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なくても見つけ出す! - (2021/12/02 (木) 22:05:25) のソース
*なくても見つけ出す! ◆WwHdPG9VGI ようやく見えてきた病院の影に、ドラえもんはホッと胸を撫で下ろした。 「太一君! もうちょっとだからね」 「見えてるって。ったく、ドラえもんは心配性だな」 太一はそういって苦笑するが、その顔色はあまりよくない。 何といっても右手切断という大怪我を負っているのだから当然だろう。 前を行くカズマにも疲労の色は濃い。足を怪我をしているのび太も心配だ。 (早くみんなを休ませないと……) 幸いな事に、不幸の女神もこれ以上の艱難辛苦を一行に与えるつもりはなかったらしい。 ほどなく、病院の入り口に4人は差し掛かった。 「……ん?」 病院の正面玄関前に人影を見つけたカズマが、後ろの3人を庇うように前にでると身構える。 「大丈夫だよ。カズマさん……」 「あァ?」 のび太の静止にカズマが怪訝そうに眉を上げた。 「その人もう……。死んでるから」 のび太の言葉通り、車椅子に乗った少女、八神はやてはただ、物言わぬ体を月明かりに晒していた。 ■ 「のび太く~ん!」 病院の中を歩きながら、ドラえもんはきょろきょろと廊下を見渡した。 闇が廊下を押し包み、非常灯のライトだけが薄く照らしている。 肝試しにはうってつけといった風情である。 カズマと太一は、ドラえもんの治療を受けるやいなやベッドに倒れこみ、超特急でヒュプノスの御許へと旅立って行った。 負傷に加え、あれだけ体を酷使したのだから無理もない。 特に深刻だったのはカズマだった。 彼は、全身に打身・裂傷・火傷を負い、さっきまで歩いていたという事実が信じられない状態であった。 (無茶するなあ、カズマくんは……) ドラえもんはため息をついた。 人間離れした精神力の持ち主であることは賞賛に値するが、それが命取りにならないとも限らない。 カズマの体についても、今後は気をつけるようにしようとドラえもんは誓う。 そして、眠った二人にシーツをかけた後、のび太の足の手当てをしようと思ったのだが、その当人がいない。 (おかしいなあ……。どこいっちゃったんだろう?) その時、前方から見慣れた人影が向かってくるのに気づき、ドラえもんは胸を撫で下ろした。 「のび太くん!」 「ドラえもん、どうしたの?」 「どうしたもこうしたもないよ。ほら、足見せて。ちゃんと手当てしないと……」 心配そうなドラえもんに向かって、のび太は小さく笑みを浮かべて見せた。 「いいよ、僕は。さっき手当てしてもらったばっかりだし」 そこでドラえもんは初めて、のび太が病院の倉庫から調達したとおぼしきスコップを持っている事に気づき、 「そんな物持って何処行くの、のび太くん?」 驚きの声を上げた。 「正面玄関のあの子、埋めてあげたいんだ。あそこにあのままじゃ、可哀想すぎるよ」 暗く沈んだのび太の声音に、ドラえもんは胸を突かれる思いがした。 「そうだね……。じゃあ、僕も手伝うよ」 「ドラえもんは、カズマさんや太一君についててあげて。二人とも大怪我してるんだし。 僕は一人で、大丈夫だから」 そう言って、悲しげな表情を浮かべたまま、のび太は正面玄関へ歩いていった。 「のび太くん……」 ドラえもんはのび太の後姿を見送ってため息をついた。 のび太は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむ事のできる、優しい少年だ。 だから今、この状況で深く傷ついている。 友達を失い、自分を守ろうとしてくれた人を失い、深く傷ついている。 そしてそれは、今眠っているカズマと太一もそうだ。 何とか3人を元気づけてあげたいものだと、ドラえもんは考える。 「そうだ!」 少しの間、思考の井戸に沈んでいたドラえもんは、ふとアイデアを思いつき顔を輝かせた。 ■ ざっ、ざっ、と土を掘り返す音だけが、病院の庭に響いている。 のび太はチラリと、車椅子の少女に視線を走らせた。 暗い褐色の死斑が浮かび上がり、顔を背けたくなるような状態である。 だが、勇気を振り絞ってよくよく注視すれば、生前は可愛いと評されることが多かったであろうことが予想できる顔立ちだ。 