近付き、言った。 「どういうことか分からんが、まず落ち着いてくれ。そして話を」 「これが落ち着いていられるかよっ!」 「だから落ち着けって! まだ話を聞いていない!」 俺がそう怒鳴りつけると、彼は一転してぽかんとした表情で俺を見つめた。 「……話?」 「ああ、そうだ、話だ。お前がどうして翠星石ってのを探しているのか、話してくれるんじゃなかったか?」 まさか、忘れたとは言わせないぞ。 パソコンや掲示板で得ることができる情報は増えたが、まだまだ足りない。 できるだけ多くの参加者の情報が得るため、彼のここまでに至る経緯は是非是非聞いておきたいのだ。 「……そうだった、すまん……」 ジャイアン少年は急激に熱を冷まし、申し訳無さそうな顔でそう呟いた。 ふぅ、何とか引き止めることはできたようだが、この少年、少々ハルヒに似て感情の起伏が激しいようだ。仲間想いの良い奴だが。 俺は、トウカさんから解放された彼をソファに座るように促し、話してもらうことにした。 これまでに、一体何があったのかを。 「そうか、そんなことが……」 ジャイアン少年が5分ほどの時間をかけて話してくれた事実をまとめるとこうだ。 彼はこの糞ゲームの会場に来て殆どすぐの時、翠星石という動く人形に出会った。 それから暫く二人は知り合いを探すために歩き回っていたわけだが、そこで古手梨花という少女と出会う。 さらにその後、古手梨花の友人であるらしい園崎魅音とも合流することに成功する。 増えていく女性陣。ハーレム気取りか、良い御身分だな少年。 いや、俺も似たようなもんか……? まあそれは置いといて、だ。悲劇は突然やって来たのである。 第二回目の放送後、動けない参加者の情報を聞いた一行は、近くのE-4を捜索することとなった。 そこで見つけたジュンと言う少年の死体。親しい関係にあったのだろう、それを見つけた翠星石は随分と悲しんだそうな。 ここまではまだ分かる。問題はここからだ。 仲間の一人である梨花がそんな翠星石を慰めようとしたところ、翠星石は突然持っていた銃で彼女を撃ち殺したらしいのだ。 さっきの放送でも、古手梨花という名前はしっかり呼ばれていた。本当に死んでしまったと見て間違いない。 一方、友人を目の前で殺されて怒り狂った魅音は翠星石に襲い掛かったが、反撃されて肩を負傷。 それらを見てジャイアン少年は何とかしなければと思い、翠星石を持っていたうちわで吹き飛ばしたという。 因みに、うちわとは言っても、夏の暑い日に扇いで使うようなただのうちわじゃなく、結構強力な物らしい。 しかし何を誤解したのか、魅音はそれを見て逃げ出してしまい、翠星石とも離れ離れになり……。 ジャイアン少年は一人翠星石を探し続け、今に至るという訳だ。 「どうしてあんなことになっちまったんだよ……ちきしょう……」 悲しみやら悔しさやら怒りやらが入り混じった表情で、無念そうにジャイアン少年は嘆いた。 仲間だと思っていた奴が、急に同じ仲間を殺す瞬間を間近で見たんだ。無理もないよな。 俺はもう一つ、気になっていたことを聞いた。 「そういえば、さっき蒼星石って名前にえらく反応してたよな。その蒼星石ってのは誰なんだ?」 自分で聞いておいてなんだが、大方予想はつく。 翠星石と蒼星石。この二つの名前はよく似ている。恐らく、何かしら深い関係があるはずだ。 「蒼星石は、翠星石の双子の妹なんだ……翠星石の奴、今頃すっげぇ悲しんでるに違いねぇよ……」 ジャイアン少年の口から出た答えは、俺の予想が概ね的を射ていたことを示していた。 妹か。確かに、血の繋がった実の妹が死んだら、普通は悲しみに暮れるであろう。 俺にも妹がいるが……って、待て待て待て! そんな縁起でも無いこと考えるんじゃない! ……と言うか、今頃どうしてるんだろうな、あいつ。まさか、俺が突然居なくなって泣いたりしてないだろうな。 「気持ちは分かるが、あまり勝手な行動は起こさぬようにしてくれ」 トウカさんが強い口調でそう言った。 彼はその言葉を受けて俯き、「ごめん、キョン兄ちゃん、トウカ姉ちゃん……」と謝罪表明。 ま、別に謝られるほどのことじゃないとは思うんだがな。俺は、別に気にしてないと返した。 そうこうしている内に少年も話すことが無くなったのか、俺達三人の間に沈黙が訪れる。 しかしどういうことであろうか。不思議なことに、彼は立ち上がろうとしなかった。 「探しに行かないのか?」 俺がジャイアン少年に向かって問うと、彼は意を決したようにこう言った。 「キョン兄ちゃん、トウカ姉ちゃん! 俺と一緒に翠星石を探してくれ!」 「え?」 あまりに唐突。 俺がその言葉に呆気にとられていると、彼は両膝と両手のひらを床に付き、土下座するための姿勢をとった。 「頼むよ二人共! 力を貸してくれ! この通りだ!」 懇願するように言って、ジャイアン少年は深ーく頭を下げた。 既に人一人殺している奴を探すのに協力する。常識的一般的普遍的に考えて、そんな危なっかしい取引はどんなに大金を積まれたって迷うだろう。 そいつが完全に正気を失って、手当たり次第に殺し回ってる可能性もあるなら尚更だ。 俺だって自分の命は大事だし、できればそんなこと御免蒙りたいものである。 しかし。しかしだ。 SOS団に加入(と言っても強制的にだが)してからというもの、宇宙人、未来人、超能力者など、俺の知っていた現実を遥かに超越したものを俺は数多く見てきた。 命に関わるような厄介事に巻き込まれることもあったし、ある時には全世界の危機だって体験した身だ。今更そんなことを恐れてどうする。 それによくよく考えてみたら、こんな子供を一人で行かせる訳にもいかないじゃないか。 おまけに、これだけ必死にお願い申し上げるときたもんだ。ジャイアン少年のこの行動は、俺の中の良心を揺さぶるには十分すぎる威力を持っていた。 