だが、この優しげな少女が二度と口を開く事も、動く事もないのだ。 それが死だから。 のび太は知っている。 死というものが周りの人間にどれだけ喪失感をもたらすかということを。 優しかった祖母が死んだ後、自分がショックから立ち直るのにどれだけの時間を要したか。 一度自分がドラえもんの秘密道具で過去に行っている時、自分が死んでいると誤認した母親がどれだけ取り乱したか。 この少女の両親は、友達は、どれだけ嘆き悲しむのだろうか? それを思うとのび太の心は悲しみで重くなる。 同時に心に湧きあがってくるものがあった。 それはギガゾンビに対する底知れぬ怒り。 (しずかちゃん、スネ夫、先生、キートンさん、銭形のおじさん……) 目の前で死んでいった人達。そして、この少女のように何処かで死んでいった人達。 どの人達にも同じように家族がいて、悲しむ人達がいるだろう。 それを、それを…… ――これは私の退屈をしのぐ見せ物なのだ 始めに集められた会場で、確かにあの男はそう言った。 (許さない、絶対に許さないぞ……) これほど一人の人間が憎いと思った事は無かった。 いつもは腹が立つことはあっても、眠ればすぐに忘れる事ができた。 だが、今度だけは忘れられそうにもない。 怒りの炎はすぐに業火となって頭に駆け上がり、のび太の奥歯が音を立てて軋み、視界が眩む。 (でも、一体どうやったらいいんだろう……) 怒りの炎の火勢が、急速に弱まっていくのをのび太は感じた。 どうやったら、ギガゾンビに思い知らせてやれるのか、さっぱり分からない。 五里霧中どころか、目指す目的地すらさだかではないのだ。 天を仰ぎ、のび太は大きくため息をついた。 闇に浮かぶ月は真円を描き煌々と光を放っており、その煌きがのび太を少しだけ陰鬱さから解放してくれた。 (そうだ。銭形のおじさんのお墓も作ってあげなきゃ……) となるとグズグズしている暇はない。 のび太は、一心不乱にスコップを動かし始めた。 ■ 「終わった……」 ほおっと、深い息を吐いてのび太は座り込んだ。 胸に小さな達成感が湧き上がる。 目の前には三つの盛り土。 襲ってきた神父の格好をした男の墓は、作ろうかどうか迷った。 でも、この人にも大事な人がいて、必死に帰ろうとしていたんじゃないかと思ったら、放っては置けなかった。 のび太は三つの墓に向かってそっと手を合わせた。 「ご苦労様、のび太くん」 後ろからかかった慈しみに満ちた声に、のび太はゆっくりと振り返った。 予想通り、後ろにはドラえもんの顔があった。 いつものように笑顔を浮かべているドラえもんの顔を見ていたら、思わず涙が出そうになって、 「ど、どうかしたの? ドラえもん」 のび太は慌てて眼鏡をはずして目をこすった。 そんなのび太に、ドラえもんはもう一度優しく笑いかけた。 「ご飯だよ、のび太くん」 「……ご飯……って?」 何でもない言葉のはずの言葉の意味をのび太は一瞬真剣に考え、思わず聞き返してしまう。 「カレーライスだよ」 可笑しそうにドラえもんは答えたのだった。 ■ 「これ、お前が作ったのか?」 眠っていたところを起こされ、始めは不機嫌そのものといったカズマだったが、 実際に現物が運ばれてくると、目を大きく見開き、身を乗り出した。 太一ものび太も、信じられないと言うように目の前の物体を見つめている。 「病院だから、ひょっとしてと思ったんだ。食材が残ってて良かったよ」 何人かが持ち去った形跡があったが、幸いな事に、病院の大きな冷蔵庫にはまだ食材が残されていたのだ。 形は不恰好ながら、ジャガイモ、にんじん、タマネギといった定番の野菜の他に肉も入っている。 カレー粉の匂いが鼻腔を刺激し、空腹感を喚起された3人はゴクリと喉を鳴らした。 ドラえもんは顔をほころばせる。 食べる事は、生の喜びを実感させ、活力を生み出す行為なのだ。 ろくなものを口にしていない3人には、これ以上ないプレゼントになるだろう。 「んじゃ、遠慮なくいただくぜ!!」 カズマが真っ先にスプーンに手をのばし、猛烈な勢いでカレーをかきこみはじめる。 「うん、うめーな、これ!」 食べると言うよりは喰らいついているという形容が似合うカズマに負けじとばかり、 「じゃ、俺も……」 スプーンに手を伸ばしかけた太一の顔がさっと陰る。 スプーンに伸ばしかけた腕の先には、それを掴むべき手首がなかったからである。 今更ながらに自分は右手を失ったのだという実感を太一が襲う。 ――これからは右手がない状態で生きていかねばらない。 利き手を失う。 それは小学校5年生の少年にとって、目の前が暗闇で塗りつぶされたように感じるほど、過酷な事実だった。 だが、それでも。 「いっただきまーす!」 腹に力を込めると、太一はその感情を心の奥に押し込めようと、明るい声を張り上げた。 そして左手でスプーンを掴み、慣れない手つきでカレーを口に運び始める。 (負けてられっかよ! 俺が殺しちまった人の痛みに比べれば、これぐらい……) 誰も何も言わなかった。 逆境に耐え、立ち向かおうとする少年に対し、気遣う姿勢をみせるのは侮辱だと誰もが思ったからである。 「いただきます!」 自分もカレーを口に運びながら、のび太は静かにギガゾンビへの怒りを燃やし、 「お代わりあるから、たくさん食べてね」 ドラえもんは太一の痛ましさと健気さに泣きそうになるのを必死でこらえ、 「じゃあ、頼む。大盛りで頼むぜ!」 カズマは、ギガゾンビを絶対にぶちのめすと改めて誓った。 ■ 「なくなっちゃった……。しょうがないなあ、明日は早起きして作らないと」 残りは朝食にするつもりで作った大鍋のカレーは、後かともなく消え去っていた。 欠食児童3人の食欲を少々甘くみていたのかもしれない。 それでも大鍋を洗いながら、 「美味しかった! ありがとう。ドラえもん!」 「食った、食った……。ありがとよ、美味かったぜ」 「ほ~んと。すっげー美味かった。ありがとな、ドラえもん」 満足そうに部屋に戻っていった太一とカズマ、そしてのび太の顔を思い出すと、 ドラえもんは自分の頬がだらしなく緩むのを感じた。 (カレーぐらい誰でも作れるのになあ) だが、あれほど喜んでもらえると作り甲斐がある。 (朝食は何にしようかなあ?) などと考えながら、ドラえもんは食器を洗い続ける。 ほどなく食器を全て洗い終え、ドラえもんは足音を忍ばながら、三人が眠っているはずの部屋のドアを開けた。 (あれっ? のび太くん、また……) カズマと太一はベッドに横たわり目を閉じていたが、のび太の姿はない。 ドラえもんはのび太を探すべく、病院の廊下を歩き出した。 ■ 病院の正面玄関から少し入った所にあるソファーに腰を下ろし、のび太は手の中の銃を見ていた。 思い出すのは、神父の格好をした男との戦闘の事。 確かにあの男の生命力は人のそれを大幅に超えていたし、動きも尋常ではなかった。 それでも、と思う。 (僕は、迷ってなかったんだろうか?) 銃で人を――。 ――射殺する という行為を。 戦っている時は無我夢中で撃っていたが、ちゃんと急所を狙っていたのだろうか? 正直、人を殺すという行為のことを考えるだけでゾッとする。 今も自分の思考の恐ろしさに、足が震える。 でも、ためらったらまた、誰かが死ぬかもしれない。 それは自分かもしれない。いや、自分ならまだいい。 自分の周りにいる人間が、また死んだりしたら……。 今一緒にいる、カズマや太一や、 ――ドラえもんが、死んだら (ドラえもんが、死ぬなんて絶対嫌だ!) ドラえもんは親友だと思う。ロボットだとかどうとかは、関係ない。 両親を除けば一番長く時間を共にし、喜びも悲しみも共にしてきた親友。 絶対に失いたくない。 (そうだよ。誰だって、大事な人を失いたくない、悲しませたくないって思ってるんだ) だから、ゲームが続く限り、闘いが絶えることはない。 一分一秒でも早くこの殺し合いのゲームを終わらせなくてはならないのに…… そこでのび太の思考はいつものように空転する。 考えても考えても自分の知識ではどうにもならない。 近づいてくる気配が誰のものかすぐに分かったが、のび太は下を向いたままだった。 「こんな所にいたのか。駄目だよ、のび太くん。眠らなきゃ。見張りなら僕が――」 「ギガゾンビを倒すにはどうしたらいいか、教えてよ! ドラえもん!」 瞳に懇願の色を宿し、のび太はドラえもんを見上げた。 「のび太くん……」 ドラえもんは困ったような表情を浮かべた。 のび太は何かに憑かれたように話し始めた。 「さっきも言ったけど、僕はもう誰かが死ぬのを見たくないんだ。 そのためにはゲームを止めるしかなくて、ゲームを止めるためにはギガゾンビを倒すしかないでしょ? どうにかならないの? 