俺はこいつを助けてやりたい。つくづく自分の甘さに嫌気がさしながらも、俺はそう思った。 だが、俺は良くても……。 「トウカさんはどう思います?」 俺は、この忌々しいゲームが始まって約18時間、ずっと一緒に行動してきた仲間であるトウカさんに意見を求めた。 彼女は少し考えるような表情をした後、こう返してくる。 「エヴェンクルガの誇りにかけ、キョン殿をお守りするのが某の役目。 しかし、やはりこのような幼子を放っておく訳にもいかぬ。某は武殿もお守りし、同時に人探しにも最大限の協力をしたいと思う」 その意外な返答に、俺はちょっぴり驚いた。 彼女は俺を自らの命に賭けてでも守り通すと言ってくれた人だ。 てっきり俺は『キョン殿を危険な目に遭わせるわけにはいかぬ』と反対するかとも思ったんだが……。 まあ、結果オーライだ。良かったな少年。 俺はトウカさんに一度頷いてから、未だに頭を下げ続けているジャイアン少年に声をかけた。 「頼むから頭を上げてくれ。協力してやるから」 俺がそう言った途端、少年は瞬時に頭を上げた。その反応の速さに俺は思わずたじろぐ。 沸騰してピーピー言ってるヤカンを触って、あまりの熱さに反射的に手を引っ込めるのと同じくらいの速さだ。 と、今度は両肩を激しく揺さぶられる。 「本当か!?」 「あ、ああ。俺達にも探し人がいる。仲間は多いに越したことがないしな」 俺の言葉を受けて、彼の表情は見る見る内に希望に満ち溢れていく。何故だか俺はそれを見て、いやぁな予感がした。 「ありがとう! 心の友よー!」 「うおっ!」 なんと言うことだろうか、ジャイアン少年は感涙混じりの声で叫びながら俺に抱きついてきた。 ちょっと待ってくれ。こう言うとなんかアレだが、俺はお前の友達じゃない。 出会ってまだ一時間も経ってないんだぞ? だのに、そんな大それた称号を進呈されてしまうとは、嬉しいやら迷惑やら……。 と言うかそんなに強く抱きしめられると、く、苦しい! 苦しいっての! 「は、離せ……!」 「キョン殿!」 「あ……」 ジャイアン少年の豊満なボディから開放された俺は、直後盛大に咳き込んだ。 はぁ、やれやれ……また、大変なことになりそうだ。 【D-4・雑居ビル/1日日 夜】 【剛田武@ドラえもん】 [状態]:健康 仲間の分裂に強い後悔、額にこぶ、焦り [装備]:虎竹刀@Fate/stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん [道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん シュールストレミング一缶、缶切り [思考・状況] 1:翠星石が非常に心配。キョン達と共に一刻も早く探し出し、落ち着かせる。梨花の件についての理由も聞きたい。 2:手遅れになる前に、のび太とドラえもんを見つける。 3:逃げた魅音もかなり心配。必ず探し出し、守る。 基本:誰も殺したくない 最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる 【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意 [装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚@ドラえもん [道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン [思考・状況] 基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る 1:武の翠星石探しに協力してやる。 2:トウカにハクオロを殺した犯人について話す。 3:掲示板が気になる。 4:『射手座の日』に関する情報収集。 5:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合い及び、ハルヒ達を捜索する。 6:アーカードを警戒する。 7:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような…… [備考] ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照ということで 【トウカ@うたわれるもの】 [状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ [装備]:物干し竿@Fate/stay night [道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に [思考・状況] 基本:無用な殺生はしない 1:武の翠星石探しに協力する。 2:キョンと共にキョン、君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥ達を捜索する。 3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武を守り通す。 4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。 *時系列順で読む Back:[[最悪の/最高の脚本]] Next:[[永遠の炎]] *投下順で読む Back:[[最悪の/最高の脚本]] Next:[[永遠の炎]] |188:[[がんばれジャイアン!]]|剛田武|217:[[以心電信]]| |188:[[がんばれジャイアン!]]|キョン|217:[[以心電信]]| |188:[[がんばれジャイアン!]]|トウカ|217:[[以心電信]]|