僕は何もできないの?」 のび太の問いかけにドラえもんは沈黙するしかなかった。 何故ならのび太の問いは、ドラえもんが何度も自分の中で発したものだったからである。 だが、その結論はいつも同じだった。 ――ひみつ道具がなければどうにもならない それを何とのび太に伝えようかとドラえもんが思案している間も、のび太は言葉は続く。 「カレイドルビーってお姉さんは、ギガゾンビについて知りたがってた。 知れば、自分の魔法の知識で何とかできるかもしれないって。 そりゃ僕は、あのお姉さんと違って魔法なんか使えないし、頭もよくないかもしれない。 でも、本当に何もできないの? 何かできることがあったら教えて欲しいんだ。 ドラえもんが分からないことがあるなら一緒に考えるから。だから、お願いだよ! 何でもいいから……教えてよ!!」 最後の言葉は血を吐くような響きを伴っていた。 のび太の必死の訴えにドラえもんは、思わず考え込む。 (……魔法) そういえば、消滅した少女ヴィータも『魔法』を使っていた。 今の今までドラえもんは、23世紀の科学力を行使するギガゾンビには、 自分が22世紀の知識と道具をもって対抗するしかないと思っていた。 だがしかし、 (そうだ。よく考えてみたら、カズマ君がそうだけど、 このゲームの参加者の中には、22世紀の科学でも説明できない力を持った人間がたくさんいるじゃないか) その力を使って、このゲーム脱出の糸口を掴んだ人間がいるかもしれない。 さっきのび太は、『分からない事があれば一緒に考えるから』と言った。 その通りだ。 取っ掛かりや推論を組み立てた人間が数人集まって、さらにその推論を推し進めることができたなら? 推論は出来なくとも、推論を実行に移せる技術や力を持った人間と力を合わせたなら? (僕は一体何をやってたんだ。そもそもギガゾンビを倒せたのは、僕の力じゃない。 のび太くん、ジャイアン、スネ夫くん、静ちゃん……。みんなと力を合わせたからじゃないか。 いつだってそうだったじゃないか) 絶体絶命の危機を脱するために、みんなで頭を捻り、力を合わせる。 何故そんなことも忘れてしまっていたのか。 ドラえもんは、のび太の顔を正面から見つめた。 「のび太くん、実は僕もどうやったらギガゾンビを倒せるか分からないんだ。 でもとにかく、僕が分かってる事を全部話す。それでいい?」 ドラえもんの言葉にのび太は顔を輝かせる。その時、 「そういう話には、俺達も混ぜてくんねえか?」 「カズマさんの言う通りだよ。何か知ってるんなら俺達にも聞かせろよな! ドラえもん!」 二つの声が廊下に反響し、ドラえもんとのび太は思わず顔を見合わせた。 「カズマくん、太一くん……。寝てたんじゃなかったの?」 「うるさくて寝てらんねぇ……。とにかく話せよ、その分かってることとやらをな!」 怒ったようにカズマがいい、太一も大きく頷く。 「分かった……。とにかく病室に戻ろう、そこで話すよ」 ドラえもんの提案に、3人は黙って肯定の意を示したのだった。 ■ 「実をいうと、分かっているっていうのは正確じゃないんだ。 僕の考えっていうのか、推測っていうのか……」 「前置きはいい。さっさと話せっつってんだろ!?」 「わ、分かったよ。もう、すぐ怒鳴るんだから。カズマくんは」 苛立たしげに怒鳴るカズマに閉口したように、口をとがらかせるとドラえもんは話し始めた。 「まず、僕達の状況から話すね。 僕たちは今、この世界から出られないし、助けを呼ぶことも、助けが来る事もない状況におかれてる」 ドラえもんは一度言葉を区切ると、3人を見渡した。 3人とも一様に神妙な面持ちをしている。 「のび太くんは知ってるだろうけど、時間移動やワープ、並行世界への移動は超空間を通ることによって可能になる。 超空間っていうのは、過去と未来や任意の点と点、さらには並行世界と並行世界をつなぐ道みたいなもんだと思って欲しい。 その道をギガゾンビは、亜空間破壊装置という機械で破壊してしまったんだ。 そのせいで、タイムパトロールっていう――カズマくんと太一くんは知らないと思うけど―― 時空を超えた犯罪者の取締り機関も手が出せないってわけ」 深海の如く深い沈黙が4人を捕らえた。 誰も一言も発しようとはしない。 不安に駆られ、太一はちらちらと、周囲を見渡した。 (やっべ……。分かんないのって俺だけ?) 分からないと言うのは少し恥ずかしいが、話についていくためには仕方ない。 (俺小学生だし、のび太みたいにドラえもんと一緒にいたわけじゃないし、仕方ないよな) 自分にそう言い訳しつつ、太一が口を開こうとしたその時、 「で……。チョークーカンって何だ? 食えるのか?」 カズマが言うのとほぼ同時に、 「もう! ドラえもんはなんでそういつも、チョーカンとかヤーカンとかトンチンカンなことばっかり……」 のび太が呻き声を上げる。 (良かった、俺だけじゃなくて……。って全然良くないだろ!) 光子郎がいればなあ、と思いつつ太一は嘆息をもらしたのであった。 「ごめん、僕の説明の仕方が悪かった」 仕切りなおすつもりでドラえもんは、口を開いた。 「僕達が今いるところを海に浮かんだ島だと思って欲しい。 この島は、僕達の世界、太一君のいた世界、カズマ君のいた世界と超空間という橋でつながっていて、 超空間という橋を渡ることでしか、島とみんなの世界を行き来する手段はないんだ。 ところが、ギガゾンビがその橋を、亜空間破壊装置で壊しちゃったから、 この島から他の世界に行く事も、他の世界からこの島に来る事もできなくなっている。 つまり、タイムパトロームも誰も助けに来てくれないし、助けを呼びに行く事もできない、というのが僕達が置かれている状況なわけ」 またも沈黙が満ち、ドラえもんは不安に襲われた。 (う~ん、もう少し噛み砕いて言った方がいいかなあ? でも少しくらいは……) またも、カズマが口を開いた。 「なんだか分かんねーけどよ。そのタイムパトロールってのは馬鹿なんじゃねえのか?」 「ば、馬鹿?」 思わずドラえもんは鸚鵡返しに聞き返す。 「ああ。橋が渡れねーなら、泳いで来りゃいいじゃねえか」 「うん。船を使ったっていいよねえ」 のび太もカズマに同意する。 太一は何も言わないが、しきりに首を捻っている。 ――君達は実に馬鹿だな あたたか~い目をしながら、猛烈に毒を吐きたい衝動がドラえもんを襲うが、 頭の中でドラ焼きを数えて、ドラえもんはその衝動を何とか相殺する、 (泳いでって、船でって、そりゃないよ……。カズマくん、のび太くん) 心の中でドラえもんはため息をついた。 だが、ふとドラえもんの脳裏に閃くものがあった。 (橋を渡るんじゃなく、船で、泳いで……。 魔法とか別の世界の技術って本来、そういうものじゃないのかな?) ドラえもんの定義する科学ではありえない法則や技術体系で構築されているもの、 それが魔法とかそういうものであるはずだ。 とはいえ、ギガゾンビがあれだけ自信たっぷりに言う以上、 魔法や別世界の技術をもってしてもこの世界への干渉は不可能なのだろう。 (亜空間『破壊』っていうより『遮断』って表現の方が近いのかもしれない。 『破壊』じゃ修復されちゃう可能性がある。しかもその遮断は、常時行われてるんだろうな。 同時に起こる可能性があるいくつもの並行世界からの干渉に一々対応して撥ね退けるなんて無理だもの。 だからこの世界は、亜空間破壊装置が発生させる超強力なバリアみたいなもので閉じ込められている世界、なのかなあ?) 「おい! ドラえもん! 黙ってんじゃねえよ!」 思考の海に沈んだまま浮上してこないドラえもんに業を煮やしたカズマの怒声に、 「な、何? カズマくん」 ドラえもんはようやく思考の海から浮上した。 「何? じゃねえ! とにかく、誰も助けに来ねえってのは分かった。 けど、俺は元々そんなものアテにしちゃいねえし、どうでもいい。 問題はギガゾンビの野郎をどうやったらぶっとばせるかだ! あの野郎は一体何処にいやがるんだ? それさえ分かりゃ……」 「何処って言われても……」 皆目検討もつかない、と言おうとしてドラえもんは先ほどの考えをもう一度なぞる。 (常時ありとあらゆる干渉を跳ね返すバリアみたいなものを張ってるとするなら、 ギガゾンビだってこの世界の外にいたら干渉できないじゃないか。 それにギガゾンビは脱獄囚で追われてる。 ありとあらゆる干渉を撥ね退けるバリアで閉じられたこの世界はあいつに最も都合のいい世界。 つまりこの空間は僕達の牢獄であり、あいつの隠れ家――) ドラえもんはいきなり立ち上がった。 「ごめん、お茶入れてくるからみんな待ってて!」 「お、おい!?」 「ドラえもん!?」 驚きと静止の声が上がる中、ドラえもんはかまわず病室の外へ向かう。 しばらくして戻ってきたドラえもんの手の中には、お盆とお茶があった。 そして呆気にとられたままの3人を尻目に、ベッドを動かし、シーツをベットの端と端に結びつけ、 テントのように広げて上から見えないような空間を作り、そこに3人に入るように促した。 ドラえもんの真剣さに気圧されるように3人はシーツの下に移動する。 するとドラえもんは、二枚重ねのお盆の間から紙を取り出した。 『何をどうやって監視されてるか分からないから、今から筆談で話すね』 紙に書かれたその文字を見て、3人は顔を見合わせた。 ペンを取り出し、ドラえもんは書き始める。 『ギガゾンビは僕達がいるこの世界の何処かにいる可能性が高い』 驚愕が狭い空間に充満し、3人の食い入るような視線に対してドラえもんは黙って頷いてみせた。 ややあって、カズマがペンを握った。 『オーケー、理屈はどうでもいい。ドラえもんを信じるぜ、ゴチャゴチャ考えるのは苦手だしな。 じゃあまず、このゲームの会場にいる可能性は省いていいんじゃねえか? あのヘタレ野郎が俺達の手が届く所にいるわけはねえ』 『僕もそう思う。 だからこの首輪を外して、今ゲームが行われているエリアの外に出て……』 『後はヤローを探してぶっ飛ばすだけってことだな』 『ギガゾンビを倒せなくても、亜空間破壊装置を壊すだけでもいいんだ。 そうすればタイムパトロールが来てくれるから』 『でも首輪さえって言っても、その首輪が一番問題なんじゃないの?』 結局何も今までと変わっていないのではないか、とのび太は思ってしまう。 『違うぜ、のび太』 カズマが獰猛な笑いを口元に浮かべながら、反論した。 『何がブチ壊さなきゃならない壁なのか。それが分かるのと分からねェのじゃえらい違いだ。 ブチ壊すべき壁さえ分かりゃ、後はブチ壊して進むだけだ。 首輪を外す方法がないなら見つけてやる。なくても見つけ出す!』 カズマの眼差しには一点の迷いもく、瞳に宿る意志はぎらついて見えるほど強い。 少し気圧されるのび太にそっと顔を近づけ、 「そうだぜ、のび太。とにかく前だけ向いて行こう。力を合わせれば、乗り越えられない壁なんか無いって!」 ――きっとできる。空をみんなで助けた出した時みたいに どんな壁だろうが越えられる。確信を込めて太一がのび太の耳元で囁いた。 筆談ではなく、小声で伝えてきた太一のやりかたに、のび太ははっとなった。 考えてみれば太一はさっきから筆談に参加しようとしない。 ――左手で文字は書けないから 不甲斐ない自分に対する怒りに囚われ、のび太は歯噛みした。 自分より辛い立場にある彼が頑張っているのに、自分が弱気になってどうする。 「ごめん、太一君」 「いいさ。後、太一でいいぜ。俺達仲間だろ!」 ニッと笑ってみせる太一の笑顔は力強く、のび太は力が湧きあがるのを感じた。 「……分かったよ、太一」 二人のやり取りを暖かい目で見守っていたドラえもんが、 『とにかく明日からは首輪の解除に的を絞って行動しよう。 首輪の解析や内部構造について少しでも分かった人、考えた人、 解体作業ができる人を探して話を聞いて、その人に同行して一緒に考える。 同行できなかったら、その人にも僕達と同じように行動してもらえないか頼む。 どんな小さなことでも馬鹿げた考えでもいいんだ。大事なのは力を合わせることだよ』 一気に書き終えると、ドラえもんはカズマと太一を交互に直視した。 「太一くん、カズマくん――」 「ヤマトはヤマトで何とかすると思う。 ぶりぶりざえもんの話だと、頼りになる人達が周りにいるみたいだしな」 「まあ、クーガーもついてるし、大丈夫だろ」 ドラえもんの考えを読み取り、異口同音に二人は答えた。 「じゃあ、明日からはさっき決めたとおりに動こう。みんな、それでいいね?」 4人は同時に頷いた。 闇しか見えなかった空間に、一条の光が刺した気がして、4人の心は自然と高揚した。 その沸き立つ思いに突き動かされるかのように、 「おっし! じゃあ、馬鹿げた考えってやつを一つ試してみるか!」 カズマが立ち上がり、気合いの声を上げた。 驚いてカズマを見上げる3人に、ニヤリと笑ってみせると、カズマは意識を集中した。 7色の光が舞い、首輪へと収束していく。 そして―― ――何も起こらなかった。 「取りあえず……。アルターじゃ無理みてえだ。ちったあ参考になったか? ドラえもん」 少量の落胆を滲ませながら聞くカズマに 「勿論!」 ドラえもんは微笑んでみせたのだった。 【D-3・病院内 1日目・真夜中】 【チーム「主人公」】 [方針]:ぶりぶりざえもんを待つ。 そこが禁止エリアとなった場合、北に向かい、ドラえもんの方針に従って 首輪の解除のために全力を尽くし、最終的にギガゾンビを打倒する。 [共通備考]:全員、凛の名をカレイドルビーだと思っています。 トラックに乗った参加者達を危険人物であると認識しました。 【八神太一@デジモンアドベンチャー】 [状態]:右手首より先喪失(出血はおさまりました) [装備]:無し [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1:ドラえもんと一緒に首輪の解除に全力を尽くす 2:ヤマトとできれば合流したい 3:ぶりぶりざえもん、ルイズが気がかり。 基本:これ以上犠牲を増やさないために行動する。 [備考] ※アヴァロンによる自然治癒効果に気付いていません。 【ドラえもん@ドラえもん】 [状態]:中程度のダメージ、頭部に強い衝撃 [装備]:無し [道具]:支給品一式、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 [思考・状況] 1:自分の立てた方針に従い首輪の解除に全力を尽くす 2:ヤマトとの合流 3:ジャイアン、なのはを捜す 基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。 [備考] ※第一回放送の禁止エリアについてのび太から話を聞きました。 【野比のび太@ドラえもん】 [状態]:ギガゾンビ打倒への決意/左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物) [装備]:コルトM1917(残り3発)、ワルサーP38(0/8) @ルパン三世 [道具]:支給品一式×2(パン1つ消費、水1/8消費)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能) E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、コルトM1917の弾丸(残り6発) スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、USSR RPG7(残弾1) [思考・状況] 1:ドラえもん達と行動しつつ、首輪の解除に全力を尽くす 2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。 3:ジャイアンを探す 【カズマ@スクライド】 [状態]:疲労中、全身大程度の負傷(打身・裂傷・火傷) 処置済み [装備]:なし [道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み) のろいウサギ@魔法少女リリカルなのはA's、支給品一式 鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)ボディブレード@クレヨンしんちゃん かなみのリボン@スクライド [思考・状況] 1:ドラえもんたちと一緒に首輪の解除に全力を尽くす。 2:なのはが心配というわけではないが、ヴィータの名前を刻んだこともあるし子供とタヌキを守る。 3:かなみと鶴屋を殺した奴とか劉鳳とかギガゾンビとか甲冑女とかもう全員まとめてぶっ飛ばす。 *時系列順で読む Back:[[【団員の家出/映画監督の憤慨】]] Next:[[月下流麗 -月光蝶- ]] *投下順で読む Back:[[【団員の家出/映画監督の憤慨】]] Next:[[黄金時代(前編)]] |208:[[最悪の/最高の脚本]]|八神太一|234:[[峰不二子の暴走Ⅰ]]| |208:[[最悪の/最高の脚本]]|ドラえもん|234:[[峰不二子の暴走Ⅰ]]| |208:[[最悪の/最高の脚本]]|野比のび太|234:[[峰不二子の暴走Ⅰ]]| |208:[[最悪の/最高の脚本]]|カズマ|234:[[峰不二子の暴走Ⅰ]]|